スネークアイ

作者:紫村雪乃


 別荘地に続く道を十数台の高級車が走っていた。運転しているのは暴力を生業としている者特有の物騒な面付きの男たちである。
「うん?」
 先頭の車の運転手が車をとめた。道を阻むように佇む人影を見とめたからである。
 それは二十代前半の若者であった。碧色の短髪、耳にはピアス。刃のように鋭い目をしていた。
 上半身は腕部に装着した装甲のみで、ほとんど全裸。覗くその体躯は細身ながら鋼のような筋肉に覆われ、とてつもなく鍛え抜かれたものと知れた。
「何だ?」
 若者の全身を眺めた運転手の目に殺気がやどった。若者の腰におとされた刀に気づいたからだ。
「ちっ。鉄砲玉か」
 運転手が舌打ちすると、一斉にドアが開き、男たちが車からおりた。手にはすでに拳銃が握られている。
「どこの組のモンだ、てめえ」
「機械仕掛けの神」
 若者は低い声でこたえた。すると男は怪訝そうに眉をひそめた。機械仕掛けの神などという暴力組織は聞いたことがない。
「まあ、いい。話は後で聞いてやる。その前に腰のものを捨てな」
 命じて、男はおやと目をすがめた。若者の腰に落とされた刀が三本であったからだ。男は嘲笑った。
「なんだ、そりゃあ。てめえ、腕は二本しかないくせに、どうやって三刀を使うんだ?」
「こう使う」
 若者の左右手が刀を抜き払った。そして三本めの刀の柄にも手がのびた。驚くべきことに三つめの腕は若者の背からのびていたのである。
 恐怖に衝き動かされ、男たちは発砲した。無数のマズルフラッシュが若者を白く染める。
「あっ」
 愕然たる声は、しかし男たちの口から発せられた。
 彼らは見たのだ。若者の足元に転がった金属塊を。発砲された弾丸であった。
「こんなものか、地球人の携帯武器の威力は」
 ふふんとあざ笑うと、若者は刃をたばしらせた。三条の光芒が空間を薙ぎ、男たちの首がとぶ。大根でも切るような呆気ない殺戮であった。
「任務完了。続けて次のターゲットを捜索する」
 瞬く間に男たちを殺し尽くし、グラビティ・チェインを略奪し終えた若者は納刀すると、歩き出した。


「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしまったようです」
 深刻な面持ちでセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が告げた。
「指揮官型の一体である『ディザスター・キング』は、グラビティ・チェインの略奪を任務とする主力軍団を率いており、有力な配下を派遣して襲撃事件を起こしています」
 襲撃を行っているダモクレスの名はスネークアイ。海賊団『機械仕掛けの神』の戦闘員で、 日本刀を扱う剣士であった。
「ディザスター・キングの指示を受けたダモクレスの襲撃を阻止する事は難しく、既に被害が出てしまっています。しかし、襲撃後に次の襲撃場所へと移動する時ならば迎撃が可能。次の被害を防ぐために、ここで阻止する必要があります」
 セリカが悲痛な声をあげた。最初の被害を食い止めることができなかった事実がよほど哀しく、悔しいのであろう。
「ダモクレスは暴力組織関係者を惨殺。その後、近くの村にむかって歩みを進めています」
 セリカはいった。そして敵は一体のみであるとも。
「しかし油断はなりません。三刀を操る強力な敵です。さらに注意することがあります」
 ダモクレスはグラビティ・チェインの略奪を目的としていた。故に必要のない戦いは行わないだろう。迎撃時には『相手を逃がさないような工夫』が必要であった。
「逃走が難しいと判断したなら敵はケルベロスに戦闘を仕掛けてきます。そうなれば以後は逃走などは行いません。全力でケルベロスを倒すべく戦いを挑んでくるでしょう」
 セリカは憂いを秘めた瞳をケルベロスたちにむけた。
「敵を逃がしてしまえば、更に多くの一般人が殺されてしまうでしょう。それを防ぐためにも、皆さんの力を貸してください」


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)
矢武崎・珠乃(宙心花・e09865)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)

■リプレイ


 空を舞う中型多目的ヘリコプターであった。キャビンには八人の男女。ケルベロスであった。
「日本刀使いのダモクレスねぇ……」
 一人の青年が口を開いた。
 浅黒い肌の持ち主で、精悍な顔立ちをしていた。ふてぶてしいところがあるが、整った容姿といえなくもない。
 月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)。サキュバスであった。
「日本刀は精神と深く結びついている。奴らに精神があるのかねぇ。まあ、それはともかく、問題は三刀だ」
「かなりイレギュラーな動きをするでしょうね」
 長身痩躯の少年がこたえた。顔は端正ではあるのだが、表情を欠いているために何を考えているのかわからぬところがある。名を御子神・宵一(御先稲荷・e02829)といった。
 宵一は立てかけてある愛刀に目をむけた。若宮なる名刀だ。
「腕が一本多い程度で強くなれるとは思えないが、な」
「いいえ」
 宵一は首を横に振った。
 世に二刀を使う刀流がある。その刀流の凄絶さは、その剣祖たる剣士が最も高名なることでも窺えた。
 然るにスネークアイは三刀を使う。その実力は推して知るべしであった。
「それに奴は弾丸を打ち落とす」
 ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)という名の若者が指摘した。
 鋭い目の男で、 かつてはダモクレスの雑兵であった。が、戦うケルベロス達の姿にうたれ、心を獲得。その心はジドにある概念を生み出させた。可能性という概念を。
 そのジドは思う。速さと多様と。スネークアイの刀法である。
「弾丸といえば……」
 ふっ、とアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)という名のケルベロスが口を開いた。人間ではない。竜種であった。さすがに人間ではもちえない幻想的な佇まいである。
 アジサイは続けた。
「ダモクレスが皆殺しにしたのは暴力組織の連中だったな」
「皆殺し……。どんな人にも、家族は居るだろうに……」
 宵一は慨嘆した。誰もこたえる者はいない。すると、突然大きな声が響き、沈黙を打ち砕いた。
「これ以上の被害は許さないんだからね!」
 金髪蒼瞳の少女が手を突き上げた。十歳にも満たぬように見える、人形のように可愛らしい少女である。
 名を矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)。オラトリオのケルベロスであった。
 茉恵は傍らに座す少女を見上げて嬉しそうに微笑んだ。一緒に戦えて嬉しいのだった。
「そうだよね。珠乃お姉ちゃん」
 珠乃お姉ちゃんと呼ばれた少女が微笑み返した。十歳ほど。眩しい笑顔の持ち主で、髪に赤い一重咲きの薔薇を咲かせている。
「そうだね」
 少女はこたえた。名を矢武崎・珠乃(宙心花・e09865)という。
 その名のとおり、珠乃と茉恵は姉妹であった。調停期以前の時代に強大な竜種のデウスエクスを従えていた一族の末裔である。
「そろそろか」
 ふんぞり返って座していた女が組んでいた足をほどいた。
 十八歳。が、若年にそぐわぬふてぶてしさをもった少女であった。
 名をリヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)といい、竜種のケルベロスである。母がサキュバスであるせいか、いやに艶っぽい。
「もう戦闘域ですか」
 リヴィを八人めのケルベロスが見やった。二十七歳の青年だ。が、ドワーフであるための小柄のせいと、可愛らしい顔立ちから少年のように見えた。
 青年――土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)は窓外の景色を見下ろした。輝く緑の地が広がっている。
「あのような美しい自然の中で血を流さなければならないなんて……」
 哀しげに岳は呟いた。が、すぐに岳は表情をひきしめた。
「もうお救いできない命があるのは残念ですけれども……これ以上はやらせませんよ」
 スマートフォンを取り出すと、岳は警察に連絡をとった。村の人々の避難を依頼する。
「そうだな」
 リヴィはニヤリとした。
「命を斬る事の重みを知らん屑鉄共を残す理由はない。他の侵攻を潰す為にも此処で討ち取るのみよ」


 ぴたりとスネークアイは足をとめた。
 舞う雪片の彼方。幾つかの人影が浮かび上がっている。
「ほう」
 スネークアイはニヤリとした。人影から灼熱の殺気が吹き付けてきたからだ。
「こんな辺境の惑星に、そのような殺気を放つ者がいるとはな。何者だ、貴様ら?」
「ケルベロスだ」
 アジサイがこたえた。するとスネークアイの目に刃のような光がよぎった。
「……ドラゴニアンか。俺の邪魔をするつもりのようだな」
「そうだ」
 声はスネークアイの右方からした。ジドだ。避難の連絡をすませたジドは紙片を掲げてみせた。手配書である。
「逃げても無駄だ。この手配書があれば、貴様の位置は常に把握できる。例えこの場から逃げ出すことができたとしても、貴様の背後には常に我らがいることを理解しておけ」
「ふふん」
 スネークアイは嘲笑った。
「面白い。このスネークアイを脅すとはなあ」
 スネークアイは素早く視線を巡らせた。いつの間にか周囲を八人のケルベロスが取り囲んでいる。それだけをとってみてもかなりの強敵といえた。
 こいつらと戦いたい。スネークアイの本音であった。が、グラビティ・チェインを奪うという絶対的使命がある。腹立たしいが、ここは撤退するしかなかった。
 スネークアイの目がとまった。莱恵で。最も御しやすしと判断したのだった。
 その時だ。珠乃の挑発するような声がとんだ。
「地球の武器ことケルベロス、威力を知りたいなら私達がおすすめです」
 スネークアイの手が腰の刀の柄にのびかけた。斬りたい。そうスネークアイの本能は叫んでいる。すると珠乃はさらに挑発した。
「一番グラビティを持っているのは私達。奪いたいなら思いっきり反撃しますよ」
「ぬう」
 歯ぎしりすると、スネークアイは動いた。海賊船船長の衣装に形状変化させた装甲をまとった茉恵にむかって馳せる。
「させるか!」
 リヴィが禍々しさに満ちた書物を開いた。
 呪書。怨殺という。
 リヴィが怨殺の一節を読み上げた。すると空間が歪み、混沌から成る碧色の粘菌が召喚された。
「そんなものが効くか」
 三つの銀光が散った。スネークアイが抜刀したのである。
「ふんっ」
 振り向きざま、スネークアイは左右手の刃をふるった。
 間合いの外の斬撃。それをスネークアイの超次元殺法は可能とした。刃の届かぬ距離でありながら、混沌の粘菌は切り裂かれ、消滅してしまったのである。
 が、恐ろしいのはその斬撃ではなかった。同時にスネークアイは第三の刃を茉恵にむかって薙ぎつけていたのである。
 カッ、と火花が散った。衝撃で地が陥没する。スネークアイの第三刀は茉恵の武術棍によって受け止められていたのであった。
 受け止め得たのは茉恵なればこそである。が、それは渾身の業だ。受け止めた衝撃と同程度のそれがいまだ茉恵の腕を痺れさせ、身動きはならなかった。
「やるな。俺の一刀を受け止めたことは誉めてやろう。が――」
 振り向いた勢いのままに、スネークアイは旋転。二刀を左右一文字に疾らせた。
「あっ」
 鮮血の花を咲かせ、茉恵は血を転がった。


 同時に二人が動いた。アジサイと宝だ。
 茉恵が抜けた穴を塞ぐように走ると、アジサイはくわっと口を開いた。吐き出されたのは咆哮ではなく、紅蓮の炎である。
 さすがのスネークアイもこれにはたまらなかった。刃を組み合わせて炎を防ぎつつ、跳び退る。
 同じ時、宝は呪法術式を発動させていた。魔術的に茉恵の身体を切り開き、傷を分子レベルで再生させていく。斬り裂かれていた内蔵と肋骨が見る間に癒着していった。
 が、それでも不完全だ。タマ――ボクスドラゴンもまた茉恵を癒す。
「逃さぬといったはずだ」
 アジサイが告げた。地に降り立ったスネークアイがニヤリと笑む。
「どうやらそうらしいな。ならば貴様ら全員、殺し尽くしてくれよう」
 毒蛇の速さでスネークアイは襲った。相対した珠乃が叫ぶ。
「妹をよくも!」
 珠乃の手から闇が迸り出た。ブラックスライムだ。それは空で巨大な顎門に変形、スネークアイを飲み込んだ。
 次の瞬間だ。ブラックスライムが切り裂かれ、わずかに傷を負ったスネークアイが飛び出した。そのまま珠乃に肉薄。胴斬りした。
 声も上げえず、血にまみれて珠乃は倒れ伏した。三つの斬撃をあびた彼女の胴はほとんど千切れかけ、瀕死の状態だ。
「お気を確かに!」
 岳は身裡にオーラを凝縮させた。物理を超えた力により珠乃の傷が再生されていく。ウタ――ボクスドラゴンもまた珠乃を癒すべく属性を注入した。
「余計な真似を」
 舌打ちすると、止めを刺すべくスネークアイが一刀を振りかぶった。
 と、その手がとまった。凄絶の気が彼の背を灼いたからだ。
「糧を求めるならば、俺から奪えばいい」
 宵一の手元から白光が噴いた。抜刀したのである。
「よかろう」
 スネークアイはニヤリとした。
「ならば貴様の存在ごと、刈り取ってやるぜ」
 その言葉の響きが消えぬうち、スネークアイは宵一の間合いに踏み込んでいる。
 戛然。
 空で刃が噛みあった。宵一の若宮とスネークアイの右刀が。衝撃で空間が震える。
「ぬっ」
 呻いたのはスネークアイの方であった。宵一の斬撃は彼の想像を超えるほどに重い。が――。
 次の瞬間、宵一の若宮が空にとんだ。反射的にはねあがったスネークアイの左刀がはじいたのである。のみならず第三刀が刺突を放った。
 咄嗟に宵一は跳び退った。が、間に合わない。刃は宵一の腹を貫いた。
 その時だ。ジドがスネークアイを身体に装着した固定砲台でポイントした。彼の目は超動体視力ともいうべき視覚状態であり、スネークアイの高速機動すら見切っている。
「撃ち出された拳銃の弾を斬り落としたそうだな。私の弾丸も同じようにあしらえるか否か、試してみるがいい!」
 主砲が吼えた。砲炎とともに砲弾が撃ち出される。
 対神特殊軟頭弾。対デウスエクス用に作成した特殊弾で、着弾と同時に弾頭が弾け、その内部に込められた高濃度のグラビティ・チェインが放出されるという代物だ。
 白光が閃いた。直後である。地に両断された砲弾が落ちた。
「ふふん」
 スネークアイは嗤った。
「貴様の弾丸も同じだったなあ。―ーぬっ」
 スネークアイの笑みが凍結した。
 びきりっ。
 音をたて、彼の第三刀の刃に亀裂がはしった。


 空を何かが舞い躍った。
 小さな影。タマを肩車した茉恵だ。
 たった一蹴りで十数メートルの距離を詰め、茉恵は拳を叩きつけた。オウガメタルで鬼甲化させた拳を。
 咄嗟にスネークアイは第三刀で防いだ。
 次の瞬間だ。爆発的な衝撃が放散され、光の細片が散った。折れ砕かれた第三刀の刃である。
「おのれっ」
 第三刀の柄を放すと、スネークアイは身をひねった。まだ空にある茉恵めがけて左刀を薙ぎつける。
 ぴたり。
 スネークアイの刃がとまった。その身を黒い顎門が飲み込んでいる。
「もう妹には手を出させない」
 珠乃が告げた。
 刹那だ。光条がブラックスライムを断ち切った。

「一度で良い、アイツの動きを止めてくれ。出来るよな?」
 信頼の光をためた目で見つめ、白いの――ナノナノを宝は放った。

 茉恵が跳び退った。なんでそれを見逃そう。ブラックスライムを断ち切ったスネークアイが追う。彼の方が機動速度は上だ。
「今度は首をもらう。二度と立ち上がれぬようにな」
 スネークアイの両刀が茉恵めがけて疾った。二匹の毒蛇が一頭の蝶を襲うように。
 ぴたり。
 茉恵の首寸前で刃がとまった。
「何っ」
 スネークアイの口から愕然たる呻きがもれた。その身が痺れてしまっている。――白いのの仕業だ。
 ふん、と宝が笑った。
「その程度の剣戟で日本刀を使いこなせていると思っているのか? 残念だが、その程度じゃ俺の相方の足元にも及ばない。勿論、ソイツの練習相手になっている俺、にもな」
「ぬかせ。――うっ」
 またもやスネークアイは呻いた。
 動けない。鎖が彼の身体を戒めていた。
「いっただろう。俺の相手にはならないって」
 宝が告げた時だ。再びアジサイが咆哮した。
「教えてやるぞ。どちらが死すべき定めにあるかを」
 アジサイの口から溶岩流にも似た紅蓮の炎が迸り出た。真紅の渦がスネークアイを飲み込む。
「やるじゃないか」
 炎風が吹きすぎた後、身を焼け爛らせたスネークアイがニンマリと笑った。


 スネークアイの二刀が閃いた。空間を斬り刻みながら疾った刃風が宝をも斬り裂く。血風にまかれ、宝はどうと倒れた。
 たった一振り。それだけで宝は戦闘不能に陥っていた。恐るべきスネークアイの刀の威力である。
 宝を守るべく白いのがハート型の障壁で包み込んだ。ふふん、とスネークアイが嘲笑う。
「そんな障壁ごときで俺の剣撃を防ぐことができるものかよ」
 再びスネークアイが二刀を舞わせ、剣風を疾らせた。
 その時だ。地をえぐりながら光流がとんだ。
 煌。
 風と光がぶつかった。小太陽が現出したかのような光が膨れ上がり、大地を砕き割る。衝撃の余波により、辺りの樹木が薙ぎ倒された。
 もうたる砂塵。吹き荒ぶ風。その中に、日柄の影が佇んていた。岳だ。
 確信を込めて岳は告げた。負けない、と。
「あなたは強い。けれど私達は決して負けません! 心があるからです!」
「ならば、その心ごと斬り捨ててやる」
 スネークアイが地を蹴った。迅雷の機動。一瞬でスネークアイは岳との間合いを詰めた。が――。
 するりとスネークアイの眼前に滑り込んだ者がいる。宵一だ。
 再び対峙する刃と刃。天も昂奮しているのか、さらに雪が舞う。
 宵一は雷閃のごとき刺突を放った。スネークアイは得意の横一文字である。
「くっ」
 呻く声はスネークアイの口からもれた。その胸を宵一の刃が貫いている。
「其れ、剣は瞬速。貴様はあまりに三刀に、変幻自在の刀術に慣れすぎた。哀れなるかな。剣鬼、死すべき時はきた」
「まだだ」
 スネークアイが跳び退った。が、リヴィが逃すはずもない。追って肉薄。
 その時、スネークアイが刀を投げた。刃がリヴィの腹を貫く。が、それでもリヴィはとまらない。ぬっとスネークアイに迫った。
「お前はもう終わりだ。さあ、ケリをつけようか。――怒り猛る雷、存分に味わうがいい!」
 リヴィの拳から超高圧の熱量が撃ち出された。それは彼女が討ち取ってきたデウスエクス達の怒りを熱量変化させてものである。
 熱量は空で飛び散った。稲妻へと姿を変え、辺りの地を撃つ。
 まさに青天の霹靂。轟音と光が地を席巻した。この中で生を掴むことのできる者があろうとは思えない。
 やがて轟音と光が消えた。再び差した陽光。浮かび上がったのは、佇んだまま死したスネークアイの姿であった。
「……まだだ」
 スネークアイの最後の言葉と同じそれを発し、リヴィは拳をスネークアイに叩きつけ、微塵に砕いた。
 雪、さらに激しい。そんな午後のことであった。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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