日本列島防衛戦

●皇竜オーヴァロード

　皇竜オーヴァロード率いる軍勢は、奇襲によって戦力をほぼ喪失した状況にあった。
　ケルベロスによって追い込まれた状況のオーヴァロードも、付き従う竜業合体ドラゴン達も、それでもなお戦意を失うことは無い。
　巨大な竜業合体ドラゴンの拳の連打が、艦載機ごとケルベロスを吹き飛ばす。

『数多の同胞の死を乗り越え、ここまで辿り着いた以上、最後の闘争を心ゆくまで楽しませてもらおう！』

　繰り出す拳から漂う歓喜の念を、艦載機上の幸・鳳琴（精霊翼の龍拳士・e00039）は感じ取っていた。 「たとえ命を落とそうとも、闘争をのみ望む精神性……厄介なものですね」
　多数のドラグナーや竜牙兵を送り込んで来ていた巨躯の竜。
　武術もまた、その進化の糧であったのだろう。
　竜業合体を経て、力と闘争への妄執はますます強まっている。

「でも、相手が正面からぶつかってくるんなら、こっちも正面から砕いていってあげよ！」
「ええ、そうですね！」
　赤星・緋色（サンプル・e03584）の言に鳳琴は改めて敵を見つめた。
　武術を極める者としての戦いを望む心が、自分達ケルベロスに向けられているのであれば、それに真っ向から応えてやるのが筋というもの。
　ケルベロス達は、全力をもってオーヴァロードへとグラビティを叩きつけていった。
　翼を振るってそれらを弾き、拳撃を繰り出すオーヴァロード。
　力と技のぶつけ合いが、洋上に激しい衝撃音を響かせる。
　互いに傷を負いながらの戦いの中、オーヴァロードの体に、巨大なグラビティが集中するのをケルベロス達は感じ取った。

『征くぞケルベロス、これを凌げるか！』

　巨大な闘気の波動を放つ態勢。
　だが、そこに緋色は僅かな隙を見出していた。

「そぉい！いちげきひっさーつ！！」

　オーヴァロードの腕に収束した闘気が放たれる直前、緋色は艦載機を蹴り、オーヴァロードの顔面へと跳んだ。
　眼球を切り裂きながらの疾走と共に体液がしぶきをあげた。
　緋色は硬い頭部を蹴り、また別の艦載機へと跳ぶ。
　振り返ると、オーヴァロードの体がぐらりと揺れた。
　海面へと墜落、消滅していく皇竜の姿が、どこか寂しくも満足げなものであったかのように、ケルベロス達には感じられたのであった。

●（10）航空母艦ディオニュシオス

　ファーストアタックによって蹂躙された、航空母艦ディオニュシオスの戦場。
　わずかに残された艦隊に対して、ディアス・シャドウキャット（蒼き月の夜に佇む山猫・e02887）を初めとして少数精鋭の、ケルベロスが攻撃を仕掛けていた。
　やろうと思えば、ファーストアタックで戦場を制圧する事は出来ただろう。
　また、例え敵が残っていても、残存勢力など無視して進軍する事も難しくない。
　だが、敢えて、敵を残した意味は、ここで、航空母艦ディオニュシオスと決着をつける事なのだ。

「撤退させはしない。ここで確実に潰してやるにゃ！」
　ディアスは好戦的な微笑みを浮かべつつ、にゃおにゃおーんと、航空母艦ディオニュシオスへと襲い掛かった。

　航空母艦ディオニュシオスは、残り少ない艦載機で迎撃を行うが、その程度で、ケルベロスの足を止める事は出来はしない。

「艦載機と護衛艦のにゃい空母の末路なんて、むかーしむかしから変わらないのにょ？　つまり、撃沈にゃあ！」

　小剣型艦載機群と共に攻め上ったディアスは、航空母艦ディオニュシオスの飛行甲板に飛び乗ると、尻尾でバランスを取りながらチェーンソー剣を甲板に突き立てた。
　甲高い音と共に甲板を切断しつつ、艦橋方面へと斬り進んでいく。
　大きく甲板を切り裂かれた航空母艦ディオニュシオスの振動は、あたかも苦悶の響きのようであった。形状的に手も足も出ないが。

「さぁ、とどめにゃ！　いま、必殺のスターゲイザーにゃぁ！」
　甲板を切り裂いて艦橋まで到達したディアスは、体を丸めて全身のバネに力を溜めると、その全てを一気に解放して大きく猫ジャンプ。そのまま、艦橋を真正面から蹴り潰して破壊したのだった。

「勝利のポーズにゃん♪」
　艦橋を破壊された、航空母艦ディオニュシオスは、ボロボロに崩れながら海底へと沈んでいく。かくして、この戦場はケルベロスによって制圧されたのだった。