熊本滅竜戦

●轟炎竜母群

　炎で揺らめく空気の向こう、巨大な影が迫り来る。
　轟炎竜獄と化した熊本の街を、ケルベロス達は駆け抜けていく。

　耳は轟炎竜母達のあげる雄たけびで、ジンジンと痛みを訴えている。
　だが、それが敵のあげる断末魔の響きともなれば、痛みも和らぐというものだ。
　振り下ろされて来る炎を帯びた一撃をかわしながら、千歳緑・豊（喜懼・e09097）は手にした巨大な轟炎竜母を見上げた。

「最強種族といっても最近の戦果を見ていると……油断しなければどうとでもなる感じはあるかな」
　豊の余裕に、轟炎竜母テラー・ウラムが文字通り全身から怒りの炎を噴き上げる。
　気温がさらに上がるのを感じながら、豊はさらに笑って見せた。
「ははは、馬鹿にしているわけではないのだよ。殺し合う相手として、過不足無いのが嬉しいだけさ」
　振り下ろされた巨大な拳が、溶岩の飛沫を飛ばす。纏う服が熱で炙られるのを感じながら、豊は一言を発する。
「ターゲット。チェックメイトだ」
　地獄の炎が揺らめくと、豊の傍らに五眼棘身の獣が現れる。
　炎の獣は炎獄を走り抜け、テラー・ウラムの竜体を駆け上ると、その眼球へと飛び付いた。溶岩の熱にも耐えうる竜の眼は地獄の炎に引き裂かれ、竜母の喉から絶叫が上がる。
　とどめを刺そうとなおも駆けようとした炎の走狗を、しかし吹き上がったき上がった溶岩の高波が呑み込んだ。
「おっと」
　走狗が消えたことを感じながら慌てて退避した豊達ケルベロスは、テラー・ウラムがその場から退いたことを知った。
「王手を外されたか。だが、詰みまでは時間の問題だろうね」

●赫熱竜ノトス

　赫熱竜ノトスの『灼魔竜獄波』により赤熱と化した戦場を、アイラノレ・ビスッチカ（飛行船乗りの蒸気医師・e00770）は複列星形十気筒蒸気機関から蒸気を噴出させて前進していく。
　アイラノレの視線の先では、水分を失った街路樹の残骸が自然発火して燃え尽きていく……それは、八大地獄の一つ、灼熱地獄であるかのようだった。
　だが、アイラノレがノトスが生み出した灼熱を蒸気で払うようにして道を切り開く。
　師団をはじめ、様々な工夫によって戦場をゆくケルベロス達の消耗も抑えられており、充分に対抗は可能だ。
「赫熱竜ノトス何するものぞ！！」
　アイラノレが鬨の声をあげて突入すると、多くのケルベロスが続き、ノトス配下のオークや竜牙兵たちを蹴散らしながらノトスを目指して歩を進める、
　そして、遂にその巨体を射程内に収め、攻撃を開始した。

　当然、攻撃を受けたノトスも、ケルベロスに、その灼熱の力を見せつけるように攻撃を開始する。
『死に急ぐなれば与えましょう。絶対なる死、真なる灼熱！　その身に刻め、我が名はノトス！　豊穣奪いて死を運ぶ、南風の王！』
　王の言葉と共に放たれる熱波。それはケルベロス達に容赦なく襲い掛かり、その身を燃え上がらせる。
　ドラゴンオーブ破壊時の影響を受けて、ノトスの熱は先の戦いの時よりも力を増していた。だが、ケルベロス達もまた全世界からの後押しを受けている。
「くっ、強い。だが……熱ならこっちだって負けていないですからね！！」
　アイラノレは、その熱波を乗り越えて前に出た。
　ドラゴンの業熱ごときで、彼女の蒸気を止める事などできるはずはない。
「スチームパンクの浪漫の前に、散りなさいノトス！」
　アイラノレをはじめとしたケルベロスの集中砲火がノトスを襲い、積み重なるダメージが、ノトスの体を痺れさせ鱗による防御を弱めていく……。
　しかし、
「また、相殺ですか。往生際が悪いっ！」
『その程度の攻撃で、南風の王を倒せると思わない事です』
　ノトスはその攻撃の多くを回避、あるいは相殺しつつ灼熱竜獄を展開させる事で、対抗していく。
　このままでは、倒し切れないかと思われた時……
『これは……動きを縛られましたか……』
　積み重ねたパラライズが効果を発揮した。
　行動を封じられたノトスは、それでも、ケルベロスの攻撃を回避し相殺しようとするが、ケルベロス達の猛攻によって、次第に体力を失っていく。
　強大な力があろうと、その力を発揮できなければ、ただの巨大な的でしかない。
「あなたは、ここで倒します。赫熱竜ノトス。あなたが大地に舞い降りるだけで、豊穣の大地が死に絶えてしまう……。逃がす事はできません」
　アイラノレは満身創痍のノトスにそう告げると、クリーヴブレイカーを振りかぶった。
　クリーヴブレイカーからは大量の蒸気が噴出し内部の歯車がかみ合って重低音を響かせる。
「これでおしまい！」
　そして振り下ろされるクリーヴブレイカー。
『その程度の攻撃で、このノトスが！』
　ノトスは、その攻撃を耐えようと体を固め防御姿勢を取った。
　しかし、アイラノレの一撃は、そのノトスの防御をかいくぐるように貫いた。
　コギトエルゴスムが粉々に粉砕されるのを感じながら、ノトスの巨体が消滅していく。
『アストライオス様、お気を付けを！　こやつら、先の戦よりも……！！』
「赫熱竜ノトス討ち取りました。スチームパンクの勝利です！」
　ノトスの絶叫をかき消すように、アイラノレの勝利の声が、戦場に響き渡った。