デスバレス・ウォー

●ゼネヴェーシャ
　もはや、ゼネヴェーシャを守る戦力はほぼ壊滅状態にあった。
「こいつは参ったね。オレ一人倒すために、随分と数が多くないか？」
　緑肌の死神は、焦りを顔に浮かべつつケルベロス達の攻撃をいなし続ける。
　だが、メイ・プロキオン（ゴメイサ・e38084）は冷静だった。
「敵性勢力を確認。既に壊滅状態と判断できますが、ケルベロスブレイドの進攻に万全を期す為、ここで確実に撃破します」
　防衛ラインを形成している死神達が、単身であっても万能戦艦ケルベロスブレイドを傷つけうる強力な存在であることは、既に察しがついている。

「見逃しちゃあくれないってわけだな！！」
　ゼネヴェーシャの全身から、欲望の淀みそのもののような、淀んだ空気が溢れ出し、ケルベロス達を包み込まんとする。
　メイは小剣型艦載機を加速させ、その範囲から逃れると、ガトリングガンに手をかける。
「異常大気ごと、焼き払います」
　爆炎の魔力を込めた大量の弾丸が、銃口から雨霰と放たれる。
　無数の銃弾に貫かれ、穴だらけとなったゼネヴェーシャの姿は、淀みの一部へと散り、消滅していくのだった。

●ベリタ・オケアノス
　第４次防衛ライン『欲望の淀み』での戦いは、最終局面に差し掛かっていた。

　防衛ラインを形成する死神を指揮していたのは、裁きの死神ベリタ・オケアノス。
　その天に向けてかざす三叉鉾からは、グラビティの渦潮が溢れ出し、戦場を包み込まんとしている。
「我が眼の前に、隠れられるものなし！」
　巨大な渦が、超高速でオケアノスに迫ろうとした小剣型艦載機を叩き落とした。
　もちろん、その上に乗っていたケルベロス達も無事では済まないが、空間の底まで落下する前に、他のケルベロスが追いつき、拾い上げる。
　そこから万能戦艦ケルベロスブレイドの救護室送りになるか、戦線復帰するかは実力次第。裁きの渦は、ケルベロス達の力を問おうとしているかのようだった。

「遮蔽物がない状況で、隠れるも何も無かろうに」
　ジョルディ・クレイグ（黒影の重騎士・e00466）は、そう言いつつも盾をかざし、渦の中央へと突っ込んだ。
　真実を見通さんとするかのような、ぎょろりとした目玉を動かし、死神達をケルベロスに差し向けて来ている。
「生きながらにして、冥府の海に足を踏み入れる者よ。汝らもまた、生死の均衡を崩さんとするか」
「お前達が冥府の海を溢れさせたりしなければ、わざわざ自分達がここに来たりする必要もなかったんだがな」
「なるほど、応報であれば一理はある」
「認めるのか」
　ベリタ・オケアノスの思わぬ反応に、発言したジョルディすらぎょっとした。
「冥王イグニスは性急に過ぎる。
　冥府の海の流出は、何もせずとも、いずれ訪れる自然の理のはず」
「何もしなくても、だと……？」
　魔竜王が、地球を狙うに至った『滅びの獣』の現出。
　その原因となった、冥府の海の流出は、必ず起こると死神は語る。
　ベリタ・オケアノスは、争う理由などないと言わんばかりの様子で続けた。
「もし、汝らがそれを止めんとするならば、力を向けるべきは我らにあらず。
　真に地球を守らんと欲するならば、その力にて遍くデウスエクスを滅ぼすべし」
「なんだと？」
「デウスエクスは、生まれた瞬間より生死の均衡を崩し続ける者。
　デウスエクスが増え続ける限り、冥府の海もまた広がり続ける定め」

　そして、裁きの死神はジョルディ達に告げる。
「冥府の海に踏み入り、数多の死神を葬りしケルベロスの罪、今ならばまだ赦されよう。同数の命を置きて、冥府の海より立ち去るべし」
「目には目を、歯には歯を……応報か」
「然り」
　受け入れるわけにはいかないと、ジョルディは斧を構えることで答えとした。
「さすれば、その生命を持って償いとせよ」
　強靭な死神の腕の先で、鉾が旋風の如く振り回される。
　その横薙ぎを小剣型艦載機を加速させてかいくぐったジョルディは、己のコア機関へと呼びかける。
「HADES機関オーバードライブ！　最終形態『インフェルノ・フォーム』！　我が鋼体よ魂よ……炎となって舞い上がれ！」
　全身を地獄に変えたジョルディの体が、三本足の鴉の如き飛行形態『レイヴン・フォーム』へと変更する。
　瞬間、音速を越える速度に至り、彼はベリタ・オケアノスへと突撃した。
　限界時間は僅か５秒。
　その僅かな時間をもって、ジョルディは相棒の凱歌を背に受けて特攻を仕掛ける。
『凱歌二重奏…終章！　Ravens Glory!!(二頭鴉の栄光)！』
「……見事。力を持って正しさを証明するならば、進むが良かろう」
　ジョルディに貫かれた裁きの死神は、最後にそう告げると消滅していった。