●ヒーリングバレンタイン2017
「皆さんの活躍で、これまでミッション地域となっておりました複数地域が奪還されました」
その日、望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)の表情はいつものように堅い。
「ミッション地域となってしまった場所は当然、住民も避難して無人になってしまっています。そこで、この地域の復興も兼ねて、バレンタインイベントを企画することと相成りました」
ああ。めでたい話題を話してるのに、堅い顔してんのは、イベント運営とかそういうのに慣れてないからか。
並んだケルベロスたちが納得する。
「私が担当することになりましたのは神田古書店街の一角……当日は引っ越しを考えている人が下見に来ていたり、周辺住民の方が見学に来ると目されます。一般人参加者も募ってイベントを開催すれば、開放地域のイメージアップにもつながるでしょう。このイベントを、共に成功させましょう」
完璧に任務をこなす女の顔になり、小夜は続ける。
●神田古書店街、古書カフェ
「神田古書店街は、無数の古書店や古本市が開かれ、また多くの喫茶店で人々が憩う、都心にありながら赴きある街でした」
と、小夜は土地柄を解説する。
「一角に所有権を放棄された古本が収められている倉庫と、廃墟になった喫茶店があります。設備をヒールし、せっかくなので古本の中のお菓子のレシピを再現して、それでカフェを開きましょう。本と土地と設備……それが今、残っている神田古書店街の財産ですから」
手順はこうだ。
まず『会場周囲と設備をヒール』し『材料とレシピ本を搬入し』、『レシピ本のメニューを再現して参加者に振る舞う』。
「会場はテラス席のあるオープンカフェです。室内席もありますが、寒いのでストーブやひざ掛けなども用意しましょう。作る物はチョコ関連が良いですが、美味しいお菓子や飲み物であれば何でもいいでしょう。出来れば、温かいものがいいでしょうね」
イベントの過程で、親しい者にプレゼントなどを作るのもいいという。
「解放地域を寂れた廃墟群から、人々の憩う地へと戻しましょう。人々の笑顔を取り戻す……それがケルベロスの任務の最終目標ですからね」
●寒風の吹く廃墟
神田古書店街のとあるカフェ跡地。
空が白み始めたばかりの時間。
望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が、うーん、と首を捻る。
「随分、少ないけど……あの、参加者これだけ?」
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)の不安そうな問い掛けに、小夜は首を振って。
「いや、総勢ではもっと……一日、カフェを行うには十分な人数です」
「要するに……参加すんなら早朝から来いって言っとかなかったってことか。集合時間、適当にしたんだろ」
「カフェの仕事は面白そうだけど、現場のヒールはいつものお仕事だもんね。じゃ、ゆっくり行こうかな、ってなるよね」
比良坂・陸也(化け狸・e28489)と長谷川・わかな(はんにゃーガール・e31807)に図星を刺されて、その笑顔が少し引き攣る。
早朝の内から現場に来たのは、五名ほど。
「ま、いいじゃないでスか。その内、みんな来まスよ。さ、ウォーレンさん。とっととヒールといきましょ。まずは店内からでスかね」
「うん。まあ、僕らだけで古書店街全部をヒールするわけじゃないから。気落ちせずに来た人の出欠確認してね」
千里・雉華(月下美人と白詰草・e21087)とウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)が視線を交わし合って、店内へと入る。「届け、世界の希望」と、聞こえるのはヒールの詠唱だろうか。
「じゃ、アタシは大きめの物から片付けようかな」
「俺と孫はこの周辺回るわ」
「いってきまーす」
小夜は「勉強しておきます」と少しばかり首を垂れたものの、ヒール中にもちらほらと参加者たちは集まって。
やがて総勢十六名のケルベロスがそこに集ったのだった。
●誰もいない街
そこは、道路は抉られ、建物はひび割れ、硝子の砕けた廃墟だった。
数時間前までは。
やがてそこは再生する。
住む者のない、映画のセットのように寂しい街として。
復興を掲げるケルベロスたちは、久方ぶりにその街に灯を燈し、順番に古書から見付けたレシピを選んで行く。
絵本に出てくる料理の再現レシピを手に取って戻ってきたのは、水無月・一華(華冽・e11665)。
「わたし、この絵本のお菓子がいっぱい出てる本にします! 絵本ってどきどきわくわく感じるでしょう。親しみやすいかなって」
「うん。いいんじゃないか? 絵本に出ている食べ物って妙に美味しそうだよな」
そう言う暁・万里(パーフィットパズル・e15680)に、一華は滑るようにページを開いて。
「わたし、このふわふわなフライパンカステラにしようと思いますっ! 全部混ぜるだけのとっても簡単なお料理で、目にしたらどきどきしちゃう物!」
(「混ぜるだけで簡単? ……計量なしでぶち込む常習犯が何か言ってる」)
「その目……疑ってるでしょう?」
「いや……ところで一華、黄身と白身は分けられるのか?」
「ほら疑ってる! 失敬な。私もそれくらいできますよー!」
のっけから不穏な気配を漂わせつつ、二人は材料と道具の調達へ向かう。
「はい、泡だて器。こっちがボール。食材はあっちだよ」
箱から道具を手渡しているのは新条・あかり(点灯夫・e04291)。食材の箱を運びこむのは、藍染・夜(蒼風聲・e20064)だ。
二人に卵や小麦粉を手渡して、あかりに向き直る。
「カステラ、被ったかな。俺は注文を取ってから焼くつもりだけど」
「向こうはお土産用だから平気じゃないかな。あ、エプロンどうぞ」
恋人同士並んでエプロンを受け取るのは、佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)とエーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)。
勇華の指が背の紐をきゅっと結びあげれば、準備は万端だ。
「……さぁ、頑張るぞっ! えぇっと……なに作るんだっけ?」
「うん。そんなに難しくないけれど、美味しくて、少し豪華な気持ちになれるもの、だよ」
エーゼットの指が、脇に置いた古書のページを指し示す。
「チョコトリュフだね! チョコ溶かして、そこに生クリーム入れて……ふんふん」
「一口大に分けて冷やして……丸める。やり方そのものは、簡単でしょ」
手順を確認し、二人は頷き合う。
その隣ではウォーレンが椅子を運びつつ、片手に洋書を開いていた。
「さすが神田古書店街、たくさんレシピの本があるね。僕はこれにしようかな。ノスタルジックなチョコレートブラウニー」
アメリカの物らしいレシピ本には、『懐かしのお母さんの味』と書かれている。共に椅子を運びながら、雉華がそのページを覗き込んで。
「……そういえばウォーレンさん、前の超会議で一人一人に手作りお菓子作るくらいにスイーツづくり手慣れてまシたものね」
「甘酸っぱいサワーチェリー入りと、ほろ苦いオレンジピール入りの二種類があるけど、どっちが良いかなー。雉華さんはどっちが好み?」
「んー……どっちもいいんじゃないでスか? ウォーレンさんの作るものと好きなものが外れる事ってめったにないでスし。正直アタシはどっちも食べてみたいでス」
一方、古書の整理を行っていた天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)は、片づけをするうちに見つけ出した一冊を、天王寺・静久(頑張る駆け出しアイドル・e13863)に見せた。
「チョコ大福を作ってほしいでござる。どうでござろう?」
それはココアパウダーをまぶされたシックな色の大福。和洋折衷のお菓子のページだ。
「なになに……餅は上新粉、白玉粉で……チョコガナッシュに生クリーム作って……包む。うん、これならできそうだな」
で、お前は? なにするの? と、いう感じで静久が顔をあげると、日仙丸は少し恥ずかしそうに頭を掻いて。
「拙者は悲しいかなお菓子作りのスキルはないゆえ、細々とした手伝いをすることになるでござるな」
「仕方ねーな。じゃ、計量とかやってくれよ? まずは白玉粉からだ」
「無論。材料は最高級の物を予め通販しておいたでござる」
そう言って、日仙丸は得意げに胸を張る。
モップで床を掃除していた二人が、その言葉に少し手を止めて。
「朝に何でか届いた段ボール……何かと思ったけど、持ち込みの材料だったんだね」
「何か月ぶりの宅配便だろうな。復興の第一歩、ってとこか」
レスター・ストレイン(e28723)とエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)が頷き合う。
一方、ちん、と音を立てたオーブンから、天板を取り出すのは陸也。
「おーい、孫。焼けたぜ。なんかすんだろ? 飲み物はどうすっかなー。やっぱ定番は珈琲か」
仄甘い香りのクッキーが並んだ天板を鍋敷きの上に載せながら、陸也は大きく手を広げて、理想の珈琲を思い描く。
「悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い……んな珈琲……や、あくまで比喩だからな、悪魔なだけに。天使は残酷だから」
「おじーちゃん詩人さんだねぇ。まぁ私の珈琲は地獄のように甘いけどね! さて、私はアイシングしようっと」
店内の飾りつけをしていた八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)は、そんな二人の会話を聞いて、こう思う。
(「あいつらベトナムコーヒー淹れればいいんじゃねーかな……」)
「さあ、みんな! 気だるさなんて吹っ飛ばして仕事しましょう!」
そこへ来たのは、リリー。
わざわざプリンセスモードまで起動して店内を盛り上げつつ、テーブルにアロマキャンドルを配っていたところだった。
「お、リリーじゃん。秋口の依頼じゃ世話になったな」
「爽さん? 来てたのね。うん。あの依頼……あの後、決着はついた、って聞いたけど……」
それは、絡み合った因縁の物語。二人は一瞬、そのころを思い出して口を止めた。
だが、爽はすぐにぎこちない笑みを作って。
「ああ……でも、今迄の思い出は消せないけど、新しい思い出は作れるし。楽しい思い出作りのお手伝い、頑張ろうと思ってさ」
ここにあるのは、それぞれの現在。
寄り添い合う者と共に、番犬たちは今を紡ぎあげていく。
●営みの足音
通りには見学に来た人々の姿がちらほらと見え始める。店の前でふっと足を止めて微笑むのは、厨房から流れてくる甘い香りのせいだろう。
「……っと。よっし、かんせー! おじーちゃん、こんな感じでどうかな?」
わかなが見せるのは、鶯色の地に狸の絵……すなわち陸也の顔のクッキー。
「うお……うめぇ。孫、絵、うめーんだな……ところで、アイシングってどういう意味なんだ?」
「卵白とお砂糖で作るデコレーション用のクリームだよ。三つだけにしようかと思ったけど、クリーム余ったからたくさん作っちゃった」
わかなは自分の顔のクッキーもこさえて、陸也と共にラッピングし始める。
他の面々もそれに続いて、次々とお菓子を完成させていく。
「次はメレンゲだな。はいはい、貸して。俺がやるよ。重労働だし交代でな。一華は黄身と砂糖の方を混ぜといて」
万里がそう言ったのは、少し前。
「そう、粉はだまにならないように篩って……もうちょっと」
「うん。だまは駄目です。とんとんしてー……最後は全部混ぜ……あ、溶かしバターもですよね!」
頭の中に入った知識を子供が必死に追いかけるように語りながら、一華は目を輝かせる。
(「去年のバレンタインも二人で菓子作って過ごしたっけ……」)
オーブンの中でゆっくりと膨らんでいくカステラを、張り付いて見詰める瞳。
「大変です万里くん、ふわふわに膨らみましたわ!」
花咲くようなとびきりの笑顔で、一華は振り返る。
遥かに上達した腕前。昨年と変わらぬ口調。此度は告げられた成功。
変化も、不変も。その全てを、一番傍で見ていられる。
その幸せを噛み締めながら、万里もまた微笑みを返して。
「うぅ、丸めるの難しい……」
と、言いながら手の内で歪な球体を捏ね回しているのは、勇華。
「うん。これを丸めるのが大変だよね。ココアパウダーを手のひらにつけて丸めると上手くできるよ」
エーゼットがそう言って、その手にココアパウダーを掛けてみせる。
「へえ? ココアパウダーを?」
半信半疑で捏ねると、水分をココアパウダーが優しくくるみ、ねばっとした茶色いものはチョコトリュフとしての体裁を整えていく。
「おおー、上手くできた!」
「そう、上手。ふふ、ほんとは勇華が作ったの、食べちゃいたいけど……今日だけは我慢するね?」
大量に作っているのだから、一部持って帰ってもいいのに。
と、言うのは野暮だ。
満面に笑みを浮かべてエーゼットに寄り添う勇華を見れば、誰もがそう思う。
「えへへー、やったぁ! また今度家で作ろうね。その時に一緒に食べよ?」
若い二人が、互いの家に集まる口実を奪うことはない。
微笑ましい沈黙の中、二人はトリュフを包んでいく。
「うん。決められない」
さんざん悩んだウォーレンは結局、サワーチェリーとオレンジピールのどちらを使うか決めることを放棄した。
「だって、両方作ればいいんだもんね」
その言葉に、雉華は思わずため息を漏らして。
「身も蓋もありまセんね。悩んだ時間はなんだったんでスか」
「ふふ。でも、お客さんもどっちにしようって悩んでくれるかもしれないよ」
「まあ、その方が嬉しいでスけどね。というわけで、はい。搬入のついでに、両方買ってきまシたよ」
「わあ、気が利くね……あれ? でも、この辺りって、まだやってるお店ないんじゃ?」
「だから、秋葉原まで走って来たんでスよ。アタシ、家事スキルはそこまでないので、このくらいしか手伝えないでスから」
雉華が恥ずかしそうに目を逸らしながらそう言う。
「そこまでしてもらったら……とびきり美味しいのをご馳走しないとね」
ブラウニーが完成するころ「終わったぁー……!」という叫びが、無数のチョコ大福の前に響いた。
「沢山作るの大変だった……疲れた」
チョコだらけの手のまま、静久がへろへろと机にへたり込む。
焼き菓子は焼き始めれば一気に出来るが、手の中で完成する生菓子の大量生産は中々大変だ。
「お疲れ様でござる! あの……もしよければ、1つ食べさせてはくれぬでござるか?」
ワクワクしながら完成を眺めていた日仙丸。静久はへたり込んだまま、恥ずかしそうに一つを手に取って。
「ほら、あーん……」
日仙丸は大福を思い切り頬張ると、その頬を緩ませた。
「お見事な出来栄えでござる……! ところで、手伝うところは手伝ったし、その……この後デートなど、如何でござろう?」
「せっかくだから……途中で抜け出して、手でも繋いで歩くか?」
やんちゃな若者が退屈な授業を抜け出す計画を練るように、二人はくすくす笑いながら頬を赤らめる。
そして……。
「お手伝い、ありがとうございました」
小夜は二人を送り出し、振り返る。
その時だった。
「はいっ! 小夜さん、遅くなっちゃったけどお誕生日おめでとー! 似顔絵クッキーだよ。あとこれは入浴剤!」
「おう、小夜。誕生日おめでとさん。俺の方からはアロマオイルだ。いつもお疲れさん」
「は? ……え?」
目をぱちくりさせる間もなく、リリーと爽も歩み寄る。
「私からは、なんか役に立ちそうな古書。もしよかったら、いつもお世話になってる小夜ちゃんに、と思って」
「俺からはチョコ。あの時は色々ありがとーな……お疲れさん。今後もよろしく。ハッピーバレンタイン!」
「え、いや……そんな。それが仕事なだけでして……」
続いて、有名な二匹の野ネズミの絵本を参考に作ったカステラを差し出すのは、あかりと夜。
「そのお仕事が忙しくて、お誕生日も祝わなかったと聞いたから。この一つ目は小夜さんに」
「ソースはバレンタインに因んでチョコだよ。俺達からのプレゼント、良ければどうぞ」
純粋な感謝と敬意なんて、扱い慣れていない。
「あ、ありがとうございます……皆さん」
小夜は頬を紅くしつつ、頭を下げたのだった。
●カフェの灯り
ケルベロスたちの大々的なイベントということもあり、神田古書店街はその日、夜まで賑わいを見せた。人々は続々と通りに連なり、まるで縁日のよう。
「いらっしゃいませ、お客様。ご注文にお悩みですか? オススメはこちらのお菓子。朝から皆さんに楽しんで貰いたいと我らケルベロスが気持ちを込めて作った逸品です」
慣れた様子で女性客を相手取るのは、爽。
爽、エリオット、レスターの三人が、テーブルの間を忙しく立ち回っている。即席の制服を甘く着崩して、女性客にも年配のお客にも人気なようだ。
「もし暖かい飲み物でお悩みなら、バレンタインですからココアは如何です? ご注文頂いたら俺が心を込めてご提供させていただきますよ」
爽が女性客を口説き落としてココアの注文を引きずり出すと、彼はにやりとライバル二人にウィンクして見せた。
「おお……すげえ。負けていられねえな。俺たちも頑張ろうぜ、親友」
「いや、何を頑張るんだ。そこで張り合わないでくれ。接客は初めてなんだ……俺はリーオのようにはいかないよ。手際もいいし、何より仕事が楽しそうだ」
レスターが真面目にそう応えると、エリオットは笑いながらその胸を叩いた。
「冗談だよ。俺はお前の真心籠もった対応、好きだぜ。見ろよ。みんな笑顔だ。復興が進めば、ここにもあんな笑顔が戻ってくる。そしたら、今度は俺たちがここで遊ぼうぜ」
ようやく客足は落ち着き、人々は思い思いに歓談している。
今は、溶けるような夕暮れの時間。
「そうだね……俺も本は好きだ。復興した暁には、神保町に本を買いに来れたら嬉しい。その時は、本の話でもしながらゆっくりお茶したいな」
それは仕事の合間、ようやく友人同士の会話を楽しめた一瞬。すぐさま新たなお客が訪れ、二人は頷き合った後、笑顔で対応に出る。
日も落ちて夜も近づく中、給仕たちの求めに全力で応えてきた少女は、厨房で汗を拭った。その相方がため息を落として。
「ようやく落ち着いて来たね、夜さん。思った以上に、忙しかった。持ち帰りのお菓子も、大分はけたみたい」
「出来たてを味わってもらいたいから注文を受けてから焼こう……と、言ったのは俺だけど。こんなに人気とはね」
流石、野ネズミのカステラホットケーキ。
と、二人の声は重なって。
「営業もプレゼントも終わったし……最後の一個くらい、俺達も味わっても良いよね?」
と、夜が差し出すのは、何やかんや器用にダマを潰した生地。「もちろん」と、笑ったあかりは、小さなフライパンにそれを流し込むと、ごくごく弱火で、じっくりと焼きあげる。
「これを皿に盛らずにそのまま出せば、あの絵本風、憧れのデザートの完成だね。フライパン、沢山必要だったけど」
「絵本の野ネズミよろしく、分けっこして食べようか。お手伝いしてくれた良い子の夜さんには、特別にチョコレートソース多めでね」
微笑み合った二人は、それぞれの顔の前に一切れを差し出して……。
……そして、夜になる。
そこは、神田古書店街。
闘いに擦り切れたこの街を、幾月もの時を経て、番犬たちは取り戻した。
この日、彼らが灯した希望は、人々をこの街へ呼びこみ、日々の営みを包んでいくだろう。
明日から闘いの日々へと戻る番犬たちに、この日の思い出は如何なる変化をもたらすだろう。
今は、まどろむような時の中、番犬たちにひと時の休息が、あることを。
ただ、祈るばかり……。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:16人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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