熊本滅竜戦

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●覇空竜アストライオス 　眩い光と轟音が、熊本市を揺るがす。
　次々と地へと降り注ぐ雷。
　その尋常ならざる現象を引き起こしているのは、熊本城跡に君臨する、巨大なドラゴン『覇空竜アストライオス』だった。

　ドラゴン勢力の指揮官として、魔竜王の遺産『ドラゴンオーブ』を巡る一連の戦いに関わり続けて来たアストライオスは、しかし眼下の戦況に戦慄していた。

　ドラゴンオーブの封印が解けると共に崩壊した熊本城の石垣を蹴りながら、確実にアストライオスへと迫りくる人影。
　彼らが迫り来るにつれ、避雷の竜語魔法を自らに施した護衛の竜牙兵やドラグナー達はことごとく破れ、散っていく。
『既にノトスも死んだ。
　我らもまた、ドラゴンオーブの最期の力によって強化されたにも関わらず……。
　これが、ケルベロス。いや定命の者達の力か』
　ドラゴン勢力は、これまでケルベロスの全力を目にしたとは言い難い。
『だが、この戦の将として！　退くわけにはいかぬ！！』
　咆哮と共に、アストライオスはその身を一条の雷と化した。

「来ますわよ！」
　浮遊し、雷を落とし続けて来たアストライオスが高度を下げる態勢を取ったのを、カトレア・ベルローズ（紅薔薇の魔術師・e00568）は見て取った。
　だが武田・克己（雷凰・e02613）が振り向いた瞬間、アストライオスの姿は既に地上へと達し、その爪を振るっていた。
「ハハッ…喰らいに喰らった、な……これは流石に、満腹だ……」
　それまで仲間を庇い続けて来たギイ・イェン（紅眼黒龍・e02503）を貫いた雷爪が一撃の元に倒される姿に、一瞬ケルベロス達に動揺が走る。
　だが、克己はその動揺を消し飛ばすように声を上げた。
「ようやく降りて来やがったな、アストライオス！　すぐにあの世に送ってやるよ！」
　カトレアに向けて頷きを一つ、すぐに彼女の手に力が宿る。
「茨よ……仲間に纏いて破壊の力を与えよ！」
　カトレアの声と共に現れた茨が、ケルベロス達に破剣の力を与えていく。

『我は空を征する竜！！　天は我が力なり！！』

　傲然とアストライオスが言うと共に、天そのものが墜ちて来たかの如き、巨大な雷がケルベロスを蹂躙した。
　主の降臨に配下種族たちもまた息を吹き返したように、反撃を繰り出す。激戦を経て敵の配下が全滅した時、戦場に立っているケルベロス達の数もまた半数近くにまで減っていた。
　残るケルベロス達を次々とアストライオスの雷が仕留めていく。
　耐えられて後数分。
　だが、それでも後一歩のところまであのドラゴンを追い込んでいることを、ケルベロス達は感じ取っていた。
　粘っていた鞘柄・奏過（曜変天目の光翼・e29532）を、アストライオスがその雷爪を振るい、仕留めにかかる。
　高度が落ちた。
　これが最後のチャンスであることを直感し、ケルベロス達は一斉に動いた。

「行くぞ、カトレア！！　２人で締めと行こうぜ！」
「全く……いいでしょう、いきますわよ！！」
　克己とカトレアは、呼吸を合わせると同時に駆けだした。
　瓦礫を蹴り飛ばしながら前へ、アストライオスの元へと身体を飛ばす。
「木は火を産み火は土を産み土は金を産み金は水を産む！」
　大地の気が、カトレアと克己の刃に宿った。
　ここで決めると確信しながら、２人は相次いで空を覇する竜へと斬撃を放っていく。
「護行活殺術！　森羅万象・神威！！」
　刃に集約された気が、斬り付ける一閃ごとに白の爆発を引き起こした。
　空に爆発が十字として刻まれ、白い霧が降り注いでいく。

　やがて、その霧が晴れた時、アストライオスの巨体が揺れた。
　空に君臨していた巨躯が、地へと墜ちていく。

『我が力、及ばずか……エウロス、ボレアース。そして魔竜達よ。
　後事は託すぞ……」

　そう言い残し、アストライオスの全身から力が抜けていく。
　動かなくなったアストラオイスの姿に勝利を実感したケルベロス達の歓声が、熊本城跡に響き渡った。