アスガルド・ウォー

●(2)宝瓶宮「グランドロン」跡

「来た見た勝った！」
　処女宮の防衛を放り出し、グランドロン跡地に陣を張ったフィオナは、ケルベロスの侵攻を撃退して高らかに勝鬨をあげた。
　その彼女の勝鬨の声に、彼女と共に戦場に駆け付けた無謀戦士達が歓声をあげる。

　まだ戦いは始まったばかりなのに、既に勝利の宴を開きそうな勢いだ。
　そんな配下達をニコニコと見やったフィオナは、腕を振り上げる。
　百名を超える死者が出ているが、それもまた彼女の一族、無謀なる戦士としては誉れであった。

「勝利の宴の会場は、双魚宮でやるよ！　宴会の費用は全部、ホーフントの所のユウフラに出させるから、好きなだけ食べて飲んで歌うんだっ！」
　フィオナの言葉に、無謀戦士たちは更に熱狂する。

「双魚宮を我らの手に！」
「双魚宮を取り返せ！」
「双魚宮で大宴会！」

　こうして、フィオナと無謀戦士たちは、士気を高揚させ、意気軒高と双魚宮奪還へ挑んでいく。双魚宮の防衛を行う死神「死翼騎士団」では、団長シヴェル・ゲーデンと知将が、冷静にその様子を見ていた。
「猛将系ですな」
「あの程度ならば、まだ凌ぐのは容易いだろう」
　アスガルド神の遺産である双魚宮は極めて頑丈だ。死神達は入り口だけを守っていれば良い。無謀に突っ込んでくる敵の勢いを、死翼騎士団はうまくいなしていた。

●鉄蛇将ヘイズレク

　磨羯宮跡を強引に突破したケルベロス達は、そのままの勢いで人馬宮「ガイセリウム」跡へと突入していく。
　この神殿を守るのは、英雄王シグムンドの宿将、ヘイズレクが率いる鉄蛇隊。
　ファーストアタックでの奇襲によって戦力を減じた彼らへ、ケルベロスはさらなる攻撃を仕掛けていく。
「態勢を立て直す暇も与えぬつもりか！」
　蛇のように執念深い守りと攻めとを得意とするヘイズレク。
　だが、その反撃をケルベロスは許さない。

「時間がないのでな、最短距離で行く」
　疾走するハル・エーヴィヒカイト（閃花の剣精・e11231）は、そう告げると共に鉄蛇隊の騎士たちへと刃を向けた。
　ハルが滑るように敵に迫ると共に、その周囲に剣が舞う。
　ヘイズレクの槍が、たちまちのうちに剣を迎撃するが、次の瞬間、ハルと同道していた旅団の仲間たちの攻撃が、ヘイズレクへと集中する。
　ヘイズレクはすかさず槍を回転させて飛来するグラビティを振り払い、後方へ逃れようとする。
　それを追う形で、ハルは地を蹴った。生きているかのようにうねりながら迫る鉄蛇槍を受け流し、瞬時に斬撃を繰り出していく。
　そして、振り下ろしざまに放った呪怨斬月の一閃が、スケイルアーマーごとヘイズレクの胸板を断ち割った。血が溢れ出し、彼の足元を染める。
「……おのれ！」
「君達は強いが、我らの連携の前には無意味だ」
　静かに断ずるハル。
　だが、禍根を断ち切ろうと剣を振り上げた直後、ハルはその場を飛び退いていた。
「隊長、こちらへ！」
「残敵か……」
　地面に血の跡を残しながら、部下達と共に後退するヘイズレク。
　だが、この戦場に残る敵も僅かだ。
「突破することは容易だろう」
　そう考えつつ、ハルは白い天蝎宮「エーリューズニル」の方を見つめた。