■第8ターン結果
仙台市内の人々は、揃って一方向を見つめていた。
その視線の先には、地を揺らして迫る巨大な金色の影がある。
載霊機ドレッドノート。
青森県黒石市から移動してきた巨体は、ついに仙台市を間近としていた。
ダモクレスによる通信妨害の影響もあって、ドレッドノートの体内で奮闘するケルベロス達の様子は、人々の元へは限られた情報しか届いていない。
死の恐怖とケルベロス達への信頼。
その双方を抱えつつ、人々は祈るように載霊機ドレッドノートを見つめていた。
●十界天魔
六眼六腕四脚の異形の仏像型ダモクレス、十界天魔が率いる部隊を、リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)達は切り崩しつつあった。
「むむっ!むむむーっ! あれはどこからどう見ても悪そうなダモクレスです!」
リリウムの視線の先にはダモクレス十界天魔。
「踏破王を撃破し、イマジネイターを追い込みつつある。やはり優秀だ。汝らケルベロスの肉体を我らのものとして『換装』すれば、さらなる機能を得られる可能性が高い」
「お断りします! 私の手とか足は、私のものです!」
ケルベロスの声に、十界天魔の六つの瞳が、バラバラに動きを見せた。
目を動かしつつ、十界天魔は不思議そうにいった。
「私の言葉に生理的拒否反応を示す意味が分からぬ。私が『換装』の具にせんと欲するは、お前達の性能を認めたことを意味する。あるいは『敬意』の表れと言えば、より理解を助けられるだろうか」
「我が六眼は見通している。デウスエクスの死骸の一部などを装備品とする者、あまつさえ食べる者がいること。疑問だ。何故、自分達や定命の者の肉体だけが特別なのだ?」
「んー、むずかしいことは、分かりません!」
リリウムはきっぱりと言った。
「でも、わたしにもわかります! あなたを放っておいたら大変なことになるって! だから、ここでぜーったいやっつけます!」
「それを否定はしない。ならば、正々堂々とうち倒し、汝の手足を奪うまで」
六腕四脚を駆使し、ケルベロス達へと襲い掛かる十界天魔。
リリウムは転がるようにその接近から逃れると、十界天魔を取り囲むように魔法で造られたアホ毛を設置していく。
そこに魔力の波動を感じ取ったダモクレスの目が警戒の赤に染まる。
「何だ?」
「雷は高いところに落ちるのです!」
リリウムが魔力を解放すると、アホ毛を目掛けて雷が落ちる。
「ぐ……」
「……ぎゃわーっ!!」
背の高い十界天魔へと、集中的に落ちた雷の余波を受けつつも、リリウムは立ち上がった。煙をあげるダモクレスは沈黙し、もはや動こうとしない。
「悪いダモクレスはせいばーい!」
リリウムの快哉に、仲間達は歓呼の声で答えた。
●マルミGGG03
「また来たの、しつこいね!」
マルミGGG03は、攻め寄せてくるケルベロス達を迎え撃つべく、応急修理を施したダモクレス達を前線に送り出していた。
しかし、それも、もはや限界が来ていた。
マルミGGG03の周囲に残る戦力は、もはや数える程。これでは、まともな戦いは不可能であろう。
だが、マルミGGG03は諦めない。
「母さんを守る為なら、ボクは喜んで捨石になるけれど……ここで死ぬのは無駄死にだよ!」
母である『マザー・ドゥーサ』と共に、幸せに暮らす未来の為に、この戦いは絶対に切り抜ける!
それは、悲壮な覚悟であったろうか。
マルミGGG03の思いは、クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)にとっても共感できるものだったかもしれない。
だが、彼女は、攻撃の手を緩めはしない。
「残念ながら修復もこれで終わりだよ。頑張って直してきたんだろうけど……」
母親への思いも覚悟も、人に害をなすダモクレスであるマルミGGG03を見逃す理由にはなりはしない。
更に、ジュモー・エレクトリシアンの研究成果である『レプリカント化装置』にまで手が届かなかった以上、ここでジュモー配下の技術者を一人でも倒して、その研究を進めさせない対策が重要に成るのだから。
その為にも、修復技術を持つマルミGGG03は撃破せねば成らないのだ。
「なんでこんなことになったのかな……。貴方も私と同じレプリカントだったらって思うよ。きっと話し合いも出来ただろうに」
クーリンは、その思いを胸に沈め、マルミGGG03を激しく攻め立てた。
既に戦場の制圧は終了しており、残すは指揮官たるマルミGGG03ただ一体。
追い詰められたマルミGGG03に対してクーリンが選択したのは、
「残念だったな、ここまでだ! Destruction on my summons―!」
彼女の必殺の技、破獣召喚(リジュラ)であった。
詠唱と共に現れたのはクーリンと同じ大きさのコヨーテ。
そのコヨーテは、逃げ出そうとするマルミGGG03に喰らいつき、その喉笛を噛み千切った。
そして、
「……嗚呼、母さん……。迎えに来てくれたの? ふふ、また一緒に……」
マルミGGG03は、母親の幻に向けて手を伸ばし、そのまま、力尽き、その最期を看取ったクーリンは、少しだけ寂しそうにしかし毅然として、戦場を後にしたのだった。
●イマジネイター
載霊機ドレッドノートの頭蓋骨の中心部へと、ケルベロス達は上り詰めた。
周囲の風景は、部屋や廊下、階層の繋がりこそ変化しているが、ところどころに見覚えのあるものが混じる。
ダンジョンと化していた時にはダモクレス『ブラックエクリプス』の残霊がいた場所だと、探索に赴いたことのあるケルベロス達には見当がついた。
ケルベロス達が駆け抜け、辿り着いた先には、多数のダモクレス達に守られて、少女のような姿をしたダモクレスが居た。
「間もなく、仙台市……。だというのに、ここまで、来てしまいましたか。あなた達と直接戦うことがなければ、僕は、自分の使命に迷うことは無かったかもしれないのに」
思索型決戦ダモクレス『イマジネイター』は、オレンジ色の瞳をケルベロス達に向けた。
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)は、イマジネイターの体に何本ものケーブルが絡みついているのを見た。
ケーブルはイマジネイターの肌に潜り込み、反対側はドレッドノートの壁面へと結びついている。
イマジネイターは、ケルベロス達の活躍によって破壊された『弩級兵装』に替わり、載霊機ドレッドノートと合一化している。
彼女に勝利することが、すなわち載霊機ドレッドノートを止めることに繋がるのだ。
「思索創造装置機動……イマジネイション」
歌うように節をつけて、イマジネイターは詠唱した。想像は創造に通ずる。
しかし、ケルベロス達の頭上、何もなかったはずの空中から生み出されるのは、導火線に火のついた爆弾だ。そして、
「ボム」
創造された爆弾が破裂し、爆風が吹き荒れる轟音が、最後の戦いの開幕を告げた。
残り少なくなった兵力を率い、イマジネイターはケルベロス達に抵抗する。
その動作に、イブは一定のリズムを感じ取っていた。
人間の少女とさして変わらない外見を持つイマジネイターは、人を愛し、歌を愛するという。
「そんなに辛そうなのに……戦う必要があるというの?」
「それが、僕の製造目的だからね」
イマジネイターの周囲に、輝く結晶が浮かぶとケルベロス達へと飛ぶ。大量の毒物を凝固させた結晶は、弾け飛ぶとケルベロス達の皮膚と、血を、喉を冒していく。
血を吐きだして、イブはイマジネイターを見つめる。
「昔心を閉ざしていた僕にだって、今は一緒に歌ってくれる人がこんなに居る……だから、人と歌を愛するダモクレスであるきみにもきっと届くだろう。どうか、聞いて……」
開かれた唇から紡がれる歌は、彼女がこの戦争のため、人々を励ますために捧げた歌だ。
『希望を願うその声が、勝利を祈るその想いが、僕らに強さをくれるから』
自分に近付き、「White Knight Concerto」を歌うイブの姿に、イマジネイターの顔が、苦悩するように歪んだ。
「歌を、止めて……僕に、余計なことを、考えさせないように」
配下達に命じるイマジネイター。だが、戦っていた量産型達も、ケルベロス達によって一機一機倒され、機能を停止していく。
単身戦い続けるイマジネイターの姿に、イブは歌を止めると、言った。
「もう、いいんだ」
至近距離から放たれた弾丸が、イマジネイターとドレッドノートを繋ぐケーブルを切断する。
「意識遮断……思考機能一時停止……感情機能の創出検知……削除削除削除削除……僕は、役目を……!!」
人を愛する感情と、ダモクレスとしての製造目的。
その狭間で引き裂かれるような表情を見せていたイマジネイターが、意識を失ったように頽れる。
それと同時に、ドレッドノート全体に響いていた震動が止まる。
載霊機ドレッドノートが、その歩行を停止したのだ。
「終わった……のか?」
「多分……いや、間違いなくだろう。今は、彼女を連れていこう」
イブの言葉に、ケルベロス達は思索型決戦ダモクレスだった少女を連れて、決戦の場を後にする。
●ゴーストファクトリー
イマジネイターがいたのはドレッドノートの頭脳だ。
だが、ドレッドノートの頭脳部がダンジョンとしてのドレッドノートの中枢部と異なることを、探索に赴いたケルベロス達は知っているだろう。
真の中枢たる残霊精製機構『ゴースト・ファクトリー』では、指揮官型ダモクレスの1体マザー・アイリスが星喰いのアグダからの連絡を受けていた。
『イマジネイターがドレッドノートとの同調を停止した。残存兵力の指揮は俺が引き継いで撤収させる。……何が人を愛する思索型決戦ダモクレスだ。死亡せず回収されるとは無価値の極み。さっさとコギトエルゴスムにでもなっておけば良かったものを』
「……そうですか。私の子供達で、見苦しい姿を晒さずに済むよう、処置できればよかったですが」
『悔やむ時間は無い。ディザスター・キングとジュモー・エレクトリシアン達も魔空回廊を使って撤退した。お前も急げ』
アグダからの通信は一方的に切れた。先任の指揮官型に対する敬意はまるで感じられないが、それいったものはダモクレスに求められるものではない。
イマジネイターが失われた事態は、マザー・アイリスにとっても痛手だ。
とはいえ、それで最善を目指す思考を止めるような者は、指揮官型たりえない。
「ゲートに連絡、魔空回廊を開かせなさい。残霊精製機構『ゴーストファクトリー』を載霊機ドレッドノートから回収します」
マザー・アイリスの命令に、量産型ダモクレスの群れが動き出す。
戦いに勝利を収めたケルベロス達が左肩部に到着した時、マザー・アイリス達の姿は、残霊を生み出すための『ゴーストファクトリー』ともども、載霊機ドレッドノート内部から消えていた。
そして、ドレッドノートは残霊を生み出す機能を喪失していたのだ。
仙台市を目前にして直立したまま停止したドレッドノート。
その姿はケルベロス達の勝利と、いずれ再び戦いが起きるであろうことを教えていた。
→有力敵一覧
→(6)あずさ実験部隊(1勝0敗/戦力1280→1230)
→(9)マスターオーブメント(3勝0敗/戦力1700→1550)
→(10)智の門番アゾート(13勝2敗/戦力1180→510)
→(12)英霊機タロマティア(1勝1敗/戦力1760→1700)
→(14)十界天魔(15勝2敗/戦力720→0/制圧完了!)
→(18)イマジネイター(43勝4敗/戦力300→0/制圧完了!)
→(19)星喰いのアグダ(1勝1敗/戦力3100→3040)
→(21)メタルガールソルジャー・タイプS(0勝1敗/戦力1230→1220)
→(28)マルミGGG03(6勝4敗/戦力100→0/制圧完了!)
→(29)レイジGGG02(1勝0敗/戦力1140→1090)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。