ヒーリングバレンタイン2017~温泉より愛を込めて

作者:香住あおい

 にこにこと上機嫌で小野寺・蜜姫は言う。
「みんなの活躍のおかげでミッション地域になってたところの奪還に成功したわ。お疲れ様。それで、その地域の復興も兼ねてチョコレート作ってみないかしら?」
 解放したミッション地域には基本的に住人はいない。しかし、移住希望者が下見に来ていたり周辺住民が見学に来ることは大いに有り得るので、解放したミッション地域のイメージアップにもなって復興も早まるだろう、という計画からである。
 鳥取県米子市。鳥取県の西端に位置する島根県との県境都市であり、山陰屈指の商都でもあったらしいここは先日までミッション地域となっていた場所である。
 中でも海中から沸き出た温泉近辺は温泉街として栄えていたとのことで。
「温泉街復興も兼ねてチョコを作って配ってみない?」
 蜜姫によれば概要はこんな感じである。
 温泉街の足湯のひとつとその周辺をヒールし、足湯を利用しに来た方々に配るというもの。
「チョコを溶かすなら野外でもできるけど、固めるのはさすがに出来ないから。そこは近くの施設の冷蔵庫を借りるとして」
 ケルベロスのやることは大まかに4つ。『足湯と周辺のヒール』と『チョコレート作成に必要な材料と器具の搬入』、『チョコレート作成』と『来訪客に手渡し』となる。
 それぞれの作業について詳細な規定はないので各々が判断して行うこととなる。どんな材料でチョコレートを作るのか、どうやってチョコレートを作るのか。それも各々の匙加減である。
「そうそう。どの作業をしても自分用のチョコを作る時間はあるから。自分用にでもいいし渡したい誰かにでもいいし、作ってみてもいいんじゃないかしら」
 せっかくのバレンタインだからね、と蜜姫は笑顔で言った。


■リプレイ

●足湯を直すよ!
 米子市の海岸近く。ケルベロス達はここの足場のヒールを行っていた。
 「久しぶりに二人で旅行できたねー♪」
 どこに出しても恥ずかしくないほどの完全なる引きこもりである姫野・みあ。
 しかし今日ばかりは違う。
「たまにはおでかけもいいよねっ♪」
 双子の姉でもある姫野・りあ、そして2人のビハインドである姫野・レオと姫野・カイ。
 いつも引き籠ってばかりのみあと存分にいちゃいちゃできるとのことで、りあは腕を一杯に伸ばしてみあを抱きしめる。
 抱きしめられたみあは甘えるようにりあの首筋に顔を埋めた。
「いっぱいいちゃいちゃしたいね♪」
 普段は『自宅』でいちゃついているので屋外というのも新鮮であり、2人は隙間もないくらいに密着していちゃいちゃと。
 しかし足湯に浸かるためにしばし離れる。
「はふぅ、あったかぁい…♪」
「ふわぁ、足湯、気持ちいい~♪」
 恍惚の表情を浮かべる2人をレオとカイは背後で見守っている。ヒールをしようがないので、見守り役兼タオル持ち。
 いちゃいちゃちゅっちゅしながら、気が付いたときにサキュバスミストでヒールをするものだから遅々として進まないうえに、まだヒールされていない、この足場周辺に建っていた年齢制限のある宿泊施設風になりつつある。
「りあー♪」
 とりあえずいい感じにある程度ヒールをすることができた。するとここぞとばかりにみあが隣にいるりあに抱きつく。
「ひゃんっ! みあってばぁ……♪」
 みあの手がりあの脇腹を撫でたようで、思わず甘い声をあげるりあ。
「今夜はお宿でいちゃいちゃしようね♪ あ、もちろん、ヒーリングしたあとでね?」
 するとりあはみあをぎゅっと深く抱く。そして耳元に口を近付けた。
「大丈夫、今夜はいーっぱいかわいがってあげるから♪ お兄ちゃん達と一緒に、ね?」
 妖艶に微笑むと、りあはSっぽく囁いた。

 もうひとつの足場をヒールしている西水・祥空は物足りなさを感じていた。
 デウスエクスから一般市民の生活圏を取り戻すことができたと確かに実感はしている。
 しかし。
 りあとみあがヒールしたいかがわしい足湯を横目で見て考え込む。どうも地味なのではないかと。
 そこで彼が取った手段といえば、ミュージシャンの力を借りるということであった。
「蜜姫さん、よろしくお願いいたします」
「一曲演奏すればいいのね。なんでもいい?」
 ちょこちょこと動いている小野寺・蜜姫を呼びとめ、その歌とギターの演奏で通り掛かる人達の興味を引き、そして足湯を利用してもらおうという考えである。
 蜜姫の奏でるギターの音と歌声。それに通り掛かりの人々が思わず立ち止まる。
 祥空はといえば陰からヒールグラビティで花を添える。蓮の花弁の幻は可憐に咲き誇って足湯の復活にも花を添えた。

●材料を運ぶよ!
 時間は少し巻き戻る。
「あとはそれとそれ、よろしくね」
「なあ小野寺、ちょっと人使いが荒くないか……?」
「気のせいよ」
 チョコレート作りに必要なものを運ぶ蜜姫と滝川・左文字。
 愚痴やらなにやらを交えつつ、材料と器具を適当に見立てて運び入れる。
 近所に住んでいたらしい住民さんの手伝いもあってチョコレート作成準備は無事に完了した。

●チョコを作るよ!
 足湯のヒールを終えて材料も揃ったところでチョコレートの作成に取り掛かる。
 どこぞやから集まった皆様に混じってエフイー・ヨハンとレティシア・シェムナイルも一緒に作り出す。
「ご主人様、頑張りましょうネ!」
「おう!」
 温泉好きのレティシアはここにいるだけでも嬉しそうにも見える。
「皆にあげるチョコ……どんなのがいいデスかね?」
「そうだなぁ、やっぱりハートの形が良いのかな?」
 どうだ? とエフィーはオルトロスのデザイアに意見を聞いてみるが、素知らぬ顔。
「色んな味のトリュフチョコとかどうカナ?」
 近くの集団が語る様々なチョコレートの種類の中からレティシアが提案すればエーフィーも案を出す。
「おっ、そりゃいいな! トリュフと一緒にドライフルーツとかどうだい?」
「いいデスね!」
 などと相談を重ねつつ、談笑を交えて2人は思い思いのチョコレートを作る。
「ご主人様かっこいいノデ、ここの女の子から逆にチョコ貰っちゃウかもしれないデスね?」
 ちょっとだけ嫉妬しちゃうカモ、と悪戯に微笑んでレティシアが言えばエフィーはウィスキーボンボンを作る手を少し休めてにやりと笑みを浮かべる。
「そうかな? 俺は万人よりも、レティちゃんみたいなカワイコちゃんに貰いたいなって思ってるぜ?」
 きょとんとした表情で目を丸くするレティシア。そんな彼女にエフィーはなんてな、ととぼけてみせた。
 そんなこんなで無事にチョコレートが完成し、一緒にラッピングをする。
「これ、食べさせ合いっこ出来たら良いな?」
 エフィーはそう言ったはいいものの、自身が作ったものに酒が入っていることを思い出して処遇に悩んでいるようで。
 そんな彼の目を盗んで、レティシアはウイングキャットのイチマツさんのポシェットにチョコを滑り込ませて隠す。
「これは当日のお楽しみ…ダネ♪」
 それは世界にひとつだけの特別なチョコレート。

●みんなに配るよ!
 当初の予定通り、足湯に訪れた人々に渡されるチョコレート。
 笑顔で行われるやり取りをレギンヒルド・カスマティシアは色々な想いを持って見ている。
 2月14日はある意味では彼女、否、ヴァルキュリア達にとっての第二の誕生日だとレギンヒルドは考える。
 去年のバレンタインにケルベロスが呼びかけてくれたからこそ、今ここにいる。
 だから、この地球に住むことになった者として、直接この星に住む人達にチョコレートを渡すのだと。
「はい、どうぞ」
 何人目かの来訪客に手渡しをすると。
「あらまあ。足湯を直してごしなったのにチョコまでごしなるなんてなあ。だんだんな」
 お婆さんは嬉しそうにチョコレートを受け取る。
「こちらこそ、私達ヴァルキュリアを受け入れてくれてありがとう。これからもよろしくね」
 そして、レギンヒルドはカメラを手にした。思い出を記念として一枚の写真に残すべく。

 ぐるっと温泉街を散歩してきた砂星・イノリ。
 温泉の多さに驚きつつ、寒い日は温泉でゆっくりするのが気持ちいいだろうなとも思いつつ、イノリは本来の仕事へ取り掛かる。
 来訪客に沢山ある中から好きなものを選んでもらい、それを渡す。
 喜んでいる姿を見て彼女も嬉しそうに微笑む。
 そんな最中のこと。
「あ、蜜姫さんもチョコ食べる? 兎のチョコもあるよ」
 呼びこめられたことに加えてチョコという単語に反応した蜜姫が上機嫌で近付いてきた。
「食べるわ! でも……いいの?」
 蜜姫が窺うように訊ねればイノリは笑顔でうなずいた。
「これは自分用のだから、食べても平気なんだ」
 そう言って渡すのは緋色の兎チョコ。蜜姫は逡巡するも口に入れる。
 一見すれば平和な街。しかし、まだ何かが足りない。
「ヒールの作業でも歌ったけど、演奏で街を元気づけられないかな」
 さっきみたいに一緒にやらない? とイノリが問えば、チョコレートを食べ終えた蜜姫はうなずく。
「チョコのお礼も兼ねて一緒に演奏するわよ」
「ちょっと待っていただけますか?」
 やって来たのは祥空。手にはチョコレートがある。それは空き時間に作ったものだった。
「頑張っていただいた蜜姫さんへお贈りしようと思いまして」
「あら、ありがとう。演奏が終わったらありがたく食べさせてもらうわね」
 チョコレートをしまって、蜜姫はイノリへ目配せをする。
 そして2人は音楽を奏でた。それは人々の心を励ます勇気のメロディ。
 聞き入る人々の表情は穏やかでもあり嬉しそうでもあり。
 この街が平和で賑やかな街になればいいとイノリは思いながら優しい音を生みだすのであった。

作者:香住あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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