■第7ターン結果
第六王女フィオナ
「双魚宮を返せー!」
「「「「「返せー!」」」」
宝瓶宮「グランドロン」跡地から、散々に戦力をすり減らされた第六王女フィオナが、懲りずにシュプレヒコールをあげ、取り巻きの無謀魔道士、無謀勇者、無謀騎士たちが、フィオナの声にこたえるように大声を張り上げる。
「いや、情勢読めて無さすぎだよね?」
シュプレヒコールで気勢をあげて、乏しい戦力のまま双魚宮に向かって攻め上がろうとするフィオナ軍に、クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)は、呆れたような声を上げる。
既にアスガルドゲートの攻略も始まっている現状で、盤面を読めないにも程がある。
だからこそ、無謀王女と呼ばれているのかもしれないが。
一応、フィオナから見れば、自分達はケルベロスに対して六連勝しているのだから、その気勢は全く根拠が無いわけでもないのかもしれない……。
さらに言えば、アスガルドゲートの攻略に力を入れている為、この戦場に集まったケルベロスの数は、フィオナ軍と良い勝負なので、全く勝ち目がないという訳では無い。
つまり、この戦いの勝敗は、気合の強さで決定する。
そう確信したクレアは、フィオナに負けじと腕を振り上げた。
「さぁいくぞー、無謀王女ッ」
「望むところだ! 正々堂々と勝負!」
勇猛果敢に戦場に挑むクレアに応えるように、前にでてきたフィオナは、クレアの前で立ち止まる事無く、
「そのまま、突撃!?」
「いくぞー!!」
フィオナにとって、無謀王女の呼び名は誉め言葉なので、クレアを良き強敵と認め、テンションがあがったのだろう。
このフィオナの勢いに押されてクレアの攻撃が止まる。
そこに、フィオナのレックレスクラッシュが襲い掛かった。
「ほらほらほらー。このまま押し切っちゃうよ!」
受け手のクレアは、フィオナの攻撃の鋭さに汗がにじむ。
だがそれでも、クレアはその攻撃を凌ぎ耐え、そして反撃の機会を伺い続けた。
「勢いは確かに、すごい……けどぉっ」
そして、フィオナの攻撃が大降りになった隙を見逃さず、その怪力でフィオナを抱きしめるように動きを止めてみせたのだ。
「くっこんな拘束、すぐに引き離して」
フィオナは、クレアの怪力の抱擁から逃れようともがく。
だが、クレアはそれを許さない。
「零距離の間合いでも、必殺の一撃は放てる。私の……勝ちだっ!」
その言葉通り、クレアは零距離から黄金の角を瞬時に伸ばすと、フィオナの体を貫き通した。
モズの早贄のように鬼神角で貫かれたフィオナは、痛みと驚愕に表情を歪めたが、助からない傷だと理解すると、クレアに対して微笑みを浮かべて見せた。
「最後は、ちょっと卑怯ぽかったけど、良い戦いだったよ。また戦えないのは残念だけど、まぁ、満足だったよ」
フィオナの最後の言葉に、クレアは、強く頷いた。
「私も、楽しかったよ。今度生まれ変わったら、友達になりたいかな?」
安らかな表情で逝ったフィオナに、クレアはそう言葉を送り、戦場を後にした。
●天秤宮の力
天秤宮アスガルドゲート。
エインヘリアルの本星、アスガルドに通じるゲートを内包した神殿であり、戦場となっている地下大空洞の中心部でもある。
ゲートを守るべく、己の身を顧みず攻め寄せるエインヘリアルやシャイターン達。
その守りをケルベロスは確実に突破し、神殿の最深部にあるゲートへと、ついに至ろうとしていた。
だが、その前に立ちふさがる存在がある。
エインヘリアルの王、英雄王シグムンド、その人であった。
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は、現れた鎧姿の老エインヘリアルを見上げる。
エインヘリアルの中でも、特に上背が高い。
(「恐ろしく、強いな……」)
手にする剣は、陣内の身長ほどもあるであろうが、彼の手にあっては短くすら見える。ケルベロス達を前に、シグムンドは感慨深げに言う。
「素晴らしい力だな。お前達のような存在が、私達の時代にもいたならばと思わずにはいられぬ」
彼はエインヘリアルの、いわば第一世代。
アスガルド神の時代に、地球からアスガルドへ導かれた存在だ。
「この神剣バルムンクを振るうのも久方ぶりだ。許せよ」
言った瞬間、サーヴァントの一体が消滅していた。
一瞬のうちに距離を詰め、剣を以って断ち割ったのだと、目視できたのは居合わせたケルベロスの中でも優れた力を持つ者のみ。
「撃ちまくれ、足を止めろ!」
鎧についた、翼状のパーツが異常な加速力を生んでいるのだと看破した陣内は、気配を殺し、シグムンドが動きを止めた瞬間を狙おうとする。
「アスガルド神によって、兵器として造られた存在。それが我らエインヘリアルだ。アスガルド神は、慈悲深き神などではなかった。気まぐれで、そして人の命など何とも思わぬ傲慢な存在だ」
だが、そう語りつつも剣を振るうシグムンドの動きを止めることは容易ではなかった。バルムンクが閃くたびに、サーヴァントやケルベロスが、次々と戦線を離脱していく。
「我らはアスガルド神が、兵器として死者の泉を用いて作り出した存在。
グラビティ・チェインを求めての侵略が始まる以前から、アスガルド神は地球の優れた勇者達を、エインヘリアルに生まれ変わらせる行いを始めていた」
「それを傲慢を思うならば、何故……アスガルド神のような真似をする!」
「それが、必要な行いとなったからだ。絶対命令権を持つ狂戦士オーディンを出し抜き、勝利を収めたが、それでもグラビティ・チェインの枯渇は止まらなかった。そして、ユグドラシルの侵攻も始まった……いずれに対処するにも、地球への侵攻は必要であったとも」
語るシグムンドに、グラビティが当たる。
周囲の護衛達を排除したケルベロス達は、ようやくシグムンドの動きにも目が慣れてきていた。
「何故、それを我々に聞かせる?」
「老人は昔語りをするものだろう。あるいは、負け惜しみだな」
この老王は、既に敗北を悟っている。ケルベロス達は、それを理解した。
(「ここにザイフリートがいれば……!」)
陣内は、そう思わずにはいられない。
親子の情などが、定命の者のそれと違うことは理解している。
だが、それでも。
感傷を振り切るように、陣内はウビンジャスンと名付けたナイフを振るう。
シグムンドの首元へと突き刺さったナイフから、冷気が広がっていく。
老いた英雄王へ、次々とグラビティが突き刺さり、バルムンクを振るう動きが次第に遅くなっていった。
剣から巨大な波動を放とうとした動きのまま、シグムンドはついに倒れ伏す。
「……天秤宮よ。最後の役目を与える」
力なくシグムンドが告げた瞬間、ヴァルハラ大空洞に震動が走った。
「なんだ!?」
「天秤宮アスガルドゲートの機能を起動させたのか!」
シグムンドの言葉を聞いていた者達が、そう察する。
ヴァルハラ大空洞に存在した神殿のうち、いまだエインヘリアルの防衛部隊が健在な3つの神殿、『白羊宮「ステュクス」』『金牛宮「ビルスキルニル」』『双児宮「ギンヌンガガプ」』が、光に包まれていた。
天秤宮アスガルドゲートの機能は、「ヴァルハラの神殿の転移」。
地上侵略に使うために準備していたそれを、シグムンドは大空洞から避難させるため使用したのだ。
「厄介な真似を……」
「年を取れば、汚い真似も覚えるものだ」
それ自体が移動要塞であるのは勿論だが、破壊兵器であるビルスキルニルと終末の巨人族の模倣体を製造できるギンヌンガガプは、危険極まりない兵器だ。
対処に動き出すケルベロス達を見て、シグムンドは静かに呟く。
「狂戦士オーディンは、地球の者こそが死神への切り札となると語っていた。
あるいは、それはデウスエクスとなった我らではなく……」
その呟きを最後に、英雄王と呼ばれた男の姿は消滅していった。
●動き出す死翼騎士団
天秤宮アスガルドゲートの奥にあったゲートを、侵入したケルベロス達は破壊した。
だが、シグムンドの最後の命令によって転移を始めようとする神殿群は止まらない。
「出来れば、どれか一つでも撃破したいが……」
だが、それだけに専念するとはいかないことを、ケルベロス達は知っていた。
ケルベロスによるゲートの破壊を受け、双魚宮を守っていた死翼騎士団が動き出していたのだ。死翼騎士団は戦力を神殿内に引き上げ、双魚宮の中枢である「死者の泉」の周囲へと展開させたのだ。
既にガイセリウム跡へと移転していた銀狐師団の救護拠点へ、伝令の兵からシヴェル・ゲーデンの声明がもたらされる。
「ケルベロス諸君、まずはエインヘリアル戦の勝利、見事だ。
共に戦勝を祝したいところだが、これより我らは『死者の泉』を冥府の海(デスバレス)へ移送するための準備に入る」
ケルベロス達に驚きは無い。
それは、既に予知されていた動きであった。
「これは、全てを元に戻すための行いだ。
かつて『死者の泉』は冥府の海(デスバレス)に存在した。
『死者の泉』がエインヘリアルに奪われるまで、死神はデスバレスの外に出る事は無かった。
我らが『死者の泉』を奪還し、全てが元に戻ったならば、死神によって殺される者はいなくなるだろう。しばし、待機願いたい」
これまでにも死翼騎士団から幾度も語られた、死神達の悲願だった。死翼騎士団側としては、この話が真実だと考えているのも、また確かのように思われた。
だが、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)をはじめ、「死者の泉」を巡って戦ったケルベロス達は、エインヘリアルの研究者との会話を、どうしても思い出さずにはいられない。
『もしも死神を滅ぼさずに、死者の泉をデスバレスに戻したとしたら?』
『幾つか推論はあるけれど、最悪は、世界の全てがザルバルクに飲み込まれる……ね。
死者の泉を発見したのはヴァルキュリア。けれど、それを命じたのは創造主であるアスガルド神。そしてアスガルド神は、死者の泉を冥府の海(デスバレス)から奪い、死神を滅ぼす兵器としてエインヘリアルを生み出した。今となってはアスガルド神が何を考えていたかは判らないけれど、それを行う理由があったと考えるのが妥当なのでしょうね』
死翼騎士団は、死者の泉を冥府の海(デスバレス)に取り戻そうとしている。
もしも、死翼騎士団の言が真実ならば、彼らの奪還を認めることは、死神との戦いを友好的に終わらせることにも繋がるだろう。
だが、もしもエインヘリアルの言が正しければ、それは世界の破滅を招く過ちともなりかねない。
もっとも、戻すだけで世界が破滅するという説にも疑問を差し挟む余地はあろう。
死者の泉が、かつて冥府の海(デスバレス)に存在した以上、それは過去の状態に戻るだけなのだから。
何を信じ、誰と戦うべきなのか。
果たして、ケルベロス達の決断は……。
→有力敵一覧
→(2)宝瓶宮「グランドロン」跡(2勝1敗/戦力70→0/制圧完了!)
→(4)白羊宮「ステュクス」(1勝0敗/戦力640→590)
→(5)ヴァルハラ大空洞(1勝0敗/戦力1230→1180)
→(9)巨蟹宮「ビフレスト」跡(1勝0敗/戦力900→850)
→(13)天秤宮「アスガルドゲート」(24勝5敗/戦力710→0/制圧完了!)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。