ミッション破壊作戦~魂と共にその剣を振り下ろせ!

作者:陸野蛍

●8本のグラディウス
 大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、大きめのアタッシュケースを持って、ヘリポートに現れるとケルベロス達の前でアタッシュケースを開いた。
 その中には、8本のグラディウスが納まっている。
「御覧の通り、今朝、俺の手元にエネルギーが貯まり再使用が可能になった『グラディウス』が8本届いた。と言う訳で、これからミッション破壊作戦に向かうぞ!」
『グラディウス』は、ゴッドサンタを倒す事で手に入れた、長さ70cm程の『光る小剣型の兵器』だ。
 通常の武器としては使用出来ない代わりに、魔空回廊を攻撃して破壊する事が可能と言う優れものだ。
 通常の魔空回廊は、時間が経てば消失する為、グラディウスで破壊する必要は無いが、固定型の魔空回廊すなわち、日本各地の『ミッション』を破壊するには、グラディウスがとても有効な手段となる。
 各地の現在の拠点となっている『強襲型魔空回廊』を破壊出来れば、デウスエクスの地球侵攻に大打撃を与えられるのだ。
 但し、グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまで、正確な時間は分からないが、かなりの時間が掛かる。
 攻撃するミッションは、現在の状況などを踏まえて、しっかりと相談する必要があるだろう。
「強襲型魔空回廊があるのは、ミッション地域の中枢となる為、通常の方法で辿りつくのは難しい。場合によっては、敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もあるから、今回も『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行う。強襲型魔空回廊の周囲は、半径30mドーム型のバリアで覆われているから、このバリアにグラディウスを触れさせれば良い。だから、高空からの降下であっても、バリアへの攻撃は充分可能になるんだ」
 有力敵を狙っての降下は無理だが、全体を覆うバリアへの降下なら狙いを定めるのは難しく無い。
「具体的な方法な。8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事すら可能になる。一回の降下作戦で破壊できなくても、ダメージは蓄積するから、最大でも10回程度の降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊する事ができると思われる」
 どれだけ強固な『強襲型魔空回廊』でも数チームが数度攻撃すれば、必ず破壊出来ると言うことになる。
「強襲型魔空回廊の周囲には、強力な護衛戦力が存在するけど、高高度からの降下攻撃を防ぐ事は出来ない。グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させる。この雷光と爆炎は、グラディウスを所持している者以外に無差別に襲いかかる為、強襲型魔空回廊の防衛を担っている精鋭部隊であっても防ぐ手段は無い。みんなには、この雷光と爆炎によって発生するスモークを利用して、その場から撤退を行ってもらいたい。必ず『グラディウス』を持ち帰ることも作戦の目的の1つだからな」
 ゴッドサンタからもたらされたグラディウスは560本。
 将来的に大規模作戦も視野に入れるのであれば、1本として敵に奪われることがあってはならない。
「魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波で、ある程度は無力化出来る。けれど、完全に無力化する事は不可能だから、強力な敵との戦闘は免れない。幸い、混乱する敵が連携をとって攻撃を行ってくる事は無いから、素早く目の前の強敵を倒して撤退出来る様にしてくれ。時間が掛かり過ぎて、脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合、降伏するか暴走して撤退するしか手段が無くなる恐れがある。立ち塞がる敵だけを撃破して、その場からの即時撤退が望ましいってことだな」
『ミッション』の破壊と『グラディウス』を持ち帰る事を優先させるのであれば、無駄な戦闘をする必要は無いからだ。
「攻撃するミッション地域毎に、現れる敵の特色がある。攻撃する場所を選ぶ時の参考にするといいと思う。俺が責任を持って、みんなが決めた場所にヘリオンで運ぶから」
 戦闘力の無いヘリオライダーだが、出来得る限りの協力をすると、雄大は胸を叩く。
「グラディウスの力を最大限に引き出すのに必要なのは、その地域を取り返そうとする決意や、その場のデウスエクスを否定する魂の力。そして、熱い叫びだ! 気持ちがミッションを破壊する力の全てになると言っていい。だから、みんな、地球の未来の為にミッション地域の解放、頼んだぜ!」
 そう言うと、雄大はケルベロス達に向かって『ニカッ』と信頼の笑みを見せた。


参加者
ミシェル・マールブランシュ(白翼と雛鳥の護り人・e00865)
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)
ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)
天月・光太郎(いつかの果てを探して・e04889)
カール・クラフト(ガスマスクマン・e10510)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
一之瀬・白(符龍式八極拳・e31651)

■リプレイ

●三重県渡鹿野島
「……シャイターン……そして、エインヘリアル……連中の拠点に打撃を与えられれば、後々必ずプラスになる……」
 紫の瞳をギラつかせながら、天音・迅(無銘の拳士・e11143)がヘリオン降下口から勢いよく吹き込んで来る強風に赤髪を靡かせ、仲間に……そして自分に言い聞かせる様に呟く。
(「……今回は気のいい仲間にも恵まれた。絶対に成功させてえよな」)
 一度後ろを振り返り、頼もしい仲間達の顔を見ると、迅はニヤリと笑みを見せ、鉄板を蹴り宙へと身を預ける。
「わたくし達も参りましょう。『強襲型魔空回廊』を破壊成功させるのがわたくし達の使命で御座います。最善を尽くすと致しましょう」
 瞳の色を映さない機械の左目を前髪で少し隠し、モノクルを付けた漆黒の瞳には静かな決意の色を覗かせ、ミシェル・マールブランシュ(白翼と雛鳥の護り人・e00865)も続きヘリオンから飛び降りる。
 一人、また一人、空に8人のケルベロス達が舞っていく。
 高高度からの降下、ダメージこそ受けないがそれぞれの身体を強烈な風が吹き抜けて行く。
 眼下にハッキリと映り出す、デウスエクスのスレイブバザールと化した、渡鹿野島。
 ミッション地域と化したその場が近付くにつれ、青白の光の翼を広げる、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)の表情は不快気に歪む。
(「……気にいらないね。……相変わらず弱者を甚振るのが趣味なのか、シャイターン共は………定命化して、ようやくこの星に馴染んできたところなんだ……僕は。……もう一年になるのか……地球……割と居心地いいんだよね」)
 ヴァルキュリアであるアビスは、シャイターンの愚劣さ……忌々しさを良く知っていた。
 妖精8種属などと並べられることもあるが、アビスは嫌悪しか感じない。
(「……お前達みたいなのが居ると、ハッキリ言って……目障りなんだよね。……星や人の為とか……そんな大層な事言う気はないけど、でも……護りたいものがあるから……だから……」
「……さっさと消えてよ」
 言葉こそ熱を帯びずとも、アビスの拒絶の心はグラディウスに伝わると強い光となる。
(「……奴隷市。……デウスエクスがデウスエクスを売り捌き、己達の利益とするとは……なんと、おぞましい……!」)
 白き東洋龍のドラゴニアン、一之瀬・白(符龍式八極拳・e31651)はこの地で行われている、行為そのものが許せなかった。
 自身は齢11の人として言うなら、まだ子供かもしれない……それでも。
「そんな連中に好き勝手させておったら、この星はどうなる事か……想像するだけで虫酸が走るのじゃ……! 生命を生命とも思わぬ外道共に、好き勝手させる訳にはいかぬ……この地球から即刻出ていくがよい!」
 大きく振り被ったグラディウスに白の魂の色が伝わっていく。
「強襲型魔空回廊のバリア……一番槍は俺が行くぜ!」
 宙で体勢を整え、グラディウスを逆手に持った、天月・光太郎(いつかの果てを探して・e04889)が叫ぶ。
「この地で、奴隷売買とか、好き放題やってくれてるじゃねえか……テメェ等の世界じゃ、それも正しい行いかもしれねえが、ここでそんな通りは通させねえ! この場の全部の怒りも込めて―――この剣、叩き込ませてもらおうかぁ!」
『怒り』人間の感情の中でも、最もエネルギーを持つ感情……光太郎はその感情をグラディウスにありったけ叩き込み、バリアにグラディウスを突き刺した。
 次にバリアとグラディウスを拮抗させたのは、ガスマスクで素顔を隠した、カール・クラフト(ガスマスクマン・e10510)だった。
「ここらで、でけェ戦果上げて、一山当ててたいんでなァ! オレの明日のメシ代のためにくたばっとけやァッ!!」
(「制圧地域の開放に成功すれば、でかい報酬も出るに違いない……名前も売れれば、今後金稼ぎに役立つことは、間違いねえ!」)
 カールの想いは他のケルベロスとは異質なものと言っていいのかもしれない。
 自身の成功、自身の未来、自身の虚栄……並べれば自分本位と映るかもしれない。
 それでも、この場に番犬として赴いたからには、番犬としての報酬分の仕事はこなす……その仕事が、困難なものでも関係ない。
「ぶっ壊れろやァッ!」
「我は無銘なり、我が連撃は型を纏わず、我が乱撃は夢幻なり」
 不敵な笑みを浮かべながら、迅は自身の魂に刻み込まれた文言を口にする。
 迅は強襲型魔空回廊への拒絶の言葉より、自身の魂の力を集中力を最大限に高める言葉を選んだのだ。
 言葉を耳にした者にその熱は伝わらなくとも、迅は自身の心の奥底に潜む力……そして、この作戦にかける想いを極限まで燃焼させていく。
(「……この国に、この惑星に居る以上……我々は無法の行為を赦さない。例え其れが神を語る、あるいは騙る者であっても。此処は俺達の故郷だ。俺達の星だ。この故郷を汚すのであれば、侵すのであれば……」)
 表情こそ変わらないミシェルの頭を過るのは、愛する地球の人々、そして愛しい家族の顔……。
「俺達はお前達を敵とし、宇宙の果てまで追いかけ、根絶やしにしてやる!」
 ミシェルの普段見せない表情が、言葉が表に出た時、突き刺したグラディウスがバリアを輝かせ、本当の姿をケルベロス達の前に浮かび上がらせた。
 それは、格子で出来た鳥籠……奴隷を閉じ込め必要な時だけ出せる様に……三重県渡鹿野島のバリアはそんな悪意のある姿で形作られていたのだ。

●鳥籠からの解放
 次々とケルベロス達のグラディウスがバリアへと亀裂を入れて行けば、雷光と爆炎が発生していく。
 その時、金色の大きな翼、純白の美しい清廉な翼を持つ二人の天使……いや、オラトリオの声が響いた。
「……奴隷市……何と悍ましい。例えデウスエクスと言えど、心ある生命を粗末に扱い、それが回り回って力無き民に牙を剥くことになるなど……許せぬ。嘗て先達が神としての時を捨ててまで守ったこの地球……外道共に踏みにじられてなるものか!」
「ヴァルキュリアのみんなを強制的に従わせて、今度は奴隷売買……自分達以外を道具としか見ない貴方達なんかに、いつまでもこの星の大地を踏ませるわけにはいかないっ!」
 ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)とリディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)彼等の憤りが怒りがグラディウスの輝きを一際大きなものにしていく。
「力無き民は、この剣で護り抜く!!」
「搾取する物としか見ていなかった人間が持つ、想いの力をその身で思い知れっ!!」
 ロウガとリディ、二人のグラディウスの強烈な輝きが、未来を切り開く様に交差した。
 この土地をシャイターン……デウスエクスから取り戻す、ケルベロス達の想いが激しい雷光と爆炎すらを霞ませる程の虹色の輝きとなって、辺りを包んでいく。
 そして光に呑みこまれ、不思議な浮遊感を味わいながらケルベロス達は鹿野島の地へ足を付ける。
 光が薄れていくと、ケルベロス達の目に映ったのは、半透明の錆色で構成されていた周囲のバリアがボロボロと崩れていく様。
 バリアを打ち破り、強襲型魔空回廊がその機能を失ったのだ。
「……やったのか?」
 雷光と爆炎の副産物であるスモークの中、光太郎が確認する様に呟く。
「やった……やったんだよっ♪ この場所を解放出来たんだよっ♪」
 リディがその場で跳びはね、心から喜びを現す。
「これで奴隷市等と言う醜悪なものも終わるのじゃ……」
 読み取りづらい表情ながらも白の言葉から、達成感が伝わって来る。
「それでは、皆様、感慨深いのはわたくしも同じですが、急ぎ撤退しましょう」
 服の誇りを払う様にはたきながら、ミシェルが仲間達に言う。
「だな、こっちの手元にはグラディウスがある。奪われる前に逃げねえとな」
「そうしたい所だが、どうやら簡単には逃がしてくれないみたいだ……」
 迅の言葉に答えながら、ロウガは蛇遣い座の意匠が施された星剣の柄に手をかける。
「てめえ等、ケルベロスだな? 何してくれやがった! 俺達の扉……『強襲型魔空回廊』そのものが消えちまったじゃねえか!!」
 タールの翼を生やした赤髪のシャイターンは、カタールを腰から抜くと怒りの形相でケルベロス達の前に現れると、詰問する様に声をあげる。
「おい、兄さん。奴隷商売ってェのは儲かんのか? ま、オレは犬に噛み殺される仕事なんざお断りだけどよォ! それにどの道、ここじゃもう商売できねえな。ご愁傷様」
 ガスマスクの下で笑いを噛み殺す様な口調でカールが言えば、シャイターンの奴隷使いの濁った瞳が更に吊り上がる。
「あのさ、折角良い気分だったってのに……お前の所為で台無しなんだよね。奴隷売買の現場だったってだけでも嫌なのに……覚悟してもらうよ」
 言うとアビスは、失われた面影を悼む歌を口にし、仲間達の得物に更なる力を与える。相棒のボクスドラゴン『コキュートス』も氷の翼を大きく広げる。
「キミ達の悪行もここでお終いなんだよっ。キミ達がどんなに怒りを持ったって、私達の方が怒ってるんだからねっ!」
 流星の軌跡を描きながら、リディがシャイターンに鮮やかなキックを決める。
「そう言う事だ。だが『神敵』貴様に構っている時間も惜しい。手早く終わらせてもらう。征する刃、勝利を開く鍵となれ!!」
 ロウガは星の力を得て、刃の鋭さを持った回し蹴りをシャイターンの脇腹に入れる。
「クソがあ! 黒き炎で燃え尽きやがれ!」
 シャイターンの放った炎は白を狙ったが、見越していた様に光太郎がカバーに入る。
「光の盾、飛ばすぜ。さっさと終わらせちまおうぜ」
 迅がマインドリングを護りの力として、光太郎に付与すれば、光太郎も強気に頷く。
「と言う訳だ。その為に、悪いが仲間に攻撃を通させるわけにゃいかないんだ。鬼さんこちら―――指鳴る方へってなぁ!」
 光太郎が好戦的な笑みを浮かべ、指をパチンと鳴らすと、シャイターンを包む様に爆発が起きる。
「ぐが! てめえ、雑魚がいい気になりやがって!」
 シャイターンの怒りに燃える視線が、光太郎に注がれる。
「それでは、カエサル。わたくし達も早期決着のお力添えを致しましょう」
 ミシェルが手にしたスイッチでカラフルな爆発を起こせば、シャーマンズゴーストの『カエサル』もステッキを握り静かに祈りを捧げる。
「余も早期決着に尽力するのじゃ」
 白もそう言葉を口にすると、懐から取り出した紙兵を宙に舞わせ仲間達の護りとする。
「どうせもう援軍も来ねえんだろ? だったら氷漬けになってくたばるのも有りじゃねえかァ?」
 冷気の光線を放ちつつ、カールが挑発するも、シャイターンの表情は怒りに満ち満ちており、ケルベロスに復讐せねばと言う怒りが伝わって来るものだった。

●シャイターンの奴隷使い
「漆黒の闇の輝きで、てめえの深層の軟弱な所を曝け出しやがれ!」
「お前にほじくり返されて傷つく程、オレは弱くねえよ」
 シャイターンのカタールが映し出す過去も、迅の精神を蝕むことは無く、迅はカウンターを仕掛ける様に、オラトリオとしての時間干渉能力を翼に結集して放ちシャイターンの動きを奪うと、自身への強化にグラビティを注ぐ。そして魔力の幻影でシャイターンの判断力まで奪ってしまえば、連撃としてシャイターンの身体に大きなダメージを与える。
「戦闘開始から、そろそろ7分が経ちます。皆様、援軍が来ては危うくなります。止めに持っていくと致しましょう」
 ミシェルは淡々と言うと、暴風を纏った強烈な回し蹴りでシャイターンの頭を逆に曲げる。
「お前より、俺の方がナイフの扱いは長けていたみたいだな。奴隷使いさんよ」
 傷だらけのシャイターンの傷を更に広げる様に、光太郎はナイフでシャイターンを抉る。
「ホント、大したこと無いね。奴隷使い? お前より奴隷の方が強いんじゃない? ……でも、逃がさないよ」
 アビスが言葉を紡げば、シャイターンの周囲の地面から氷の鎖が生まれ、シャイターンを縛り拘束していく。
「我が母は光齎す者、闘いの愛し子――その羽は刃、その血脈は正義、地球<ガイア>の生命護る者――!! 太陽の剱が、裁きを下す!!」
 ロウガの詠唱が響くと、ロウガの周囲に黄道十二星座が全て浮かび、その星辰の力が籠められた光の剣が十二本生まれる。最後の十三本目の蛇遣い座の光剣が形を成すと、黄金の太陽の輝きとなって全ての剣がシャイターンに襲いかかる。
「人でもデウスエクスでも、きっと奪っていい幸せなんて無いんだよっ! だから私は……幸せを奪う敵は、逃がさない―――!」
 失われた筈の時空の調停者オラトリオの『時』を支配する力、その一端がリディの瞳に宿り、シャイターンの数秒先の未来が映し出される。
 数秒の未来で充分だった……リディのケルベロスチェインはシャイターンの胸を貫く。
「薄汚い奴隷商人が……この場と共に滅してくれる。……今までの行い……後悔するがよい」
 シャイターンにそう宣告すると白は、柳の様な八極拳の動きで、シャイターンに接敵する。
「八卦と八極の合わせ技……その身でとくと味わうがよい!」
 八卦八法と八極八掌併せて十六の連撃がシャイターンに全て叩きこまれれば、シャイターンは遂に電池の切れた人形の様に前のめりに倒れる。
「やれやれ、これでやっと撤退かと思えば……」
 倒れ伏したシャイターンを見ながらカールが呟く。
 まだ距離はあるが、幾つもの足音が聞こえて来るのだ。
「強襲型魔空回廊がぶっ壊されたってのに、シャイターンも元気だねェ。んじゃま、とっととずらかっとするかねェ……!」
 軽く言うと、カールは足音の方に閃光炸裂手榴弾を放り投げる。
 スモークが晴れきっていない状況で、不意打ちの閃光を浴びたシャイターン達からは、どよめきの声や怒声が聞こえる。
 だが、ケルベロス達はそんな事に構う事無く、視線を交わすと駆け出し、戦場をあとにした。

●奴隷市場の終わり
「やったんだね……」
 戦場を走り抜け、ここまで来ればもう大丈夫とケルベロス達が足を止めると、アビスが静かに呟いた。
 その言葉に、ミシェル、白、カール、ロウガは静かに頷き、迅、リディ、光太郎は笑顔を浮かべる。
『三重県渡鹿野島』から『強襲型魔空回廊』は、失われた。
 援軍が無くなったシャイターン達は、近い内にこの地から全て居なくなるだろう。
 その達成感に皆、包まれていた。
「……それじゃ、帰ろうか。疲れたし」
 素っ気なくアビスが言えば、ケルベロス達はヘリオンを目指す。
 ふと、アビスは奴隷市が行われていた方向を振り返った。
 自分の様な奴隷がこの地でもう生まれなくなる……その想いは氷に囚われた自分の心を少しだけ溶かした気がした……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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