ヒーリングバレンタイン2017~花香を紡いで

作者:絲上ゆいこ

●恋の季節は花盛り
「よう、この間は本当にお疲れさんだったな。お前たちの頑張りのおかげで、これまでミッション地域になっていた地域が無事奪還できたぞー」
 ケルベロスたちを待ち構えていたレプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)はオニーサン褒めちゃうぞと両手をあわせて賞賛の拍手を贈ると、皆を見渡した。
「それで、だな」
 片目を瞑り、レプスは資料を手のひらの上に展開する。
 映し出されたのは大阪市天王寺区の地図。
 螺旋番外地と呼ばれていた場所だ。
「今回は取り戻した地域の復興も兼ねて、バレンタインデーに向けての小物作りイベントをして貰いたいんだ」
 解放されたばかりのミッション地域には勿論住人は居ない。
 一度は人の離れてしまった地域だが、一般人も楽しんで参加できるようなイベントをケルベロスたちが行い、解放されたミッション地域のイメージアップを図ろうというのが今回の目的となる。
 
 ――天王寺区は大阪の中でも、緑も多く昔ながらの店が立ち並ぶ古き良き大阪と、ビルが立ち並ぶ最新鋭の街としての大阪が絶妙に混じり合った繁華街であった。
「この辺りをヒールして回って貰った後は……」
「レプスさん! レプスさんっ! あなた、ちょっとしゃがんで、しゃがんで欲しいわ!」
 弾むような足取りで駆け込んできた遠見・冥加(ウェアライダーの螺旋忍者・en0202)が説明を続けようとしたレプスの声を遮り。はいはい、と彼は軽く頭を下げて見せる。
 満面の笑みで、冥加は背中に隠していたドライフラワーの花輪をレプスの頭に載せ。何事も無かったかのように立ち上がったレプスは、花輪を被ったままケルベロスたちに向き直った。
「街にヒールをすっと、ファンタジックな修復をされて花が咲いたりするだろう? それも含めてアピールをする為にな。遠見クンが作ってくれたみたいに、花や果物で作ったドライフラワーで小物を作るイベントをして貰おうと思っているんだ」
「ふふふー、ポプリやサシェもいいわよね。リースだってあんなに可愛くできちゃうのよ!」
 うさぎの耳をピンと立てた冥加が誇らしげに胸を張る。
「ヒールに、材料の運搬、イベント進行に……、去年も忙しかったが、きっと今年も忙しくなるぞー。……あ、そうそう。今年も勿論、お前たち自身の分も作って良いからな。バレンタインのプレゼントに素敵な香りのプレゼントなんてロマンチックだろ。いやー俺なら惚れちゃうね」
 花輪をかぶり直しながら、へらへらと嘯いてレプスは笑った。
「街の復興にも関わる大切なイベントよ! でも、やっている側が楽しくないイベントなんて楽しくないもの、みんなたっくさん楽しみましょうね」
 その横で冥加は拳を握りしめて意気込んで言う。
 さあ。自分に、大切な人に、街に。
 花の香りを届けよう。


■リプレイ


 街を照らす癒しの光、綻ぶ蕾に炯介は瞳を細めた。
「いつもこういう仕事なら僕も安心して君達を送り出せるんだけどな」
「まだ戦争の時の事を気にしてるの? ……それとも、私の事心配した?」
 肩を竦めて俊は言う。
「さぁ、どうだろう?」
 戦争以来元気が無い様に思えた彼の返事に、俊は嘆息を零す。
「俊さん、これ」
 思い出の赤いバラを閉じ込めた水晶の宝石箱が掌の上に収まり、目を見開く彼女。
「お守りの代わり」
「さ、紗神! 14日、私の所に来なさい。私からもプレゼント、……あげる」
 俊の誘いに、炯介はただ曖昧な笑みを返す。
「私はリースを作るぞ!」
 ざわめく会場でリーズレットは拳を握りしめて宣言。
「玄関先に置くインテリアか。中々良さそうだな」
 言いながら手を動かすエフイーは悪戦苦闘中だ。
「む、これはどうすれば良いのだろうか」
「こうするんだぞ、ゼノさん!」
 バラにカスミソウ、ピトスポラム。可愛いレース。
 微笑ましげなリーズレットは彼を手伝いながら自らの作品も編み上げる。
 一緒に、徐々に。2人の作品は仕上がってゆく。
「帰りはケーキでも買って帰ろうか」
「うむ、楽しみだ!」
 リーズレットのもう一つの作品は、当日までまだ内緒。
「これは?」
 首を傾ぐ冥加。
「リストレット、ですよ」
 月がバラとリボンで彩った腕輪で腕を飾ると櫻はきゃあと跳ねた。
「そしてこれは冥加さんに」
 照れた様に笑む月は淡い緑と白の腕輪を差し出す。
「これからも宜しくお願いしますね」
 喜ぶ櫻と一緒に冥加は跳ね回る。
「わぁ……ドライフラワーが沢山。これだけ並ぶと悩む、わ」
「僕はリースにしようかな、教えられることなら何でも教えるからね」
 並ぶ花々に目移りする息吹の横で、ミルラは慣れた様子で花を手に取る。
「ミルラさんは青系で纏めるのね」
「青色は幸福の色だからね、それに円を添えれば……幸せな縁を導けるかな、と」
 デルフィニウムに青いアスター。淡緑に染まったカスミソウ。
 参考にすべくミルラの手元を見やる息吹を、更に観察する景臣。
「物作り自体余り経験が無いものですから……」
「オレもあんまり自信ないんだけど、楽しければいいかなって!」
 笑う緋織にヒノトも手を振り。
「へへっ、自信がない者同士頑張ろうな! 俺もリース作りに挑戦するぜ」
 早速花を組み合わせはじめたヒノトは、早速配置に頭を悩ませる。
「メリッサもリースにしよっと。ミルラ様! どんなお花がオススメですか?」
「メリーなら明るい色の花がきっと合うよ」
「あ」
 不器用ぶりを炸裂させる景臣。
「ふふ、ここはこうすると上手くいくよ」
「あはは……本当に助かります」
 皆を手伝うミルラを見つつ、何となく意地を張ってしまった緋織は一人で作業を開始する。
 木の実を飾り、小さな実を散らし。
 花をメインに添えた皆とはまた違った作品が出来上がるのであろう。
「わぁ、その色合いも好きだなぁ……」
 見よう見まねで編み上げて行くメリッサは、皆の作品に見惚れて手を止めつつ。
「ね、ね。皆さんの作品はどんな感じ?」
 仕上げに桃色リボンを結わえ付けた息吹は皆に首を傾ぐ。
「初めてにしては悪くない出来栄えだろ?」
「みんな個性が出ててすごく素敵! ねえねえ、折角だからそこに並べて写真撮ろうよ」
「わぁ、大賛成です!」
 出来上がった作品は個性豊かな皆の色。意見を言い合っていた皆も緋織の提案に頷きあった。
 照れた様子でステラはあぽろを見上げる。
「さぁて今日は何を作ってやろうか。この小さくて可愛い友達の為にさ」
 知ってか知らずかあぽろは笑う。
「ステラは夏が好きだったな」
「あぽろは春が好きだと言っていたのう」
 ラベンダーの香を添えた紫陽花を選ぶあぽろ、ステラはレモングラスの香を添えたミモザを。
「紫陽花の花の色は多様で見ていて飽きない。ころころ表情を変えるステラみたいだろ」
「寒い冬も耐え丸い花を咲かすミモザの花言葉は友情、黄色く丸い花は太陽の様。あぽろの様じゃ」
 交換する花々に籠めた気持ちは、大切な友情の証。
「ヒメちゃん! ヒメちゃんは自分の分は作ったりしないの?」
「折角ですし、袋入りのポプリを作りましょうか」
「じゃあボクもお手伝いするよ、何をすればいいかな!」
「では、袋作りを頼めます?」
 ヒメノが中身を混ぜ、ギルボークが袋を仕上げる間に袋が増えていた。
「あれ? ヒメちゃんも作ったんだ?」
「そちらは、日頃のお礼です」
「えっ、ボク用!? ……ああ、いい香りだ、ありがとう! 肌身離さず持ってるからね!」
「少し大袈裟な気もしますが……」
 跳ねて喜ぶ彼。ヒメノはぎゅっとポプリを握りしめる。
「……大事にしますね」


「咲いたばかりの花も素敵だけど、こんな風に時を経た色合いも捨て難いね」
「『時間が経っても手元に残っている大事なもの』って感じがするな」
 隣を見たあかりは、目を丸くする。
「最近、あかりの似顔絵を描くのがうまくなったと思うんだよね、俺」
「……すごいね、こんな使い方も出来るんだ」
 陣内の作っていた物は、花弁を重ね絵にしたあかりの似顔絵だ。
 感嘆の吐息。あかりはガラス瓶にポプリと少しのスパイシーさを籠めて。
「褪せた想い出も一緒に連れてってくれるのかい?」
 陣内は笑い似顔絵に書き添える、avec amour。
 端布にポプリを詰めて布栞。
「……の予定だったけど」
 贈り物で失敗をしたらって、臆病風に吹かれた姿は一番見せたくない姿だ。
 針が走り生まれた、お腹一杯ローマンカモミールを食べた眠たげな白熊。
「やあ、きょうだい。あのひとに伝えてね」
 眩しそうに朝希は笑う。
 ベルガモットとレモンの皮、それからヒマワリと千日紅、ラベンダーの花。
 赤い花弁に白い花弁。龍脳に丁子。
 色合いに防虫作用まで考えて、千笑は鮮やかな赤いサシェを作る。
「でーきた、中々良いじゃない?」
 頷いた千笑は歩きだす、皆の作品だって見てみたいもの。
「みんな、誰にあげるん? だってバレンタインやもん、ね!」
「およ、皆決めているのかい」
 キアラはにんまり、裾を掴まれたアニーは首を傾ぐ。
「お察しの通りよ」
 少し照れくさそうな様子で瞳を細める真尋。
「大切な人に、家のインテリアにと渡すつもり」
「ふへへー、『大切』が『恋』だけやないの知ってるけども!」
 だって、自分がプレゼントする人だってそうなのだから。
「自分はサシェを作ろうと思う!」
「アウィスも」
 大量のラベンターを抱えてきたアニーから花を分けて貰ったアウィスは、それにハーブを添え。並んでサシェを作る横でシクラメンと桔梗をリースに編む真尋。
 ドームを覗き込むキアラにアウィスは青い花を一輪差し出す。
「キィの社へのプレゼント。アウィスも一輪選ばせて」
「あ、このラベンダーも良かったら使ってほしいな」
「カンパニュラ。花言葉は感謝だそうよ」
 ドームの底にはモミのミニリース。飾るは千日紅にミモザ。ラベンダー、カンパニュラ、青い花。
「社さんに日頃の感謝を伝える又と無い機会だし、喜んで頂けると良いのだけれど」
「……うん、社、喜んでくれるとええなあ」
「きっと社、喜ぶよ」
「うん、バレンタインって楽しいね!」
 アニーは笑う。
 付き合って初めてのデート。新しい気持ちのお出かけ。
 バラとマーガレットの花飾りをアトリに飾ってやるアシュレイ。
 バラは二人にとって大切な花だ。
 交わすようにアトリもバラ飾りを彼へ。
「に、似合ってますかね?」
「お揃い。恥ずかしいけど……、こういう当たり前の幸せが凄く嬉しい、ね」
「いつか。これよりも立派な花飾りを。……私と歩むことを誓ってくれる時に贈ることができればと思います」
「えっと……これからもっと幸せになろう、ね、アシュレイ」
「……もちろんです、アトリ」
 お揃いのバラに、二人は幸せを誓う。
 ボトルに詰められた花。白バラの花言葉は『尊敬』『私は貴方に相応しい』。サクラソウの花言葉は『長続きする愛情』。
「愛し尊敬するあなたに、相応しいわたしでいられますよう、なんてね」
「……これからもずっと、貴方を愛している」
 ヴァルカンとさくらは笑みを交わす。
「ふふ、プレゼント交換みたいになっちゃったわね。凄く綺麗、大切にするわ」
「所で……実は、余った花でこんなものも作っていてな?」
 左手薬指に嵌められる、花の指輪。
 耳元に囁く彼の声。――本物は、もう少し待っていてくれ。
 さくらは紅色に頬を染めて頷くだけで精一杯だ。
「ネロちゃんとお花畑に来てるみたいっ!」
「甘い香りに花咲く景色、なるほどお花畑だ!」
 何を作るかまだ内緒。優しい見ないふり。
 シアが差し出すブーケは青と白のバラ。ミモザに可愛い花。二人の色に斜めリボン。
「ネロちゃん、だいすき! ずっとずっとらぶでいてくださいっ」
「――ネロもね、シアがだいすきさ。シアもネロとずっとらぶらぶでいてくれなくちゃ」
 ネロの壜詰めポプリはオレンジシナモン。ミモザにベルガモット。シアの色。
「とってもシアの感じ! たからものにするねっ」
 交換した花は二人の宝物。幸せそうに二人は笑う。


「花だ、花だ」
 ロイは鼻歌混じり、花を手に行ったり来たり。
 選別はロイの、細工はヴィヴィアンの仕事だ。
 花の良さは良く分かりはしないが、彼女が良いと言うならそうなのだろう。
 最終的に選ばれたのは勿忘草、茉莉花、木香薔薇。
「さて、これで何を作ってくれるのかな、君は」
「できるまで内緒だ」
「む、見てちゃダメか」
 ロイは素直に離れてクローバーの中から四葉を探し出す。
 そして夢中で探すロイの後ろに迫る彼。
「よう、お姫様。お探しのモノは見つかったか?」
「……ああ」
 頭の上に被せられた木香薔薇の花冠を抑え、ロイは笑った。
「あ、オオデマリ可愛、ぶふっ」
 花を見ていた愛玖亞の顔にもふもふが衝突した。めっちゃもふもふ。
「あっ、大丈夫? ごめんね、ほら、りかーも」
 慌てて駆け寄る和。腕の中で反省した様子でしゅんとするボクスドラゴンりかーは、余所見飛行をしていた様だ。
「全然大丈夫だよ!こっちこそよそ見しててごめんねー」
「これも何かのご縁、て事で。よかったら一緒にどう、かな? お詫びに奢るよ」
「わ、一人だったからすごく嬉しい! じゃあ一緒に暖かい飲み物でも飲みながら作ろうか」
 気にしなくて良いのに、と思いつつも愛玖亞は首を傾いだ。
「へぇ、白檀もあるじゃねぇか」
 ヒールでも生まれるんだな、と木片をつまみ上げて香りを聞くモンジュ。
「匂い袋に出来るのか。いいな、作ってみるか」
 と、モンジュはサシェの袋を選び出す。
「伊月はこういうの、持ってるか?」
「作って人にあげる事はありますが僕自身は持ってないですね……」
「なけりゃ、作ってやるよ。いい機会だ。良い香りのする女はモテるぜ」
 喉を鳴らして笑う彼に、伊月は梅の花を手に取りながら頷く。
 梅の花のサシェを2つ作って、お返しに彼にもあげよう。彼は偶に白檀の匂い袋を身に着けていた。これでお揃いだ。
「……意外と難しいです」
「んー、何か違うなぁ」
 折れてしまった花を手にコレは瞳を細め、纏が花束を机の上に置き息を付いた。
「力加減が難しいですね……、九石さんは綺麗にできていませんか?」
 纏の作品を見ながらアトは首を傾ぐ。
「元々趣味でこういうのは作ってるから、それなりにはね」
 苦戦する皆に教えるようにリースを編み出す纏。
 それを見てマークがついに手を動かしだした。生まれる現代アート。コレの冷蔵庫に丁寧に仕舞い込むマーク。
「今日はマニュピレーターの調子が悪い」
「やはり武器を扱ったりするのとは勝手が違いますよね、……少し歪ですが、なんとか形になりました」
 悪戦苦闘していたアトが眠たげな瞳を揺らし作品を掲げる。
「作る事が楽しかったなら、出来は二の次、三の次で良いさね」
 歪だと言う彼女に、肩を竦めて纏は笑う。
 リースを編んでいたはずのコレは、そっと完成品を冷蔵庫に仕舞い込んでから目を見開いた。
「はっ、ついうっかりいつもの調子で冷蔵してたです」
「折角ですし、保存だけじゃなくて飾り付けちゃいましょうか」
「よし」
 マークとアトが飾りつけだし、纏もそれに習う。飾り付けられるコレの冷蔵庫はどんどん可愛くなって行く。
 普通の花なら枯れてしまうのにとバレンタインは感心しながら一生懸命花を選ぶ。
 赤苺に白苺、おひさま色のバラに、雪欠片みたいな霞草。
「よしっ、これでゆこう! ねえねえユルはなにをえらんだの?」
 静かに気合をいれる彼に、ユルは迷いなく春空の花を詰めながら笑う。
「この子達よ、バレくんのも可愛らしい子達ね」
「そうだろう! これを繋いでまるくするんだ」
 作業の合間に彼を見やれば完成まで真剣な表情。
「ユルはなにをつくったの? おれはねー……やっぱりないしょ!」
「……そうね、贈る方への特別だものね」
 ならば今は秘密のままで。


「折角ですから可愛らしいリースを作りましょう」
「はいっ、バレンタインらしくしようねっ!」
 奏過とリアは一緒にハート型のバレンタインリース作りだ。
「飾る花は選んできました?」
「定番の赤色のバラと、あとピンク色のカーネーションを飾ってみようかなと!」
 リアの選んだのは赤バラに桃色カーネーション。花言葉は『情熱』と『女性の愛』だ。
 奏過も花を一輪。少女への気持ちをチョコレートコスモスに籠めて。
「最後は二人で一緒に完成させようね♪」
「これで完成ですね」
 大きなリボンを二人で飾れば、バレンタインリースの完成だ。
「ポプリだと部屋置きになるよね」
 サシェにしようかな、と首を傾げたメリルディに頷いたクーリン。
「わ、ずっと作ってみたかったんだよね」
「何時もはオレンジ系だけど、今回はバラかなぁ」
「ドライフラワーも色んな種類があるのね」
 クーリンは少し悩んだ様子。
「中を決めたら、次は外側だよ」
「へー、そうするといいんだ」
 手際よく作る彼女を真似て、お勉強。
「クーリンはラベンダーにしたんだ。枕元に置いといたら安眠できそうだよね」
「いい夢見れそうかも、メリルもいつもと違う香りでなんだか新鮮だわ!」
 ふんわり香るバラとラベンダー。
 誕生花のジギタリス。毒にも薬にもなる『熱愛』を意味する花。
「矢野さんはどういったものを作られるのですか?」
 ピンで吊る為にレジンで花を固めながら絶奈は浮舟に尋ねる。
「ボクの家にちょっとした縁のある花でね、髪飾りを作るよ」
 縁起物としてしても重宝される山橘の実と花。
「髪飾り……ですか、私と同じですね」
「出来上がったら、武運長久を祈って絶奈にあげよう。キミの銀髪に良く映えるはずさ」
「私にですか?」
 絶奈は頷き。
「折角ですし、私の髪飾りも是非矢野さんに着けて頂きたいと思います」
 勿論、と彼は笑った。
「ポプリって、どうやって作るの?」
「二人でやれば、きっと大丈夫」
 ライラックを手に首を傾げるちまめ。シエラはフリージアを持ったまま意気込んだ。
 花を瓶に詰め精油を垂らし、ゆっくりゆっくり馴染ませる。
 何気なく瓶を持ち上げて眺めていると瓶ごしに彼女と目が合い、笑い合った。
「完成まで1ヶ月ぐらいかかるんだってどんな香りがするのか楽しみだね。それで、良ければだけれど……私の分、ちまが貰ってくれるかな?」
「うん、それじゃ私のポプリはシエラが貰ってくれる?」
 香りの交換、なんて自分の気持を閉じ込めて渡すようで。
 大切にするよと、少しどきどき。
「ドライフラワーは花の一番の時を閉じ込めるもの」
「一番の時を閉じ込める、か」
「いつでも、オレは郁との今を閉じ込めたいなって、思う。いつもしあわせ、だから」
 ヴィンセントの言葉に郁は頷く。
「でも今が一番だと思っても、何時でも次の瞬間の方が、以上の一番のしあわせだから」
「改めて言われると照れるな。俺もヴィンスと積み重ねてきた思い出はどれも忘れたくない大事な物だ」
「こういうのがなんとなくわかるようになったのも、郁のおかげ」
 彼は礼を言う。言葉を重ねる。この瓶に詰まっているのは、香りに詰め込んだ精一杯の気持ち。
「魔法で魔石を創ってみたぞ。精霊への誓いとしてピアスにしたのだ。崇める地の霊力を込めて、其の身を護りますように……」
 リョクレンの作ったピアスを見て、ディオニクスは笑って屈む。
「……本当の意味の手作り、だな。想いが籠ってンなら上等だ……ほら、つけてくれよ」
 ピアスをつける彼女の額に口づけを落とし、油断をした腰を撫で。
「女神のご利益がありそうだな?」
「きっと、花と想いが、良い未来へ導いてくれる」
 頬を染め窘める彼女。気が付けば腰には試験管風タリスマン。
「とても綺麗。……有難うな。大切にする」
「気に入りゃ、何よりだ」
 花で飾ったチョコを手渡せば、お出かけをしよう。
「なんか懐かしいな」
「私、西の方に来たの初めてだわ、真介はこちらの出身よね」
 芙蓉の言葉に頷きながら、彼は花束を作る。バラにスターチス、霞草。
「わ。花束、作れるのね」
「わかりやすいだろ、こういう方が」
「完成したら写真撮りましょうね。絶対残さないとダメよ!」
「……写真? 所で芙蓉は何してんの」
「サシェよ。私たち、鉄火場に行くでしょう? 香りの良いものを持ちたくて」
 四季は流れゆくもの。
 春が再び始まる前に長く続く物を作れた事は幸先が良いだろう。
 さあ、今年は何を一緒にしようか。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:55人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 14/キャラが大事にされていた 2
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