寓話六塔戦争

●（3）眠りネズミ
　首都高速の路上に並ぶトランプ兵達は、規則正しく、イチニイチニと行進しつつ、周囲を警戒し続ける。
　ジュエルジグラットの手による地球侵攻の地上拠点の一つとなる、交通の要衝を護る兵士達に、怠慢や油断は見受けられない。
「こんな所にまで侵入しておるとは、今日びの夢喰い共は元気じゃな！」
　一之瀬・白（八極龍拳・e31651）は、敵の陣容を確認すると、愛刀『慈龍』を引き抜き睥睨する。
　対するトランプ兵は、すぐに隊列を変更してケルベロスに向けて動き出した。だが、
「肝心の指揮官は怠慢すぎじゃな」
　白が言う通り、ティーポットの中で居眠りをしていた眠りネズミは、目をこすりながら戦場の真ん中で眠そうに白に声を返す。
「正直な話、面倒なのは嫌いなんだよ。そもそも、この戦場を制圧する必要ってあるのかなぁ」
　赤ずきんを倒したいならば、三月ウサギを倒して進めばいいし、捕らえられた人々を救出したいならば、クラウン・クラウン・クラウン・クラウンを踏みつぶせば済む。
「ということで、帰ってくれないかな？」
「ふむ、ここでの返答は一つ『だが断る』じゃな！」
　白は、眠りネズミの問いに拒絶で返すと、
「しょうがない、トランプ兵、仕事だからしっかり働いて」
　眠りネズミの号令で、四種のスートを持つトランプ兵が、ケルベロスを迎え撃つ。
　戦場のあちこちで、ケルベロスとトランプ兵の激闘が繰り広げられるが、６分が経過する頃には、戦いの天秤はケルベロス側に大きく傾いていった。
「これは、まずいな。ティーポットで防御！　ボクは『最終儀式オネイロス』を見るまで死にたくないんだよ！」
　眠りネズミは、ケルベロス達の集中攻撃を受けつつも、なんとか生き延びようとティーポットの中に頭を引っ込めて、攻撃をやり過ごそうとする。
　が、勿論、その程度でやり過ごせる筈もない。
「そうわさせぬのじゃ。日が登ったばかりで悪いが…此処でおやすみしていて頂こうか！　吼えろ、拳よ！」
　白が発した言葉が眠りネズミに届くよりも早く、白の拳がティーポットを打ち砕く。
「そのまま永劫、眠っておるが良いのじゃ！」
　突き進んだ拳は、そのまま中に隠れた眠りネズミを圧殺し吹き飛ばしてみせた。
　致死のダメージを受け宙に舞った眠りネズミは、二度と目覚める事は無いだろう。

●（4）クラウン・クラウン・クラウン・クラウン
　渋谷駅東側の國學院大學周辺では、進出したケルベロスが『継母』配下のドリームイーター群との交戦に入っていた。
　道化師型ドリームイーター「クラウン・クラウン」たちは、けたたましく耳障りな笑い声を上げながら、携えた大鎌を振り回して来る。
「相手に反撃の隙を与えるな！！」
　道化めいた動きに惑わされぬように、レグルス・ノーデント（黒賢の魔術師・e14273）は距離を取り、矢継ぎ早に魔法を放っていく。
　今のケルベロス達の勢いは、前線を突破するのに十分。
　大学構内にいた道化師たちは、ことごとく駆逐されていく。
「マア、素敵な殿方がいっぱいダワ！」
　その声に、ケルベロス達は頭上を振り仰いだ。
　建物の壁面に横向きに立った道化師が、大仰に一礼する。他の道化師型と似通った姿をしているが、その実力が一線を画していることがケルベロスの目には容易く見て取ることが出来た。
「偉大なる『継母』様より賜ったアタシの名は……そう！！　クラウン・クラウン・クラウン・クラウン！　どうぞお見知りおきを！　ホーッホッホッホッホッ！！」
「あいにく短い付き合いになりそうだな」
　レグルスをはじめケルベロス達の一斉射が、クラウン（×４）へと向けられる。
　壁を蹴り、鎌で大学の壁を切り裂いて落下軌道を変えながら、クラウン４はケルベロス達へと迫って来た。
「クールな殿方ってス・テ・キ♪　でもでもあんまり誘惑しないで！　今のアタシは貴方の敵なの！！」
「誘惑した覚えは無いし、今でなく、生まれてから死ぬまで敵と思うぞ」
「その傲慢さ、たまらないわネ♪」
　まともに会話しても仕方がない相手だと、レグルスは直感する。
　ケルベロス達の前線を僅かながらに退けるクラウン４の口先は達者だ。
　クラウン４の鎌を振り回して奮戦する姿に、まだ生き残っている道化師たちも鼓舞されたように攻撃を繰り出して来る。それは風前の灯ではあっただろうが、ジグラットゼクス配下の力と戦意を示すものではあったと言えるだろう。
「アタシも『継母』様からクラウン・クラウンを任された身……そう容易くやられるわけにはいかんぜよ！！」
　ならば、その意思を折るしかない。
　即断の元に、レグルスは詠唱を開始。
「天を引き裂く光竜　其は人の恐れし天空の裁き、全てを散らす無情なる雷鳴、絶望と共に驟雨の如く打ち付けよ！」
　レグルスの詠唱と共に、天から雷光が迸る。
　跳躍し、ケルベロス達の攻撃を回避を図ったクラウン４へと、過たず雷は直撃した。
「アアッ！　『継母』様、もはや道化の役は果たせませンッ！　お許しをーッ！！」
　敗北を継母に詫びながら、なお反撃の鎌を振り回すクラウン４を、レグルスは躊躇うことなくブラックスライムで丸のみにした。