ミッション破壊作戦～光の小剣に宿りし魂

■リプレイ

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　市川駅上空。
「ええと……ごめんなさい、今日はなんの集まりでしたかしら」
　シフォル・ネーバス（アンイモータル・e25710）は、相変わらず物忘れが酷いのか、おっとり首を傾げた。
「わたくしどうしてここにいるのでしたかしら」
　漆黒の髪と橙色の瞳を有し、豊かな胸を包む蠱惑的な衣装と金属性の扇がよく似合う、色っぽい美少女ヴァルキュリアのシフォル。
「お昼ご飯はまだなのですかしら……」
　色っぽい美少女なのだが、見た目に似合わぬ素の言動が大変残念だ。
「何言ってんだ。一昨日……じゃねぇ、さっき食っただろカップ麺！」
　思わず、神居・雪（はぐれ狼・e22011）がビシッと手刀付きでツッコむ。
「いいか、グラディウスで強襲したら、さっさと邪魔な敵を倒して撤退だ。ちゃちゃっと片づけて帰るぞ」
　雪は、仲間達へ今一度作戦の大まかな流れを確かめるや、グラディウスを手にヘリオンから飛び出す。
　暗灰色に染めた髪と金の瞳のコントラストが印象的な、エゾオオカミのウェアライダーの少女。
　意外と寂しがり屋な一面もあるらしいが、その鋭い眼光からは強い意思が看て取れた。
「地球と地球に根ざす命を守るまたとない好機だ。……グラディウスを得た天の時、高高度からの強襲という地の利」
　樒・レン（夜鳴鶯・e05621）は静かな風情で眼下を眺めていたが、その内心は意欲に溢れていた。
「そして仲間と力を合わせグラビティを放つ人の和がある……ならば必ず為せるはずだ」
　黒い忍び装束を身に纏う螺旋忍者で、日頃から強くありたいと願い鍛錬を重ねる求道者。
「この忍務、必ず成し遂げよう」
　ヘリオンから降下する瞬間、レンは精神を研ぎ澄ませる為か、目を閉じた。
「エイド、頑張りましょう。オークの守る強襲型魔空回廊の中では、他より強固らしいけど、皆で力を合わせればきっと……」
　ラズ・ルビス（祈り夢見た・e02565）は、桃色の救急箱に見えるミミックのエイドへ話しかけ、一緒に宙へと足を踏み出す。
　ナースキャップ風のヘッドギアと白いエプロンドレスがよく似合うウィッチドクターで、性格は常に冷静沈着。
　丁寧な物言いと乏しい表情から冷たく素っ気ない印象を与えがちだが、その実、他者の生存を第一に考えて行動する、心優しき元ダモクレスである。
　一方。
　妹島・宴（彼岸の契り・e16219）は、日頃無表情な彼には珍しい程の剣呑な目つきで下界を睨みつけてから、勢いよく床を蹴って外へ。
「かけら、仇は討って来ますからね」
　とは、飛び降りる直前、ヘリオンの操縦席にて小檻をぎゅっと抱き締めた際に、彼が囁いた言葉。
　無表情で落ち着いた物言いの宴が、普段は見せぬ根の熱い部分を表出させる、珍しい機会かもしれない。
「あらあら、宴ちゃんも男のコねぇ♪」
　チェシャ・シュレディンガー（凸凹不偏な能芯套・e27314）は、親しい仲間の様子に目を細めたが。
「……でも、宴ちゃんの中でかけらちゃんがどうなってるかは……考えない方が良さそうね」
　と、洩れ聞いた仇の単語にいささかヒいてもいた。
　自由人で気分屋、オネエ喋りで女子力も高いときている美青年のチェシャ。
　性質は、妖しい笑みを振りまく快楽主義者と、狡猾な現実主義者の面を併せ持つ。
「それじゃいっちょやりましょうか♪」
　チェシャは気負いのない飄々とした空気を崩さぬまま、グラディウス片手に空へと躍り出た。
　他方。
「よっしゃ、皆頑張ろうな！！　オレもできる限りのことはするからよ！！」
　レテイシャ・マグナカルタ（自称遺跡探索者・e22709）は、グラディウスを両手でしっかりと握り締め、気合を入れた。
　孤児院の経営を助けたいとの想いや自らの遺跡探索への憧れを満たす為に、以前はトレジャーハンターをしていたレテイシャ。
　そのせいか性格は豪放磊落、それでいて孤児院の子ども達との絆を大切にする、家族思いな鎧装騎兵である。
「これ以上オークどもの好きにゃさせねぇ！　行くぜ！！」
　勝気なレテイシャは、豊かな金髪と立派過ぎる爆乳を揺らしつつ、決然たる態度で降下していった。
「ふぅん、これがグラディウスね。持った感じ、すごく手に馴染むけれど、兵器であって武器ではないのは、少し残念ね」
　と、光の小剣グラディウスを物珍しそうに眺めていたのは、夜澄・葉月（殺神衝動・e08282）。
　紫の髪と緑の瞳を持つドワーフの少女で、惨殺ナイフの二刀流を駆使して戦う黒ずくめの刀剣士。
　目深に被った黒いフードの下に、いつも笑顔を浮かべているのが印象的だ。
　凶暴な殺人衝動を飼い慣らす葉月だが、普段は——飄々とした態度こそ取るも——至って女性らしい口調で話す常識人でもある。
　葉月はひらりとヘリオンから空中へ跳んで、事もなげに降下していく。

●
　８人はグラディウスの刃を下に向け、今回こそ強襲型魔空回廊をバリアごと破壊せんと、強い寒風に晒されつつも落下速度の乗った突撃をかける。
「女の敵め……。これ以上、てめぇらの好きにさせて堪るかってんだよ！！ 」
　雪の叫びはシンプルながらも、オークに対する女性らしい嫌悪感をまざまざと示した一言。
　グラディウスの刀身へもグラビティが次第に蓄積され、雪の見舞った一撃は、魔空回廊のバリアへ新たなヒビを加えた。
「我が身、既に鉄也。我が心、既に空也。——なれば我は魔を祓う掃鬼の刃とならん！」
　レンは、古の偉大な先達の言葉を口の中で唱えて精神を集中。
「天魔！　覆滅！」
　そして、カッと目を見開いた刹那、グラディウスを抜き払って一閃を放った。
　だが、レンは根本的にグラディウスへのグラビティの溜め方を勘違いしていたのか、明確な魂の籠らぬ言葉にグラディウスは共鳴せず、バリアへもダメージを与えられなかった。
「前回、討ち取れなかったのが悔しくて悔しくて、堪らなかったんですよ……」
　ゴゴゴ、と不穏かつ禍々しいオーラを背後より立ち上らせつつ落ちてくるのは宴。
「そりゃあそうでしょう。想いを寄せている女性に、あんなことやこんなことをされて！！」
　彼が目を血走らせて叫んだ瞬間、グラディウスはあっという間に大量のグラビティで満たされていく。
「黙っていられるほどぼくは冷血ではありませんのでー！！！」
　小檻がオークに痴漢された末、貞操まで奪われたとしても、全て宴の妄想だ。
　妄想に過ぎないのだが、オークに対する激怒の理由としては、非常に解り易い。
　それ故、宴のグラディウスによる渾身の斬りつけは、魔空回廊のバリアへ大きく確かな亀裂を齎した。
「地球を守るため、奪われた地の安寧を取り戻すため、わたくしたちの手で強襲型魔空回廊破壊させていだたきますわ！」
　シフォルは降下中にやっとしゃきっとした様子でグラディウスを構えるも、
「あ痛っ！？」
　結局、顔面からバリアへ激突してしまい、グラディウスによる攻撃をミスってしまった。
　そもそも、シフォルが顔面突撃せずとも、彼女の叫びにどれだけの魂が篭っていたのか——あまり期待の出来ない、通り一遍の言葉であった。
　お昼ご飯を食べ損ねた思い込みによる不満でもぶつけていれば、また結果は違ったかもしれないが——。
「人の住む地には、人の想いが宿るものです……ましてや、昔から栄えた地ともなれば、尚更に」
　その積み重ねられてきた想いが、まるで、踏み躙られているようで……。
　ラズは、強襲型魔空回廊を哀しそうな眼で見据え近づいていく。
「……元々がダモクレスであったからこそ、私は……デウスエクスによって地球が侵略されている現状を、捨て置くことはできません」
　小剣グラディウスへなみなみとグラビティが注がれるのは、それだけラズの贖罪にも似た想いの深さが、グラディウスへよく伝わったからだろう。
「どうか、この一撃がこの地を、この世界を照らす、一助となりますように……！」
　ガキィン！
　珍しく声を大きく上げたラズの一刀は、限界まで充ちたグラビティの力が惜しみなく発揮され、強襲型魔空回廊を覆うバリアへ深く長い亀裂を残した。
「全く……オークってホントに女の敵よねぇ……」
　と、オネエ言葉で長い溜め息をつくのはチェシャ。
「コイツらの被害がウチの彼女に及ばないとも限らないし、害虫は駆除しとくに限る……ぶっ壊れなさいッ！！」
　チェシャが胸に抱く恋人を心配する気持ちは、このオーク蔓延る千葉県市川市ならではの忿懣だ。
　だからこそグラディウスへも思いは通じて、刀身にどんどんグラビティが溜まっていく。
　ビシッ！
　浴びせた一撃は、魔空回廊のバリアをしっかりヒビ割れさせた。
「何の因果か関わる事が多くて果ては囮で攫われた事もあるけどよ……」
　レテイシャはふと目を瞑って、これまで遭遇したオークの数々を思い出す。
　いつも勝気な性格と使命感で乗り切ってきたが、女としての危機感や恐怖心が決して無かったわけではない。
　むしろ、毎度毎度貞操の危機に瀕していて、正直もう関わりたくないと言うのがレテイシャの本音である。
　しかし、かような本心あればこそ、同じ目に遭う被害者を想えば背を向ける事など出来ず。
「テメェ等に嬲られる為に女やってんじゃねぇんだよオレ達はよ！！　サカるならテメェ等同士でヤリあってやがれ糞オーク供ぉっ！！！」
　レテイシャの怒号に魂が篭っているのは、もはや厳然たる事実。
　バキャッ！
　バリアをズブリと貫いて突き立てたグラディウスは、グラビティを十二分に湛えていて、強襲型魔空回廊に一番目立つ損傷を生んだ。
「神殺しこそ私の宿命、衝動、願い——それはそれとして、私としてもオークには嫌悪感があるの」
　葉月は内なる衝動をぶつけるかの如く、簡潔ながらも強い意志の感じられる大喝を発する。
「さあ、奪われる痛みを、思い知るがいいわ！」
　グラディウスも葉月が吐露したオークへの憤りに呼応して、その刃がグラビティの光で覆われていく。
　葉月の見舞った一閃も、雪やチェシャ同様、バリアへしっかと刀傷を刻みつけた。
　——バリバリバリバリバリ！！
　ケルベロス達の突き立てたグラディウスは、眩い光を放つと共に強襲型魔空回廊のバリアへ亀裂やヒビを刻んで、更に爆炎や雷光を広範囲に生じさせた。

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　暴れ狂う炎と雷が痴漢オーク達を烈しく打ち据えて次々倒していく中、ケルベロス達は駆けた。
「ええと、ごめんなさい、ここどこでしたかしら……わたしのお家はどっちですの……?」
「市川駅ですけど……このスモークではどっちに行けば良いのか。多分こっちっす！」
　戸惑うシフォルを撤退経験のある宴が先導して、濃霧のような爆煙を潜り抜けて走る。
　今回はアイテムポケット係が敵にやられる可能性を考慮し、グラディウスを纏めるのは強敵討伐後と決めていた。
「貴様らブヒか！　痴漢プレイの楽園を脅かす奴はッ！」
　以前倒したのとは別個体のオークアサシンが、８人の前に立ちはだかる。
「邪魔する奴はお仕置きしてやるブヒ！」
　オークアサシンはニタリと嫌らしい笑みを浮かべて、６本の触手を伸ばしてきた。
「くっ！」
　葉月を背中で庇った雪が何本もの触手へ絡みつかれて、罠にかかったかの如く身動きが取れなくなる。
「――っ、このっ……人の身体を好き勝手触ってんじゃねぇよっ！」
　しかし、雪は絡みつく触手のぞわぞわした感覚を振り払うように大声を出すと、オークアサシンの構造的弱点を見抜くべく高速演算を始めた。
　そして、しかと見極めた背中へ痛烈な一撃を繰り出して、触手の根元を支える分厚い贅肉を破壊する。
　ライドキャリバーのイベタムも激しいスピンを起こして滑り込み、オークアサシンの足を轢き潰した。
「この後に及んで痴漢プレイや女性専用車両の話とは、全う醜き也」
　黒い覆面から覗く眉を顰め、古風な言い回しで嘆くのはレン。
　己が分身のちらつく幻影を雪へと纏わせて、怪我を癒すと同時に縛めを解いた。
「全く、可哀想に……乙女の柔肌を触手で……必ず冥府に送らないと」
　到底怒り冷めやらぬ様子の宴も、ライトニングロッドをオークアサシンへ向けて振りかざす。
　杖の先端より迸り出た雷が、オークアサシンの全身を焼き尽くし、鈍い痺れをも残した。
「ハウリングフィスト！」
　シフォルはやる気満々に叫ぶや、何故だが身軽に跳び上がり、両の足裏を揃えてドロップキックをお見舞いする。
　電光石火の蹴りでオークアサシンの下腹部を貫き、激痛を与えたのは良いのだが——これは紛れもない旋刃脚。ハウリングフィストではなかった。
「人々の平和を脅かしているのは、貴方達の方です……！」
　ラズは抑揚のない声に戻るも、毅然とした態度で言い放つや日本刀を抜く。
　そのまま緩やかな弧を描く斬撃を繰り出し、オークアサシンの手足の腱のみを的確に斬り裂いた。
　エイドも彼女の意思に忠実にオークアサシンへ肉薄、腹へ歯を立て噛みついている。
「ナイスよラズちゃん！」
　チェシャは仲間へ明るく声かけしつつ、魔導書を開く。
「これでも喰らってなさいなッ！！」
　招来した『混沌なる緑色の粘菌』をオークアサシンへけしかけ、その太った肉体に侵食させて悪夢を喚び起こした。
　戦闘が始まって１分。
「んああっ、やめろこの……あぁんっ！」
　体中を這い回るオークアサシンの触手に胸を揉まれて、我知らず甘く喘ぐレテイシャ。
「やめろ……っつってんだろ！」
　それでも湧き上がる快感に耐えて、オークアサシンへ重力宿りし飛び蹴りを炸裂させた。
「どこまでもどこまでも深く、氷に抱かれなさい」
　葉月は惨殺ナイフに氷の呪力を込めて投げ放つ。
　正確な狙いで吸い込まれるように飛ぶナイフは、オークアサシンの丸い腹を突き刺し、真っ赤な血に染め上げた。
「ちっ、分かっちゃいたが、オークの癖に厄介な奴だ」
　獣撃拳をオークの胴へ叩き込みながら、雪が舌打ちする。
　イベタムは炎を纏って突撃をぶちかました。
「あなたがたに辱められた女性の悔しさと絶望感、怒りと苦しみを。痛みに変えて味わわせて差し上げます……♪」
　怒り心頭に発した宴はにっこり笑うや、雷の霊力宿した紫電にてオークアサシンへ神速の突きを見舞う。
「ふっ、うぁっ……あぁぁん！」
　レテイシャは、太ももを割り開き股間まで入り込む触手の魔の手に身悶えるも、
「捕まえて殺された仲間の倍の数孕ませてやる！」
　必死の形相で足をバタつかせ、炎纏いし激烈な蹴りを喰らわせた。
「斬って裂いて舞い踊れ！　狂った悪魔の狂った刃」
　チェシャは斬り裂き魔の兇刃を召喚、幻影と共に踊らせてオークアサシンを斬り刻む。
「……これで誰かを、救えるのならば」
　最後は、ラズが素早いメス捌きで、病魔を呼び寄せる刻印の施術を執刀、遂にオークアサシンを死に至らしめた。
　後は痴漢オーク達が態勢を立て直すまでに逃げ仰せるだけ。
「あー、くそっ……ぬるぬるして気持ち悪ぃ……早く帰ってシャワー浴びてぇ……」
　雪が走りながらぼやいた。

作者：質種剰	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月10日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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