菩薩累乗会

●（19）衆合無ビルシャナ
「おお！！　我、怒りによりてついに悟れり！！　長髪とかうっとおしい！！」
　天矢・和（幸福蒐集家・e01780）と交戦していたビルシャナが、不意にその嘴から怒気に満ちた叫びをあげる。
「何をしようっていうんだい……！？」
　怪訝に思う和の前で、叫びをあげた衆合無ビルシャナの姿が徐々に変わり始める。
　羽毛のことごとくが剃刀を思わせる鋭いものへと変化し、翼が巨大な刃物に替わっていく。手に大きなハサミを掲げ、そのビルシャナは名乗りをあげた。
「我は『長髪なびかせてバトるやつ絶対殺す明王』！！」
「新たな信仰に目覚めたってわけ？　何でもありだね……」
　ハサミをシャキシャキさせながら叫ぶ長髪（中略）明王に、和は頭痛をこらえるような表情で言った。
「その前髪……切る！！」
「勘弁してくれ」
　髪をいじる癖のある和は、銃口を敵へと向けると自分の小説の一節をそらんじる。
『その瞬間、僕は恋に落ちた事を知った。そして、この気持ちから…もう、逃れられない事も』
　撃ち出された魔法の弾丸は、鋏を掻い潜ってビルシャナの胸を撃ち抜いた。
　羽毛が散ると共に、ビルシャナは信仰を広める間もなく消滅していく。
「強くはなってないか……信仰が足りなかったね」
　和は銃口をさらに別のビルシャナに向け、次々と恋の弾丸を放っていく。

●（11）衆合無ビルシャナ
　他の戦場でも、同様に変化していくビルシャナの姿が目撃されていた。
　それは菩薩累乗会を加速させる、累乗曼荼羅という場所の特殊性なのかも知れない。
　ルーク・アルカード（白麗・e04248）らが戦う衆合無ビルシャナ達の中からも変化する者が現れていた。
「我、戦の中に悟りたり。全ては漆黒に染まるべし……！！」
　ビルシャナの一体の羽毛が真っ黒に染まったかと思うと、その体から墨のような液体が溢れ出し、迷宮の床を染め始める。
「汚ないな……」
　ルークは一つ鼻を鳴らすと、両手の惨殺ナイフを構え床を蹴った。
　液体が意思を持つかのように床から跳ね、ルークの純白の毛皮を呑み込む……。
　が、液体が降りかかった瞬間、ルークの姿は突如として消えた。
　分身だ、とビルシャナが悟るよりも早く、背後に現れたルークのナイフはその隙を逃さず繰り出されている。
「（そこだ！アサシネイト！！）」
　液体にナイフを突っ込んだような感触を覚えながらルークのナイフが一閃される。
　黒いビルシャナの首が胴体と泣き別れして床に落ち、消滅。
　広がっていた黒い液体も同じようにして消えていく。
「結局、今のは何明王だったんだ？」
　どちらにしても、自分とは相いれない教義であったのは間違いないだろうと思いながら、ルークは詠唱を続ける衆合無ビルシャナ達の方へと向かっていった。