■第6ターン結果
●勇者ナイトボート
人馬宮ガイセリウムの左側宮殿区画、カウス・ボレアリスでは、ケルベロス達と生き残ったアグリム軍団兵との戦いが行われていた。
いや、あるいは掃討といってもいいだろう。ケルベロス達の優勢は、もはや揺るぎようもなかったからだ。
「貴公はエインヘリアルとなる以前、なんの種族であった?」
敗残のアグリム軍団をまとめる勇者ナイトボートは、仮面に覆われた顔を問いを放ったサルヴァドール・ナイトフード(己貌・e00934)に向けた。
サルヴァドールの顔を覆うのは無貌の白き仮面。対するナイトボートがつけるのは、アグリム軍団であることを示す赤い鎧と同じ、赤い仮面だ。
サルヴァドールの手にした古銭剣と、ナイトボートのゾディアックソードがぶつかり合う。激しい金属音と火花が、仮面の剣士達の間で上がった。
「ウェアライダーと見受けるが……」
言って、サルヴァドールは周囲で戦うエインヘリアル達を見る。
周囲で戦うエインヘリアルの中に、ナイトボートのような姿をした者は他にいない。
エインヘリアルになる対象として狙われて来たのは、おおむね地球人ばかりだ。
これには地球人の他種族に対する比率の高さもさることながら、地球人のグラビティ・チェインの内包量が多いからであろう。
ヴァルキュリアが相手をエインヘリアルに転生させるに際してグラビティ・チェインを奪えるので、グラビティ・チェインを多く持つ方が効率が良い。
「あるいは、死神の力か? それともイグニスの性質に関わるものか?」
「くっ……」
なおも問いを放つサルヴァドールを追いやるように、ナイトボートは剣ではなく拳を繰りだした。
「獣撃拳か!」
サルヴァドールの肩口に痛みが走り、チェーンソー剣が大きく逸れる。
その勢いのままに攻撃を続けようとしたナイトボートだが、それを阻止するようにケルベロス達の攻撃が集中し、逆に態勢を崩すことになる。
既に、この戦場の他の敵戦力は全滅していた。
支柱たるアグリムを欠いた今、アグリム軍団の士気は崩壊している。
あるいは、既にケルベロス達が直接交戦した多摩川防衛戦の時から、アグリム軍団ですらケルベロス達にかなわないことは示されていたのかも知れなかった。
仲間の攻撃の間に態勢を立て直したサルヴァドールの振り上げたチェーンソー剣が、態勢を崩したナイトボートの仮面を斬り裂く。
その下に一瞬見えたのは、ウェアライダーの獣顔だ。
「生き残った者は後退しろ! もう一当てするぞ!!」
仮面を押さえるようにして、ナイトボートは劣勢の敵集団をまとめ、後退していく。
「ふむ……」
その姿を見ながら、もう一つ、可能性があるな、とサルヴァドールは思考する。
過去に『ケルベロス』であった者ならば、ウェアライダーであってもグラビティチェインを豊富に有していてもおかしくはないし、強力なエインヘリアルと化した可能性はある。
「何にせよ……刃を合わせねばならぬことは、心苦しい限りだな」
サルヴァドールは呟いて、深くため息をついた。
●ラザニアパン
「行くぞーーー我に続けーーーー!」
人馬宮ガイセリウムの右側宮殿区画、カウス・アウストラリスの戦場に足を踏み入れたケルベロス達は、敵デウスエクスの戦闘に居る筋骨隆々としたエインヘリアルが、配下を引き連れて突進してくるのを目の当たりにした。
その姿は、あたかも筋骨隆々としたエインヘリアルを機関車とする暴走列車だ。
「ラザニアパン様、半端無いっす!!」
「どこまでもついていきます!!」
「おりゃー。どけろーどけろー!!」
どうやら、先頭を走るエインヘリアルの名は、ラザニアパンというらしい。
だが、おかしいではないか。
『ラザニアパン』とは、全てを魅了するとも言われる、危険なエインヘリアルの女の名では無かったのだろうか?
あの姿は、どう見ても……そのような妖艶な女性とは見えない。
いや、男だろあれ。
ケルベロスの多くがそう思ったとき、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が冷静に指摘した。
「いえ、あれは女性です。漢にみえるかもしれませんが、女性に間違いはありません」
そう言われて見れば確かに……。
だが、全てを魅了する女性かと言われると、疑問を感じざるを得ない。
そんなケルベロス達に、ラザニアパンは容赦なく突っ込んできた。
「大人しく降伏するんなら、あたしの配下に加えてやろうじゃないか。それが嫌なら、そーれっ!」
その言葉と共に、ラザニアパン率いる暴走行列の運動エネルギーの前に、数人のケルベロスが跳ね飛ばされる。
だが、勿論、降伏するケルベロスなどいるはずはない。
「あなたの魅了の力とやらに興味はありません。僕が興味があるのは、貴方が強者か否か、それだけです」
カルナはそう言うと、フンドシ姿のエインヘリアルに攻撃を浴びせる。
カルナに続くように、多くのケルベロスが、ラザニアパンに攻撃を集中させる……どうやら、デウスエクスを魅了する力は、ケルベロスには全く影響を与えないという設定のようだ。
「お前達、私の筋肉とフンドシを見て何も通じなかいのか?」
ケルベロスの集中攻撃を受けたラザニアパンは、心底不思議そうな顔をしながら、最後は、カルナのペトリフィケイションの前に力尽き消滅したのだった。
彼女の死後、その場には、サラシとフンドシだけが残されていたが、それも風に乗ってどこかへと飛んで行った。
●略奪兵団長ゾルタリス
「すべては、ラザニアパン様の為に!」
「ラザニアパン様に、勝利を捧げよ!」
「ケルベロスに死を!」
「わっしょい、わっしょい!」
カウス・アウストラリスに攻め込んだケルベロス達を出迎えたのは、謎の雄たけびを上げるデウスエクス達であった。
どうやら、この場のデウスエクスが忠誠を誓っているのは、イグニス王子ではなく、ラザニアパンという存在であるようだが……。
「……良くわかりませんが、どうやらラザニアパンとやらが、元凶のようね。私が殺してあげるから出ていらっしゃい」
レーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)のその言葉に、ラザニアパンでは無く、憤怒の表情のシャイターンが躍り出た。
「ラザニアパン様を殺すというのか、この不届き者! そのような戯言を口にする者は、ラザニアパン様の親衛隊長・略奪兵団長ゾルタリスが、直々に成敗してくれる」
レーチカは、親衛隊長なのか、略奪兵団長なのかはっきりして欲しいと思いつつも、そのシャイターンが、この場の指揮官である事を感じ取り、油断なく惨殺ナイフとスマートフォンを構えた。
この戦場にはラザニアパンとやらは居ないようだが、このシャイターンを倒せば、この戦場の戦力は半減する事だろう。
「名乗られたのならば応えましょう。私の名前は、レーチカ。ゾルタリス、短い時間だと思いますが、覚えておいてくださいね」
「麗しきラザニアパン様のために、ウララーーー」
叫び声をあげて突進するゾルタリスと、名乗りをあげて迎え撃つレーチカ。
戦いは熾烈を極めたが、戦場全体の勝勢がケルベロスに傾き始めると、レーチカとゾルタリスの戦いの天秤もレーチカ側に傾き始めた。
ゾルタリスが一度攻撃するたびに、レーチカだけでなく、周囲の敵を倒したケルベロス達の攻撃が、ゾルタリスの体に突き刺さっていくのだ。勝敗の行方は明らかであろう。
そして、遂に、レーチカの惨殺ナイフがゾルタリスの喉笛を掻っ切る。
噴水のように血を噴出したゾルタリスは、ラザニアパン様ぁと叫びながら、塵となって消えていったのだった。
→有力敵一覧
→(13)カウス・ボレアリス(26勝3敗/戦力1450→150)
→(14)カウス・アウストラリス(26勝3敗/戦力1200→0/制圧完了!)
→(19)イグニスの天空神殿(29勝5敗/戦力2450→1000)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。