ヒーリングバレンタイン2017~チャイナスイート

作者:深水つぐら

●長崎新地中華街
 息白く昇る。
 頬の赤みをそのままに、カラン・モント(華嵐謳歌・en0097)は微笑んだ。
「聞きまシた、皆サンの活躍でデウスエクスに占領サれていた地域が奪還できたと……スごい事デス!」
 それは地球側の反撃が通った証拠。その事実を喜びながら讃えるとカランは一同をぐるりと見回した。
「でも、まだ現場は十分なフォローサれていないみたいデス。そこで地域の復興も兼ねてヒールを行いたいのデスガ……」
「その仕事の説明は私からしよう」
 言って話を継いだのは、ギュスターヴ・ドイズ(黒願のヘリオライダー・en0112)だった。黒龍が言うには、荒れ果てた建物の修復活動と同時に地域の復旧をアピールするイベント――バレンタインのイベントを行おうという企画があがったそうだ。
 占領地だった故に住民はいないが、引っ越しを考えている人や周辺住民が見学に来る事は大いにあり得る。そのもてなしと考えればいいだろうか。
「一般の人でも参加できるイベントにすれば、イメージアップになる。それで該当地域だが」
 担当する地域――被災地である新地中華街は、かつて日本でも名の知れた中華街であり、中華料理店や中国雑貨が軒を並べる繁華街であった。
 そこでは心がほっこりするような美味しい飲茶のお店がたくさん軒を並べていたらしい。今回はこの飲茶のお店を復旧しようという企画だ。
「まずは食品を作れるように店々をヒールで復旧、その後に各自で道具や材料の運搬、出店の設営をしてもらう」
 賑やかに飾り付けをした出店に並べるのは色とりどりの飲茶、と行きたいところだが。
「何種類も作ると大変デスシ、イベントも兼ねていまスカラ、作るノは一種類だけデスネ」
 言ったカランがぺラリと見せた紙には、つるりと丸いお饅頭の写真が載っていた。その表面にはパンダの顔が描かれている。
「これ、中の餡はチョコレートなのデス。チョコまんって言うお菓子デ、上の顔はチョコレートペンでお絵かきしてみマシタ」
 よくよくその作り方を確認すれば、餡は板チョコ、皮はホットケーキミックスを用いたもので、初心者でも簡単に作れそうだ。チョコペンでお絵かきをするのなら、パンダだけでなく多彩な図案も書けるだろう。
「あまり奇抜なものや細かいものは難しそうだな」
「デスネ、動物の顔やお花……あ、でも文字は書けソうデス!」
 ぱっと顔を明るくしたカランに、ギュスターヴは頷くと茶の瞳を細める。そうして、一同に向き直ると、同じ様に優しい眼差しを向けた。
「イベント向けの菓子だが、少しくらいなら君らが自分用に作るのも構わない。共に茶でも楽しむも良し、それぐらいは役得だろう」
 言ってくすりと笑うと、黒龍は改めて一同へと告げる。
「さて、一緒に手伝ってくれるか」
 ネッ、と白黒の熊猫が付け足すと、楽しそうな微笑みが零れた。


■リプレイ

●ふれる
 賑やかな声が響いていく。
 笑い声は復興した街並みに興味を惹かれた子供らの声だろうか。瓦礫の失せた長崎中華街は元の趣を取り戻し、建物からは甘い香りが漂っている。その香りの正体はケルベロス達の手によるお菓子達だ。
 紅漆喰の欄間から見えるのは意気消沈したシィラだった。
「……眸さん、お手本を見せて頂けませんか」
 自分と相手の差にため息が出る。そんな彼女に眸は快く応じ、今度こそまあるく形を整えていく。
 ころころんとまあるく餡が出ないように。
 漏れた蒸気に耳を澄ませ、ようやく蓋を開ければ、艶やかに輝く饅頭達が現れる。そのひとつに眸が描き上げた写真の様なパンダが生まれると、シィラは思わず感嘆の声を上げた。
 びっくりするほど精密な姿――驚く彼女に眸が差し出したのは、白皮の上にちんまりと座るテディ・ベアだった。
「シィラ、もしよければ、これヲ。喜んでもらえルと善いのだが」
「わ、わ、嬉しい…! 有難うございます!」
 顔を綻ばせた彼女がお返しにと渡したのはペンギンの顔が描かれたもの。驚きと喜びの思いを胸に灯してはにかむ姿は、きっと街の人にも見えるだろう――そんな笑顔が見られる様にと思いを詰めて【ノラビト】の宿利と小町が作ったチョコまんは、蒸篭に詰め込まれると、ほうほうと湯気に溺れていた。
「摘み食いは駄目だよね……」
「……一個ぐらい味見するのはいいよな?」
「シズ坊が味見するなら俺様にも一口だけくれいっ」
 そう言ってティーが齧り付けば、小町の鋭い声が飛ぶ。
「コラ、試食用も作てるからつまみ食いするんじゃないわよ?」
「食べたい人は、こっちをどうぞ?」
 言って宿利が代わりを差し出しだせば、わあと明るい歓声が上がった。そうして始まったチョコペン入れはシズネとティーの危険地帯の合間を縫って、ラウルと灰のウイングキャットが埋めていく。彼らは頬をくっつけているのはどうやらチョコまん絵のモデルのつもりらしく――。
「かわゆい、尊い……」
 小町がはわはわと魅入られると、どうしたのかなーと翼猫達は顔を見合わせた。
「皆、絵がとっても上手ね」
 そう言って笑った宿利も、傍らに立つオルトロスの成親を望むと真剣な顔でチョコペンを握った。自分も負けてはいられない、そんな姿勢の彼女にラウルは口元を緩める。視線を前の灰へ戻せば、片目を瞑る虎がひょっこり出来上がっていた。その可愛らしさに思わず配る事が惜しいと思う。
「いっそ俺が欲しい……せめて写メに撮って残しておこう」
「灰の旦那、写メるなら全員集合で撮ろうや」
 言ってティーが持ってきたチョコまんに、笑えば仲間達のチョコまんも賑やかに集まっていく。指先に伝わる熱にほっこりと頬が緩んだ気がして――同じように笑ったのは【狭藍】仲間達だ。
 それぞれが材料と格闘する中で、セレスはこっそり溜息をつく。
「誘ったの私なのに、手伝いくらいしか出来なくてごめんね、キアラ」
「いいのいいの、得意な人が得意な分野でフォローするのが大事なんだし」
 それにセレスや皆と一緒に作れるのが嬉しくて。
 金の髪を揺らして告げたキアラにセレスが頷くと、不意にボウルを叩く音で振り返る。
「分量さえ間違えなければ、そう失敗するもんでもねーですし、心配する事はねーっすよ」
 見ればルディの色白の手が材料のチェックをしてくれている。その様にマイヤがうんと気合を入れた。
「今は皆と一緒だから大丈夫っ」
「ええ。それに自分達用のも作っていいみたいだし、上手く出来たらラーシュも一緒に食べましょうね」
 セレスの告げた大事な相棒への気遣いに、マイヤは嬉しそうに頷くと、さっそく調理を開始する。
「……ん、固さはこんなもんっすかね」
 そうして出来たルディお手製の皮にチョコ餡を詰め、蒸篭で蒸せばあとはひと手間の魔法をかけるだけ。その担い手であるセレスはチョコペンで逆さ福を書くと、良しと小さく声を上げる。それは『倒福』と呼ばれる福呼びの証だった。

「……この街と皆に幸せが来るといいなと思って」
 思いを込めて描いたものはきっと甘い幸せとして届いてくれる。

●つつむ
 賑やかに続くお菓子作りは少しずつでも量を増していく。
 その中でも【廃駅】の仲間達は小さな先生を中心に作業を進めていた。
「アラタ先生、よろしくお願いします」
「よろしゅうお願いしまーす!」
 期待に満ちた顔で航達が挨拶すれば、こほんと先生の照れ隠しの咳が聞こえた。難しいお菓子も彼女に倣えばきっと大丈夫。
「よーし、次は生地だ生徒諸君!」
 びしっと告げたアラタはメインの材料にアレンジのココアを混ぜると、手慣れた手つきで生地を捏ねていく。そうして出来上がった皮でチョコ餡を包むと、ころりと手のひらで転がして。
 その手つきにキースは感嘆の息を漏らし、ウーリの拍手が響くと今度は自分の番だと手が伸びた。
「落ち着いて、頑張る」
 オラトリオの少女が唇に乗せるのは自分に言い聞かせる呪文だ。見様見真似で包んだタネに、小さな丸い耳二つ。出来上がったのは溺愛する彼女のサーヴァントの姿だ。その隣では航も皮包みに奮闘していた。
「……おお、形になった気がする」
 出来上がったつるんと丸い生地の様子に、どことなく愛らしさを感じで笑みを零せば、のぞき込んできたドラゴニアンのキアラが感嘆の声を上げた。
「ウーリや航のつやつやめんこいなあ」
 それぞれ相方がモチーフとなれば、キアラの相方も期待の視線を送っているような気がして。思わず苦笑していると、それぞれの出来栄えにアラタが声を掛けてくる。
「美味しそうだよ、大丈夫」
「じゃあ、ここに」
 言ってキースが蒸篭を開くと、ちんまりと四角いタネが。変わった形に素敵だとの声が上がれば、キースは小さく顎を掻いた。そうして蒸篭に入れた後はしばらくの蒸し時間だ。
 チョコペンを湯煎で溶かし、手もみする間に仲間の口に上ったのは、カランが持ってきたお手本のパンダまんだ。やがて蒸し上がったものを前にすると、【廃駅】の仲間達は甘い絵筆を握っていく。
「アラタはにゃんこ♪」
「うちはね、フクロウのおばあちゃん……のつもり!」
「私は、うさぎだ……力入りすぎたかな」
 歪な線もご愛敬。奮闘する航の隣では、ウーリが真四角に線を引いた。これまたご愛敬な形になってしまったが、それでも最後までチョコペンを走らせる。
 やがてキースの手がチョコの魚を誕生させると、良しと小さく呟いて。
 これで写真に収めればお留守番のみんなにも思い出が伝わるはず――そんな期待を楽しむ様に、チョコペンを持った泪生はくすりと笑みを零していた。
 思い出したのは超会議でも縁のあったパンダの事。あの時はラテアートだったが、今度はチョコのお絵かきだなんて。
 くすくすと笑う泪生の隣では、一緒に挑む黎和が真剣に手を動かしている。
 彼が描いたのは想いだった。
 それは簡単な、当たり前。けれども偽りのない真っ直ぐな気持ちを甘いペン先で結んで行く。やがて白いキャンパスに生まれた大きなハートは、泪生の頬を緩ませるのに十分だった。
「泪生が俺を思ってくれているように、俺だって、泪生のことを沢山考えてるから。」
 黎和の言葉に、彼女が描き出すのはお返しの文字――くろはくんへ、らぶをこめて。
「……出会ったあの日から想う時間が少しずつ増えて今は毎日、いっぱいだよ」
 溢れてしまいそうならぶ――それが大事な想い出に宿る。
 ほんのりと染まる頬の赤は林檎の様で――その色をより栄えさせる白月の様な綺麗な丸。
 そんな風に蒸し上がったものに、夜道はパンダの顔を描いていた。いくつも作ったその後で、ふと思い立ちチョコペンを動かす。それは吊り上がった目にギザギザの歯、痩けた頬に最後に眉間に皺をちょんちょん。
「オイ! 随分凶悪な面のパンダだな?!」
 夜道の凶悪なチョコまんに、茶で見学と洒落こんでいた十一の揶揄が飛んだ。土産用だろうと見透かされて、夜道がはぐらかす様に動かしていたペンを置く。
 そうしてようやく問うた事は、男が過ごした異国の地での記憶だった。それでもはぐらかされてしまえば、ただ目の前の凶悪チョコまんに齧り付く。
「バレンタインだからって期待なさってたの?」
「……お前さぁ、俺の事もしかして恨んでる?」
 その言葉に夜道が苦笑する。男の持つ碗には、言葉を笑う様に牡丹が咲いていた。

●にぎる
 異国情緒に惑わされ、ハインツが上手く作り上げたのはまん丸のキャンパスだ。
 そこにパンダの顔を描こうとして、ふと隣を覗き見ればレスターがチョコペンと格闘しているのが見える。二本の角にいつもの笑顔。どこかで見た事のある顔――それが自分だと思い当たると笑みが零れる。
「微妙な出来だな……線が歪んでる」
「ん、人の顔はなかなか難しいだろ、よく描けたと思うぜ」
 ハインツもパンダの絵に挑戦するも、どうも目つきの悪いパンダになってしまった。
「じゃーん!パンダ仮面!」
 アライグマに見えてしまうのはご愛敬。肝心なのは味だと食べたものは美味し――そう思える心を育てた一年。
「去年のバレンタインから一年か……早いものだね」
 特別に何が変わった訳ではないけれど、良き友と出会えた事実には感謝する。
「オレはさ、レスターが今の時間を楽しめてたらいいなって思うぜ!」
 ハインツの笑顔が眩しい。そう思える時間は楽しい。いつまでもいつまでも楽しい時間に思えるのなら――そう願うのは人が集まれば常の事。大所帯の【宝猫飯店】ならばなおの事だろう。
「……まったく、休みのときくらい寝かせてくれてもいいだろうに」
「……俺ァお前が休まず働く姿なんぞ見たことねえぞ」
 板チョコを摘む思江とジョージの会話を余所にチョコレート餡の材料をまじまじと眺めていたのはユタカだ。
「板チョコや牛乳、コーン……コーンフレーク???で餡を作るのでござるな!」
「ふふ、コンフレークじゃなくてコーンスターチよ、ユタカ」
 アルディラの言葉に、なるほどと声が返る。どうやらチョコまん作りは初めての者も多いらしい。実際に宝猫飯店で肉まんを食べた経験はあっても、チョコ餡は未体験――肉まん料理の奥深さに感心したレッドレークは、手の中のココアを調理台に置いた。「ま、工程は洋菓子のようなもんだ。丁寧にやりゃぁ大丈夫さ」
 食の世界に慣れ親しんだ思江の言葉は心強い。おかげでさっと出来上がった物を蒸篭で蒸し上げれば、ほんのり温かな小キャンパスが出来上がった。
「ではお楽しみの! お絵かきタイムでござー!」
 楽し気なユタカの声は上手にできるおまじないを唱えながらピンクのチョコペンでパンダを描き上げていく。色彩豊かなチョコまん誕生の隣では、白黒を逆に描いたジョージが肩をすくめていた。ふと周囲の画伯達へ視線を向ければ、アルディラの描く絵に目が留まった。図柄に悩んだ彼女が、最終的に選んだのはデフォルメされた竜らしい。
「あーっ! ……もしかして?」
「誰か分かっちゃったかしら? ふふ、ありがとういちる」
 そう言って振り向くと、相手の手元に黒猫が見える。
「じゃーん、こっちはお店の看板猫!」
 満面の笑みにつられて笑った時、ふと鴻の声がした。
「こんな感じかな、うん」
 見れば、彼女のシャーマンズゴーストのノジコちゃんがチョコまんの上に描かれている。その前には不敵な笑みを浮かべるパンダがひとり――それがレッドレーク作だと知れば、ちょこんと引かれた目の線にも納得がいった。
 十人十色、賑やかな物にひとしきり笑った思江だったが、不意にいちるから齎された言葉に固まった。
「今は男の人からチョコをあげるのが流行ってるみたいだよ」
「な?! 何言ってんだいちる……!」
 これはまた、ひと騒動ありそうで。くるくると舞う言葉の波を掴まえて、賑やかに、にゃ、と鳴いた雨音は、不思議そうに怜四郎の手元を見つめていた。
「一から生地を作るつもりだったけど、日本ではそういうのがあるにゃ?!」
「ええ、ミックス粉なら失敗知らずっ」
 せっかくのチャイナ服を汚さない様に気を付けながら、材料をしっかり捏ねていく。そうして出来上がった皮に包むのはチョコレート餡だ。雨音の指導を受け沢山出来上がったものを蒸篭で蒸せば、長いチョコまんの列が出来上がった。
 自信満々に雨音が描くのは、ジャイアントパンダにレッサーパンダ、ついでにシルクハットのナノナノ――怜四郎のナノナノであるなぁちゃんだ。
 彼女のチョコまんを嬉しそうに眺めた怜四郎は、自身も楽しそうにチョコペンを走らせる。
「わぁい、やはり怜ちゃんすごく上手いにゃー」
「上手?ふふ、ありがと。見本がいいもの♪」
 食べるのがもったいないね、なんて思えるのは、思いを込めて作れた証だ。
 喜んでくれる人の顔を思い浮かべて作るのは、甘くて楽しいチョコレートのお菓子――。

●ひらく
 店先に積み上げられた蒸篭からほろほろと湯気が立ち上る。その中でもひと際大きな蒸篭の蓋を開けたノーザンライトは、巨大なチョコまんを見ると口元に笑みを浮かべた。
「メリーナの青髪の部分が、着色料たっぷり感するけど。よし完成……僕の顔を」
「はぁーい、こちらですよー!」
 元気に声掛けをするメリーナは、人々にチョコまんを渡しながら笑顔の花も咲かせていく。
 そんな仲間に綾鷹は手持ちのチョコまんを摘むと、素早く相手に頬り投げた。
「ほいパス」
 ぱふっ。
「んんんっ! おいしいーーーですーっ♪」
 口でキャッチした事に上がった歓声に綾鷹は面映い心地もして、中華街に下がる天蓋の様な飾り物へと目を向ける。
(「破壊困難っつー結界を、俺ら少人数でぶっ壊したんだよなぁ」)
 その勝利の証拠に、人が戻る。
 賑やかに、華やかに。中華街の醍醐味は、遊んで食べて楽しんで。
 心躍る街であるのが一番だ。
 そう思う青年を引き戻したのは呼び込みの声だ。笑ったところで一芸を所望すれば、メリーナの頑張りが炸裂する。やがてひと段落付けたノーザンライトが綾鷹の傍にやってくると、チョコまんを食んだ。
「食べんのもったいねぇなこれ」
「バレンタインと言うより……まさに、友チョコ?」
 そっぽを向いて言う彼女に口元を緩ませれば、ころりと言葉が出る。
「綾鷹。街の解放と、お誘い、ありがと」
 おう、と答える間にまた賑やかな声が上がる。そんな中でふと思い出したのは疑問。
「そーいや、恋人に渡す分とか作ってあんの?」
「恋人……超新星爆発級で準備済み……」
 目が死んでいる気がするのでこれ以上突っ込んではいけない。
 乙女の戦争はすぐだ。それは巡り巡る想いを届けるもので――まるでその手伝いをする様に駆け回るのは三人のミニスカチャイナ娘だ。
「見て来て食べておいしいケルベロス特製チョコまんっスよー」
 呼び込みを掛けるコンスタンツァの隣では、髪をシニョンに結ったアスカが元気に手を上げていた。初めてのお出かけメンバーだったがすっかり仲良くなっている。そんな様子にほっとした睦は嬉しくなって駆け寄った。
「二人ともチャイナ似合ってて超かわいいー! 写真撮っていい?」
「うんうん、ボク達ってヤバイくらい可愛いよね!」
「ふたりともチャイナドレス似合ってるっスね~」
 はしゃぐアスカと睦にコンスタンツァも加わるが、彼女はどうやら足元が落ち着かないらしい。それでも新しい友達ができれば、楽しさの方が勝ってくれる。
「こんな美少女トリオが宣伝してたら、素通りとかマジ無理っしょ!」
「皆ももっと見チャイなよ!」
 言った三人娘が魅せる煌めく様な明るい笑顔は、これから街に復旧してほしいという期待と希望だ。
 人々から返る眩しい笑顔にアスカは暖かい心地を得ると、配っていたチョコまんに手を伸ばす。そのままぱくりと口にすれば甘く優しい味が広がって。
「中華街が復興したら、今度はお客さんとして遊びに来たいよね!」
「またきたいっスね~」
 睦とコンスタンツァの言葉に大きく頷く。仲良き事は美しきかな――その煌めきを主に女性の中に見出したのか。手持ちのチョコまんを順調に捌いていくダレンの目に留まったのは、戸惑う様な纏の姿だった。
 どうやら見知らぬ人に話しかける事が気恥しいのか、機を逃しているらしい。その様にダレンはひと思案すると、俯く纏に手伝おうかと声を掛ける。
「……改善点。じゃあちょっとダレンちゃんお客様役をやって?」
 突然の物言いだが慣れたもの。少し緩んだ感情の糸を掴むと、ダレンは早速接客を促した。
 足を運んでくれる人、その人に声を届ける。
 その一歩に声が揺れる。
「あ、あの そのっ……美味しいよー……?」
 か細い声に思わず口元が緩んでいた。
「揶揄わないで頂戴!」
「……いやいや、纏チャンってそーいうトコ、相変わらず可愛いよなってさ」
 くつくつと笑うのは卑怯。口を尖らせて反論するも、その熱は少し心地良さに満ちている――その暖かさを感じたのか、メイザースは指先の器から熱を愛おしんだ。
 先程声を掛けた黒龍にほつと告げる。それは取り戻したこの地で、新たに物語を紡ぐであろう子達へのおまじない。
「そういうわけでお裾分けだ」
 言ったメイザースが黒龍へ渡したチョコまんに、相手の目が仄かに嬉しそうな色を帯びる。
「君にも甘い幸せが訪れますように。」
「有難う、あなたにも」
 その言葉に頷くとメイザースはもうひと仕事と腰を上げた。

作者:深水つぐら 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:41人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 0
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