爆殖核爆砕戦

●ドクターシード
　植物迷宮を守る攻性植物達を少しずつ破り、ケルベロス達はユグドラシル地上部の中心付近へと迫っていた。
「もうすぐだな。気ぃ抜くなよ。あと陣形な」
　両手の斧で攻性植物を切り裂きながらの白銀・ミリア（ピストルスター・e11509）の言葉に、旅団『緑風館』のケルベロス達が頷く。
　彼らをはじめとしたケルベロス達は、勢いよく敵の中枢部へと乗り込んでいく。
　迷宮の先にあったホールでは、大量の攻性植物がケルベロス達を待ち受けていた。
　入り込んできた者達へと、植物の蔓が次々と巻き付き、引き裂かんとして来る。
「いや、流石にケルベロスだ。光明神のお二人を倒しただけのことはある。けれど、私もこれでカンギ戦士団の一員だ。最後まで足掻かせて貰おうかな」
　指揮するドクターシードの声が、攻性植物の向こうから聞こえて来ていた。
　狭い空間での混戦。
　ケルベロス達が攻性植物と切り結ぶ中、緑風館のケルベロス達は、先ほどの声を放ったドクターシードと相対していた。
　眼鏡をかけた白衣姿の男だが、植物の巻き付いている部位はごく僅かだ。
　ドクターシードはその体に絡みつく攻性植物を伸ばし、ケルベロス達を解体せんとしつつ、ふと一人のケルベロスに目を留めた。
「おや、君は確かアイビー・サオトメくんだねぇ」
「なぜ、ボクの名前を……？」
「私はほら、何せ天才だからね。印象に残った有名なケルベロスぐらい覚えておくよ。
　それに、君は私が『治験』を行った患者だろう？　記憶にとどめておいて然るべきじゃないか」
　皆の視線に、アイビー・サオトメ（アグリッピナ・e03636）は知らないと首を振る。
「私の『治験』を施した時は、君もまだ子供だったからね。いや、まだ子供かな？　まあそれはいいか。サキュバスのラブフェロモンを強めた際にどうなるのかとか、そういう簡単な『治験』を施させて貰ってね。いやあ、あれは上手くいったよ」
　言いながらも、ドクターシードの体からは攻性植物の蔓が伸びる。その蔓はアイビーに絡みつき、
「あの野郎、自意識残ってやがるのか？」
　攻性植物と交戦しながら、ミリアはあまりにも古い記憶を残しているドクターの態度に怪訝な顔をした。
　あるいは攻性植物が真似ているのかもしれないが、それにしては情緒が籠り過ぎているように思える。
「こうしてケルベロスになって私の前に現れたということは、さぞ人々に愛されて育ったんじゃないかな？　どうだい？　私も『治験』が上手くいっていたかどうかを是非知りたいんだ。教えてくれないか！　さあ！！」
　幼少期の嫌な記憶が思い出され、アイビーの顔が歪む。
　言葉を続けようとするドクターだが、
　だが、それを遮ったのはミリアの放った魔砲だった。ドクターの顔面に突き刺さった魔砲は、その頭部を消し飛ばす。
「口数が多いな、ドクターさんよ」
「そいつは私の悪い癖だな」
「！！」
　返答と共に、抉り取られたドクターの頭部に蔓が集まり、再び元の姿を形作った。
　どうやら外部に攻性植物の特徴が顕れていないだけで、既に体内は攻性植物の塊のようだ。それだけ己の性能を使いこなしているということだろう。
「謹んでお詫び申し上げる。しかし私の最高傑作に再開できた喜びがどうしても抑えきれなくてね」
「知ったことか。アイビーはあたしの友達で、ケルベロスだぜ。でもって、あんたも負けるんだよ」
「何……」
「……全部、全部、全部、全部……これで、終われ」
　巻き付く蔓を振り払ったアイビーの体から、強力なフェロモンが爆発的に拡散し、ドクターシードへと収束した。力が吸い上げられる感覚に、ドクターシードの顔が歪む。
「素晴らしい！　やはり君は、私の……！！」
「講釈は冥府でやんな！！」
　フェロモンを飛び越えたミリアの拳が、ドクターシードの顔面に叩き込まれた。
　瞬間、手の中に現れる銃が、ドクターの頭部を今度こそ完全に消し飛ばす。
　それに連動するように、白衣に包まれた体ももはや復元することもなく消える。ドクターシードは完全に死んだ。
　時を同じくして、中芯爆殖核がケルベロスたちの攻撃で閃光と共に爆砕、消滅した。
「これでようやく２つ目か。やれるとこまでやってやるさ」
　ケルベロス達は、次なる爆殖核を爆砕すべく、次なる戦場へ向かうのだった。