東京防衛戦

　歩行を始めたガイセリウム内に、震動が響き渡る。
　その音をかき消すように、突入したケルベロスと敵防衛部隊は、激しく激突した。

●獅子座の剣士
「よく来たなケルベロス。だが、この私が居る限り、この戦場を抜くことなどできぬぞ」
　左前脚アルカブの戦場の中心で、獅子座のゾディアックソードを構える赤き鎧のエインヘリアルが吼える。
　多摩川の戦いで、８人のケルベロスを蹴散らした功で、人馬宮ガイセリウムの守護者の一人に成り上がった彼は、傲岸不遜にケルベロス達を見下しているようだ。

「確かに、ライオンさんだね。でも、思ったより大した事なさそうだよ」
　攻め寄せたケルベロスの一人、潦・なのは（へっぽこ・e03538）が、吼えるエインヘリアルを、そう評する。
　多摩川の戦いでケルベロスを破ったのだ、その戦士としての力量は疑いないだろう。
「でも、獰猛な猛獣なら、とものちゃんのほうが上だからね」
　そう言って、なのはは隣に居る少女とものに、にっこりと微笑みかけた。
　潦・ともの（おうちの小覇王・e03375）も、「当然であろう」と、薄い胸を張る。

「何を偉そうに。まずは、お前から殺してやろう」
　言うや否や、とものに向けて、赤き旋風のように駆け出そうとするエインヘリアル。
　が、それは、まさに飛んで火にいる夏の虫といえるものだった。
　ケルベロス達の攻撃の火線が、獅子座の剣士に集中し、その意図が挫かれる。
「ぐぬ、卑怯な。お前達、俺を守れ！」
　エインヘリアルは、その攻撃の激しさにたじろぎ、周囲の配下に命じ、スターサンクチュアリで回復させるが、その指示も焼け石に水でしかなかった……。
　次第次第に追い詰められた獅子座の剣士の軍勢は、ケルベロスにより征圧され、彼自身もまた、多くの傷を受けて追い詰められる。
　そして、
「そろそろとどめだよ。こてんぱんにしちゃうんだから！」
　そう言って召喚された、なのはの氷結の槍騎兵によって、獅子座の剣士は赤い鎧を貫かれ、絶命したのだった。

●奴隷商人キレキュン
　右前脚アルカブへ攻め入ったケルベロス達を待ち受けていたのは、エインヘリアルやシャイターンの集団だった。
　それらの者達の多くが、首輪や鉄輪を体につけている。
「何かの印ですか？」
　平坂・サヤ（こととい・e01301）の疑問に、答えたのは、敵の指揮官である美形のシャイターンだ。
「奴隷の印だよ。そんなことも知らんのか、ケルベロスども！　やはり生まれながらに地球の重力に魂を引かれ、泥にまみれた穢れし者どもよな！」
「……！」
　眉を寄せ、そのシャイターンに顔を向けたサヤに、シャイターンはポーズを決めて髪を払うと、
「……だが、このキレキュン、そんな泥まみれのお前らのこと、嫌いじゃないぜ」
　続いた言葉に、サヤは思わず肩をコケさせつつも、キレキュンと名乗った問う。
「どれい、ですか？」
「一切の財産を失ったシャイターン、名誉を失ったエインヘリアル、過度の洗脳で廃人となったヴァルキュリア……そうした者達を奴隷とするのが俺の商売だ」
　そう言ったキレキュンは、怒りを露わに続けた。
「お前達の攻撃のせいで、ヴァルキュリアを処分するハメになったがな。……全く、忌々しい連中だ、ケルベロス！」
「……」
「……だが、そんな実力者たるケルベロスだからこそ、戦う甲斐もあるってもんだ」
「こういうのも、アメとムチというんでしょうか？」
　どう反応すれば良いのか分からず、サヤは思わず自問する。
　そうする間にも、奴隷たちとケルベロス達の戦いは、ケルベロス達の優勢に傾いていく。
　キレキュンの元にも、攻撃が届き始めていた。
「何をしている奴隷ども、すぐに動いてこの俺を守れ！　まったく、役に立たないグズどもめが！」
　劣勢の奴隷たちをそう罵ったかと思うと、キレキュンはすぐに表情を一変させる。
「……いつも、ありがとうな」
「キレキュン様……」
　感謝の言葉を向けられ、キュンとした表情で絶命する奴隷の姿に、サヤは何か頭の痛くなるものを覚えた。
「さてさて。では気を取り直して、軽く、足払いとまいりましょーかねえ」
　両手に惨殺ナイフを握りこむと、軽い足取りで床を蹴った。スカートを翻しての足払い一閃、キレキュンを転倒させる。
「こ、この俺に床を舐めさせるだと……！　許さん！」
「ふっ……！」
　怒りの声をあげるキレキュンに構わず、サヤは、その上に飛び乗ると両手の刃を立て続けに振り下ろした。
「見事だな……お前のようなケルベロスの手で死を迎えるなら……」
　言葉を最後まで言わず、キレキュンは消滅した。
「はあ、ブレない人でしたねえ」
　どうにもキャラのつかめない相手であったと一つ頭を振ると、サヤは上層へ至るルートを確保しに向かった。