寓話六塔戦争

●（6）帽子屋
「ようこそ皆様、と申し上げておきましょうか」
　オネイロス幹部帽子屋は、創世濁流事件の時のように大げさな身振りでケルベロス達を出迎える。
　対する藤守・景臣（ウィスタリア・e00069）達ケルベロスは、そんな戯言に付き合う事なく武器を取った。
「その余裕のある態度はいつまで持ちますか。正気を欠落したあなたの狂気、見せてもらいます」
　景臣は『此咲』『舞藤』の二刀流で、舞い踊るように切りかかる。
　対する帽子屋は、その非礼に起こるでもなく儀礼的に、
「しかしどうやら招待状はお持ちで無いご様子。迷い込まれたなら、どうぞお引き取りを」
　と挨拶を続けると、景臣の舞踏に付き合うように、華麗かつ美麗にステッキをフルーレのように扱って、戦場でステップを踏む。
「礼儀のなっていない訪問客に対応するのも帽子屋の仕事なのでしょう」
「なかなかやりますね。それでは、思う存分、楽しく戦うと致しましょう」
　帽子屋の挑発に、不敵に答えた景臣は、そう言うと決着をつけるべく急戦を仕掛ける。
　しかし、帽子屋は、そんな景臣を軽くいなして、余裕の笑みを浮かべ続けた。
　戦いは、景臣達ケルベロスに有利に進むが、それでも、帽子屋の余裕を打ち崩す事はかなわなかった。
　景臣に止めを刺された筈の帽子屋は、
「どうぞお引き取りを。お出口はあちらですよ」
　とケルベロス達にドアを示しながら、後方にステップを踏んで、撤退してしまったのだ。最後まで、帽子屋の狂気を引き出せなかった景臣は、その行方を悔し気に見やったのだった。

●（7）グリーディー・グリム
　黒猫師団が交戦した「グリーディの赤ずきん」と、彼女達を率いるグリーディ・グリムは、「食の喜び」を欠落要素として持つドリームイーターだ。
　グリーディの赤ずきん達を退けられたグリムは、建物の中に逃げ込み、遅滞戦の構えに移っていた。
　だがケルベロス達はドリームイーター達の守りを退け、着実に撃破を重ねていく。
　そしていまだ撃破を免れていたグリムの前に、戦場に似付かわしくない執事服姿のドラゴニアン……齋藤・光闇（リリティア様の仮執事・e28622）が立ち塞がっていた。
　たちまち戦端が開かれる中、光闇は笑みでグリムに問いかける。
「これこれは可愛らしいお嬢さん。グリムとおっしゃるということは、兄妹がいらっしゃるのですかね？」
「見りゃ分かんだろ？　こんだけ姉妹がいたんだからよ！」
　猟銃を突き付け、引き金を引くグリム。
　銃弾を受けながらも、揺るぐことなく執事らしい背筋の伸びた姿勢を保った光闇は、誘うように問いかける。
「それはともかく『食の喜び』を求めているのですか……？　欲しいですよねぇ？」
「何……？」
　胡乱げな視線を向けて来るグリムに、光闇は蓋のついた銀の大皿を出した。
「では、私めの料理をお召し上がりくださいませ」
　厳かに言い、光闇は銀の大皿の蓋を開ける。
　そこには、光闇の手による料理の数々が載せられていた。
　というか、実際に輝くオーラを帯びていた。
　食材からして純グラビティ製という『執事の料理』である。
　料理の危険性を感じ取り、グリムが銃口を向けようとするが、皿に目を奪われ、光闇から気をそらした一瞬が彼女の命取りとなった。
「はい、あーん」
「あん？」
　大胆に距離を詰めた光闇が、フォークにさした料理をドリームイーター達の口に放り込んでいく。思わず呑み込んでしまったグリムの体から、ゆっくりと力が抜けていく。
「て、てめえ……！！」
「お味は、いかがです？」
　言葉と共に微笑む光闇の前で、グリム達の体は消滅していった。
「どうやら、ご満足いただけたようですね……皆様もいかがですか？」
　たぶん満足とは違うものだろうと思う他のケルベロスに振り返り、彼は底知れぬ微笑を見せた。

　戦場の大勢が決し、新たに制圧した地域にあった赤十字医療センターに、蒼鴉師団がが救護拠点を設け始める。
　失伝ジョブの末裔が囚われた失伝者の檻までの間には、なおもジグラットゼクスの配下達が立ち塞がっている。
　失伝ジョブの末裔達の救出を目指す地上での戦いが行われる中、刻一刻とジュエルジグラットの手は地上に近付きつつあった。