日本列島防衛戦

●(12)双児宮ギンヌンガガプ

　双児宮ギンヌンガガプの中枢。
　エインヘリアル第三王子モーゼスは、全身を怒りをみなぎらせて、ケルベロス侵攻の報告を受け取っていた。
　前衛の航空母艦ディオニュシオスがあっという間に壊滅させられた事で、双児宮ギンヌンガガプはケルベロスの猛攻に晒され、陥落間際に追い詰められているのだ。

　モーゼスは、ケルベロスが地球を破壊しようとしている竜業合体ドラゴンを差し置いて、ギンヌンガガプに攻め寄せるとは予測していなかった。
　そもそもダモクレス軍は、ケルベロスが敗北した場合に、地球壊滅を阻止する……いわば、ケルベロス側と言って良い立場ですらある。

「しかし魔導神殿群ヴァルハラが集まると、ここまでの力を発揮するとは……父上はご存知だったのか？」
　地球側でのケルベロスブレイド内の調査で、ヴァルハラ自体にも合体機能らしきものがあったことは判明していた。
　もっとも、本来の十二神殿だけでは、今程の力は発揮できなかっただろう。
　人の心などに重きを置かない……それ故にダモクレスと手を組んだモーゼスに、ケルベロスブレイドの出現や、発揮している力の理屈は理解不能だった。

「マキナクロスから撤退の許可はまだ出ないのか！」
　モーゼス王子は、通信担当のダモクレスを一喝するが、マキナクロスからの返信が来る気配はない。
　過度の戦力は、ケルベロスの敵愾心を煽るという理由で、旗下の戦力は大幅に制限されていたが……。

「この俺すらも捨て駒にするというのか、アダム・カドモン！」
　モーゼス王子は、鬱憤を晴らすように剣を抜き放つと、ギンヌンガガプ中枢までケルベロスが侵攻しているという不愉快な警告をあげ続ける中枢モニターを、一刀両断に斬り捨てた。

　だが、モニターを切り捨てたからと言って現実を切り捨てる事など出来はしない。
　モニターの破壊とほぼ同時に、兎之原・十三（首狩り子兎・e45359）らケルベロスの突入部隊が、モーゼスの元へと突入して来ていた。

「あなた、この前の、戦いで、生き延びた、えいんへりやるの、王子なの？　王族の、余裕が、無くなってる、よ」
　癇癪をおこしたようにモニターを破壊したモーゼス。その姿を、大きなうさ耳をぺこんとしながら、十三が揶揄する。
　貧すれば鈍するというべきか、物に当たるのは王族としては麗しい行動とは言えないだろう。その揶揄にモーゼスが睨みつけてくるが、十三は飄々と受け流して、更に追い打ちをかけた。
「でも、えいんへりやるは、滅びたから、もう王子、じゃない、かな。だもくれすと、協力して、攻めてくる、指揮官。だから、だもくれす軍の、下っ端？」
　眠たげな表情で毒を吐く十三。
　その間にも、後続のケルベロス達が、続々と中枢へと到達し、護衛のダモクレス達との交戦を開始する。
「ぎんぬんががぶは、けるべろすぶれいどの、ぱわーあっぷに、使えるかもだから、あまり壊しすぎないのが、いーね」
　十三は、仲間達にそう言いつつ、禍々しい大太刀【月喰み】を閃かせ、モーゼス王子の懐に飛び込んだ。
「盗人猛々しいっ！」
　モーゼス王子は、ケルベロスの目的がギンヌンガガプの接収であると知って、更に激高するが、ケルベロスの猛攻の前に膝をつく。

「ぐぅ、自己修復機能、全開……！！」
　追い込まれたモーゼスは、ダモクレスにより、さらに性能を上げた鎧の自己修復機能を作動させし、なんとか踏みとどまる。
「俺は、こんな所で死んで良い存在では無い。ギンヌンガガプを失ったとしても、ここで死ななければ、次があるのだ！」
　モーゼス王子は、修復されつつある巨体に最大の力を込めて、大剣を薙ぎ払った。
　だが、その刀身は、十三は耳をぴょこんと下げてやりすごした事で、宙を斬ってしまう。
「確かに、すごい攻撃だ、ね。でも、じゅーぞーには、こおりが、ついて、居てくれる、から、絶対、負けない、よ」
　十三は、攻撃を避けられたモーゼス王子の軸足を思い切り蹴りつけた。
　体勢を崩したモーゼスに、跳ねるように【月喰み】の刀身を閃かせる。
「……その首、もらっていく、よ」
　呪怨斬月の美しい軌跡が、モーゼス王子のフルヘルムの継ぎ目を的確に薙ぎ、その首を叩き落した。

「からだを、いくら機械で、まもっても、くびを落とされたら、生きてられない、よね」
　十三の言葉どおり、モーゼス王子は断末魔の叫びもなくギンヌンガガプの床に倒れ込み、活動を停止した。

「この、そーじきゅーは、どんなぱわー、になるの、かな？」
　第三王子モーゼスを討ち取った十三は、戦後のケルベロスブレイドの強化を期待しつつ、戦場を後にした。