寓話六塔戦争

●（10）貪欲なる夢喰い
　ジグラットゼクス『ポンペリポッサ』配下のドリームイーター「貪欲なる夢喰い」達により、広尾駅の近くは蹂躙し尽されていた。
　その名の通り貪欲な巨体のドリームイーター達は、飽くことなく食料を求め、建物を破壊し続けている。
　だが、人々が避難し、東京の物流は止まっていた。
　食料品も保管されていたもの程度しか残っておらず、巨体のドリームイーター達が満足するほどの食料など残っているはずもない。
　故にこそ、ドリームイーターはなお食べられるものを求め、破壊を続けていた。
　頭数もケルベロス達の度重なる攻撃によってすり減っていたが、ほとんど知性を感じさせないドリームイーターが、それで止まるはずもなかった。

　そうして残るドリームイーターの中に１体、ひと際大きな体躯を持つものがいる。
　他の「貪欲なる夢喰い」をさらに上回る、３０ｍ級の個体だ。
　ショッピングモール「広尾プラザ」に頭を突っ込み、残っていたらしい食料を一人占めして貪るドリームイーターへ、芥河・りぼん（リサイクルエンジン・e01034）は如意棒を向ける。
「そんなに食べては避けられないんじゃないのですか！」
　長さと重さを増しながら伸びた如意棒が、貫くようにして３０ｍ級のやわらかな体へと突き刺さる。りぼんに続き、ケルベロス達の魔法や銃弾が、一斉に夢喰いへと飛んだ。
『ヴルルルルゥーッ！！』
　グラビティの連打に悲鳴を上げ、腕を振り回す夢喰いの打撃に耐えかねたように、広尾プラザの建物がぐらりと揺れた。
「総員退避、退避ーっ！！」
　うわあ、と周囲のケルベロス達が一斉に避難するのと同時に、広尾プラザは崩落した。ガラスが一斉に割れ、巻き起こる粉塵を突き破るようにしてケルベロス達は駆ける。
「やっぱり大きいっていうのは迷惑ですねぇ……！！」
　降って来ようとしている瓦礫に潰されたからといってケルベロスは死にはしないが、それで動けなくなったら周囲から迫る他の夢喰いの美味しい晩御飯にされてしまう。
　残念ながら被食願望を持っているケルベロスはいなかったので、りぼん達は北上を加速させた。後方で建物の崩れる轟音を聞きながら、聖心女学院の外壁を跳び越え、キャンパスを横断。なお追って来る敵勢が壁に差し掛かった瞬間、
「もう一回いきますよ！！」
　反転したケルベロス達が、一斉にグラビティを発射。
　勢い余ったドリームイーターの巨体が、校舎にめり込むようにして止まる。
　りぼんはすかさずエネルギー体のスパナを作り出し、投げた。
　夢喰いの下にぶら下がる鍵をスパナはひっかけ、そのまま長い舌を首の周りを巡るようにして締め付けさせながら、鍵ごと喉奥へ突っ込んだ
「そんなに食欲張ってると、食中毒を起こしますよ……！」
　とどめとばかり、如意棒を伸ばし、鍵をさらに奥へと呑み込ませると、弾けるようにして巨体は消え去っていった。