ケルベロス・ウォー

　惑星マキナクロスの軌道上。
　那磁霧・摩琴（医女神の万能箱・e42383）は、万能戦艦ケルベロスブレイドの側を飛ぶ小剣型艦載機の上から、この機械惑星を見下ろしていた。

　ケルベロス達が万能戦艦ケルベロスブレイドの窓から見下ろす惑星の表面は、機械の光に満ちている。
　いまだゲートが健在な、他のデウスエクスの本星を見るのは、ケルベロス達にしても初めてのことだ。だが、どこか暗いものを感じるのは、グラビティ・チェインが不足しているが故だろうか。
「確か、これだけ大きな物体が地球の側に現れたのに、気象などへの影響があまり見られていないのは既存の科学では説明できないとか……」
　摩琴は、地球で見かけたTV番組で出演者が語っていた内容を思い出す。
　もっとも、竜業惑星スパイラスだの、ビルシャナ大菩薩だのと、巨大な物体はたびたび地球付近に現れている。
　加えて、月が暗夜の宝石だった件もあって、宇宙に関する学問は色々と見直しを迫られたりしていた。
　数々の異星からの侵略者を退けたケルベロス達、そして地球の人々にしてみても、宇宙はまだまだ謎に満ちている。

　惑星上空を簡単に一周できる万能戦艦ケルベロスブレイドだが、まだ超神機アダム・カドモンの元へは突入できずにいた。
　広域に渡り、近衛軍防衛網が敷かれていたためだ。
　それもあって、どの地点に超神機アダム・カドモンがいるのか、正確なところはまだ調べきれていない。

　そして、そのレーダーが、万能戦艦ケルベロスブレイドに接近する無数の機影を捉える。
　万能戦艦ケルベロスブレイドと相対するように、高速で接近して来る機影を摩琴をはじめとしたケルベロス達は認識する。
「敵戦艦、接近中！！」
　惑星マキナクロスの侵入者を排除するべく、急速に距離を詰めてくるのは弩級戦艦インペリアル・ディザスターと、それを旗艦とする『近衛軍』のダモクレス達だ。
　弩級ダモクレスとはいえ、全長３ｋｍを誇る万能戦艦ケルベロスブレイドと比べれば、その全長は小さいものでしかない。
　だが、小さい相手として、巨大な敵に幾度も立ち向かってきたケルベロス達は、敵の狙いを即座に理解した。
「突入戦を挑む気！？」
「敵を阻止しましょう！」

『こちらも形振りを構ってはいられないのでな』
　弩級戦艦インペリアル・ディザスターから、飛び出してくる大量のダモクレス。
　彼らは万能戦艦ケルベロスブレイドに取り付かんと接近して来る。
　強引に離脱を図ろうとした万能戦艦ケルベロスブレイドの動きを、前方に現れた戦艦群と、そこから現れるダモクレス達が食い止める。
　個々の動きはこれまでに現れた大型艦に比べれば脆弱だが、その数をもって万能戦艦ケルベロスブレイドを押し留めにかかっていた。

　万能戦艦を直接狙う構えの近衛軍、その中核を為すのは、自壊を厭わぬ速度で万能戦艦ケルベロスブレイドへと突っ込んでくる巨艦、インペリアル・ディザスター。
「あれは……！！　食い止めます、皆さん、一緒に！！」
　エレス・ビルゴドレアム（揺蕩う幻影・e36308）の呼びかけに答えたケルベロス達が、突入して来る戦艦の軌道を反らすべく、艦載機に飛び乗る。
　だが、惑星の地表からも多数の戦艦型ダモクレスが飛び立ち、さらにインペリアル・ディザスター内から、ダモクレス達がケルベロスへと飛来する。
「インペリアル・ディオン！！」
　摩琴は、その中に混じった白銀の機体に、警戒を露わにした。
　近衛軍を率いる将たるインペリアル・ディオンは、自ら先陣を切って突入を仕掛けて来たのだ。
「大将なら指揮していなさいよね」
『本星への突入は阻止せねばならん。形振り構わず、やらせてもらう！！』

　近衛軍のダモクレス達は、ディオンの指揮の元、その最精鋭部隊たる力を見せつけていた。
　実に半数近い戦場で、ケルベロスは敗北を喫することとなっていたのだ。

　摩琴は、手にした剣を振るって荒れ狂うディオンの動きを、慎重に見定めていた。
　そして、ディオンが剣を振り上げた一瞬の隙を突いて、逆落としに艦載機をその拳を叩き込む。
「むっ！」
　ハウリングフィストが、ディオンのマントを貫き、装甲に大きな傷を刻みつける。
「キミは、この戦いや未来の事をどう思ってるのかな？」
「地球のマキナクロス化により、我々が抱える問題は解決するだろう。
　グラビティ・チェインの根源たる地球を手に入れる意義は、大きい」

　傷ついたディオンは、摩琴にそう返答しつつ、残る手勢を引き連れて一時後退していく。エレス達もまた、インペリアル・ディザスターに大きな損傷を与えることに成功していた。
　だが、近衛軍はケルベロス達にその力を見せつけてもいた。
　実に半数近い戦場で、ケルベロス達は敗北を喫していたのだ。
「怪我人を、すぐに救護してください！」