■第3ターン結果
●『ヴァルゴナイツ』響音
処女宮スキーズブラズニル。北欧神話に伝わる、魔法の帆船と同じ名を持つこの神殿は、船のような外観を持っている。
その甲板下に隠された中枢部へと、ケルベロスは攻め入っていた。
処女宮を守る役割を負うヴァルゴナイツの奏でる音楽系グラビティが、船内のあちこちで木霊して、奇妙な和音を響かせる。
だが、その響きは次第にその数を減らしていっていた。
「連携し確実にすり潰す。息を合わせてバッチリいこう、オレ達ならやれる」
「ええ、お互い、油断なさらずに!」
吉杜・有司(音響拳士・e00240)とシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は、呼吸を揃えて敵へと突っ込んでいった。
敵の奏でるリズムを崩し、そのグラビティを破っていく。
神殿防衛の任を負う重要な部隊であるとはいえ、常に攻性植物との前線に身を置き続けてきた王子・王女達の軍よりも、練度の面でやや劣るのは否めない。
「フィオナ様の軍がいれば、多少は保ったでしょうか
中枢部への道で、ケルベロス達と交戦しながら、ヴァルゴナイツをまとめる女エインヘリアル『響音』はそう考える。
もっとも、第六王女フィオナやその部下達を止めるのは、洪水を止めるよりも困難だろう。飛び出していってしまったのには困惑したが、まとめてやられるよりは良かったかも知れない。
「指揮官か!」
響音の姿を認め、有司が警戒したようにトンファーを構える。
「甘く見ていたつもりはないのだけれど……やってくれますね」
一応は精鋭の部類に属するヴァルゴナイツが敗戦を重ねていくのは、響音にとっても驚くべき事態ではあった。
「お相手致しましょう」
す、と手を上げた姿勢を取る響音。
「拳士か……」
自然体の構えから繰り出されてくる拳の周囲に、空気のゆらぎのようなものを見て取り、有司は大きく回避する。
直後、響音の拳が、魔力の音楽を伴って大気を突き破った。
「また強烈な能力だな……!!」
拳の振るいが、美しい音楽となって奏でられる。
もっとも、間近にいる者にとってみれば、それは間違いなく凶器だ。
ケルベロス達が包囲しようとするが、今度は歌を魔力に変え、攻め手を鈍らせてくる。部下達と同様、音楽と武術のあわせ技が、彼女の持ち味なのだろう。
奇しくも、音響拳士たる有司と酷似した戦闘スタイルだ。
(「ただし、能力自体は今の俺よりも、遥かに高度だろうが……」)
だが、それ故にこそ見える隙もある。
予め判明していた情報に基づき、魔法に類する攻撃への対策はしてきた。
シアと視線を交わした有司は、敵の攻撃を凌ぎながら、響音を切り崩しにかかる。
リズミカルとも言える挙動で、細かく回避を続ける響音は、そのリズムをもってケルベロス達を飲み込みにかかる。
だが、地留・夏雪の残像剣からセレネテアル・アノンの時空凍結弾、そしてシアの絶空斬と、続けざまの攻撃に敵のリズムが一瞬乱れたのを、有司は見逃さなかった。
音を宿す拳がシアに打ち込まれようとした瞬間、有司は通路の床を蹴る。
「全てが止まる、凍てつく空を突き進む。限界を超え加速しろ、自分さえも振り切る程に!」
猛烈な加速と共に、全身が冷気を帯びる。
舞うが如く拳を振るう響音のリズムを破るように、有司は勢いよく突っ込んだ。
真正面からの激突が、大気を震わせ、そして激音と共に両者が弾け飛ぶ。
そして、立ち上がったのは有司の方だった。
「俺たちの、勝ちだ……!!」
ヴァルゴナイツが奏でていた音は、戦場から消えている。
戦場の静寂は、ケルベロスの勝利を雄弁に告げていた。
●人馬宮「ガイセリウム」跡
最後の命の炎を燃やすように、鉄蛇隊の生き残りは奮闘を見せていた。
「どうしたケルベロスども、ジギスムント様を破った貴様らの力、そんなものか!」
隊長ヘイズレクは全身を血の色に染めながらも、最前線で、その槍を振るい続けていた。部下達を叱咤する彼の命が、もはや尽きようとしているのは、ケルベロス達の目にも明らかだ。
「これもまた、騎士の誇りというものですか」
ヘイズレク達に退けられたエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)は、その鬼気迫る様に感嘆の息をつく。
だが、ケルベロス達を撃退するのと同時に、ヘイズレクの動きがぴたりと止まった。
「……ここまでか」
そして彼は、ほんの僅かな、生き残りの部下達に声を張り上げる。
「生き残った者は、ゲートへ向かえ。ゲートを、そして我らが英雄王を、お守りするのだ」
最後の命令を下したヘイズレクの体が立ったままに消滅していくのを、ケルベロス達は言葉もなく見届けるのだった。
●人馬宮「ガイセリウム」跡
「推奨メインルートは処女宮、サブがこちらで良いんですよね?」
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)は、戦場に似つかわしくない、のんびりした口調で周囲に確認する。
集まったケルベロス達は、純恋の問いに首肯して、戦場に足を踏み入れる。
十二神将が守るブレイザブリク跡地に残された戦力は、残り僅か。
純恋たちは、その残り僅かの戦力をギリギリ制圧できる部隊で、制圧戦を開始したのだ。それが、効率的な戦争と言うものだろう。
「くっ。余の軍勢が、ここまで虚仮にされるとはっ!」
ゆるい雰囲気の純恋達の攻撃を、ブレイザブリクの軍勢を統括する辰将パジュラは、恥辱に満ちた目で睨みつける。
だが、戦いは既に、多勢に無勢。
周囲の十二神将を悉く失ったバジュラは、ケルベロス達の一斉攻撃によって掛かった、諸々のバッドステータスに苛まれ、もはや虫の息である。
瀕死の状態で、なんとかケルベロスの攻撃を避け続けるが、コンビネーションで畳みかけてくる連携攻撃の前に、遂に捕まってしまう。
「痺れろー」
純恋の御霊殲滅砲が、バジュラを貫く。
「おのれ……まだ、死ぬわけにはいかぬ!!」
バジュラはその場に膝をつくも、他の十二神将達に助けられ、その場を逃れていく。
「うーん。倒せたと思ったのですが、ギリギリ届きませんでしたのね。残念なの」
追い込んだもの、戦場の制圧を逃した純恋達は、戦場を後にしたのだった。
→有力敵一覧
→(2)宝瓶宮「グランドロン」跡(2勝0敗/戦力750→650)
→(3)磨羯宮「ブレイザブリク」跡(2勝1敗/戦力130→20)
→(5)ヴァルハラ大空洞(0勝2敗/戦力1330→1310)
→(6)人馬宮「ガイセリウム」跡(0勝2敗/戦力10→0/制圧完了!)
→(11)処女宮「スキーズブラズニル」(19勝3敗/戦力700→0/制圧完了!)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。