■第8ターン結果
●ギュルヴガ
骸となり折り重なった触手を踏みつぶし、屍山血河の戦場を進む、ピヤーニツァ・プーシカ(シャドウエルフのブレイズキャ・e14785)らケルベロス。
軟体竜ギュルヴガの戦場は、数多くのオークの兵達が盾となり壁となり奮闘したが、その戦力ももはや枯渇し、オーク達は物言わぬ触手となり地に伏していた。
ブルブルと気持ち悪く体を振るわせるギュルヴガは、満身創痍の体躯を無理やり動かし、大きく開かれたぬらりとした頭頂部の牙により蹂躙せんと体を投げ出した。
全てが口腔のように開かれた頭部から粘液が飛び散り、盾を構えたピヤーニツァの頭上に降りかかる。更に、ギュルヴガの傷口から噴き出した体液や粘液、口腔から垂らされた唾液、そして、体表と触手を覆う粘液に至るまで、全てが地球の生命にとっての毒物だ。
それを浴びたケルベロスの肌が、焼け焦げたように糜爛する。
「うへぇ、きったないねぇ」
ピヤーニツァは、その粘液を消毒するように手持ちの強い酒をふりまくと、辟易した表情を見せた。迎撃にと突き出されたケルベロス達の武器も、体表を覆う粘液と触手とにぐにゃりと受け流され、致命傷には届いていない。
更には、分泌された粘液が傷口を包むと、その体力を大きく回復させていくのだ。
その光景はおぞましく、そして、ピヤーニツァでも無くても辟易する情景であった。
だが、その回復も、ギュルヴガの最後の足掻きに過ぎなかった。
『モウスグ……クル……リュウゴウガッタイノヒギニヨッテ……』
「何を考えてるのか知らないが、そいつは無理な相談さ。ゲートは確実に破壊する!!」
ピヤーニツァは、そのギュルヴガの最後の望みを断ち切るようにそう言い放った。
「アタシらが、ここに来たのは……余裕があるから。ゲートの破壊に失敗する可能性が1%でもあるのなら、この戦場になど、来るはずもないのよ」
そう言い切ると、彼女は手にした酒のビンを口にあてて勢いよく流し込んだ。
勢いが良すぎて、口元から垂れた酒の筋が妙に色っぽい。
『……ッ……ギュ……ギャッ』
そして、言葉にならない怒りの咆哮をあげるギュルヴガの蠢く口腔に向けて、酒を霧状にして吹きかけた。
「アタシの口が火を吹くぞ~」
そして、その言葉と共に霧に点火し、豪快な火炎がギュルヴガの口腔を通り、体の内部を焼き尽くしていく。
「良い酒だからね、体が熱くなるのよ。よく味わってね」
ピヤーニツァの艶然たる微笑みと共に、内部から火だるまとなったギュルヴガが、どうと音を立てて地に倒れた。焼かれた肉の匂いが、戦場に充満した。
「ん~、この戦いに~、かんぱ~いだ~!!」
強敵の死を確認した、ピヤーニツァは再び酒をラッパ飲みすると、酒瓶を掲げ勝鬨をあげるのだった。
●ドラゴニアゲート
ゲートを守る最後の門番としてケルベロス達の前に立ちはだかる魔竜ディザスター・エンドの肉体は、既に大きく損傷していた。
全身を走る輝きは弱まり、その生命が終わりを迎えようとしていることを物語っている。
だが、人類に破滅をもたらさんとする禍竜の意志と力は、死を目前にしてますます強まっているかのようだった。その狂気ともいえる意志に衝き動かされるように、配下種族達もまた、ケルベロスへの攻撃を強めて来る。
『グゥルォォオオオオ――!!』
理性をかなぐり捨てたかのような魔竜の咆哮が、火口を走る深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)達の耳朶を打った。
ルティエの脳裏に、熊本でこの魔竜と交戦した時の、苦い記憶が蘇る。
あの戦いの時よりも、ディザスター・エンドの力はさらに高まりを見せているようだった。
だが、強くなっているのはルティエ達も同じ。
そして、今のルティエ達は全世界の人々に支えられ、この場で戦っているのだ。
(「あの時の借りをここで返す、そのゲートもぶっ潰す!」)
ドラゴンの本星、ドラゴニアに通じるゲートを背にしたディザスター・エンド。その体を走る紫の輝きが明滅した。
何種もの破滅的な現象を引き起こす、それが、あの魔竜の力であることをルティエは記憶している。直後、魔竜の力によって引き起こされた強烈な冷気が、ケルベロスを包み込んだ。
火口からの熱と、凍てつくような寒さに体を引き裂かれそうになりながら、ルティエはエアシューズを履いた足で滑走する。
エアシューズは激戦に崩れ、熱を帯びた大地にも善く耐え、その主を前進させた。
ルティエの敵意に反応するかのように、ディザスター・エンドの瞳が眼下を睥睨する。
視線が合った。
瞬間、ディザスター・エンドの巨大な口腔から放出されるのは魔竜の吐息。
もはや単なる息(ブレス)というよりも毒素の塊のようなそれが迫るのをルティエは見つめ、
「はああああッッッッ!!」
ルティエは手にした『紅華焔』を勢いよく振り抜いた。
地獄の炎を帯びた刀が、噴出するブレスを断ち切る。
虚を突かれたかのように魔竜の動きが止まった瞬間を、ルティエは見逃さなかった。
「これ以上の好き勝手はさせない!! 私達が、地球(ここ)を守るんだ!!」
毒に蝕まれる刃を一時手放すと、ジャンプ一番、ルティエは魔竜の体へと振り抜いたナイフを突き刺した。魔竜の体に取りつき、彼女はそのままナイフに体重をかける。
一直線を描くように、彼女とナイフは斬線を刻みながら魔竜の体を滑っていく。
そして、
「ここ!!」
獣の腕へと変じたルティエの拳が、ディザスター・エンドの肉体を走る紫の輝き、その中心へと突き刺さる。
『グゥルォォオオオオ――!!』
ぐらり、と魔竜の巨体が揺れた。
直前で魔竜の体を蹴って逃れたルティエの前で、魔竜の体は『ゲート』を守らんとするかのようにその直上に落ち……そして弾かれ、マグマに溶けるようにして消滅していく。
「……やりましょう、みんな!!」
ルティエの号令と共に、最後の難敵を打ち破ったケルベロス達の一斉のグラビティがゲートを目掛け放たれる。
火口の『ゲート』へとグラビティが突き刺さり、『ゲート』は消滅した。
ローカスト、螺旋忍軍に次ぐゲート破壊を成し遂げたのだ。
●ジルニトラ
巨竜ジルニトラの戦場で戦っていたケルベロス達からも、島の中央で輝きが消えたのは見えた。
『『ゲート』が、破壊されたか……』
ジルニトラは戦い抜き、最後の局面においてケルベロスを退けていたが、ゲートの破壊されたのを察すると、ゆっくりとその動きを止める。
『これでもドラゴンも敗残の者か……いや。あるいは、魔竜王様が死んだ時に、全ては終わっていたのか……』
そうつぶやいたドラゴンの巨体から、見る間に力が消えていく。
ケルベロス達との戦いに、最後の一滴まで、力を使い果たしたのだ。
「くっ……ちくしょう!! あのドラゴン、勝ち逃げかよ!!」
「……もっと強くならないと……」
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)と神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は、ジルニトラの消滅を見届けると立ち上がった。
「ゲートが破壊されたことで、固定型魔空回廊もじき消えるはずだね」
「……急いで撤収しようぜ。あ、怪我人みんな連れて行かないと!」
ゲートは消え、あらかた敵も倒したはずだが、大阪城のドラゴン達が戻って来ないとも限らない。そうした時に、全世界決戦体制の援護もなしに戦うのは避けるべきことだった。
ケルベロス達が固定型魔空回廊を抜け、城ヶ島に辿り着いて少しして、魔竜ヘルムート・レイロードの遺した固定型魔空回廊は消え去った。
「竜十字島が、機械的観測で確認できるようになったようです」
それは、『ゲート』と連動して施されていた隠蔽の力が消えたことを示していた。
最強種族と称されてきたドラゴン。
千載一遇の好機をつかみ、ケルベロス達はそのゲートの破壊をついに成し遂げたのだ。
ケルベロスを讃える人々の歓声は、その晩、世界中で絶えることなく響き続けた。
→有力敵一覧
→(5)ジルニトラ(2勝3敗/戦力50→0/制圧完了!)
→(6)ギュルヴガ(3勝1敗/戦力120→0/制圧完了!)
→(9)ドラゴニアゲート(17勝20敗/戦力550→0/制圧完了!)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。