デスバレス・ウォー

■第3ターン結果

 第5次防衛ラインは、『欲望のよどみ』と称される、死者の負の欲望の感情が集う領域に作られていた。
 そこに集いし敵もまた、負の感情に満ちた存在だった。

●ダルビョーウス
「ここは……、空気まで腐っているようです」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)は、ヒエルおにいさん……ヒエル・ホノラルムの服の裾を掴むと、体を震わせる。
 ケルベロスブレイドのザルバルク剣化波動によって、ザルバルクが一掃されてなお、この戦場の空気は淀み腐っていた。

「ひょひょひょ。若いをのこには、この空気は堪えるかのぉ」
 その戦場の中心で、奇怪な老人姿の死神、ダルビューウスが白髭を扱きながら、夏雪に声を掛けてきた。
「ここはのぅ、死者の負の欲望の感情が集う『欲望のよどみ』じゃ。地上の人間が何前何百の年月で醸し出した極上の美酒の海じゃ」
 この美酒を楽しむには、まだまだ、お前達は若すぎる。
 ダルビョーウスは、楽し気にそう言葉を継ぐと、ヨーガのポーズをとり、ケルベロス達を迎え撃った。

「どーれ、お前達にもこの『欲望の淀み』の良さを理解してもらうとしようか……『老苦』」
 ダルビョーウスから、おぞましい黄色の魔力の塊が噴出され、ケルベロス達を襲う。
 この攻撃を受けたものは、一時的に若さと生命力を失い、失え過ぎれば老衰で死に至るという恐ろしい攻撃である。

「ダルビョーウスさん。なんて恐ろしい気配なんだろう。でも、僕だってケルベロスです。仲間をそして地球を守る為なら、戦えます!」
 夏雪は、そう覚悟を決めると、『老苦』の攻撃を避けつつ、元凶たるダルビョーウスに向けて駆け寄っていく。
 心なしか、ダルビョーウスの肌にハリが戻り、若々しくなっているように見えるが……。
「まさか、皆の若さを奪い取ったというのっ!」
 夏雪の言葉通り、戦場のケルベロス達の一部は、ダルビョーウスの『労苦』を受け、一時的に数歳から数十歳加齢した姿になっているようだ。
 中には、成長した自分の姿に喜んでいるケルベロスもいるようだったが……。

「ひょひょひょ、生い先短い老人に若さをプレゼントしてくれる為に、わざわざ来てくれた愚か者に感謝を」
「なんてことを。許さないんだよ、ダルビョーウスさん!」
 夏雪は、『労苦』の攻撃でダメージを受けたケルベロス達の怒りをパワーに変えて、ダルビョーウスへと肉薄し、喰霊刀『六華刀』を振るう。
 ダルビョーウスは奇怪なポーズで、その攻撃を避けると、「当たらぬようじゃのぉ」とヒョヒョヒョと笑う。
 だが、そのダルビョーウスの言葉と共に、白い毛が宙を舞った。
 夏雪の六華刀が、ダルビョーウスの自慢の髭を切断していたのだ。

「紙一重で避けようとしすぎではないでしょうか? そして、今ので間合いを掴みました」
 夏雪が武器を握り直すと、大事な髭を失ったダルビョーウスが、怒りの形相のまま、腕を伸ばして夏雪を掴み込もうとする。
「お前には『老い』を与える慈悲もいらぬようじゃて……、死の苦しみを味わって死ね、『死苦』」
 その伸びる腕を、夏雪は体を丸めるようにして避けてみせた。
「ダルビョーウスさんの腕が伸びるのは、なんとなく予想できていました。老人は労わるものですけれど、それだけ長く生きたのでしたら、思い残すことなどないですよね?」
 夏雪は、腕を伸ばした状態で硬直するダルビョーウスに、全身の力を込めて、六華刀を振るった。
「大切な皆さんの為に、僕が今できる最大の攻撃を!」
 老苦を司る死神ダルビョーウスを、若きケルベロス夏雪の刃が貫く。そして戦いが終わると共に、『老苦』を受けていたケルベロス達の姿も元に戻っていった。

●ラナトフヮーカ
 戦場に、病苦に苦しむ人々の苦しみが満ちていた。
 ケルベロスへの害意は感じない。
 ただ、病の苦しみにもだえ苦しむ声だけが、満ちている。
「助けてほしい」
「いや、いっそ殺してほしい」
「なぜ、自分はこんなに苦しまねばならない」
 病気で苦しみ死んだ人間の想念が、この戦場を支配していた。
 この病苦の気配は、ケルベロスと戦うために必要なものでは無い。
 ただただ、病苦に苦しんだ人間の想念を好む者が、その思いを集め続けていたというだけなのだ。

 ヴァルキュリアの瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は、その苦しみの声を耳にし、心が圧し潰されるような悲しみを感じていた。
「これが、欲望のよどみなんだね。なんて悲しい、そして、悪趣味な所なのでしょう」
 こんな所は、一気に突破して攻め上がろう。右院は、そう自らを奮い立たせて戦場に足を踏み入れた。

「こりゃーこりゃー、久しぶりのお客様だねぇ」
 その悪趣味な戦場の中心で、大きな角をはやした老婆が耳障りな声をあげた。
「なんて醜悪なんだ……」
 右院は、ラナトフヮーカの姿を見て鳥肌を立てていると、ラナトフヮーカは楽し気にヒヒヒと笑い声をあげた。
「あんた達に会えて、わたしゃー嬉しいよ。なにせ、あんた達のせいで、病苦の声が、この地獄に来なくなったのだからねぇ」
 ラナトフヮーカは、右院にそう恨み言をいう。
 ケルベロスが病魔を滅ぼした事で『欲望のよどみ』に集まる『病苦』が減ったという事だろうか。

「病の苦しみを集めて楽しむなんて、許されないよ」
 ラナトフヮーカの外見は醜悪であったが、その内面は外見よりもより一層醜悪であった。右院は、ラナトフヮーカに向けて祓神剣"デュランダル"を振るう。
 対するラナトフヮーカは、熱病からの病苦の連続技でケルベロスを苦しようとするが、その程度で怯むケルベロスなどいはしない。

 次々とケルベロスの攻撃を受けたラナトフヮーカが、これはたまらぬと戦場から逃げ出そうという気配を見せた。だが、
「逃がすわけにはいかない!」
 その行く手を右院が遮った。
 逃げ延びたラナトフヮーカは、ケルベロスブレイドを病に侵そうとするだろう。
 だが、ケルベロスブレイドの牧場には、羊なども飼育されているのだ。ここで、ラナトフヮーカを逃すわけにはいかない。

「やれやれだねぇ。こんな婆の尻を追いかけて何が楽しいのかね」
 逃げ道を抑えられたラナトフヮーカが、そう揶揄するが、右院は、それに答えず祓神剣"デュランダル"を構え、ラナトフヮーカを一足一刀の距離で追い詰めていく。
 そして、強引に突破を図ったラナトフヮーカに、全身全霊を込めた攻撃を叩き込んだ。
「この戦いに負ければ地球は滅びるかもしれない。だから、絶対に勝つ! レゾナンスグリードっ!」
 この、右院の斬撃は見事にラナトフヮーカの首を刈り取り、この戦場の戦いの勝利を確定づけたのだった。
 欲望の淀みに集まった病苦たちも、きっと、苦しみから逃れる事ができる事だろう。

●グンラヴゥート
 その戦場に満ちているのは、行き場のない怒りの念だった。
 だが、それは嫉妬心などとも渾然となった、淀みと呼ぶに相応しいものだ。
「そうだ、もっと怒りの感情を高めろ! お前達の怒りを、生ある者にぶつけろ!」
 死神グンラヴゥートが、戦場に満ちている負の想念達へと呼びかける。

 グンラヴゥートが司るのは憤怒の感情だった。
 戦場を飛び交う死神達もまた、彼の導くがままに怒りに染まり、己の身をも顧みずにケルベロス達へと襲い掛かって来る。

「奥にいるあいつを倒さないとな」
『銀の星』を構えた吉杜・有司(音響拳士・e00240)は、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)と一瞬視線を交わした。
 そして、互いにフォローしあえるような位置取りで、二機の小剣型艦載機が真空の空間を下っていく。
「連携し確実にすり潰す。悲哀の一撃、お前たちの力を逆に利用させて貰う」
 有司は手を広げると、リズムと共に構えを取る。
 有司のグラビティ、悲哀の一撃(ソロウ・ストライク)。
 それは、渦巻くやり場のない嘆き・悲しみを、歌声と共に叩きつける技だ。
 欲望の淀みに満ちていた嘆きや悲しみが、彼の元へと結集していく。

 欲望の淀みの力をも乗せて迫る一撃に、グンラヴゥートはくわっと目を見開いた。
「貴様、この欲望の淀みをも己の力にせんというのか! なんたる傲慢か!!」
 憤怒の形相を浮かべたグンラヴェート。
 その全身から漂う黒いオーラが、有司やシア達の精神をも憎悪で包み込まんとする。
 だが、有司はそのオーラすらも己の力にせんとするかのように、拳を繰り出した。
「これは嘆きの歌。疑いの影さして、自分自身を喰らい、涙を無へと還すもの!」
 拳に貫かれたグンラヴェートの体が消滅していく。

 敵指揮官を倒した有司とシアは、そのまま琴瑟調和の技をもって、高速で残る死神達の陣を切り崩していくのだった。

●ゼネヴェーシャ
「私は、秘密結社オリュンポスが勇者アレス! 悪しきデウスエクスたちよ! 此度の戦いがお前たちの命日と知れ! ……むっ?」
 堂々と宣言するアレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)は、目の前に現れた敵の姿に、一瞬目を疑った。
 そこにいたのは、エインヘリアルの第八王子ホーフンド配下の勇者……エインヘリアル達だったからだ。

「なぜ、ここに……いや、ホーフンド王子一派は、死神にくだっていましたね」
 アスガルド・ウォーの後、ホーフンド王子と配下の女性エインヘリアル達は、ケルベロスに降伏することを拒否し、死神への帰参を宣言、戦場から消えていた。
 彼女たちが、なぜここにいるのか。
(しかも……死神と化している)
 アレスの振り下ろした剣を受け、エインヘリアルの体が霧散する。それは、彼女たちが既に蘇生(サルベージ)された身となっていることを意味していた。
 死神にしてみても、一旦殺して蘇生(サルベージ)すれば、裏切ったり余計なことを考えられたりする必要はないのだ。
 死神に下るという判断が、ホーフンドのものか、実質的な指揮官であるユウフラのものであったかは定かでないが、言えることはただ一つ。
「仕える主を誤りましたね」
 アレスは心中で呟きつつ、戦場を切り開いていく。

 ホーフンドやユウフラなど、有力なエインヘリアルはいない様子だった。
 力が強いため、コストの問題から蘇生(サルベージ)されていないのか、
「……あるいは死神が指揮を取る上で邪魔だと見なされたか」
「まあ、そうだな。下手に我の強い連中は言うことを聞かなくて困る」
 縛りをキツくするのも手間が掛かるんだ、とうそぶくゼネヴェーシャ。
 もっとも、ケルベロス達の戦力は、ホーフンド配下程度で止められるものでもなかった。
「こいつは参った、一時撤退だ!」
 アレスのヴァルキュリアブラストに全身を焼かれつつも、ゼネヴェーシャは淀みの中へと退いていく。

 戦いを経て、エインヘリアル達はほぼ壊滅していた。  これもまた、エインヘリアル達の選択の結果なのか。
 アレスはやりきれない万能戦艦ケルベロスブレイドへ、一時帰還するのだった。

→有力敵一覧

→(12)ダルビョーウス(7勝1敗/戦力800→0/制圧完了!)

→(13)ラナトフヮーカ(7勝1敗/戦力800→0/制圧完了!)

→(14)第5次防衛ライン主戦場(2勝1敗/戦力1100→830)

→(15)グンラヴゥート(7勝1敗/戦力800→0/制圧完了!)

→(16)ゼネヴェーシャ(6勝1敗/戦力800→10)

→重傷復活者一覧

→死亡者一覧

■有力敵一覧

有力敵 戦功点 現状

ダルビョーウス
1998
(12)ダルビョーウス:Battle1にて、地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)に倒される。

ラナトフヮーカ
1998
(13)ラナトフヮーカ:Battle1にて、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)に倒される。

グンラヴゥート
2000
(15)グンラヴゥート:Battle1にて、吉杜・有司(音響拳士・e00240)に倒される。

ゼネヴェーシャ
2000
(16)ゼネヴェーシャ:Battle1にて、アレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)に死の宿命を付与される。

戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。

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