■第7ターン結果
●ダウ・ガル
「どうやら、ここまでのようだな」
目の前に迫るケルベロス達を前に、ダウ・ガルはそう呟くと、愛用の大剣を強く握り締めた。
共に戦った私兵団の仲間も、もはや生き残りは数える程。
ダウ・ガル自身、一敗地に塗れ、辛うじて戦場に踏みとどまっているに過ぎない。
だが、それでも、退く事ができない戦いがここにあった。
「王子と仲間の仇、取らせてもらうぞっ!」
単騎で駆け出した、ダウ・ガルを配下のエインヘリアル達が追い、そのままケルベロスの陣容に無謀な突撃を敢行する。
それは、蟷螂の斧というべき突撃。しかし、その精神は決して折れはしないのだ。
「復讐か。その気持ち自体は否定せん。……俺が相手になろう」
天目・宗玄(一目連・e18326)は、確実な死を前にして戦意を失わないダウ・ガルに敬意を表し、愛刀星流れを構える。
あの戦いで王子を殺せた事は僥倖であったが、それが理由で死兵となった私兵集団と戦わなくなるとは、世の中ままならないものだ。
実際、王子の仇討ちを志すエインヘリアル軍の士気は高く、劣勢の戦場であっても最後まで戦いぬく意志に溢れていた。
そして、勿論、その中心に立つダウ・ガルもまた、ケルベロスに最大限の敵意を向けて縦横に大剣を振るう。
「さて、お前に俺が倒せるかな?」
宗玄は、高速で戦場を駆けるダウ・ガルに狙いを定め、その一挙手一投足にあわせて、高速で駆け寄ってアビリティを浴びせかけた。
「すぐに倒して見せよう。俺の相手はお前だけではないのでな」
攻撃を仕替えた宗玄に、ダウ・ガルも答える。
だが、簡単に打ち払って次へ行こうとするダウ・ガルの目論みはすぐに崩れ去った。
「俺が相手になるっていっただろう? 次なんて、行かせないぜ」
そう言い放った宗玄は、その神をも堕とすと伝わる星流れに力を乗せ、ダウ・ガルの大剣と鍔迫り合わせる。
そして、睨みあう視線を周囲に向け、ダウ・ガルに現実を見せ付けた。
「お前の配下は悉く倒れている、お前も、ここで終わりだ」
「ぬぅ……。皆、すまぬ。だが、お前達だけを逝かせはせぬっ!」
配下の全滅を悟ったが更に戦闘を続けようとするダウ・ガル。その防御を完全に擦り抜け、宗玄の妖幻惑衆が胸の中央を貫いた。
「終わりだ。もう、休め」
そして、ダウ・ガルは、無念の表情のまま、戦場の露と消えたのだった。
●最上・幻夢
「イグニス様死んだんでしょ! なのに、なんで、あんたらまだ戦ってるでゴザルか?
もう戦争はあんたらの勝利なんだから、かえって宴会でもなんでもしちゃえーでゴザルよ!」
楠久・諷(オラトリオの鹵獲術士・e28333)達ケルベロスを前にした最上・幻夢は、逃げ腰になりつつ、ケルベロスの非常識に泣き言を言う。
だが、それで許してくれるケルベロスならば、こんな所にやってこないだろう。
「あなたの悪運もここまでです、子狐。お前の詐術で犠牲になったエインヘリアルの為にも、ここで、お前を討ち果たします」
そう宣言する諷に、幻夢は涙目になりつつも、残るわずかなエインヘリアルを自らの盾にしようとする。
「なにをやってるでゴザルか! アチシは勅忍、最上一族の幻夢でゴザルよ、捨石風情のエインヘリアルが逆らって良い相手じゃないでゴザルんだから!」
勿論、生き残りのエインヘリアルが、幻夢を守って戦うようなことは無い。
マン・ハオウ王子の死の要員である幻夢を、このごに及んで守ろうとする者など居る筈もない。
その動きの緩慢さに幻夢がキレて暴言を吐き、より一層空気が悪くなっていく。
「勅忍とは随分と安い物みたいですね。あなた程度が勅忍を名乗れるなんて……」
半ば呆れた諷の言葉に、幻夢は激昂する。
「勅忍をバカにすんなでゴザル! 勅忍こそ、螺旋忍軍の希望、螺旋忍軍のアイデンティティなのでゴザル。お前の発言は、すべての螺旋忍軍に喧嘩を売っているでゴザル」
諷は、その幻夢の襟首を掴むと床に転ばしてドンと音を立てて威圧する。
「私は、勅忍をバカにはしていませんよ。あなたが勅忍である事こそ、勅忍をバカにしている行為だと知りなさい」
諷の迫力に、幻夢はコクコクと頷いてしまったようだ。
「理解して頂けて嬉しいです。あとは、死んでくださいね」
前半の言葉でもしかして許してもらえるのかと期待して幻夢の瞳が後半の言葉を聞いて絶望に染まり、そして、その絶望を体現するように、諷は鋼の鬼とした拳で、幻夢を撃ちぬいたのだった。
「どうして、こんな可愛い幻夢ちゃんを殺すなんて、おかしいでゴザルよ……」
幻夢のナミダと鼻水でぐちゃぐちゃになった死に顔は、いっそ哀れであったかもしれない。
●ナウ・ソーン
螺旋帝の血族・イグニスを撃退し、スパイラル・ウォーの勝利を確定させたケルベロス達は、螺旋忍軍のゲートの破壊と並行して各地の残存部隊の掃討も開始していた。
前衛の守備部隊であった『ハオウ私兵団残存部隊』の戦場も、その一環として掃討部隊が差し向けられていた。
「やはり、来たか、ケルベロス。……よかろう、本懐である」
ナウ・ソーンは、そんなケルベロスの部隊を見て、そう嘯く。
もともと捨て駒として配置された自分達だ、螺旋忍軍主力が滅ぼされようと、知ったことでは無い。
だが、敢えて自分達に挑んでくるのならば、その戦いを避けるという選択肢もありえなかった。
「これは、マン・ハオウ王子の仇討ちの戦い。正義は我にあり、悪は滅びろ!」
その号令と共に、ハオウ私兵団残存部隊のエインヘリアル達がケルベロスに襲い掛かった。
「殺された王子の仇討ちなら、士気はあがる……のか?」
「ザイフリート王子の時は仇討ちなんてありましたっけ?」
「そこは、ほら、ザイフリート王子はエインヘリアルを裏切った扱いだからじゃない?」
エインヘリアルの猛攻を前にして、ベルフェゴール・ヴァーミリオン(未来への種・e00211)達は幾つかの疑問を想起するが、あまり追及すると少数のヴァルキュリアしかついて来てくれなかったザイフリート王子が悲しいことになりそうだ。
ともあれケルベロス達は疑問を打ち消すと、敵残存部隊を迎え撃った。
少ないが激しい剣戟が戦場に響き渡る。
だが、その剣戟が響きわたる毎にケルベロスとエインヘリアルの戦力の差は開いていく。
「怪我しない様にだけ注意だよね……」
安全マージンを充分にとったベルフェゴールも戦場で確実に敵を減らし、一歩一歩着実に、勝利へと歩み続ける。
そして遂に、ケルベロスはナウ・ソーンを取り囲み勝利へと王手をかけていた。
「王子を殺されたく無かったのならば、戦場になど出なければ良かったのだよ……。戦場に出てきながら、死んだら仇討ちだとか迷惑だよね……」
仇討ちを主張するナウ・ソーンの言い分を迷惑げに否定し、ベルフェゴールは、クイックドロウを抜き打ち……その銃弾は、穿つ鎖となり、ナウ・ソーンを貫いた。
「……マン・ハオウ様は移動中に奇襲されたのだぞ!? あれは、戦争では無く、暗殺だろうが!」
ナウ・ソーンはそう反論するも、ベルフェゴールの一撃に耐える事はできずに膝を屈した。
ナウ・ソーンの言葉も一面的には間違ってはいなかったが、地球を強くなるための幼女を狩る土地としてしか認識していなかった事への油断は、言い繕えるものではない。
この戦闘結果は、どちらの主張が正しいかを図らずも示していたのだろうか。
「言い訳は見苦しいだけだよ……。だから、ここまでだね……」
ベルフェゴールは、そう言うと、確実に止めを刺し、ナウ・ソーンだったものは塵となって消え去った。
●ペンプ・オグ
ハオウ私兵団隊長ペンプ・オグは、戦場に現れたケルベロスを睥睨する。
伯母子岳で旗頭であるマン・ハオウ王子を討たれたハオウ私兵団は立場的に追い込まれてしまった。
王子の仇討ちを果たして戦果をあげなければ、生きてアスガルドに戻る事は許されない、その状況に、ペンプ・オグは忸怩たる思いを禁じえなかったが……。
この戦場に戦略的な意味は一つも無い。
しかし、だからこそ、命を賭けて戦わねばならないのだ。ペンプ・オグはそう決意していた。
「命を惜しむなよ! ここでケルベロスに一矢報いねば、どちらにせよ、命は無いのだ。お前達の死で勝利がつかめるならば、生き延びた兵士が許され、再びアスガルドに戻る事ができるだろう。それは、意義ある事である!」
ペンプ・オグの演説に、私兵団のエインヘリアル達の瞳が燃える。
例え自分の命が果てようと、生き延びた仲間が再びアスガルドの地に戻る事ができるのならば、それは、自分達の勝利であるのだと。
自分の思いは仲間に引き継がれ、そして、アスガルドの地で再び花開くのだと。
そう信じられるから、彼らは、命を捨てて戦えるのだ。
「「「「戦え! ケルベロスを殺せ!」」」」
強い意志を瞳に燃やし、生き残りのエインヘリアル達は一糸乱れぬ統率でケルベロスの軍勢に牙を剥いた。
「凄い気迫ではらうんだけどね。もう戦いの決着は見えているんだよ」
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)は、そう呟いてドラゴニックハンマーを構えた。
技量、士気、統率、そして仲間の為に命を使える献身が揃ったハオウ私兵団は、まさに精鋭であったろう。
しかし、その精鋭も、ケルベロスの物量の前に磨り減らされ、全滅への道を確実に進み続けている。それでも、なお足掻くペンプ・オグに、ジューンは、大仰な構えから英雄の一撃を叩き込む。
「そうそう、前回言い忘れてたことがあってね……。それを伝えにきたんだ」
ジューンの一撃は、傍目から見ればゆっくりとした動きであり、簡単に回避できそうに見えた。だが、ペンプ・オグは脚を縫いとめられたように回避する事はできなかった。
「見事、我を倒すのに相応しい攻撃だ」
ペンプ・オグはただ、満足げにジューンの拳が到達するのを待ち構え、そして撃ち貫かれて散華した。
その死に様を見て、ジューンは、伝え忘れた伝言を伝える事にした。
「いい? ひとつだけ言っておくけど。二十歳は年増じゃないから、間違えないんだよ」
あの世では気をつけるように、そう諭して、ジューンは戦場を後にした。
●オウガの女神『ラクシュミ』
「ケルベロス……ケルベロス、どこかで……?」
その細腕が触れるたびに、城壁は砕かれ、人が飛び、暴力の嵐が吹き荒れていく。
オウガの女神『ラクシュミ』は、だがその渦中で、ひとり悩み続けていた。
しかし多勢に無勢、ラクシュミ率いる攻性植物軍は、じわじわとケルベロスに削られていく。
ラクシュミは己の傷も「殴り飛ばして」戦い続けたが、流石に苦境に立たされていた。
そして遂に、観念した女神の上に、ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)のズタズタラッシュが振り下ろされる。
だが、
「ロキはもういないし、少し話してみない?」
ルリィは、トドメを刺す手を止めた。
そしてふたりは戦場の中で、ふたり座って話し始める。
「まぁ、このメロンパンという食べ物、とても美味しいのですね」
「傷も殴って治すなんて凄いね。でも何だか、見た覚えがあるんだけど……」
「なんとなく仰りたい事は分かります。ですが私は、妖星グロウスという怪物に囚われてからこちら、ずっと檻の中に閉じ込められていましたので、そのような事は有り得ないと存じます。でも、それでも、不思議ですわね……」
「その、グロウスというのは……?」
「十二創神ネルガルスの配下のひとりだったのですが、私が知らぬ内にネルガルスは死に、クルウルクが全ての実権を握っていました。その上、レプリゼンタなどになって……」
「あなたの種族は無事なの?」
「はい、おそらく、私の主星プラブータは、今も無事だと思います」
そうした話を続けた後……。
「決めました。あなたが見逃してくれるのでしたら、私はここで攻性植物の軍から離れます。そして、この星にプラブータのゲートが開いていないか、探してみます」
「それなら、私達と一緒に……」
「いいえ、残念ながら私は、オウガの長として、まだあなた方に種族の秘であるゲートを晒す決意はできません。でも来るべき時が来たら、私はあなたの力になりましょう。例えその時、あなたが私の敵となっていようとも……」
そういって、女神ラクシュミは戦場を立ち去ったのであった。
●螺旋帝の血族『緋紗雨』
狐面の螺旋忍軍を率い、ゲートに攻め寄せるケルベロス達を退けようとした緋紗雨。
だが、その力がイグニスとその兵に対し、明確に劣っているのは明らかだった。
「素直に此処で降参してくれると無駄に攻撃したりせずに助かるんだけど……」
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)は、ひとまず螺旋帝の血族『緋紗雨』に対する説得を試みる。
緋紗雨は今は人類に害を為そうとしているが、ギブアンドテイクの関係だったとはいえ、彼女がケルベロスに情報をもたらしたも、また事実だ。
土壇場で心を入れ替えてくれるのなら、命までは取るまいと思ったのだが。
「~~~~~~~~~~~~ッ駄目だ!」
螺旋忍軍として身に染み付いた利己主義と保身の心を持ってしても、緋紗雨はここで降伏を選択する事はできなかった。
確かに、螺旋忍軍にとって、『彷徨えるゲート』を破壊される事は直接の滅亡を意味しない。螺旋忍軍の主力は、他種族に分散しているからだ。
しかし、だからといって、主星を失うような決断を彼女がする事はできない。そんな事をすればいずれにせよ螺旋忍軍の誰かによって暗殺されるだろうし、何より、螺旋帝の血族としての誇りが許さなかった。彼女は、イグニスとは違うのだ。
「しょうがないか……まあ、考えておいてくれると嬉しいな」
「くどいな。時間の無駄だ」
ゲートを守る、緋紗雨直属の螺旋忍軍の僅かな生き残りが戻って来る気配を感じ、蒼月は他のケルベロス達と共に撤退していく。
『彷徨えるゲート』が、閉じる気配はいまだ無い。
ケルベロスによる史上二度目のゲート破壊は、もはや目前であった。
→有力敵一覧
→(4)ペンプ・オグ&ナウ・ソーン(4勝2敗/戦力180→0/制圧完了!)
→(7)最上・幻夢&ダウ・ガル(3勝2敗/戦力20→0/制圧完了!)
→(8)ラクシュミ(17勝2敗/戦力910→40)
→(11)最上・牡丹&亜紗斬(17勝1敗/戦力1020→160)
→(16)彷徨えるゲート(27勝4敗/戦力1400→10)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。