ながーーい猫にご用心

作者:天木一

「にゃーん」
「あ、ネコちゃん待ってー!」
 ネコの足跡模様の迷路に居るのは一匹の茶と白のブチネコと、小学生ほどの小さな少女。
 入り組んだ路の曲がり角に、ふさふさの猫の尻尾がチラリと見える。少女はそれを追いかけて角を曲がるが、また同じように尻尾だけが次の角に消えた。
「もーっ絶対捕まえるんだから! それで尻尾をもふもふしちゃうよー!」
 少女は元気に駆け出し、ぐるぐると無限に続く迷路を走り続ける。
「えいっ!」
「にゃっ」
 そして猫が角を曲がり切る直前に、少女は思い切りジャンプするとふさふさの尻尾に抱き着いた。
「ネコちゃんーお顔を見せ……え?」
 少女が猫の顔を覗き込もうとする。だが猫の胴体は次の曲がり角まで続いて曲線を描いていた。次の曲がり角まで1m程、ずっと長細い胴体が続いているのだ。
「な、なにこれ!?」
 慌てて少女が手を放す。その時背後から鳴き声がした。
「にゃぁああーーーーーん」
 少女が振り向けば、ぐるっと迷路を一周して現れた猫の愛らしい顔が目の前にあった。
「きゃーーー!!」
 叫ぶ少女が逃げようとすると、ながーーーい猫が飛びついた。そしてその体を幾重にも巻き付け、まるで蛇のとぐろのように渦を巻き少女の姿を覆い尽くした。
「息がっ……あれ?」
 少女が目覚めると、そこは見慣れた自室のベッド。
「ネコちゃんの夢だったのかぁ。そうだよねーあんなに長いネコちゃんがいるわけないもんね」
 夢ならもっといろいろすればよかったと少女が笑顔を浮かべた瞬間、その胸から鍵が突き出る。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 いつ現れたのか、女が手にした鍵を少女の胸に突き立てていた。
 少女が意識を失ってベッドに倒れると、女が消え去り、代わりに可愛らしい猫が現れた。だがその猫の胴体は蛇のように長くとぐろを巻いていた。
 
「こーーーーんな、ながーいねこさんがあらわれるんだよ!」
 興奮気味に結真・みこと(ょぅじょゎっょぃ・e27275)が大きく腕を伸ばし、部屋を行ったり来たりする。
「驚くような夢を見た少女が、第三の魔女・ケリュネイアによってその『驚き』を奪われてしまったのです」
 詳しく事件の説明をしようと、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が代わりに話し出す。
「少女から奪った『驚き』から新たにドリームイーターを生み出して、人々を襲わせてグラビティ・チェインを集めようとしているようです」
 このままでは、ドリームイーターは見境なく人々を襲ってしまう。
「皆さんにはそれを阻止し、眠ったままの少女を目覚めさせてもらいたいのです」
 そのドリームイーターを倒さなければ、少女が目覚める事は無い。
「ドリームイーターは猫の姿をしています。ですが普通の猫ではなく、胴体がとてつもなく長い猫です」
 その胴体の長さは10m近くになり、まるで蛇のようにくねくねと動く。
「現れるのは深夜の住宅街。家から出たところで隠れ、通行する人を驚かせて襲おうとしているようです」
 深夜で人通りは殆ど無い。急ぎ向かえば犠牲者が出る前に敵と遭遇できるだろう。
「敵は驚かせる事にこだわりがあるようで、驚かない相手を執拗に狙うようです」
 その性質を利用すれば、敵の攻撃をコントロールできるかもしれない。
「猫は可愛らしいものですが、化け猫ともなれば話しは別です。人を驚かせて襲う猫を退治し、少女を助けてください」
 説明を終えたセリカが一礼して、出発の準備に向かう。
「ながーーいねこさんかー……ぐるぐる体にまきつけたらあたたかいのかなー。たのしみだね!」
 みことが朗らかに笑い、猫と出会ったらこんな事やあんな事をしてみたいと妄想する。その様子を微笑ましく思いながらも、ケルベロス達は戦いの用意を始めるのだった。


参加者
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
クリス・クレール(盾・e01180)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
カティス・フォレスター(おひさま元気印・e22658)
結真・みこと(ょぅじょゎっょぃ・e27275)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
赤峰・葉流(ピュロマーネ・e30365)
ルタ・ルタル(渇きの翼・e34965)

■リプレイ

●夜道にご注意
 ケルベロス達が暗い夜道を歩く。既に電車もなくなった時間帯。冷たい風の吹き抜ける住宅街には時折車が通るくらいで、人通りは殆どなかった。
「少女を元に戻してやらねば……」
 周囲を警戒してクリス・クレール(盾・e01180)は暗い夜道に目を凝らす。
「早く夢を取り戻してあげないとだね」
 半裸にケルベロスコートを着たウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は、冷える体を暖めるように少女の家を中心として周辺に立ち入り禁止テープを張っていく。
「ながーーいねこさん見つかっちゃった!」
 実物はどれくらい長いのだろうと、結真・みこと(ょぅじょゎっょぃ・e27275)は好奇心に溢れる瞳を輝かせる。
「ねーこもとっても長いけど、ねーこよりもっともっとながーーいねこさんがあらわれちゃったら、みこ絶対驚いちゃうよ!」
 ウイングキャットのねことの胸を抱き上げ、びろーんと胴体を伸ばす。するとねことは大人しくしてろとばかりにみことの額を肉球でぺちっと叩いた。
「猫は……巻かれるほどにはながくない、よね?」
 ルタ・ルタル(渇きの翼・e34965)が隣を歩くウイングキャットのマコハを見ると、マコハはねことの揺れる尻尾に夢中になって右へ左へと体を揺らしていた。
「猫はだらんと伸びるものでございますが、あまりにも長いと、さすがに少々奇怪に見えてしまいますね」
 鴻野・紗更(よもすがら・e28270)はウィングキャットと戯れるみことやルタの姿に口元を緩める。
「さぞ奇特なものなのでしょうが、この目で見るのが少々楽しみなのでございます。怖いもの見たさ、というやつでございましょうか」
 その長い体がどのように動くのか興味深いと、猫の生態に思考を巡らす。
「猫? 長い? ……三味線?」
 全身をコートとオウガメタルで覆った赤峰・葉流(ピュロマーネ・e30365)はそんな連想をして頭を傾けた。
「ねこさん、ねこさん、どこにいます、です?」
 きょろきょろとアンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)が暗がりを探す。
「珍しいねこさんが居るって聞きました、です。ふふ、どんなねこさんに会えるか楽しみ、です♪」
 夜の静けさを邪魔せぬよう小さな声で、ワクワクを抑えきれないように小走りで辺りを動き回る。
「驚いちゃ駄目なんですよね……少し胴長の猫さんが出てくるだけです。平常心、平常心……」
 驚かないようにカティス・フォレスター(おひさま元気印・e22658)は自分に言い聞かせながら道なりに進む。
 すると曲がり角から猫が顔を覗かせる。それは茶と白の毛並みのブチネコの顔をしていた。

●ながーーい猫
「あれ、普通のねこさん……?」
 猫を見たアンジェラが首を傾げる。すると猫はにゅ~と何mもある蛇のように長い胴体をくねらせて頭上からケルベロス達を見下ろし、二ィィと嗤った。
「ふわっ!?」
 ルタが目を丸くして驚く。マコハもふぎゃーっと警戒して毛を逆立てた。
「ながーーーーいっ!」
 みことは口をぽかんと開けて見上げる。
「何ですかあれぇ!? 長ぁいっ!??」
「い、いくらなんでも長すぎます、ですー!?」
 ずうっと続くかのような猫の胴体にカティスとアンジェラは思わず大きな声を出した。
「すげー! なにそれ背骨どうなってんの!? あ、玉結びとかできる?」
 葉流が驚いた声を上げてみせ、興味津々とばかりに猫の周囲を回って観察する。すると猫は満足そうに眼を細める。
 そんなリアクションをする隣でねことはふわぁと欠伸をしていた。
「ふーん、猫は伸びるものだよね。むしろ可愛い、ネコパンチとかむしろご褒美だからかかってくると良いよ」
 驚かないでウォーレンは逆に笑みさえも浮かべ、身に纏う鋼からオウガ粒子を放出して前衛の仲間達に頑張ろうという気迫が宿る。
「ニャーッ!」
 驚かぬウォーレンに向かって猫がぐるぐると渦を作るようにして頭上から迫りくる。
「それで驚かしているつもりか? 驚かすってのはこうやるんだよ──殺気に命じる。目標単体、欺け」
 不敵な笑みを浮かべたクリスは敵の尻尾を掴み、禍々しい黒いオーラで相手を包み込む。
「ギニャッ!」
 逆に驚いた猫が毛を逆立てながらシャッと威嚇して距離を取る。その鋭い視線は驚かなかったウォーレンとクリスとねことに向けられた。
「みんなにねこさんよけの魔法をかけるよっ」
 みことが魔導書を開いて魔法を発動し、仲間達の中に宿る呪いの力を高めて敵から受ける呪力を弱める。続いてふわふわと宙に浮かぶねことが、翼を動かし風を送って仲間達の体を清めた。
「いざ、参りましょうか」
 白に褪せた灰緑色のオーラを纏った紗更が、猫を蹴り上げ拳を打ち込む。
「子子子子子子子……よしじゃあ戦うか!」
 顔の見えぬフードの奥から楽し気な声を発し、葉流はオウガメタルを変形させて腕の延長のような刃を作り、一閃させて斬りつける。
「フシャーッ!」
 猫が鋭い爪で襲い掛かると、仲間を護るように前に出たビハインドのタマオキナは、周囲に生えているネコジャラシや石ころを念で飛ばして猫にぶつける。すると猫はそれを爪で裂き、蛇のように巻き付いたり噛んだりと戯れ始めた。
「せっかく……せっかくかわいいのを期待していました、ですのに、そんな姿なんて、あんまり、です!!」
 その隙に駆け出したアンジェラはその手に光の剣を生み出し、すれ違いざまに猫の長い胴を八つ当たり気味に斬り裂く。
「猫さんというより、蛇さんですぅ」
 うねうねと動く猫から目を逸らしながらカティスは敵と仲間の間に無数の紙兵を撒き、少しでも敵の邪魔をするように配置する。
「猫は翼があってふわふわ浮かぶ小さな生き物よ? 町猫、家猫はわたしにはちょっと馴染のない存在だけど、ネットで見たことはあるもの」
 屈んだルタが地面に手をつくと、鎖が伸びて大きな魔法陣を描き仲間達を護る力を放つ。
「だからこれは偽物よ、お化け猫といったところね」
「ニャニャ―!!」
 攻撃に傷ついた猫は怒って体をくねらせる。鞭のようにしなった胴が死角へと回り込みながらキックを放つ。ウォーレンがそれを腕で防ぐと、そのまま体に巻き付いてきた。
「魔法がかかればねこさんだってこわくないんだからっ!」
 みことは魔法を掛け続けて、仲間の呪いの力を高めて猫の攻撃の効果を弱める。
「ことわざに『巻かれても痛くないほど可愛い』ってあった気がする」
 巻き付かれながらもウォーレンはチェーンソー剣を駆動させ、高速回転する刃を叩き込む。
「二ギャーッ!」
 慌てて猫は蹴り飛ばしながらうねうねと電柱を登って距離を取る。
「猫は寒いのより熱いのが好きだろ、暖めてやる」
 クリスはそれを追い駆け、紅の軌跡を描きながら電柱を駆け登ると、炎を纏う蹴りを見舞って叩き落とした。
「多少手荒になりますが―――失礼致します!」
 待ち構えていた紗更が大鎌を振るい、胴を斬り裂くと反撃の肉球が届く前に飛び退って間合いを開ける。
「何度見ても慣れないです……でも、がんばります!」
 恐る恐る猫に視線を向けたカティスは紙吹雪のように紙兵を舞わせ、猫の視界を一瞬だけ遮った。
「い、いくらなんでも長すぎます、ですー!? むしろどうやって立っています、です!?」
 大きなハンマーを砲へと変形させたアンジェラは、重さによろけながらも砲門を向けて発射する。砲弾が猫の傍で爆発し、衝撃に吹き飛ばされた猫がビタッと塀に張り付いた。
「ほらほらッ、私と遊ぼうぜッ!」
 全力で駆け寄った葉流は、体当たりするような勢いでオウガメタルに覆われた拳を叩きつける。
「しゃああああああ! ふしゃああああ!」
 そのまま壁に押し付け奇声を上げてながら何度も殴り続ける。
「キシャ―ッ!」
 猫は反撃に肉球を叩きつけて脱出すると、塀を登って素早く頭上から巻き付こうとする。
「お化け猫さん、きみを倒せば一人が目を覚ます。それはとてもいいことよ」
 ルタがスイッチを押し、爆発と共に煙が周囲を覆って猫の目を晦ませた。
「そんなに長いのに素早く動けるんだ、こっちも負けてはいられないね」
 相手の懐に飛び込むと共に、ウォーレンは胴を蹴り上げて猫を宙に浮かす。
「いくら素早くても、それだけ体が長ければ当てるのは簡単だろ」
 クリスが構えた巨大なドラゴニックガンハンマーの引き金を引くと、爆発は起こりその反動で加速しながら回転してハンマーを叩き込んだ。
「ニギャッ」
 吹き飛ばされながらも、長い猫の体がクリスに巻き付き、引っ張られて一緒に壁へと衝突した。
「長いだけの猫さんに負けられないです」
 カティスが手にしたスイッチを押すと、色鮮やかな爆発が起こって仲間達の闘争心を高める。
「じゃじゃーんっ、これなーんだ!」
 葉流が瓶を振って猫の注意を引いてから誰も居ない場所へ放り投げると、落下するよりも速く猫が本能で飛び掛かった。すると瓶が割れて炎が巻き起こり猫の体を包み込む。
「お腹が重すぎて地面についちゃいそうなのに、ですー!?」
 そこへアンジェラが砲撃を行う。放たれた弾が炸裂し猫と周辺を凍り付かせてしまう。
「うーんと……ねーこっちょっと守ってね」
 やれやれとねことが前に立つと、魔導書を開いたみことが難しい顔をしながら読み解いて詠唱すると、紗更の脳細胞を活性化させて強化する。
「長い体躯をものともせずに俊敏に動く猫ですか、中々興味深いですね」
 一陣の風のように紗更が接近して蹴りを叩き込み、凍った周辺ごと砕いて蹴り飛ばした。
「ニャッ!」
「残念でした、こっちにも行かせないよ」
 猫が一度身を隠そうと建物の陰に顔を突っ込む。塀を蹴って跳躍したルタは、踏み潰すように隠れ切れない猫の胴体に着地して地面に押さえ付けた。

●猫踏んじゃった
「フギャ―!!」
 踏まれた猫はぐるっと体を回してルタの顔に肉球を叩きつけた。
「こんなものへっちゃら、よ。でもやられたからにはやり返しちゃうから、ね」
 少し不機嫌そうに口を窄めたルタは、鋼を纏った拳で殴り返す。
「フシャーッ」
 すると今度は猫が爪を伸ばして振り下ろしてきた。
「引っ掻き勝負といこうか」
 飛び込んだクリスは回転するように縛霊手を振るって鉤爪で爪を弾き、幾度も剣戟を交わす。だがその間にこっそりと背後から回り込んだ猫の胴がクリスの体に巻き付いた。
「巻き付かれると温かくていいんだけど、普通の人は絞め殺されちゃうからね」
 そこへウォーレンはチェーンソー剣を振り下ろし、幾重にも巻き付いた猫の胴を胴を纏めて寸断する。
「二ギャー!?」
 猫は何とか顔と尻尾部分で胴を繋ぎなおし、半分位に短くなった体で走り出す。
「狩猟の女神の名の下に、化猫を滅する力となれ!」
 銃を構えたカティスは弾丸型に固めたヨモギの攻性植物をアンジェラに撃ち込み、生命エネルギーを与えて身体能力を高める。
「わるいねこさんはこれでおしおきなのですー!」
 跳躍したアンジェラはハンマーからロケット噴射をさせて飛翔するように突っ込み、思い切り頭上から叩きつけた。
「ニャッ!」
 地面に這いつくばった猫が足の爪を振るって反撃すると、タマオキナがその身で受け止めた。
「申し訳ありませんが、それ以上はご遠慮願います」
 続けて猫が攻撃する前に紗更が正面から拳を打って怯ませると、相手の動きを潰すように拳を叩き込む。
「こっからはみこもこーげきしちゃうよ!」
 横からみことが魔力の弾をえいっと撃ち込むと、凍りつかせて動きを止めた。
「そーらッ燃えろ燃えろぉおおお!」
 そこへ葉流はオウガメタルをマシンガンへと変化させ、炎の弾丸を乱射する。撃たれた体に火が移り、長い胴をどんどんと炎が伝っていく。
「ニャニャッ」
 炎から逃れようと猫は降り始めた雨の方へと駆ける。
「夢を奪われた女の子が風邪をひかないか心配だからね、そろそろ終わりにしよう――夢の中にお帰り」
 自らの周囲に雨を降らせたウォーレンは、雨に紛れるように接近し、相手を惑わすように動きながらチェーンソー剣で全身を斬り刻む。
「シニャッ」
「誰一人、お前には殺させない。このまま夢へと帰れ」
 反撃する猫の爪をクリスがハンマーで受け止め、紅の閃光が駆け抜けるように猫の顎を蹴り上げた。仰け反った猫はそのまま塀の上へと逃れようとする。
「逃さないのです!」
 飛んだアンジェラの羽が大きく広がって猫を包み込み、引き寄せたところへ膝蹴りを叩き込んで地面にぶつける。
「このまま倒してしまいましょう!」
 そこへカティスは銃弾を次々と撃ち込み四肢を貫く。
「……どうぞ、おやすみなさいませ」
 紗更の掌にグラビティ・チェインが集まり白い花を形作る。掌を向けると閃光が花びらを散らしながら猫の体を貫いた。
「ニ……ァッ」
「ざーんねん、そっちは行き止まり! 子子子子ッ」
 蛇のように進む猫の前に葉流が瓶を投げつけ、炎の壁を作って行く手を塞いだ。すると猫は電柱を登り始める。
「動き回られると邪魔だから、そこで大人しくしててね」
 横からルタがボールを蹴るようにキックを当て、猫の体がぐるんと電柱に巻き付く。
「ながーいドラゴンさんでやっつけちゃうよ!」
 みことが首の長い竜の幻を呼び出し、吐き出される炎が猫に火を点けた。燃える猫がまるで蛇の串焼きのように電柱に絡まったまま真っ黒に焼け焦げた。

●夜道の猫
「これで悪夢も終わりだな、子供は寝る時間だ」
 これで少女も普通の眠りに就いただろうとクリスが力を抜く。
「私のやる事は終わった……子供はもう寝る時間ー? なら起きていよう」
 ぼりぼりと左頬を爪で引っ掻きながら葉流は帰り道と反対方向に歩き出す、だが纏うオウガメタルが方向を変えさせ仲間の傍へと戻した。
「は~びっくりです。あんな猫さんを見たら驚いちゃいますよね」
「情報で知ってても、あんなのを生で見ちゃうと驚いちゃうよね」
 カティスは今でも胸がドキドキしていると手を当てて白い息を吐き、ルタも本当に驚いてしまったと微笑む。同意するようにマコハもにゃーと肉球を挙げた。
「ほんとーにながーーいねこさんだったね!」
 楽しそうにみことが抱き上げたねことを振り回すと、迷惑そうにねことが鳴く。
「うーん……あれも、かわいかったのかも、しれません、です……そうしておかないと、夢に出てきたときに驚いちゃいます、ですから、そう思っておくことにします、です!」
 自分に言い聞かせるように、アンジェラは記憶の中の猫を美化して頷いた。
「冷えてきたね、もう少し猫と戯れていたかったよ」
 巻き付いてきた猫の温もりをもっと堪能したかったと、ウォーレンは寒そうに肩をすくめた。
「さて、夜も更けて参りました。風邪をひく前に、そろそろお暇しましょう」
 紗更が促し歩き出すケルベロス達の前を猫が横切る。驚いて身構えてしまうが、それは普通の猫だった。顔を見合わせ吹き出し、夜道に笑い声が響いた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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