■第8ターン結果
●『死翼騎士団』知将
「可能性としては、充分に予測されておりましたが……」
双魚宮を守護するケルベロスを前に、『死翼騎士団』知将は羽扇の奥で嘆息する。
ケルベロスの対応を諮る為に行われたハロウィンの戦いでは、ケルベロスに裏切りの兆候は見られなかった。
だが、アスガルド・ウォーの戦いに照準を合わせるように、死神が有するミッション地域は次々と破壊されていた。それは、死者の泉の奪還の橋頭保となる場所を無くそうという事なのだろうと、知将は推測していた。
「しかし、事ここに至れば、我らに退路は無し。最後の一兵まで戦ってみせましょう」
死翼騎士団の退路は双魚宮にしか無い。
双魚宮を制圧しなければ、撤退は不可能だ。
勿論、仇敵たるエインヘリアルとは共闘の可能性など智謀を悉く尽くしたとしても不可能なので考慮に値しない。
そう思いを定めた知将は、死翼騎士団の将兵を動かし、ケルベロスの軍勢を相手に、知略の限りを尽くして戦いを挑む。
だが、知将の采配をもってしても、戦力差を覆す事はできず、死翼騎士団は徐々に追い込まれていった。
「なんだ俺の相手はお前か? できれば猛将と戦いたかったものだが」
騎士団の前衛を潰して、知将の元に辿り着いた渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は、残念そうに知将に声をかけた。
悔いが残らないように猛将と全力で戦いたかったが。だが、その相手が知将であっても、真っ向勝負という意志は曲げられない。
数汰は、だから、真っすぐに知将を見据えて勝負を挑んだ。
「真っ向勝負ですか。そんな都合の良い事を言える立場だと思っているのですか?」
呆れたように問いかける、知将。
だが、数汰は知将と目を合わせると、「思っているぜ」と力強く首を縦に振って見せたのだ。
「そもそも、お前は、今だって俺達を悪く思っていないだろ?」
それを聞いて、知将は、羽扇の影で上品に笑った。
「フフフ。それはその通りですね。私としては、この程度の取引で、簡単に死者の泉を死神に渡してしまうようなお人良しよりも、親しみを感じますから」
「つまり、これまでの全ては騙し合いだったというわけだ」
「はい、その通りです。我らは、約束した事は全て果たしてきた。しかし、敢えて言わない事も多かった。ですがそれは、お互い様でしょう?」
「違いない」
知将と数汰は、会話をしながら互いの間合いを諮り合う。
そして、周囲の騎士団を一掃したケルベロス達も、知将を十重二十重に囲み、その生殺与奪を握っていく。
「一応、最後に聞いておくぜ。死翼騎士団の事を認めてる奴は、俺達の中にもいるんだ。だから、お前が、降伏して定命化を受け入れるのなら、仲間になれる。どうだ?」
数汰の最後の降伏勧告を、知将は穏やかな笑みで拒絶した。
「知りませんでしたか? 冥府の海の住民たる死神は、元より命を持たぬ者。定命化しませんよ。つまり、その説得は無意味です」
数汰は「残念だ」との言葉と共に、必殺の旋刃脚を知将へと叩きこんだ。
その攻撃を受けた知将は、無駄な足掻きをする事無く、自らの死を受け入れたのだった。
「少しだけ、後味が悪いが……。これも世界の為だ」
崩れゆく知将の亡骸を見ながら、数汰はそう言い残して戦場を後にしたのだった。
●『死翼騎士団』猛将
「ケルベロスが俺達を裏切るのか!! 何が『ケルベロスは誠意に弱い』だ、嘘八百じゃないか、あのペテン野郎っ!」
アスガルドゲートが破壊されたので、死者の泉を受け取る為に意気揚々と双魚宮に戻ろうとした死翼騎士団が、ケルベロスの襲撃を受けた時、猛将はそう憤った。
これまで、死翼騎士団は、耐えがたきを耐えて、ケルベロスの為に働いてきた。
全ては、死者の泉を得るという、この時の為に。
それが、まさか、ここにきてひっくり返されるとは。
「この俺が、お前達を信じて見せてやったというのに、何故俺達を裏切った? 俺の演技に問題があったのか?」
襲い来るケルベロスの軍勢を前に、猛将が吠え猛る。
それに応えたのは、ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)だった。
「……はぁ、何を言ってるのでしょうか?
デウスエクスが約束を守れなどと言い出したら終わりじゃありませんか。あなた達がケルベロスに協力したのは、死者の泉を得る為の謀略に過ぎません。つまり私達は、あなた達の謀略を撃ち破ったにすぎないのです」
理路整然と説明するルイに、猛将は憤怒で顔を真っ赤に染め上げて怒鳴りつけた。
「いい度胸だ。お前達が謀略を力で撃ち破るというのなら! 俺が、その力を力で撃ち破ってくれる。お前達、いくぞっ!」
猛将は、猛将の名にふさわしく、戦闘に立ってケルベロス達へと突撃してくる。
「俺こそが万夫不当なり!」
その勢いは強く、猛将の膂力で振るわれる蛇矛が戦場を切り裂いて強引に前進する。
だが、その猛将の強引な突破に、猛将を除く死翼騎士団の兵士たちはついていくことが出来なかった。
多くの兵士がケルベロスに討たれ、万夫不当の猛将は戦場で孤立していった。
それでも、猛将は「俺こそが万夫不当」であるという、矜持と共に戦場に立ち続けるが……。
「一人で戦場に立つ事が偉いとでも言うのですか?
私は、敵を殲滅する為にケルベロスの力を磨いてきました。ですが、一人で戦うつもりはありません。仲間と共に戦えるから、私は、強くなる事が出来るのです。それが判らぬあなたの戦いは、匹夫の勇でしかありません」
そう言い切ると、ルイは「さぁ、相手をしてやろう」と、黒き翼を広げて、猛将の前に立ちふさがった。
ルイの言葉に応えるように、ケルベロス達は、暴威を放つ猛将を十重二十重に囲むと、一斉攻撃で少しづつ体力を奪っていく。
皆の力が一つに合わさり、連携して放たれるグラビティの猛攻が孤軍の猛将の暴威を抑え込み、その体を穿ち切り裂き刺し貫いていった。
「ぐっ、俺は、匹夫の勇などでは無い!」
蛇矛を支えに戦場に立つ猛将は、もはや戦う力は残っていなかったが、目だけは爛々と戦意に燃えている。
「一応、聞いておくよ。降伏して定命化する気はないですか? 定命化して、仲間になってくれるならば、少なくとも命は助かるでしょう」
満身創痍の猛将に、そう問いかけるルイ。
「ぺっ、お前達は俺の敵だ」
その降伏勧告を、猛将は血の唾をルイに吐きかけて拒絶した。
「交渉は決裂ですね。ならば……蒼き祈りは蒼黒の意志。この身に宿す魔力を以って、その意志貫かせて頂きましょう」
ルイは、勾玉の魔力を練り上げゾディアックソードへと宿し、敵を殲滅する力に変えて、猛将に解き放ち、その命脈を断ち切った。
「さて、これで死神とは完全に敵対する事になりましたが、果たして、これが吉と出るか凶と出るか……」
それは、まだ、誰にもわからない。
●『死翼騎士団』勇将
勇将に率いられた死翼騎士団の死神たちは、斧を、剣を振るい、ケルベロスを相手に勇戦していた。
一度はケルベロスのものとした双魚宮「死者の泉」へ攻め入る状況の中、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は、己の運命の奇妙さを感じていた。
「ヴァルキュリアの一人として使い捨ての運命にあったはずなのに、まさかアスガルドゲートを壊す役目になるなんてね」
既にゲートの破壊に成功し、惑星アスガルドと地球の行き来は絶たれた。
現在、地球に残っているエインヘリアルやシャイターンを倒せば、アスガルド勢力との戦いも完全に終わるだろう。
「さて、もう一押しだ! 死翼騎士団には悪いけど、死者の泉、久しぶりに活用してみたいんだ」
『どう使うつもりかな』
「それは秘密かな!」
届いた言葉に、右院はそう応じるながら、祓神剣デュランダルを振り抜いた。
勇将の振り抜いた偃月刀が、右院の腕に痺れるような衝撃を走らせる。
『凌いだか。こうなることを、望んでいたのかも知れんな……!!』
浮き立つような声音で、勇将はその偃月刀を振るう。
「猛将の兄貴分だけのことはあるか……」
脳筋度合いは、こちらのほうが強いかも知れない。
なんとも言えない心持ちで、右院は勇将との交戦を開始する。
兵達を巧みに操り、勇将はケルベロスの進撃を阻止せんとしてきた。
だが、その抵抗も虚しく、騎士達は勢いに乗るケルベロスの前に消滅していく。
「悪いけど、いただくよ」
右院は、素早く勇将の振り回す偃月刀の間合いの内側へと潜り込む。
横薙ぎに振るわれる偃月刀をかいくぐり、繰り出されるレイピアが薔薇の幻影を伴って勇将を切り裂く。
「我が命運、ここに潰えるか。強き者と戦えたこと、光栄に思うぞ」
静かに消滅する勇将へ、右院は軽く頭を下げて見送るのだった。
●シヴェル・ゲーデン
海原・リオ(鬼銃士・e61652)の銃弾が、死翼騎士達の鎧を貫き、内部へと痛打を与える。消滅する騎士たちの向こうに、唯一兜をつけていない女性騎士の姿がある。
「死翼騎士団団長、シヴェル・ゲーデン!」
『来たか……』
彼女は、死者の泉のすぐ側で、ケルベロス達を待ち受けていた。
北斗七星の刻まれた大剣が、死者の泉と反応し、奇妙な光を放っている。
「泉を持ち去るって、どうやるのかと思っていたけれど。あの剣が、魔術的な儀式の核となっているようね」
リオは、そう理解する。
「こうなる可能性があることは、充分に分かっていたでしょう?」
『それはそうだ』
これまでに、彼女と接触を持っていた者達が問うのに、シヴェル・ゲーデンは苦笑気味に応じる。
『だとしても、お前達ケルベロスも、エインヘリアルも出し抜けるとしたら、このタイミングしかなかった』
彼女たちにとって、唯一にして最大のチャンスだった。
もしもケルベロス達があと少しでも時間を要していたのなら、死者の泉は冥府の海(デスバレス)へ持ち去られていただろう。
『それが、戦力に劣る私達にとっての最善だ』
「そう開き直られてもね」
知将あたりは、『公正なる取引でケルベロスから死者の泉を譲り受ける』可能性も考慮していたのかも知れないが、シヴェル自身はその気は薄かったようだ。
もっとも、リオにしてみても別に責める気もない。ケルベロス達の側も、死神達がどう動くか予知で把握した上で、ゲート破壊のために利用したのだから。
「それじゃ、あとは恨みっこなしってことで!」
『勝負!』
斧と剣を携えた死翼騎士達が、シヴェルの号令一下、黒い波濤のように突っ込んでくる。たちまち巻き起こる戦いは、しかしケルベロス側の優勢で進んでいった。
戦力は少ないとはいえ、死翼騎士団はホーフンド辺りとやりあって勝てる程度の実力はあるだろう。
だが、既にここまでの戦闘で消耗し、戦力をすり減らした死翼騎士団では、全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)によって長時間の戦いに備えているケルベロス達と、正面切って相対するには力不足だ。
『だからといって、悲願を叶えるのを諦める気はない。お前達も、僅かでも信用できない要素がある者達に、死者の泉のような代物を渡しはしないだろう』
「そうでしょうね……!」
結局のところ、ケルベロスも死翼騎士団も、互いに信用などはしていなかった。
「だったら、なんであんな通告を?」
『少しでも躊躇して、成功率が上がるのであれば何でもする』
「ストレートに騎士然とした人かと思っていましたが、いい根性してますね……」
『照れるな』
「照れないでください」
知将の上に立つ者だけに、単なる騎士道精神の持ち主ではなかったらしい。
死者の泉奪還という悲願を叶えるため、一時的にケルベロスと手を組むことも辞さない辺りからも、それは伺えるだろう。
「その悲願、ここで終わらせてあげる。さぁ、この一撃を喰らいなさい!!」
銃を握った拳に、リオは限界まで力を込める。
オウガの剛力をもって繰り出された拳は、シヴェルの胸甲へと命中。
大きく陥没させると、シヴェルを双魚宮の壁面に強烈に叩きつけた。
剣から泉へと伸びていた魔力が雲散霧消し、それと同時にシヴェルの力もまた薄れていく。
『死翼騎士団も、ここに潰えるか……。だが、死神は、私達のような者ばかりではない。そのことは、お前達もよく知っているな』
「ええ、十分に」
最後には決裂することとなったが、死翼騎士団が『ケルベロスと上手くやっていけそうな変わり者達』を集めた部隊であったのは明白だった。
何せ、数が少ない。それにケルベロスとは到底ウマの合わないような死神を、過去の戦いの中でケルベロス達は幾度となく目にしている。
『カラミティとレクイエムは既に動いている。そして、お前達が気にしていた、『あいつ』もまた、な……』
「やはり、いるのですか……!!」
イグニス。
『ヤツの思考は私には理解不能だ。とはいえ、ろくな事にはならないだろう……』
その四文字を呼ぶのを嫌うように言い終えたシヴェルの体が、静かに崩れていく。
『全く、敵への忠告とは、我ながら妙な遺言もあったものだ』
そうぼやくように言うと、死神の姿は完全に消え去った。
「敵ながら、敬意に値する人達だった……というべきでしょうか」
消えていった死神たちに、ケルベロス達は奇妙な感慨を抱いていた。
死翼騎士団との戦いが終わった時には、ヴァルハラの三神殿の地上への転移は完了していた。
戦いを終えたケルベロス達は、双魚宮の『門』を通じ、地上へ帰還する。
地表では、ゲート破壊の報を待つ人々が、いまや遅しとケルベロス達の帰還を待ちわびていることだろう。
→有力敵一覧
→(4)白羊宮「ステュクス」(6勝1敗/戦力590→280)
→(5)ヴァルハラ大空洞(1勝0敗/戦力1180→1130)
→(7)金牛宮「ビルスキルニル」(1勝0敗/戦力1200→1150)
→(9)巨蟹宮「ビフレスト」跡(1勝0敗/戦力850→800)
→(14)死翼騎士団(24勝3敗/戦力600→0/制圧完了!)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。