ヒーリングバレンタイン2017~和チョコ作り!

作者:狐路ユッカ

「みんなのおかげで、今までミッション地域になっていた複数地域を奪還できたんだよ! やったね! それで、早速なんだけど解放した地域をヒールしてほしいんだ!」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は嬉しそうに告げて、あっ、と声を上げ、
「バレンタインだし、復興を兼ねてチョコレート作りのイベントがあるんだよ」
 と、地図を取り出す。
「みんなに今回ヒールに行ってほしいのは、京都市右京区……嵐山のあたりだね。竹林があったり、お寺があったり、古き良き日本の風景って感じのとこだね。今は人がいなくなっちゃっているけど、これから復興という事でお菓子屋さんを開きたいっていう人が協力して『和チョコ作り体験イベント』をやろうって事になったんだって!」
 特に京都といえば……と、祈里が取り出したのは……。
「生八つ橋! 生チョコ味も美味しいんだよ~」
 他にも、チョコレートのおまんじゅうや、黄粉チョコ、抹茶チョコレートなんかも美味しそう、と楽しげに提案する。
「新しい名物になるような斬新な和チョコも募集中だってさ! もちろん、作った物はその場で食べてもOKだし、持ち帰って大切な人にプレゼントするのも良いよね」
 僕も何か作ろうかな~と楽しそうな祈里はハッとすると説明を続ける。
「えっと、皆にしてほしいのは、『会場のヒール』と、『道具、材料の搬入』それから、『イベントの進行、一般参加者のお世話』……あとは『チョコレート作り』だね。折角だもん、大いに盛り上がって行こう!」
 よろしくね! とケルベロス達をヘリオンへ案内する祈里の尾が、楽しげに揺れていた。


■リプレイ

 シア・アレクサンドラたちケルベロスは、会場のヒールを終えると一同チョコレート作りへと移った。
「八ッ橋のチョコ味にチョコレートのおまんじゅう、黄粉チョコ、抹茶チョコレート……どれも美味しそうですの」
 シアは、主催の店に顔を出すと礼儀正しく挨拶をして、基本的な作り方を教わりながら試食を重ねていく。
(「ベルタ君にあげるなら、甘みが強いもののほうが良いかしら」)
 そして、店のウリである生チョコ八橋にバニラ、抹茶のアイスを乗せ、苺とチョコレートをトッピングしたパフェをカップに作ると、満足そうに笑顔を見せた。――あの人が、喜んでくれますように。

 マティアス・エルンストは、去年に引き続き槙島・紫織に誘ってもらえたことに胸を弾ませながら今日この日を待っていた。
「和風チョコ、良いですよ~。普通のチョコと比べると、少しお上品な味わいになりますねぇ」
 紫織は楽しそうにチョコレートを手に取って湯煎にかける。
「和風チョコ、そういう物もあるんですね」
「あんことカカオの食べ合わせも、意外と合うんです。両方ともお豆から作るからでしょうかね~?」
 そう言いながら、紫織はこしあんとチョコレートを混ぜ合わせて型に入れていった。
「えっと、これをこうして……?」
 マティアスはというと、慣れないお菓子作りを紫織の見よう見まねで一生懸命についていこうと頑張っている。マティアスと対照的に慣れた手つきでどら焼きの生地を作って焼いていく紫織の横で、マティアスの前にはなんだか不恰好な羊羹とどら焼きが並んで行った。
「すごい。紫織のもの、美味しそうです」
 マティアスは自分のものと見比べて、感嘆のため息を漏らす。チョコレートどら焼きとは聞いていたけれど、生地を普通に作った物とココアを混ぜ込んだもの、餡もチョコクリームとチョコ入り餡とでバリエーションを付けている。
「うん、上手くできました~。はい、どうぞ♪」
 紫織が差し出したどら焼きを、素直に口に運びマティアスは自然と笑顔を零した。
「美味しい、です」
「マティアスさんのも……」
 頂いて良いですか? と視線で問う。
「俺のはちょっと見た目が悪いけれど……」
 それでも、彼女に食べて欲しくて、そっと差し出す。少しくすぐったいような、そんな心地で。

「うん、ヒールは充分ね」
 キルシュトルテ・クランベリーは、美しく整えられた会場を見て早速チョコレート作りに取り掛かった。
「困難に陥った下々に手を差し伸べるのも雷電皇帝たる余の務め。別にチョコを作って食べられることに釣られたわけではないぞ、うむ」
 エクレール・トーテンタンツは甘いチョコレートの匂いに頬を緩めながら言い訳なんてしている。そして、彼女が作り上げたのは。
「ふ、キルシュトルテよ! 見るがよい、これが余の雷電城チョコである……!」
 京都ならば城や寺をイメージするのではという意見はどこかにほっぽりだし、エクレールは城型のチョコレートケーキを披露する。黄粉や抹茶、あんこで色を塗り分けているあたり無駄に芸が細かい。しかも、でかい。
「私はこれ」
 エクレールをイメージして作った雷おこし風のチョコレートを組み立てて作られた五重塔に、おお、と声を上げる。
「ふっ……城と塔、チョコとしては互角と言ったところかしら」
 キルシュトルテが笑う。早速、実食と行く二人。エクレールがサクサクの雷おこしに手を伸ばし、ぐらりとしたところでキルシュトルテは軽く制止した。
「ほら、皇帝さん。下手に食べると崩れるからちゃんと手順踏んで!」
「む、キルシュトルテ……言われぬでも余ならばこの程度造作も」
「崩れかかってる!」
「いや、崩れぬから目の錯覚であるから……」
 言ってるそばから五重塔は崩れそうだ。
「もう私がやるからあーんしなさい、あーん!」
「あ、あーん」
 結局食べさせてもらうことになってしまった。チョコレートが口の中でとろりととろけて、サクサク感の強い生地がほろりとほどけていく。エクレールがうむ、美味いなと笑うと、キルシュトルテは満足そうに頷くのであった。

「チョコ、普段は食う方に徹してるから作るのは初めてだな」
 落内・眠堂は材料を目の前にうーんと唸る。料理ならどうにか出来たが、菓子は果たしてどうだろう。
「俺にもヒノトとエルピスを見習わせてくれよ」
 そう言った傍らで、エルピス・メリィメロウがむんっと気合を入れてエプロンの紐を結んだ。いつも元気に揺れている耳と尾は、今日は収納中だ。
「あのねあのね、ワタシ、和チョコを作るのは初めてなのよ。二人の先生を見習ってしっかりと頑張るの!」
 鉋原・ヒノトは気付いてしまった。この三人、誰も先生になれない。
「俺達みんな不慣れっぽいけど頑張ろうな」
 けれど気になんてしていられない。楽しい事は、全力で。赤いエプロンを身にまとい、ヒノトも耳と尾をしまった。
「材料はホワイトチョコ、生クリーム、きな粉だけか。これなら俺にも作れそうだ」
 きなこ生チョコを作りたいと主催に申し出た時に教えてもらった材料を見て、ヒノトは安心したように笑う。
「この三つでできるの? すごいのよ……! ワタシは何にしようかなあ」
 エルピスは悩みながらあたりを見回す。
(「味見係にはならないように、頑張らねえと」)
 眠堂は湯煎で溶かしたホワイトチョコレートに刻んだ苺を混ぜ込むと、桜の花の型へ流し込んだ。氷を張ったバットに、型を置いて冷やし固めていく。
(「和と言えば抹茶……うんうん、抹茶味にするの!」)
 エルピスは抹茶パウダーを手に取り、周囲が作っているチョコレートをこっそり真似しながら、二人に背を向けて黙々と作り始める。ヒノトは、生クリームを温めてホワイトチョコと振るったきな粉を混ぜ合わせ、目を細めた。
「お、いい香り! 味見したくなるなあ」
 けれど、出来上がるまで我慢しないと、と苦笑い。すると、背後から濃厚な抹茶の香りが漂ってきた。抹茶か? とエルピスに問うと、うん! と元気な返事が返ってくる。
「今の時点でもう美味そうだ!」
 ちら、と眠堂の手元を盗み見ると、チョコペンで繊細な和模様を描いているのに気付いた。
「眠堂はチョコペンで和柄とか凝っててすげー!」
「味の方にはあんま自信がないんだ。だからせめて見た目だけでも、それっぽく……!」
 そろり、そろりと丁寧に描かれる模様に、ヒノトは感心したように呟く。
「桜か、春を感じられていいな」
 ヒノトのチョコレートも固まってきたころだ。サイコロ状に切り分け、きな粉をかけて……竹筒の容器に盛りつけたら、完成だ。
「ヒノトのチョコは洒落てるな。見た目も綺麗で美味そうだ」
「へへっなかなかだろー」
 エルピスは出来上がった抹茶チョコレートを隠して、二人の完成を待つ。
(「早く見せたいけど我慢なの」)
「エルピスは……どんなのを作ったんだ?」
 和柄を仕上げながら眠堂が問うた。
「せーのでお披露目なの」
 ふふ、と笑うエルピスに、眠堂は笑みを返す。
「気になる、披露目を楽しみにしてるぜ」
 そうして、完成した三種のチョコレート。それぞれのチョコレートに、それぞれが勝算の言葉を贈る。
「それじゃあ、みんなでたべよう!」
「美味い食事は一人より二人、二人より三人、だよな」
「ああ! 作ったチョコは皆で、だな!」
 いただきます、と三人の声が揃う。甘い香りの中、ひと時の幸せを味わうのだった。

 フィルネス・レトルーヴァは、何かを作るという事は久々だった。連れ立った館花・葎に教えを乞う。
「お菓子づくりか……そういえば作るのにまた教えてもらうことになるんだけど……宜しくね?」
「うん……久しぶりだね。教えるの、あんまり上手くないけど……頑張る」
 手先が器用な葎だが、誰かに教えるのはそんなに自信がなさそうだ。それに、一緒に料理をするのは久しぶりで……、それでも、頼って貰えることはとても嬉しくて、自然と頬が染まりそうだ。
(「和風も色々あるから迷う……フィルに、美味しいって言って貰えるよう頑張ろう」)
 考え込んでいると、フィルネスが口を開いた。
「チョコ餅とか作りたいんだけど……初心者でも大丈夫かな?」
 葎に渡すものだから、せめてきちんとしたものを作りたい。その想いを込めて。和菓子のようなチョコ、と聞いていて、真っ先に思い浮かんだのがチョコ大福やチョコ餅だったのだ。
「餅……求肥で、ガナッシュ包んだら出来る、かな? ……俺も手伝う」
 うん、と頷き合うと、二人はチョコ餅作りに取り掛かる。チョコレートを刻んで、テンパリングにかけるが、なめらかなガナッシュにするためにはしっかりと混ぜ込まなければいけない。
「意外と力がいるんだね……」
 葎はその細腕で、けれど器用にガナッシュクリームを練っている。
「いつも、有難うね」
 フィルネスがそう感謝の言葉をかけると、葎は照れて俯き、ふるふると首を横に振った。
「フィルが、喜んでくれたら嬉しい……」
 ふと、顔を上げると笑顔が見える。そうして出来上がったガナッシュを求肥に包んでチョコレートは完成だ。紅茶を入れて、二人で席に着いた。葎は、フィルネスが『あーん』と促して食べさせたチョコを、おずおずと食べる。
「フィルのチョコ、すごく美味しい……ありがとう」
 葎が微笑む。そして、少しだけ戸惑った後に一つだけチョコを手に取って差し出してきた。
「……あ、あーん……?」
 俺が作ったの美味しいかな? と葎が瞳を揺らす。いつもながら美味しいよ、と頷き、フィルネスは自分がとても幸せであることを、再度噛みしめるのだった。

「お菓子屋さんがふえるのは、いいことです。おれもお手伝いしますね」
 エドワウ・ユールルウェンは、目の前に並ぶ材料を眺めて何を作ろうか考える。
「楽しんで、それが復興に繋がれば、幸いね」
 エヴァンジェリン・エトワールはヒールを終えた会場を眺めてふわりと笑む。
(「お菓子以前に、料理が、全然得意じゃないケド……」)
 不安は、残るが。
 さあ、どんなチョコを作ろうか、と仲間たちと顔を見合わせる。
「この間、依頼でそば打ち修行してきたんだ」
 長谷地・智十瀬が手に取ったのは、ホワイトチョコ、生クリーム。そして、ゴマのペーストだ。全てを混ぜ合わせると、なんとなく色が蕎麦っぽく見えてきた。柔らかめの生チョコに仕上げたら、細く切って椀に入れる。めんつゆっぽいのも添えよう、と、黒蜜も着けて完成だ。
「……ホントのお蕎麦みたい……!」
 エヴァンジェリンは目を丸くして智十瀬の肩越しに作品を覗き込む。
「ゴマチョコ、白黒、おわんに入ってるのがおもしろいです」
「エドワウは何を作ったんだ?」
「チョコだいふくです」
 お正月に食べたチョコのお餅が美味しかったので。と彼が差し出したのは、白玉粉ともち粉で作った皮に生チョコを入れた大福だ。
「黒猫が可愛いわ」
 エヴァンジェリンはチョコチップの耳と、チョコペンで描かれた猫の顔を見て小さく笑う。
「絶対美味いけど見た目で食うの勿体無いから最後に……」
 少しとっておこうぜ、と智十瀬は笑う。
「俺は塩昆布チョコだな」
 ルビーク・アライブがテーブルに乗せたのは、見た目普通のチョコ。中には刻んだ塩昆布が入っているようだ。
「塩昆布?」
「塩味と甘い物は結構合うと聞いたことがあるし、意外といけるのではと」
 美味しい…とはいかなくても、せめて大丈夫……の範囲だったら、とルビークは苦笑いをする。
「しょっぱ、あま……?」
 エヴァンジェリンは不思議だ、と首をひねる。智十瀬は味の想像がつかない、と様子見をしているようだ。
「塩気に甘さが重なって美味しいです」
 ウエン・ローレンスはひとつ頷いて、通りかかった秦・祈里に声をかける。
「祈里さんも是非試食を! 美味しいですよ!」
 くるりと振り返り、祈里が寄ってきた。
「なになに? これは何が入ってるの?」
「しょっぱくてあまくてふしぎな味」
 エドワウがそう言うと、祈里は何の疑問も抱かずに『いただきます!』と、チョコを口へ含む。
「む!? なんか海の匂いする……昆布?」
 斬新だね! と笑う祈里。
「……」
 普段から世話になっている旅団のメンバーに配ろうと、せっせと餡子とチョコを混ぜたものを丸めているのはリューデ・ロストワード。見た目は地味だが、甘くて美味しいものを、と願いを込めてココアパウダーを振りかける。その横で抹茶生チョコを作るべくホワイトチョコと抹茶パウダーを混ぜ合わせていたのはアルベルト・アリスメンディだ。
「あとこれをオーブンで焼けばいいんだっけ……?」
 ベーキングパウダーを手に固まる。
「りゅ、リューデ……! これであってるよねえ……!?」
 慌てて問うと、リューデはアルベルトの手にあるベーキングパウダーを見て首を傾げた。
「……生チョコ……焼く、のか?」
 焼きチョコか……? と表情を変えぬまま問われ、あ、確かに。とベーキングパウダーを引っ込めた。今回は生クリームと混ぜ合わせて冷やすだけにしておこう。リューデは、完成したチョコをまずはアルベルトに試食してもらうことにした。
「……どうだ?」
 咀嚼する彼を内心ハラハラしながら見つめる。
「えへへ、あんこの甘さとチョコの甘さが丁度いいんだよー!」
 僕のはどうかな、と、出来上がった抹茶チョコを差し出して尋ねる。
「……美味い」
 これで皆に配れるな、と顔を見合わせて、二人は笑うのだった。
「これは?」
 祈里に問われて、天野・夕衣はニコッと笑う。
「和チョコ、夕衣さん干し芋好きなんですよね」
 もしや。
「チョコレートもおいしいので好きです。つまり、美味しいものと美味しいものを組み合わせれば美味しさは2倍ということに!」
 とっても単純明快でわかりやすい理論だ。
「なるほど!」
 干し芋をチョコでコーティングしたものを差し出すと、皆一様に味は良いけれど『不思議な食感だ』と答えた。癖になる人は癖になる。
「むにゅむにゅ、ぱりぱり」
 エドワウは気に入ったようだが。
「ウエンさんのは? かりんとう?」
 祈里が問うと、ウエンは大きく頷き、
「かりんとうは日本に来た時にお世話になったご老人の方から頂いたものだったのですが、美味しくて。黒糖ではない砂糖でチョコを塗ったら更に美味しくなるはず……これぞ天野さん曰く美味しいものは増しまし作戦です!」
 と、チョココーティングのかりんとうを差し出した。
「売ってるやつしか食ったことないから楽しみだったんだよな」
 どれどれ、と智十瀬が手を伸ばす。そうこうしているうちに、エヴァンジェリンのアイスが完成したようだ。レンジにチョコと生クリームと入れて溶かし、マシュマロをいれて固めて、緑茶を振りかけるだけの簡単レシピだが、なかなか見栄えは良い。
「緑色が綺麗……」
「……多分美味しい。多分……」
 自信なさげにエヴァンジェリンはアイスを仲間たちに差し出す。
「マシュマロ入ってるのか、初めて食った」
 智十瀬は食感がいいな、ともう一口。
「癖になる美味しさですね」
 ウエンは、次に抹茶チョコへ手を伸ばす。
「アルベルトさんの抹茶チョコ、期待を裏切らず美味ですよ」
 わいわいとチョコレートを交換し合い、楽しむケルベロス達。
「ふふ、何だか楽しい。こんなバレンタインも、素敵ね」
 夕衣に同意してルビークは笑った。
「見た目もだったり斬新さもだったり……でも美味しいと思うよ。今回は成功じゃないか?」
 しかし和風とチョコはいろんなものに化けるものだな。と付け足すと、全員が頷いた。人の数だけ、アイディアが上がってくる。きっと、それをヒントにこの地域もぐんぐん発展していくに違いない、と。

 会場内に立ち込める甘い香り。
 ケルベロス達は、ひと時の和チョコレートパーティーを楽しむのであった。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。