ミッション破壊作戦～魂の叫びをぶちまけろ！

■リプレイ

●決意を胸に
　瀬戸内海、愛媛県芸予諸島上空。
「なーんか不気味な感じだねー……。霧の海賊船かー」
　ヘリオンの真下に広がる瀬戸内海を須藤・梨乃（鍵憑きサキュバス・e02913）が見下ろす。そこに、髑髏の旗を掲げた海賊船団とそれを包むバリアがある。
「海賊は割と好みだが、敵なら仕方ない。なんであれ、殺すさ」
　その相手は海賊船長アルビルダにコール・タール（多色夢幻のマホウ使い・e10649）は好感すら抱くが、相手はエインヘリアル。倒さねばならぬ敵だ。
「一度戦った相手ですからね。能力を見極め対策すれば負けはあり得ません」
　ウィッカ・アルマンダイン（魔導の探究者・e02707）は前回の作戦でも参加している。敵の能力を知り、要領を得ているからとはいえ、油断せずに確実に勝利への布石を積み重ねようと仲間達に呼びかける。
　そしてもう１人。レクス・ウィーゼ（ウェアライダーのガンスリンガー・e01346）もまたこの地へと舞い戻ってきていた。
「死んでいった仲間達や犠牲者、そして仲間の家族の分まで、一撃を……」
　普段はハードボイルドなレクス。ただ、これから立ち向かう因縁の相手に、皆の分まで一撃を食らわせてやろうと彼は意気込んでいる。
「アルビルダはレクスさんの友達の敵なんだね。レクスさんの願いを叶える為、力を貸すよ！」
　ドワーフのシルディ・ガード（平和への祈り・e05020）が元気に語ると、ウィッカが静かに語る。前回破壊できなかったことを、難易度の高さが原因として仕方ないと済ますことはできない。
「私の手で、必ず破壊して見せます」
　それは、確かな決意。……今回こそは必ず。

●己の叫びを叩きつけろ！
　作戦開始の時。
　ヘリオンから降下するケルベロスは皆、落下する方向にグラディウスを突き出す。
「海賊女、此れ以上、手前には誰も傷つけさせねえし、何も奪わせはしねえ！」
　その中にいるであろうアルビルダへ、レクスは叫ぶ。
「父親を喪った娘を！　子供を喪った母親を！！　あんな悲しい涙を流す奴を此れ以上増やさせない為にも！」
　ワイアット坊やジェーン嬢ちゃん、ドク爺さん。レクスは、失った仲間の名前を１人ずつ呼ぶ。
「未来を奪われる奴を出させない為に！　仲間を喪った俺のような思いを誰にもさせない為に！！」
　グラディウスの刃が海賊船を囲むドーム状のバリアに触れる。乾いた音を立てて砕け散るバリア。一行の前には魔空回廊が目視で確認できた。
　前回は力及ばず、破壊できなかった。今回こそ……ウィッカもそんな気概を抱いて降下してくる。
「命も、物資も、これ以上貴女方に何も略奪はさせません！」
　前回よりも、さらに研ぎ澄ました魔術。ウィッカはグラディウスに五芒星を描きながら、魔空回廊を切りつける。
「図に乗ってんじゃねえぞ、チンピラ共。海はみんなのモンだ！」
　続くのは、破壊すべき魔空回廊を眼前にし、気分が高まって荒々しい口調で叫ぶ梨乃だ。
「お子様ボートの大将サマ以下、有象無象が気取って主張権振りかざしてんじゃねぇえよッ！！」
　梨乃の刃も突き刺さり、魔空回廊から激しい雷光と爆炎が巻き起こり、その場にスモークが噴き出された。
　続いて、レイ・ジョーカー（魔弾魔狼・e05510）、シルフィディア・サザンクロス（この生命尽き果てるまで・e01257）が仕掛ける。
「テメェの事はレクスから少し聞いたが……。所詮は弱い者への略奪と日常をぶち壊して奪い去るだけのヤツ等と同類か……！」
　他人の星にズケズケと上がりこみ、人々から全てを奪い取り、命までも奪、踏みにじるデウスエクスに、レイは憎悪を覚えている。
　全身をフィルムスーツで覆うシルフィディアも怒りを露わにしていた。
「貴様らに生きる価値など微塵もない……。一匹残らず殲滅し、地獄に堕としてやる……！」
　２人はほぼ同時に、グラディウスを振り上げる。
「これ以上、大切なモンを奪われる人間を増やすわけにはいかねぇんだよ！！！」
「わたしの憤怒を、憎悪を込めた地獄の一撃を、くらえ……！」
　さらに、突き刺さる２本の刃。ケルベロスの攻撃はなおも続く。
（「鉱石達が囁いて、鉄と鎚とふいごが騒ぐ地下も好きだけどね」）
　長く地下暮らしをしていたシルディが地上に出て１年半。地上は空や木々、鳥達が奏でる音楽や街の賑わいが素敵だと彼は語る。
「そこで暮らすみんなも大好きで……。全部を、未来を、守りたいって思うから！」
　いつの間にか考えを口に出していたシルディは、グラディウスを強く握りしめる。
　同じくして、ドラゴニアンのヴァジュラ・ヴリトラハン（戦獄龍・e01638）も刃を構えていた。
　弱きを守り、強きを挫くはドラゴニアンの誉れ。その為に、自分達は神の如き力も、永遠の命をも捨て去った。
「俺は求め得る最高の戦いの為に生きている」
　その戦いの先には、最高の決着が、最高の勝利と笑顔があるべきだと、ヴァジュラは考える。傷痕の地獄も、背負った全ての因果も、何もかもが戦えと叫んでいる。
「この想いを……この一撃にっ！」
「我が戦獄の全てをもって、魔空回廊をぶち壊す！」
　シルディとヴァジュラのグラディウスが魔空回廊に振るわれる。
「沢山の命があった。当たり前の様に明日が来ると思っていた人達がいた」
　最後に、落下してきたコールが言葉を紡ぐ。善悪、その身の穢れようを問わず、廻り続ける人の営みが普通にあったはずだ。
「それを……それを！　お前等は！　これ以上奪われてたまるか！」
　心の底から湧き出る感情を、コールは魔空回廊へとぶつける。
「ここは俺達の海、俺達の大地、俺達の星！　決して、決して！　てめぇらの様な、道理から外れた奴等のモノじゃ無い！」
　深く、突き刺さる刃。コールはそれを引き抜いて着地する。
　ケルベロス達がグラディウスで攻撃する度、周囲に光と爆発が起こり、濃い煙が充満していく。
　海賊船に着地したメンバー達はグラディウスを体にしっかりと固定していく。その頭上では変わらず、ヴァルハラに通じると思われる通路が口を開いたままだ。
「また来たのかい……」
　煙の中から、アルビルダが平然と立ち塞がる。ミッションの破壊を成し遂げねば、何度でもこいつはケルベロスの前に立ち塞がってくるのだろう。
　煙が当たりに充満する中、レイは先制攻撃をとスコープを使って敵の熱源を感知し、両手の銃から素早く弾丸を叩き込む。
「くっ……」
　小さく呻くアルビルダ。だが、弾丸のほとんどはその手にある舵輪が受け止めていた。しかしながら、舵輪を傷つけたことで、先手を打つことができたと、レイは小さく微笑む。
「味方は愛をもって守り抜き、敵は愛を込めて討ち滅ぼす……」
　ヴァジュラは、目の前の相手が強敵との戦いを愛すると聞いていた。
「ならば、愛し合えるよう、男を見せてやらんとなあ！」
「海賊なんだろう？　碌な最後があるとは思ってねぇよな」
　構えを取りつつ、コールは女海賊に呼びかける。そして、レクスもリボルバー銃を抜いた。
「例え何度挑む事になっても、海賊女、絶対に手前は倒してやる！！」
「やれるものなら、やってみな！」
　右手のハープーンを振り回し、アルビルダは叫びながら襲い掛かってきた。

●女海賊を撃破せよ！
　飛び込んでくる海賊船長アルビルダの前に、シルディが飛び出す。
「安心して。みんなはボクが守るからね！」
　小さな体でハープーンを受け止めた彼は、後方の仲間に叫ぶ。
　敵を引きつけるシルディの怪我が比較的軽微であることを見て、シルフィディアはまず攻撃に動く。
「相当恨みを買ってるようですね……。この、クズが……！」
　仲間達の叫び。自らも抱くデウスエクスへの怒りと憎しみ。シルフィディアはフィルムスーツを一部脱ぎ、露出させた両腕の地獄を燃え上がらせる。
「地獄の苦しみを、死ぬまで味わえ……！」
　禍々しい地獄の刃となった両腕がアルビルダの体を切り裂く。その刃が食い込む瞬間、シルフィディアは相手の体内に霧状の地獄を流し込む。体内から破壊されるという恐怖。それが敵の動きを鈍らせるのだ。
　手前にいたヴァジュラもアルビルダへと攻め入る。
「強敵を前にして、心底惜しいが……」
　至高の戦いを求め、戦い続けるヴァジュラにとって、敵という存在は愛おしくすらある。
　自らを昂ぶらせるほどの相手ではあるが、目指すは短期決戦。ぼやぼやしていると、後ろにいる仲間達がこの場から退避する時間すらなくなり、危機に瀕する可能性すらあるのだ。
「俺に出来る事は……、ぶん殴る事のみ」
　自らの戦いの為、仲間を守る為、ヴァジュラは手にする金剛金箍杵をヌンチャクのように操り、敵へと力の限り叩きつけて行く。
　ウィッカもまた短期決戦の為、敵を足止めすべくドラゴニックハンマーを砲撃形態とする。発射の瞬間、彼女は展開した魔石で五芒星を描いてから竜砲弾を発射した。
「時間は掛けていられない」
　コールも腕に纏わせたブラックスライムを前方に飛ばし、槍のように鋭くアルビルダの体を貫く。
「喰ってもいいぜぇ！！　こンのバケモノォ！！」
　続き、梨乃が吼えるように叫び、何かを投げつける。
　それは、偉大なる魔法使いから受けついだ、命を宿す漆黒のバンデージ。梨乃が絡ませたそれは、相手の体を食いちぎらんとする。
　バンデージに気を取られたアルビルダへ、レクスはリボルバー銃の銃口を向ける。
「俺の銃弾が！　地獄の猟犬の牙が手前の絞首台代わりだ！！」
　素早く叩き込んだレクスの弾丸がアルビルダを狙撃する。だが、それをハープーンで受け止めた敵はにやりと口元を釣り上げ、左手の舵輪を前に突き出す。
「いけません、旋風が……きます！」
　ウィッカは前回の戦いの経験を活かし、仲間に呼びかける。あの舵輪から起こるつむじ風がケルベロスの体を引き裂くのだ。
　シルディは後方メンバーにオウガ粒子で援護を飛ばしつつ、敵の前面に出て身構える。
「食らいな！」
　舵輪から巻き起こる暴風。シルディ、ビハインドのソフィアがそれに耐えてくれていたが、荒ぶる風は前面のケルベロスを容赦なく襲う。
「行くぜっ！　相棒っ！！！」
　レイは暴風に耐えてくれたライドキャリバーのファントムに呼びかけ、同時に攻め入る。燃え上がりながら特攻するファントムに合わせ、レイは全身を包むオーラを弾丸に変え、敵へと撃ち出す。
　だが、それを浴びたアルビルダは全く笑みを崩さず、涼しい顔でケルベロス達を見つめていた。

　突きつける槍と旋風を巻き起こす舵輪。海賊船長アルビルダは遺憾なくエインヘリアルの力をケルベロスに見せ付ける。
　シルディが自らを含め、黄金の果実の光を浴びつつ耐えてはいたが……、威力が非常に強く、長くは持ちそうにない。
　回復役のシルフィディアも全力で壁となる仲間を癒す。集めた気力を撃ち出し、あるいはオーロラの光を放ち、アルビルダのグラビティによる傷を塞いでいく。
「貴様の攻撃など、全て無駄にしてやります……。誰も、倒させません……！」
　シルフィディアが敵を挑発するように言い放つが、敵はまるで意に介してはいない。
「全てを撃ち抜けっ……ブリューナクッ！！！」
　魔狼銃フェンリル、そして、冥淵銃アビス。レイは２丁の銃から、高密度のエネルギーを発射した。その弾丸は５つに分かれ、それぞれが異なる動きでアルビルダへと同時に着弾する。
　アルビルダはなおも起こした旋風を浴びせかけてきた。それに耐えるヴァジュラはにやりと笑い、地獄の炎を纏わせた金剛金箍杵を渾身の力で叩きつける。
　敵を自由になどさせない。ウィッカは魔術文字を刻んだ魔剣を抜く。
「黒の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者の運命はただ滅びのみ」
　敵の正面から、ウィッカはその刃を突き刺す。刃にかけられた呪いが徐々に敵の体を蝕んでいく。
「俺の銃弾が！　地獄の猟犬の牙が手前の絞首台代わりだ！！」
　仲間がつけた傷。その一点を狙い、レクスは弾丸を発射した。そうして敵の傷口を広げた彼は、その傷へと銃口を押し付ける。
「弾丸のフルコース、たっぷり味わえ！」
　ありったけの弾丸を、彼は叩き込む。アルビルダは内臓を破壊されたのか、口から血を吐き出した。
　……だが、倒れない。その目は未だケルベロスを見下す光を放ち続けている。
　梨乃はそれを感じ、祝福の矢を飛ばす。それに射抜かれたコールは一度グラディウスに手をかけたが、通常の兵器として利用できないと言われたことを思い出し、如意棒を手に取る。
「永遠の命を保つ為、限りある命を殺し、それで良しとするお前等デウスエクスに、慈悲など無い」
　コールのグラビティによって、如意棒が黒く染まる。
「せめて海賊らしく、馬鹿みたいな死に方させて笑ってやろう。盛大に」
　彼は力の限りそれを振りぬくと、赤いオーラが迸った。アルビルダへと幾度もオーラを浴びせたコールは最後に、敵の頭へと衝撃波を浴びせる。
「ふふふ、あーはっはっはっ……」
　頭から血を流しながら、煙に消えるアルビルダ。その手応えの無さにケルベロス達は歯噛みしてしまうのである……。

●無念の撤退
　女海賊は倒したが、周囲の煙がそろそろ晴れてしまいそうだ。
「退くぞ。ぼやぼやしてると、乗組員が押し寄せる」
　仲間に呼びかけたヴァジュラが仲間からグラディウスを受け取り、竜の翼で飛び立つ。シルフィディアも同じく翼飛行を使って高速で飛び、仲間に先んじて近くにやってきていた巡視船へと飛び乗っていく。
　苦戦はせども、皆、立ってはいる。梨乃などは不測の状況に備えて警戒を続け、巡視船の接近を待つ。
「「「ヒャッハー！」」」
　船の上で聞こえる怒号。雷光や爆炎のダメージから立ち直った海賊達が、襲撃してきたケルベロスを探しているのだ。
　レイ、シルディが殿を務めつつ、ケルベロス達は海賊船を後にしていく。こちらに気づいた海賊達。シルディはレイの盾となるべく身構え、レイはライドキャリバーのファントムと共に弾幕を張る。
　海賊達は舌なめずりしてケルベロス達に迫ろうとした。ただ、メンバー達の退避がやや早い。レイ、シルディがほぼ同時に身を引き、巡視艇が離れるように動き始める。
　海賊の飛ばす弾丸が飛んできていたが、それもすぐに届かなくなった。
「み、皆さん、無事ですか……？」
　シルフィディアが仲間の傷を気遣う。メンバーの怪我はさほど大きなものではない。
　ただ、魔空回廊はそう簡単には壊せないとウィッカも思っていたが、今回も破壊できぬとは……。
　遠のく船団を見つめるレクスの胸の内を、ウィッカは慮る。
（「例え、どれだけ挑む事になろうとも、絶対に……」）
　諦めるわけにはいかない。絶対にあの女海賊を討伐する。彼は改めてそう誓いを立てるのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月6日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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