数の暴力! 多数決的勝利宣言?

作者:あずまや

 ガイン、と柔らかい金属がヘコむ音がした。
「アー」
 ドラム缶のようなロボットが、光る眼をキョロキョロとさせている。
「モウムリ」
 どうやら近くにいたケルベロスの一向に自ら突撃したが、あっけなく返り討ちにあってしまったようだ。
「ジバクシマス」
「え?」
「3ビョウマエ、2、1……」
「わ、ちょ、ちょっと待ってっ!!」
 ダモクレスのカウントダウンに焦り、ケルベロスたちは身を引いた。直後、パァンと軽い音がして、真っ赤なドラム缶ははじけ飛んだ。
「とりあえず、撤退しよう……この数が一気に自爆したら、さすがにただではすまない」
 ケルベロスたちはそう言って、現場を後にした。
 寒風吹きすさぶ中取り残されたダモクレスの1体がぼつりと口を開く。
「フカオイハ、ムヨウ」
 それに続けて、だれがだれかも分からない彼らは、次々と口を揃えて言った。
「ソウダソウダ」
「キヲミテ、テキカクニ、ゼンメツサセル」
「ソウシヨウソウシヨウ」
「カズノウエデハ、マケルハズガナイノダ」

 高松・蒼(にゃんころヘリオライダー・en0244)はこたつに両脚を突っ込んでいる。
「こう寒い日が続くのに、デウスエクスは嫌にならへんのやろか。俺なんかもう外に出るのもしんどいわ。トイレにさえ立ちたない……」
 あー、と小さく震える声を挙げた。
「指揮官型ダモクレスの地球侵攻が始まってしまったらしい……俺もこんなとこで縮こまってる場合と違うんやけど……寒いのは苦手なんや……」
 蒼は「おお、さぶ」と呟いて、それでも何とかこたつから逃げ出すことに成功する。
「指揮官型ダモクレスのうちの一体、マザー・アイリスは、ケルベロスとの戦いのために試作機を戦場に投入しているらしい。試作機の名前は『量産型ダス』。こいつに別のミッションが終了した後のケルベロスたちが襲われてるみたいなんや。数でゴリ押ししてくるタイプの敵に、こちらも少なからず被害が出ている。一刻も早く、全機撃破して欲しい」

 蒼は両腕で自分の体を抱いている。
「ダスは廃墟になったビル街に固まって潜伏していると思われる。最後の報告がその辺なんや。そこにケルベロスのみんなで強襲をかけて、一気に倒したれ、って算段やな。うまく裏を取られんように、見つけてボコボコにしたってや」
 蒼は耐え切れず、もう一度こたつに潜り込んで、ああ、とため息をついた。
「基本的に奴らの攻撃は単純で、目からビームのようなもんを出すか、体当たり。そんで、体力が限界に近付いたら、自爆するっちゅう作戦らしい。数が増えたら厄介やけど、1体1体は雑魚も雑魚。自爆だけは強力らしいから、そこだけは気ぃつけてや」

「……ダスは、試験機だからこその危険もある。いきなり性能がバチンと上がっていたり、武器がまるっきり変わってるかもしれへんからな。ただ、所詮は数で押すだけの性能しかない。百戦錬磨のみんななら、油断さえしなきゃ何てことはないはず。それじゃあ……見せてもらおうか、ダモクレス製のダモクレスの性能とやらを」
 蒼はニマっと笑った。
「俺、一度こんなん言ってみたかってん」


参加者
ゼロアリエ・ハート(壊れかけのポンコツ・e00186)
玖々乱・儚(罪花喰らい・e00265)
竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)
祝部・桜(残花一輪・e26894)
西城・静馬(創象者・e31364)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)

■リプレイ

●クズ鉄と呼ばないで
 祝部・桜(残花一輪・e26894)は隊列の中央で、手にした地図を右に左にぐるぐると回転させ、目の前の建物を見上げている。
「残すはここだけですが……ここにいるのでしょうかね?」
「どうだろうねぇ」
 対照的に、風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)はぴったりと地図を持ったまま、あたりをきょろきょろと見回した。
「地図の上で、やつらがいるところが光りゃあええのにのう」
 竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436)とは2人の地図をのぞき込んで、「どれ」と言った。そして足音もなくビルの中へと入っていく。西城・静馬(創象者・e31364)がそれに続いた。
「本当にこのビルで合ってんのかよ」
 先頭に立っているアンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)は小さくため息をついて、振り返る。ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)は「もうここしかないのですから、ここなのでしょう」と言った。
「俺はコソコソやるのはキライだね」
 ゼロアリエ・ハート(壊れかけのポンコツ・e00186)は顔をしかめる。
「どーんとぶつかって、バーンとやる、どう?」
 彼のテレビウム、トレーネにそう言うと、トレーネは、つん、とそっぽを向いた。
「仲良くやりましょう?」
 玖々乱・儚(罪花喰らい・e00265)が自身のテレビウム、てれを撫でて苦笑いした。
「みなさん」
 静馬が建物の奥にある柱の陰から顔を覗かせた。そして「見つけましたよ」と手招きをする。

●奇襲成功?
 一つの部屋に固まっていたダスは、ケルベロスたちの到来をまるで予期していたかのように、落ち着き払っていた。
「キタカ」
「オロカナヤツラメ」
 機械音声がケルベロスたちを刺激する。
「ワレワレノ『カズノボウリョク』ノマエニ、キサマラハムリョクダ」
「どうかのう?」
 一刀とゼロアリエが、ケルベロスたちにサークリットチェインを施す。
「噂によると、相当弱いらしいじゃないか?」
「ナニヲバカナコトヲ」
 ダスの1体が、目からビームを放つ。
「おわっとぉ!?」
 錆次郎はその光線を避けた。光線はビルの壁に当たると、ジュッという音を立てて焦げ跡を残した。
「コワイカ?」
「……いえ……」
 ドゥーグンは小さく首を横に振って、意識を集中する。
「その背に打ち寄せる、仰望の波を感じますか?」
 彼女がそういうと、クラッシャーたちに力がみなぎっていく。
「ソレナラバ、コレハドウダ」
 別の1体が、桜に向って突進してくる。彼女はルーンアックスを構え、のそのそとやってくるダスに向って、思い切りそれを叩きつけた。
「グアア」
 わざわざそのために作ったとしか思えない効果音が鳴り、ダスの外装が完全に壊れた。厚さ2ミリほどしかないペラペラの板金は、量産型の悲しさである。
「……モウムリ」
「えええ!」
 儚は慌てて声を荒げる。
「そ、そんなに弱いのか!?」
「ジバクシマス……3……」
「退避っ……!!」
 アンナの声に合わせるように、ケルベロス全員が一斉に後ろに駆け出す。
「2……」
 まだ無事なダスたちも、ガチャガチャと音を立てながら部屋の隅へと移動していく。
「1……」
 全員に取り残されたダスが、部屋の真ん中で炸裂した。炸裂したドラム缶の上部が天井を突き破り、コンクリートの塊がダスの残骸を埋めた。
「……これは確かに、一撃でももらったらヤバそうだな」
 ゼロアリエはその光景を見ると小さく笑って、「でも、面白そう」と言った。
「お前、正気か」
 アンナはジトっと彼を見たが、「まあでも、怖気づくよりはマシか」と自らを納得させた。彼女は全身のしなやかな筋を躍動させ、吠える。
「シビレルゥ……オオオ……」
 魔力の乗った空気の振動がドラム缶型の彼らの体を揺らす。さらに彼らが近接しているために共鳴し、ガタガタガタガタと震える音が聞こえる。
「これくらいの攻撃なら、大丈夫でしょうか……」
 彼女は大槌を構え、アイスエイジインパクトを放つ。一番手前にいたダスに一撃が当たる。ばんっ、と軽い音がして、上から衝撃を受けたダスが半分ほどの高さになる。
「モウ……」
「……これだけで……?」
「3……」
 敵のあまりの弱さにやや気後れするドゥーグン。ダスたちが、今度はケルベロスたちのほうに向かって退避行動を行う。わさわさとやってくるダスたちを尻目に、桜が手をすっと伸ばす。
「ゆめ忘るるな、八百万の憾みぞある」
 彼女の手にいくつもの手が絡み合い、大きな爪となってカウントを始めたダスを切り裂いた。ダメージを負ったダスは散り散りに砕けたが、音声パーツがカウントを止めない。
「2……」
「なっ……?」
「危ないっ!」
 アンナが桜に覆いかぶさるようにカバーに入った。
「1……」
 2人と分解された音声パーツとの距離はわずかに2メートルほど。爆風の影響は爆発中心に比べれば弱いが、速度を持って飛んでくるドラム缶の残渣が彼女たちの体に浅い傷を幾つもつける。
 まだほぼ無傷な――とはいえ一部はさっきの共鳴で回路に異変が生じているのか、赤いランプが右に左にと動いているが――8体のダスたちが、「コワイ」「ジバクコワイ」とケルベロスたちのひざ元で口々につぶやいている。
「ここで斬ってしまっては、ひどいことになるだろうのう」
 一刀はケルベロスたちに目配せをして、アンナと桜がうずくまっている方向を指差した。ダスたちを置いて、今度はちょうど陣を入れ替えたような形にするのだ。
「大丈夫ぅ?」
 まっさきに二人に駆け寄ったのは錆次郎だった。
「さぁ、傷を見せてねぇ? 大丈夫、痛くしないからねぇ?」
 桜はがくがくと首を横に振って「わ、わたしは大丈夫ですっ!」と言った。
「そぉ?」
 彼はそういうと、アンナの脚の傷を見た。
「浅いけど……痛そうだなぁ……治してあげるよぉ……デュフフフ……」
 儚は首をかしげて「いやあ、錆次郎さんは治療の腕はいいんですが……見ていて『警察を呼ばなければ』って気になるのは、なぜでしょう?」と言った。
「うーん……まああ、深く考えるのはやめたほうがよさそうですわね」
 ドゥーグンは苦々しく笑って、ライトニングロッドを構えた。
「それよりも、どう思います、あの弱さ」
 静馬は震えている赤のドラム缶を見やった。
「ここまで弱いと、ただの情報収集機の可能性が高い……対ケルベロスほどの性能はないと言っていい。だが」
 残りの数を、1、2、3と数えていく。
「8体が同時に爆発した場合、その爆発力は単体の2倍くらいにはなる……最低でもさっきあの2人が食らった程度の爆風にはなる。それを考えると、まだ今のところは各個撃破が最良だろう」
 静馬は日本刀を構えた。儚は「確かにそうですね」と言った。
「もう1つ、さっきの攻撃で分かったことは、3カウントが始まってしまったら、どうあれ必ず起爆するということ……つまり、自爆のカウントが始まったら、そのときは退避するしかないということです」
「んー」
 ゼロアリエが頭を掻くと、右腕を覆うオウガメタルがきらりと光る。
「よくわかんねえけど、要は1体ずつ倒してごちゃごちゃ言ってきたら逃げる、ってことでいいの?」
 トレーネががくりと頭をうなだれた。
「……まあ、平たく言うとそうじゃの」
 一刀が体にオーラを纏わせる。

●爆発祭
 先陣を切って攻撃を放ったのは静馬だった。彼は一気に間合いを詰め、ドラム缶の表面を軽く撫でるように切った。露出した内部には、小さな音声発生装置と、それにつながった爆破機構が存在する。
「アア」
 小さくダスがうめく。
「ジバクシマス」
「離れろ」
 静馬はその声に応えるように、左手でケルベロスたちを押しとどめ、自らも身を引いた。
「3、2、1……」
 これまでと同じ規模の爆発。量産型だけあって、個体による強さに大きな差はないようだ。天井が再び崩れて落ちる。これで穴の個所は2つ……。
 一刀はぽっかりと空いた穴を見上げる。
「あまり、ばらばらと穴を開けんほうがいいじゃろうが」
 行動、思考ルーチン、そして攻撃力も防御力も、すべてが等しい『量産型ダス』。彼らは攻撃を受けた地点から一番遠いところへ向けて、基本的に後退する。だが、壁際では反対方向へ逃げるため、結果的にケルベロスの元へと来てしまう。
「仕方ないのう」
 彼は迦楼羅舞いを放ち、自分の足元にいた1体を撃破する。ケルベロスが逃げるのに合わせて、ダスも逃げる。もはや敵なのか味方なのかもわからない状況だが、確実にダスの数は減っていく。
「なんだか、おかしいわね」
 ドゥーグンがライトニングロッドをふるうと、ダスに大きな風穴があく。
「なにが?」
 楽しそうにゼロアリエが脚撃でドラム缶をへこませる。
「……さっきから、ダスが攻撃してこないと思わない?」
「ギクゥ」
「なんだい、いまのわかりやすい効果音はぁ」
 錆次郎がにたーっ、と笑った。ダスたちが互いの顔を見合わせる。
「ベ、ベツニワレワレハ、カクシゴトナド」
「しているのですね……」
 儚がエクスカリバールで薄い装甲を叩き破った。
「ジバクシマス……」
「ヒィィィ」
 ビープ音をあげながら、ダスたちがまた逃げ惑う。
「お仲間のお返しだ」
 アンナは旋刃脚を放ち、逃げてきたダスの1体を、カウントダウンしているダスの元へと蹴り返した。
「ウワァァァ」
 チープな悲鳴の直後、これまでよりも少し強い爆風が吹いた。
「残り3体です、そろそろ一気に爆発させてもいいでしょうか?」
 桜がおたまを構える。
「私も、さっきのお返しをしないといけませんから」
 目が、笑っていない。
「いいんじゃないでしょうか」
 儚が少し考えてそう言った。
「今のが2体分の爆発力なら、問題ないでしょう」
「そうだな」
 静馬が一歩前に出た。
「ナノマシン全開――この手に宿るは、万物を遍く照らす理の光――刮目せよ、汝岩戸へ這入ることは敵わん、己が矮小さに平伏せ」
 まばゆい閃光がダスを粉砕する。桜がダスたちの懐に飛び込んで、おたまで装甲を突き破る。逃げ場を失った最後のダスを儚の激情惨種が捉えた。ダスの身体は見る間に茨に包まれて、緑色の植物体のようになった。そして、最後のワンカウントののち、茨もろとも、すべてが跡形もなく吹き飛んだ。

●ダスの残骸
 錆次郎がせっせと、天井にヒールをかけている。
「さすがに傷みが激しいねぇ……やっぱり、どっかんどっかんやりすぎたんだよぉ」
 そうは言いながらも、彼は職人のような素早い手つきで、どんどん天井の穴をふさいでいく。ゼロアリエは彼を見て、「いいじゃん、楽しかったし!」と笑った。
「しかし、変なやつらだったな」
 アンナが残骸を足でかき集めたあと、しゃがみこんでじっとそれらをのぞき込んだ。まだ電撃が走るパーツもある。
「これくらいの基盤では、ビームも一発が限界、体当たりもあの速度で精いっぱいでしょう」
 儚がじっと部品をみて、そう言った。
「あれほどの数で性能がアップしたら、手に負えんな」
 一刀がうつむいてそう言った。ドゥーグンはそれに、「まったくですわね……」と返した。
「おかしいですね」
 そう言ったのは、静馬だった。
「何がですの?」
 ドゥーグンの質問に、アンナと同じようにしゃがみこんでいる桜が「マイクもカメラもないのです」と答えた。アンナは彼女のことばに顔を向け「マイクとカメラ?」と聞いた。
「ええ」
 静馬は立ち上がる。
「試作機なら、試験データを持ち帰るための記録媒体か、もしくは電波でそのデータを送信するための装置があるのが普通かと」
「それが、ないんですか?」
 儚がじっと残骸を見て「ああ、本当だ」とつぶやいた。
「……それじゃあ、この試作機の目的は……本当にケルベロスの討伐……?」
 困惑する一刀の背後で、ダスのパーツは未だ火花を散らしている。


作者:あずまや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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