スパイラル・ウォー

■第8ターン結果

●螺旋帝の血族『緋紗雨』
「生き残りはこれだけか」
 劣勢を理解してはいたものの、集まった生き残りの螺旋忍軍の少なさに、緋紗雨は愕然と目を見開くと小さく内心で苦笑した。
 ケルベロスの力を認め、イグニスに対抗するための戦力として引き込んだのは自分ではないか。
 ケルベロス達の攻撃をなんとか耐えたは良いものの、既に戦いの趨勢は見えている。
 残り少ない螺旋忍軍を前に、緋紗雨は口を開いた。
「ケルベロスが再び攻め寄せれば、ゲートは保つまい。
 その前に本星に戻るか、妾と共に命を捨てるか選ぶがいい」
 本星に戻っても、イグニスが呼び寄せた慈愛龍がいる。
 だが、ここでケルベロス達を相手に死ぬよりは、交渉などで生き延びられる可能性がある。何より、ケルベロスに倒されれば待ち受けるのは逃れようのない『死』だ。
 緋紗雨の問いかけに、しかし本星への逃亡を選ぶ者はいなかった。
 彼らの選択が忠義からか、螺旋忍軍としての誇りなのか、あるいはたとえ本星に帰ったところで未来が無いと判断してのことであるか問うことはせず、緋紗雨は螺旋忍法帖を生じさせると、彼らに最期の命令を下した。
「では、命じよう。命を捨てよ。
 その身を分けてでも、螺旋忍軍の繁栄のため、彷徨えるゲートを守り抜け」
 螺旋忍法帖が飛び、勅忍達に御下命を果たすための、最後の意志力を与えていった。
 使命を受けた狐面の勅忍達が、次々と己の限界を超えた数の分身の術を行使すると、ケルベロス達へと向かっていく。

「結果は見えてる様なもんだし、潔く斬られてくれたりしない?」
 戦場に現れた緋紗雨に、凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)はそう問いかける。
「くどいな。汝らを引き込み、ゲートの破壊を招いた愚か者と罵られようと……今さら妾が誇りを捨てることは出来ぬ」
「……ま、無理だよね、知ってた」
 その答えを当然のものとし、どこか残念にも思いながら、悠李は刀を抜いた。
「それじゃあ始めようか……どれだけ楽しめるかなッ!」
 言い捨てるが早いが、飛び掛かって来た狐面の螺旋忍軍を切り捨てる。
(「『緋紗雨』の勝ち筋、最初からほとんど無かったよね?」)
 悠李の頭の端を、そんな考えが掠める。

 まず、イグニスが生存すればドラゴンとの同盟が成ってしまい、緋紗雨に太刀打ちすることは出来なくなる。
 ケルベロスがイグニスを倒しても、ロキが生存していればゲートを奪われてしまう。
 イグニスとロキが倒れれば(自分より強いイグニスを倒した)ケルベロスと直接戦うことになり、戦いを逃れたとしてもゲートが破壊されてしまう。
 望みはイグニスを倒した時点で全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)が時間切れを迎えてしまうことであったが、その望みももはや絶えた。

 そして今、最後の抵抗を試みる緋紗雨も、彼女に従う螺旋忍軍も、限界を超えているのはケルベロス達の目には明らかだった。
 ゲートの破壊は、それだけデウスエクスにとっては致命的な事態だ。
 だとしても。
『彷徨えるゲート』の特性を考えれば、これが螺旋忍軍のゲートを破壊する、最初で最後の機会だろう。
 何より緋紗雨は螺旋忍軍の長として、大伽藍落としを行い、日本に絶大な被害を及ぼそうとしている。
 見逃す理由を、ケルベロス達は持ち合わせていなかった。
 もはや同情心など持つ理由は無い。

 緋紗雨が巻物を繰り、次々と忍術を繰り出していく。
 繰り出される術は、どれも暗殺に向いたものだ。
 螺旋忍軍らしいというべきか、正面からの戦いには向いていないようだ。だが、それでも個としての力はケルベロス達を遥かに上回っている。
「流石に強いね、心が踊るッ!」
「そうか。妾にとっては汝らが予想よりも強過ぎた」
 言って、緋紗雨は見えざる毒の術を繰り出していく。突如として戦場で昏倒する謎の術……どうやら無味無臭のグラビティ毒ガスを離れた場所に突然出現させているらしい。
 恐るべき術だが、
「術の源は、巻物か……!」
 それを見抜いた悠李は、一息に距離を詰めると、刀を振るった。
 緋紗雨は手にした巻物が断ち切られるのを避けるが、それまでに螺旋忍軍を切り捨てて来た悠李の刀から飛んだ血が、巻物を汚す。
 新たな巻物を手にするよりも早く、真紅の魔力が刃を覆う。
「彼岸に没せよ――然して、其の魂に安らぎと安寧を」
 振るわれた刃が、緋紗雨を袈裟懸けに切り裂いていた。
「――ばいばい、これでお終いだね」
「──ぁぁ……」
 倒れ伏した緋紗雨の体が、静かに消えていく。
 後に残るのは、『彷徨えるゲート』。
 渦巻くゲートへ向け、ケルベロス達は渾身の力を篭め、グラビティを繰り出した。
 凄まじい光が辺りを覆いつくし、そして光が収まった時、螺旋忍軍の本星スパイラスと、地球を繋いでいた『ゲート』は、完全に破壊されていた。

●最上・牡丹
「亜紗斬姫は逃げぬのか?」
 最上・牡丹は、螺旋帝の血族『亜紗斬』を揶揄するようにそう言葉をかける。
 亜紗斬は悔しそうに、牡丹を睨むがすぐに表情を消した。
「スパイラスのゲートを破壊された以上、逃げ道は既にありません。螺旋帝の血族として、スパイラスのゲートを失った不始末の責任を取らねばならないでしょう」
 苦渋の決断を行った亜紗斬を、牡丹はせせら笑う。
「それが螺旋帝の血族の責任というのならば、そうすればいい。最期まで無駄に足掻くのだな」
「えぇ、足掻かせてもらいます。牡丹どのもご壮健で」
 一筋の頭髪を靡かせて去っていく亜紗斬は、一瞬、牡丹を振り返ると、
「あなたも、逃げないのですね」
 そう言い残して、そのまま自分の戦場へと歩み去った。

 丁度そこへ、莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)達ケルベロスが襲撃をかけてくる。
「あれ? チョロ毛はいっちゃったんですか? まぁ、牡丹先輩でも相手に不足は無いでしょう。いざ、尋常に勝負!」
 バンリのその言葉を端緒に、ケルベロス達の猛攻が始まった。
「これは、老骨には響くのぅ。老人は労わらねばならぬというのに、本当になっておらん」
 牡丹は、その猛攻を前にしても飄々としていたが、勝利の可能性など、欠片も残っていなかった。
「この戦争はケルベロスの完全勝利ですよ。牡丹先輩以外の最上忍軍も全滅であります!」
「そのようだのぅ。最後に、この婆の首を取って花を添えるがいいさ」
 バンリの言葉に、牡丹が答える。
 忍軍が全滅したのに、支配者だけ残ってどうするというのか?
 牡丹の瞳には、いっそ清清しささえ感じられた。
 バンリは、その牡丹に対して、仲間のグラビティ掃射によって出来た隙を縫うように、如意棒を伸ばして、斉天截拳撃を撃ち放った。
「さいならっきょーであります!」
 バンリの一撃は、牡丹の急所を貫き絶命の一撃となった。
 鮮血に沈む牡丹は、最後に少しだけ遠くを見やり……、
「最期に僅かでも勅忍にはなれたのだし、喰いは無い。さらばじゃ」
 と、息を吐き、ゆっくりと命の灯を消していった。

 最上忍軍は、ここに滅びる。生存者は無かった。

●螺旋帝の血族『亜紗斬』
 その戦場に足を踏み入れた毒島・漆(魔導煉成医・e01815)は、決死の覚悟を見せて防衛戦に挑もうとする螺旋帝の血族『亜紗斬』を見て、少しだけ動揺した。
 正義のケルベロス忍軍に助けを求めてきた螺旋帝の血族『亜紗斬』。
 ケルベロスがそれに応える事ができなかった事が、喉に刺さった小骨のように気にかかっていたのだ。
(「決して、恨みがあるわけでもないんですがね……」)
 その漆達の心情を感じ取ったのか、亜紗斬は気にする必要は無いとケルベロス達に声をかけた。
「あなた達の行動によって、私が敵にまわったのではありません。ゲートを守り、ゲートに殉じるのは螺旋帝の血族の定めなのですから」
 緋紗雨も自分も、正義のケルベロス忍軍が、スパイラスのゲートを攻撃して破壊しようとする組織であったのならば、最初から頼る事も無かったと、亜紗斬は説明する。
 だから、この戦闘は避けられないものだったのだと。

「それは違うでしょう。イグニスが陰謀を企まなければ、この戦争は起こりませんでしたし、ゲートの破壊は、地上に対して忍法大伽藍落としを行うという暴挙を止めるためですから」
 漆の言葉の正しさを認めつつも、亜紗斬は力なく首を振る。
「スパイラスには、かの慈愛龍が率いる軍団がいるのですよ。忍法大伽藍落としを行わなければ、螺旋忍軍の未来はどちらにせよ、ありません。私にも緋紗雨にも他に道は無かったのです。
 さて、少し話しすぎましたか……」
 亜紗斬は、話はここまでですと言うと、頭髪を変化させ始める。
「螺旋帝の血族『亜紗斬』参ります。うなれ、螺旋鋼髪の術!」
 その言葉と同時に、巨大な刃と変化した亜紗斬の頭髪が断罪の刃となり空を裂く。
 それは、亜紗斬のヘアスタイルは、この攻撃の為であったと言っても過言では無い威力であった。
 この亜紗斬の決意を感じ取った漆達も、それ以上の説得はあきらめ、戦う事を決意する。
 互いに譲れないものがあるのならば、それを巡って戦う事は必然である。
 スパイラスのゲートと地上の平和、螺旋帝の血族とケルベロスは、その背負うものを決して裏切れないのだ。

 ケルベロス達は、亜紗斬と正々堂々と戦い、そして、追い込んでいく。
 そして、遂に、
「重撃殲攻……重鏖无刃ッ!」
 漆が形成した極細の斥力刃が、亜紗斬の体躯を余すところなく割断し鏖殺したのだった。
 必殺の重鏖无刃で絶命した亜紗斬の死体は、足をもつれさせるように半回転して地面に倒れ、地色の染みと化す。
 その凄惨な死体を前に、漆は、
「未練でも恨みでも残してくれていいので、ここで死んでいって下さい。……それじゃ、さようなら」
 そう螺旋帝の血族に向けて声をかけ、戦場を去っていく。
 その後ろで、亜紗斬の屍はゆっくりと消滅していった。

→有力敵一覧

→(11)最上・牡丹&亜紗斬(31勝5敗/戦力160→0/制圧完了!)

→(16)彷徨えるゲート(40勝4敗/戦力10→0/制圧完了!)

→重傷復活者一覧

→死亡者一覧

■有力敵一覧

有力敵 戦功点 現状

最上・牡丹
1400
(11)最上・牡丹&亜紗斬:Battle1にて、莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)に倒される。

螺旋帝の血族『亜紗斬』
1140
(11)最上・牡丹&亜紗斬:Battle2にて、毒島・漆(魔導煉成医・e01815)に倒される。

螺旋帝の血族『緋紗雨』
2100
(16)彷徨えるゲート:Battle1にて、凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)に倒される。

戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。

戦闘結果を取得しています。しばらくお待ちください。