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背の高い木々が鬱蒼と生い茂った山の中。
暗闇に包まれた山道を、幼い少女が懐中電灯を手にして歩いていた。
しばらく歩くと突然開けた場所に出た。ぼろぼろの木造の民家が十軒ほど並んでいる。古い集落のようだ。しかし人の気配はなく辺りは雑草まみれで荒れ果てており、不気味な静寂に包まれていた。
少女は小走りで周辺の探索を始める。
と、何か生臭い匂いが漂ってきた。魚の匂いだろうか。鼻を頼りに草むらを進むと、苔むした古い井戸に行き当たった。
ゆっくり中を覗いてみると、真っ暗で何も見えない。
中を照らそうと思い、手元の懐中電灯を掲げた直後、少女は足を滑らせてしまい頭から井戸の中へ落ちていった。
ざぶん、と生ぬるい水の中に落ち、少女は必死でもがく。暗闇で何も見えない。助けを求めて叫び声を上げるも、その声は闇に溶けていくばかり。
すると突然、冷たいものが首に触れた。
振り返ると、青い異形が後ろから首を掴んでいた。人間大の魚に手足が生えている。鱗に覆われた魚人だ。不気味で醜い容姿だが、闇の中でもほのかに青く発光する鱗だけは美しい。
魚人は声も立てずに口をバックリと開け、数十本の鋭利な牙をむき出しにした。
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と、そこで目が覚めた。
布団で寝ていた少女はガバッと起き上がり、寝ぼけまなこをこする。自分の部屋だ。
「何だ……夢かぁ~。びっくりした~」
ほっと安堵する少女。
だが、ふと見ると部屋に見知らぬ女性の姿があった。
その女性――第三の魔女・ケリュネイアは手にした鍵を少女の胸に突き刺す。
鍵は心臓を貫いたものの、少女はケガもせず死にもしない。これはドリームイーターが人間の夢を得るために行う行為なのだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
ケリュネイアはそう言うと部屋の窓を開けた。
驚きを奪い取られてしまい、布団にパタリと倒れ込む少女。その体が発光した次の瞬間、窓の外には少女の夢に登場した化け物の姿が具現化していた。
青い魚人の姿をしたドリームイーターは、感情が読めない無機質な目で辺りをぎょろぎょろと見回し、静かに夜の街を進んでいく。
少女は深い眠りに落ちている。ドリームイーターを倒さない限り彼女は永遠に目覚めることはない。
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「子供の頃って、あっと驚くような夢をよく見たりしますよね! 理屈は全く通っていないのですが、とにかくビックリして夜中に飛び起きたりとか……そのビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われて『驚き』を奪われてしまう事件が起こっています!」
ヘリポートに集まったケルベロスたちの前で笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が説明を始める。
「驚きを奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた驚きを元にして具現化された魚人のドリームイーターが、事件を起こそうとしています。被害が出る前に対象を撃破して下さい!」
ドリームイーターを撃破すれば驚きを奪われてしまった被害者も目を覚ますだろう。
「なお、敵が使用する技は『鹵獲術士』のグラビティに準拠した技です」
ドリームイーターは相手を驚かせるのが好きなので、指定されたエリアの周辺を歩いていれば向こうから近づいてくるはずだ。
現場への到着予定時刻は夜になる見込み。夜なので人通りが少ないとはいえ、現場は市街地。何かしら人払いをしておくと安心して戦えるはずだ。
「街の人々を守るため、そして眠っている少女を救うため、ドリームイーターを撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
参加者 | |
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目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011) |
シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867) |
ココ・プラム(春告草・e03748) |
高原・結慰(四劫の翼・e04062) |
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247) |
屋川・標(声を聴くもの・e05796) |
八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128) |
「井戸に落ちるのは嫌だな……泳げないから」
闇色に染まった夜空を見上げながら、八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128)はけだるそうにつぶやく。
「脅かすだけなら笑い話で済みますが、デウスエクスとして人を襲う以上放っては置けませんな」
和服姿の据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)は、歩きながら付近にキープアウトテープを張っていく。
「ゆめはいつか覚めるものです。驚きを女の子に返してもらいましょう」
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)は周囲を見回しつつ、淡々とした口調で言った。
「怖い夢、ココもみちゃうときあるんだよ……それで、びっくりして目が覚めるの。でも、それが本当になって襲ってくるなんて、絶対嫌だもん……がんばってとめないと、だね……!」
ココ・プラム(春告草・e03748)は夜道を進みながら、きょろきょろ周りの様子を確認する。辺りの人通りは少なく、今のところは敵の気配はない。
「暗い夜道って怖いよね。見えないから、どこかに自分の知らない何かがいるような気がしたりするよね。僕もそういうことを思ってたから、わかるな」
屋川・標(声を聴くもの・e05796)は穏やかに微笑む。今は仲間と一緒だが、いつドリームイーターが飛び出してきてもおかしくない状況だ。敵が恐ろしいわけではないが、常に気は抜けない。
ケルベロスたちは周囲を警戒しながら歩いていく。
「魚人……何だかその単語を聞いた時点で、生臭い相手な気がしてくるけど……気のせいであって欲しい。切実に」
高原・結慰(四劫の翼・e04062)は静かにつぶやく。その背には色の異なる鮮やかな翼が四枚生えていた。
その後もしばらく付近を歩き回ったものの、ドリームイーターは出てこない。
ケルベロスたちは周囲の人払いを済ませた上で、見通しのいい場所で敵を待ち伏せすることにした。
そして数分ほど経った頃、ようやくドリームイーターが現れた。
淡く光る鱗に包まれた魚人がゆっくりと歩いてくる。やはり生臭い魚の臭いが漂ってきた。
「さてさて、れっつお魚さん三枚おろしですね」
シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867)は剣を抜き、しゅびっ、と振って相手を威圧する。
「ひいっ!」
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)が仰け反って驚いたふりをすると、魚人はその大きな口を歪めてニヤリと笑った。
「……なんてな。いつでもかかってこい!」
そして真は振り返りざま、中指と親指をくっつけて『凍爆』を放った。
「空隙拡散。氷弾よ、大気を斬り裂け!」
氷の弾丸が飛び出し、仲間たちの光源を反射して宝石のように煌めく。まるで空気にヒビが入ったかのように、周囲に冷気の亀裂が走った。
出鼻を挫かれた魚人は一瞬怯んでしまった。
その隙に、シェナと真介は片手を振り上げ、スターサンクチュアリを発動する。輝く星座が夜空に浮かび上がり、前衛と後衛の異常耐性をそれぞれ高めていった。
魚人は気を取り直して駆け出してくる。
ココはしっかり狙いを定めて鎌を振り上げ、遠距離から投げつけた。くるくると回転する鎌が魚人を切り裂き、そしてブーメランのようにココの手元へと戻ってくる。
手ごたえはあった。鱗は硬いが、あれで衝撃を全て吸収することはできまい。
魚人は片手を突き出し、青々とした水流を放射した。
「ぴっちぴちーのおっきなお魚さんに手足がはえて、 ひたひた歩いちゃうなんてとってもホラーでびっくりです、うふふ」
シェナは迫りくる水流を剣で両断しつつ、『闇穿つ光条』を発動する。
「ささっともとの井戸に押し込んでフタしちゃいたいですね。でもこのあたりには井戸なさそうですね、マンホールがいいです?」
シェナはニンマリと笑い、剣の柄から片手を離すと、手の平に小さな光弾を生成して打ち出した。
プリズム光を放つ星のような光弾が、火花を散らして炸裂する。光が飛散し、敵に麻痺を与えていく。
「赤薔薇……みんなを守ってください」
一方、瀬乃亜はテレビウムに指示を出して前衛にぴたりと張り付かせる。
それから瀬乃亜は破鎧衝を放った。
鋼に覆われた拳から繰り出される強烈な一撃。魚人は両腕を掲げ、瀬乃亜の拳を何とか受け止める。そのまま互いの力が拮抗する。
「…………っ」
そこへ、真介は剣を振りかざし、魚人の足元に達人の一撃を叩き込んだ。片足に傷を負った魚人はバランスを崩してよろめき、頭から倒れ込んでしまう。
さらに畳みかけようと結慰が飛び出すと、魚人は起き上がって息を吸い込み、口から炎を吐いてきた。
火炎放射器さながらの業火が夜空を焦がす。反応が遅れて回避しきれなかったため、結慰はそのまま戦術超鋼拳を放った。
「何と言うか……ドリームイーターと言う存在が凄く節操無さ過ぎてね……」
結慰はオウガメタルをまとった拳を勢いよく突き出す。風圧と衝撃で炎の壁をこじ開け、彼女は敵のもとへと迫る。
「はぁ……メンドイ。早く片付けよう。うん」
生臭い臭いに顔をしかめつつ、結慰は鋼の拳をぐるんと振り上げ、豪快なパンチを魚人の顔面に叩き込む。
盛大に吹き飛ばされた魚人であったが、すぐに体勢を立て直すと、両手を掲げて巨大な氷の塊をいくつも出現させた。
数秒後、その氷の群れは後衛のケルベロスめがけて飛んできた。
唸りを上げながら飛んでくる氷塊に、ケルベロスたちは立ちすくむ。すると赤煙が素早く味方の前に飛び出していった。
「おっと残念、そこでストップです」
赤煙は両手を広げ、氷塊をみずからの体で受け止めた。被弾するたびに大きな氷が粉々に砕け散り、半透明の欠片が飛び散っていく。一撃が重く、油断すると意識が飛びそうになる。
「喝っ!!」
赤煙は叫びと共に口から炎を吐き出し、自身の傷を回復し、懸命に持ちこたえる。
「……驚きましたか? 驚かすのは貴方だけの専売特許ではありませんぞ」
赤煙は肩に張り付いた氷の残滓を手で払いのけ、なおも味方の前に立つ。
『行くよ、相棒!』
続いて標がスモーキン・サンセットを振り上げ、駆け出していく。そして距離を詰めると、そのスチームパンク風の機械仕掛けの斧を全力で振りおろした。
魚人は鱗に覆われた両腕を盾にして防ごうとしたが、受け切れずに後方に弾き飛ばされた。
その一撃によって鱗が剥がれ、ぱらぱらと宙に舞い上がる。青い鱗が闇の中をひらひらと舞う光景は、まるで青く色付いた桜の花びらのようだ。
舞い散る青を視界に捉えながら、標は相手の反撃を警戒し、再び斧を構える。普段から穏やかな標は、実のところあまり戦いが好きではない。だが、誰かを守るためには武器を取って戦わなければならない時もあるのだ。
「諸君、戦の時だ。参ろうぞ!」
真はブレイブマインを発動して色鮮やかな爆風を起こし、前衛の士気を高めていく。
人気のない静かな夜の街で、ケルベロスとドリームイーターの戦いは続く。
ケルベロスたちの傷は徐々に増えていったが、それ以上にドリームイーターのほうもダメージを負っていた。今や魚人の鱗は無残にも半分ほど剥がれてしまっている。
赤煙は敵の攻撃の合間をぬって、ハンマーを掲げる。するとその構造が変化し、内部から大きな砲口がせり出してきた。
赤煙は狙いすまして砲撃を放つ。大きな砲弾が路地で炸裂し、敵は爆風に飲まれていった。
もちろんこれで終わりではない。さらにシェナが畳みかける。
「もう十分ぴりぴりしてきたでしょうか?」
シェナは片手をかざしてドラゴニックミラージュを放った。辺りは煙に覆われているものの、敵の位置はおおよそ見当がつく。
竜の幻影が炎を吐き、路地ごと敵を焼き尽くす。
ケルベロスたちの猛攻を受けてもなお、魚人は立っていた。熱せられて赤く変色したアスファルトを踏み越え、魚人が駆けてくる。
「松、いくよっ!」
ココはミミックを前に出して相手を牽制しつつ、爆破スイッチに指をかける。
「眠りの世界に閉じ込められた女の子……また怖い夢の中にいるかもしれない……絶対に、かえしてもらうよ!」
ココは相手を挑発するようにぴょこぴょこ駆け回る。
そして魚人が自分のほうへ向かってくるのを確認してから、ココは爆破スイッチをポチッと押した。
周辺に設置された地雷が一斉に起爆し、連続して火柱が上がる。絶え間なく沸き起こる爆風が四方から魚人を押し潰し、飲み込んでいく。
「古井戸の物の怪……ふるい井戸の古い夢。ふるい夢は、現実にあらぬもの」
もわもわと煙が広がる中、瀬乃亜はテレビウムに味方をヒールさせつつ、片足を振り上げる。
「ゆめの世界に、お帰りくださいね」
瀬乃亜は片足に炎を宿し、くるりと宙返りをしてグラインドファイアを放った。彼女のゆらめく髪と同色の赤々とした炎が飛び出し、魚人の体で弾けて火の粉を散らす。
「――っ! みなさん、気をつけてください」
何かに気づいた瀬乃亜は、仲間にそう伝えて飛び下がる。
直後、魚人が炎を吐いてきた。
真はその炎をもろに受けてしまったが、ナノナノにハート型のバリアを発生させ、辛くも凌ぐ。
「こんなナマモノに後れをとってなるものかよ! 今すぐタタキにしてやる。覚悟しろ!」
真は拳を振り抜いて破鎧衝を放つ。魚人の頬を思い切り殴打し、何とか一矢報いた。
「こう、見てると不安な気持ちになってくるが、鱗は綺麗なんだよな、不思議と……」
真介はぼんやりとつぶやく。魚人そのものは不気味だが、路地に散った青い鱗は闇の中でもほのかに光っており、なかなかに美しい。
「それにしても井戸に魚人か……狭いのに大変だな……いや、狭いからか?」
相変わらずテンションが低い真介は一本調子のまま言って、スターサンクチュアリを発動し、傷ついた後衛を立て直す。
だがそこを狙って魚人が水流を打ってきた。鋭い水流が真介の肩をかすめ、衣服に血が滲む。
「俺は大丈夫だ……このまま一気に片付けてくれ」
真介は負傷した肩を手で抑えつつ、さっと引き下がる。
そして標はその言葉にうなずきを返し、突っ込んでいく。
「これで終わりにする。頼んだよ!」
標は機械仕掛けの斧を打ちおろす。その刃は硬質な鱗をも切り裂き、魚人の片腕を両断した。
腕を失った魚人は動揺し、ケルベロスたちにくるりと背を向けると、一目散に逃げ出していく。
ケルベロスたちは一瞬ドキリとするが、結慰は冷静に言った。
「逃がさないよ。アナタが紡いだ歴史と世界は此処でお終い。壊劫は等しく滅びをもたらす。例え世界でも関係無く絶対に、ね」
結慰の背の白い翼がほのかに発光し、夜空から白い柔らかな光が降り注ぐ。そして結慰はその鈍い光を拳に集め、魚人の胸へと叩き込んだ。
その衝撃で、魚人の胸にぽっかりと大きな穴が穿たれる。
眩しい光が周囲を照らす中、魚人の体はボロボロと崩れ去って塵のように消えていった。
路地に散らばっていた青い鱗も同じように消えていく。
子供の夢から生まれた化け物は、そうして跡形もなく消滅していった。
敵の撃破を確認したケルベロスたちは軽く一つ息を吐く。
「オツカレサマ」
真は弓を構え、祝福の矢を次々と飛ばして周辺にヒールを施していく。
そのかたわらで、シェナも街の修復を手伝い始めるのだった。
「夢から生まれた怪物……ですか。そういえばココさん、あなたの夢はどんなものですか?」
「んー……ココの夢はねー……キレイで優しいおねーさんになること! 瀬乃亜ちゃんみたいな……」
瀬乃亜の問いかけに、ココは人懐っこい笑みを返す。
「ねえ、瀬乃亜ちゃんの夢は?」
「私の夢は……ううん……平穏な日々を保つこと、でしょうか」
ココが聞き返すと、瀬乃亜はそう言って、ほんの少し柔らかい表情を見せるのだった。
「ん……もう夜明けですか……」
赤煙は鱗に覆われた手を掲げ、朝日をさえぎる。いつの間にか空は白み始め、辺りは明るくなっていた。
その帰り道、ケルベロスたちは被害者の少女の家を訪れた。
少女は起きていたらしく、ケルベロスたちに気づくと窓を開けて顔を出した。軽く事情を説明したのち、標はこう切り出す。
「夜は怖いよね。でも大丈夫だよ。深呼吸をして目をこらせば、きっとね」
標は優しげな微笑みを浮かべ、小さな真鍮のライトを少女に手渡す。
お守り代わりの品を受け取った少女は、ぺこりと頭を下げてお礼を言うのだった。
「無事ならばそれでイイ。元気でな」
少女の無事を確認した真は安堵し、手をひらひら振って踵を返す。
ケルベロスたちは帰途につく。疲れた目に、やけに朝日が眩しく感じられた。
作者:氷室凛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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