寓話六塔戦争

　ジュエルジグラットの手は渋谷・六本木のビルの上部を呑み込みつつあった。
　ケルベロス達の多くは、ジュエルジグラットの手内では『赤ずきん』と、地上では『失伝者の檻』の敵戦力とそれぞれ交戦し、その戦力を削りつつあった。

●（9）アリス
　童話のお城のようだったドリームイーター集団『オネイロス』の根拠地は戦闘によって荒廃し、廃墟としかいえないものへ姿を変えていた。
　その中心には、ボロボロに破かれた青色のワンピースを纏う一人の少女と、その彼女を守ろうと健気に武器を構える数少ないトランプ兵の姿がある。
「これは、少し罪悪感があるわね。でも、念には念をいれなければね」
　リリィエル・クロノワール（夜纏う刃・e00028）は、その哀れな様に少しだけ同情を覚えたが、彼女を生かしておけば『最終儀式オネイロス』とやらが発動してしまう。
　そこで生じる被害の可能性を考えれば、情けをかける必要はない。
　戦力は一方的であり、オネイロス最強と言われたアリスにも、万が一の生存の可能性もなかった。

　アリスが問う。
「どうして、こんなひどい事ができるの？」
「最終儀式なんて、どう聞いてもヤバそうだもの。しっかり、潰させてもらわなければね」
　そのリリィエルの答えに、アリスは、強く反駁した。
「私たちが、オネイロスが何をしたというの！　何もしてやいないじゃない！」
　と。
　確かに、オネイロスは、決して人間を直接害したわけでは無いかもしれない。
　だが……この言葉は逆に、リリィエルが抱いた哀れみを打ち消した。

「あなたは……何の覚悟もなく、ゲートを通って地球に来たのっ……！？」
　オネイロスは、人々に危害を加えなかったのではない。ケルベロスに阻止された為、結果的に何もできなかったに過ぎない。その事で被害者顔するデウスエクスにかける慈悲など、どんなケルベロスにもありはしない！

「ラストダンスを、始めましょう！」
　リリィエルは、アリスの言葉の全てを拒否すると、Magical　maidenをアリスに向けて突き出した。
　Magical　maidenは、リリィエルの魔力を受けその長さを伸ばすと、アリスの侠客を貫いて致命傷を与え、ボロボロだった青いワンピースを千々に引き裂くと共に赤く染め上げた。
「オネイロスの野望は、ここまでよ。夢の続きが見たいなら……デスバレスで見続けるのね！」
　最後まで強い意志で、自分の殺害を成し遂げたリリィエルを、アリスは理解する事ができない不思議なもののように凝視し、そして、消滅した。
　『最終儀式オネイロス』阻止。
　地上に放たれるはずであった災厄の一つは、こうして防がれたのだった。