ミッション破壊作戦~想いこそが力となる

作者:そらばる

●力を取り戻した小剣
 先のミッション破壊作戦にて要となったグラディウスが、再び力を取り戻したのだと、戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は語った。
「『グラディウス』は、長さおよそ70cmの『光る小剣型の兵器』にございます。通常の武器としては使用できぬ代わりに、『強襲型魔空回廊』を破壊する事が可能となっております」
 この兵器を用いて、すでに日本各地のミッション地域の数か所が解放されている。さらなる破壊作戦を決行すれば、デウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込む事ができるはずだ。
 グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用可能になるまで、相応の時間を要する。
「何処のミッションに攻撃を仕掛けるかは、皆様の選択に委ねられます。現状の状況などを踏まえ、相談の上で決断をお願い致します」

 強襲型魔空回廊は、各ミッション地域の中枢に存在する為、通常の方法で辿り着くのは難しく、その道程で、貴重なグラディウスを敵に奪われる危険性もある。
「そこで、こたびは『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を実行致します」
 強襲型魔空回廊は、周囲を半径30m程度のドーム型バリアに囲われている。このバリアに対してグラディウスを触れさせれば良いのだ。これだけ巨大な対象ならば、高空からの直接降下での攻撃も、十分に可能である。
「8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊へと攻撃を集中すれば、一撃で破壊する事も不可能ではございません」
 確率は決して高くはないが、事実一度の攻撃で破壊された魔空回廊も存在する。
 また、一回の降下作戦で破壊できなかったとしても、魔空回廊のダメージは蓄積していく。最大10回程度の降下作戦を繰り返せば、強襲型魔空回廊を破壊できる瞬間は確実にやってくる。
「強襲型魔空回廊の周囲には、強力な護衛戦力が常駐してございます」
 回廊の防衛を担う精鋭部隊だが、高高度からの降下作戦を防ぐ手段を持たない。
 また、グラディウスが攻撃時に発生させる雷光と爆炎は、精鋭部隊に無差別に襲い掛かり、これも敵には防ぐ手立てがない。
「かくなる雷光と爆炎は、グラディウスを所持している人物には影響致しません。皆さんはこれにより発生するスモークに紛れて、中枢部から撤退してください」
 貴重な武器であるグラディウスを持ち帰る事もまた、今回の作戦の重要な任務なのだ。

 魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波により、ある程度無効化できるという。
「しかしながら、完全な無力化とまでは参りませぬ。余波による混乱をいち早く脱する有力な強敵が、皆様の前に立ちはだかります事、ご覚悟ください」
 強敵との戦闘は避けられず、この敵を倒さねば撤退は不可能だろう。
 幸い、グラディウスの余波に混乱する敵に、連携をとるだけの余裕はない。目の前の敵を素早く倒す事に集中し、その場からの速やかな離脱を心がけるべきである。
 戦闘に時間をかけすぎ、脱出するより早く敵が態勢を整えてしまえば、降伏するか暴走して撤退するかのほかに、打つ手がなくなる可能性もある。
「ミッション地域ごとに、現れる敵の特色がございますゆえ、攻撃する場所を選択する参考になされるのもよろしいでしょう」
 今も増え続けるミッション地域は、それそのものがデウスエクスの侵略行為であり、前線基地である。これらを解放する事は、非常に大きな意義を持ってくるだろう。
「グラディウスの最大の力を引き出すのは、所持者の想いにほかなりませぬ。皆様の魂の叫びを、侵略者の跋扈するその頭上に高らかに響かせ、そして必ずや、全員でお戻りください」


参加者
フラジール・ハウライト(仮面屋・e00139)
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)
滝川・左文字(食肉系男子・e07099)
月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)

■リプレイ

●魂を震わせて
 神奈川県相模原市。そこはかつて、シャイターン襲撃事件の戦場となった地。
 この地に倒れたヴァルキュリアを蘇生し、再利用しようとは、いかにも死神らしい目論見である。それは強襲型魔空回廊の設置という形で実行され、相模原地域は現在、人類の手を離れ、死神の前線基地として機能していた。
 その遥か上空をゆく、ヘリオンが一機。
「よーし、今回も破壊作戦がんばるよー!」
 搭乗口が開け放たれるや否や、景気よく言い放ったのは山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)。気合十分、躊躇なく空に全身を躍らせると、
「この想いを、この一撃を、このグラディウスに込めて、叩き込むよー!!」
 と声を上げながら魔空回廊直上へと自由落下していった。
 他の仲間達も次々に続く。
 吹き荒れる逆風の中、リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)の胸にあるのは、ダモクレスであった頃より部品単位で刻み込まれた死神への対抗意識。本物への嫉妬。
「この感情が武器になるならば、使いこなして見せましょう。消え失せなさい!」
 フラジール・ハウライト(仮面屋・e00139)はシンプルに叫ぶ。戦いへの想いを。決意を。
「私達ケルベロスは、常に負けられない戦いの宿命を背負いながら戦ってきた! 共に戦ってきた仲間を敵に傷つけられながら! だがこの奪われた街とて私達は決して見捨てない! この世界は必ず奪い返す! チェストォォォォオ!」
 ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)は、怒気を孕んだ言葉を低く吐き捨てる。
「戦いから解放され眠る同胞を無理やり起こし、あまつさえ使役するなど、看過出来る筈がない。否、同胞でなくともそれは許される行為ではない」
 慇懃な物腰に反し、端的な口調の端々に剣呑な言い回しが増えていく。以前、ミッション破壊作戦に参戦したその時よりも、さらに直截に。
「蘇生の邪魔? 先に眠りを妨げたのはどちらの方か。過去においても未来においても、いついかなる場所であろうが、貴様らの好きなようにさせたりはしない」
 クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)の脳裏には、拭い去れぬ過去の情景が浮かび上がる。
「死神か……彼奴らは何時も人の大切なものを奪っていく……」
 変わってしまった『母』。故郷が蹂躙されていく様を見せつけながら、その顔は、嗤っていた。
「わし……いや、『私』は、お前達を決して許しはしないっ! それを見ることしか出来なかった、未熟な自分もなっ!!」
 己の全て、感情の全てを吐き出しながら、全霊を籠めたグラディウスが振り下ろされる。
 月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)はこれまで、死神が弄んできた死体の数々を見るたびに、気に入らねぇ、と破壊してきた。
 精一杯生きて精一杯足掻いてそして死ぬ。それが命。それが道理。
「……だがテメェらはその道理を容易く捻じ曲げた。命を冒涜するな、なんてカッコつけるつもりはねぇ。でもな、ようやく死ねた人様叩き起こして悦に浸ってんじゃねぇぞォ!」
 誰だって自分の人生を生きて死ぬ権利がある。それを奪う死神の存在を、鎌夜は認めない。
「これからテメェらが奪える物なんて一切ねぇと教えてやる。冥府の神を気取るなら大人しくあの世で揺蕩ってろよ。
 ――さぁ、いざや滅びろ砕け散れェ!」
 流し込まれた膨大な怒りが、グラディウスを一際激しく輝かせた。
 空を落ちゆくセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)の肩には、愛用のライフルがある。
 勇気をもって生きていくことを肯定するために。
「死さえも踏み台にして私は生きるわ。
 あの娘を失った事はとても苦しい記憶。
 けれど、妹が生まれた喜びも知っているわ。
 成長する喜びも知っているわ。
 だからこそ、私は辛くとも生きてやる、生きてやるっ。
 私は死の恐怖を知っている、悲しみを知っている。
 だからこそ、生きることの意味を知っている!」
 悲しみも、喜びも、混然一体に。ただただ真っ直ぐに、言葉が迸っていく。
「ハレルヤ!
 私は死の畏怖をもって生命を賛美するもの!
 さぁ、生きているもののためにこの地を明け渡しなさい!!」
 ……そうして仲間達全員が身を投げ出した空を前に、未だヘリオンの搭乗口に立ち尽くしたままの滝川・左文字(食肉系男子・e07099)は、情けなく震える膝を拳で殴りつけた。
「いつまでヘラヘラ笑ってやがる! まだまだもっと多くの人を救わなければならないのに、たかが高いってくらいで情けねェ……」
 己を奮い立たせながら、遥か下方、生活の気配の感じられない市街地を見下ろし、ごくりと唾を呑み込む。
「こんなのじゃ相棒に申し訳が立たネェんだよぉ!」
 これが己の生きる意義。気合いを入れ、ヘリオンの床を蹴る。
 ぽとりと、最後の一人が『落下』し――八本全てのグラディウスが、ついにバリアに突き立てられた。
 魂から湧き上がる各々の想いがグラディウスを神々しく輝かせ、激しい衝撃を魔空回廊に叩き込んだ。

●黒衣の人魚
 雷光が弾け広がり、爆炎が騒然と周辺をかき乱す。
 硬い手応えに拒まれるように、空中に弾き出されたケルベロス達は、膨大なスモークに紛れながら大地に着地した。
 一斉に見上げれば、魔空回廊はいまだバリアに護られたまま、そこにある。
 不足していたのは想いの力か、はたまた運か。どちらにせよ、今回の急襲は、破壊までには届かなかったのだ。
 しかしその一撃は決して無駄にはなるまい。ケルベロス達は早々に思考を切り替え、グラディウスを一箇所に集める事にした。
「……へぇ、これがグラディウスね」
 フラジールは初めて振るった小剣の性能に感心しながら、グラディウスの管理をリコリスに預けた。
「空の旅も精々楽しんだことだし……このお土産持って、きちんと帰らなくちゃね」
 転じた視線の先には、スモークの中に揺らめく、一人の女性のシルエット。
「さすがに早いですね……」
 リコリスは預かった全てのグラディウスを、敵に見咎められぬうちにアイテムポケットに素早く収納し終え、身構えた。
 スモークを割って、艶やかな黒衣の人魚が現れる。
 夜葬華ノクス。複数確認されている同名の死神の中でも、これはとりわけ強力な精鋭戦力に違いない。
 ノクスは、美しい口許を笑わせる。
「随分な『おいた』をしてくれましたこと……代償はもちろん、命で支払って頂けますね?」
 言うが早いか、ノクスは身を翻し、両手に握る短刀から素早い連撃を繰り出した。
「ぐっ……きっつ……っ!」
 連斬をまともに食らってしまった涼子が呻いた。反射的に全身に呪紋を浮かべ、即座に損傷を緩和させていく。
 リコリスもすぐさま治癒の準備に取り掛かりつつも、推定されるダメージ値に眉をひそめる。
「一撃が重い……」
「私も治癒に回りましょう」
 ダリルがオウガ粒子を放出しながら助け舟を出した。二人がかりで治癒に全力を注げば、なんとか間に合うはずだ。
 研ぎ澄まされた感覚を得て、前衛の面々が一斉に敵へと飛びかかった。
「時間はかけられねぇ。速攻でいくぜ」
 鎌夜の鉄塊剣が、地獄の激痛を刻み付けんとばかりに、痛烈なタルタロスクラッシュを叩き込んだ。
 初撃にして凄まじい衝撃に、奥歯を噛みしめ呻きながら退くノクスを、息つく間もなくセレスティンの黒影弾が襲い掛かる。苦痛の声を上げる敵に、セレスティンは小さく微笑んだ。
「痛覚も立派な生きている証、よ」
 輝きが再び前衛を包む。地に足を踏ん張る左文字は、メタリックバーストを纏いながら、すっかり震えも去った様子で敵を睨み据えた。
「折角オレ達が守った街をよくもこんな有様にしてくれたな、二度手間かけさせられた分はキッチリとケツ拭かせてやるからな」
「どれだけ追い込まれようとも貴様らを必ず叩きのめす!」
 フラジールもまた強気な発言を端的に放ちながら、守護の力を打ち砕く呪われた一撃を、神速で打ち込む。
「さて、死神か……」
 拳と脚に重力を込め、踏み込むクライス。
「うぬに怨みはないが。其方らの存在全ては滅ぼさせてもらうっ!」
 地を揺らし血を震えさせる如き一撃が、轟音と共にノクスを打ち据えた。

●想い、覚悟、決意
 押し出されるように身を翻しながら、クライスを睨み返すノクスの眼差しには、それまでにはない明確な怒気が宿っていた。
「面倒ですね……」
 感情をかき乱されてなるものか、とノクターンを響かせるノクス。しかし即座にフラジールのゾディアックブレイクと涼子のブーストナックルが殺到し、付与した耐性を瞬く間に無効化されてしまう。
(「この戦い、余所見はしねぇ。今から奪うその命と、真正面から向き合ってやる」)
 気高い決意と共に、武器と自身を地獄に同調させ、人間大の炎獄の恒星へと変生を果たす鎌夜。
「そして空しく散れよ徒花」
 憤怒の体現たる浄滅の剛撃が振り下ろされた。逃れ得ぬ嚇怒を籠めた攻撃に、ノクスは大きくのけ反り絶叫を上げる。
「生きているそれ自体が誉なの。死者は安らかに見守るべき」
 シャドウリッパーで肉薄するセレスティン。
「生命を冒涜する死神は、真の死神にあらず。死者には優しくするべきよ。……墓守の私のようにね」
 危うい確率を掻い潜り、小さく諭すように囁きながら、敵の急所を斬り裂いていく。
 全身を蝕む毒と怒りが瞬く間に勢いを増した感触に、ノクスは顔を歪めた。そこを逃さず、左文字の破鎧衝が防御を貫く。
(「別人じゃ……わかっておる。……しかし!」)
「死神は、絶対に容赦せぬッ!」
 先走る感情のままに、轟竜砲を叩き込むクライス。今にも理性と力のたがを飛ばしてしまいそうな、危うさのある一撃だった。
「ああ……腹立たしい」
 元よりノクスに内在していた感情と、外部から無理矢理引きずり出された『怒り』が手を取り、鋭い眼差しがクライスへと向けられる。
 しかし響き渡ったのは、震えるほどに美しい夜葬曲だった。
 極寒の冷気が前衛を襲った。曲を紡ぎながら、ノクスは嗤う。
 効率的な攻撃対象を選べぬならば、より多数を巻き込んでやる。底意地悪くも有効な戦術行動だ。
 鎌夜は回避、涼子は半減。ディフェンダー勢も硬い防御でなんとか凌いだ。
「地獄を灯せ。群れなす魚群よ。我らの役目を此処に示せ」
 すかさず詠唱開始するリコリス。手足の装甲から分離した金属魚の群れが涼子を取り巻き、鱗状装甲となって傷口を治癒していく。
 ダリルは歌う。魂を呼び寄せ纏う歌。死してなお縛り付ける、死神という存在が許せない。そう、想いを籠めながら。――この地に眠る同胞の、その魂の力を借りられたなら、と。
「これ程の敵とは、なるほど、それだけ殲滅のし甲斐があるという事ね」
 フラジールは一撃にして前衛を押し込んだ敵の実力に舌を巻きつつも、強気の態度を崩さず攻め込む。
「くそ……っ、いざとなったら、『派手に』いくしかねぇよな……!」
 辺り所が悪く、想定以上の強烈なダメージをもらってしまった左文字は、歯を食いしばり、裂帛の叫びを放った。
 己が身を犠牲にする覚悟を各々が胸に秘め、ケルベロス達は死力を尽くして戦った。

●スモークの向こう
 戦いは熾烈を極めた。
 怒りに侵されたノクスの強烈な火力は前衛に集中した。中盤以降は攻勢一偏。アンチヒールとブレイクに効力を激減された回復は、行動の無駄と見限ったらしい。短期決着へと連斬を振るい、夜葬曲を振る舞う、その繰り返し。
 リコリスの廻魚灯籠、ダリルのAlbus Alas。治癒を惜しまず、守備を固め、ケルベロス達は必死に耐えた。
 治癒を振り撒きながら、リコリスはふと、ノクスへと問いかける。
「前に一度死んだ筈の貴女は何ですか? 本来は魚型でしょうし……その形が気に入ったのですか?」
「さあ……知った事ではありませんね」
 肩で息をつきながら、侮蔑めいた笑みを返すノクス。
 耐久に若干の不安はあれど、ケルベロス達の火力は決して敵に劣るものではない。治癒を放棄したノクスが急速に追い込まれていく手応えを、ケルベロス達は確かに感じていた。
 首の皮一枚の危うい綱渡りの果てに、双方の消耗が危険域に達した瞬間、ノクスはナイフを閃かせた。
「――貴様だけでも――!」
 怒りを跳ね除け、冷徹に鎌夜を狙う刃。
 腕がもげるかという激痛が鎌夜を襲う。しかし、それは決して致命傷にはなりえなかった。
「まだだァ!」
 斬り裂かれた防具に命を拾われ、鎌夜は吼える。
「テメェは塵のように這いつくばり屑のように死ね。そして地獄で贖えよ。命を弄んだその罪をなァ!」
 魂を喰らう降魔の一撃が、ノクスの胸部を抉るように叩き込まれる。美しい喉が、地獄の炎に焼かれるが如き絶叫を解き放つ。
 左文字はフィルムスーツを形成する繊維状演算回路を解き、霞網を織り上げると、的確に敵を補足した。
「ヘッ! 捕えたぜ……調子に乗って暴れすぎたな!」
 鋭く硬質化した霞網に切り刻まれ、ノクスが苦しげに全身をのけぞらせる。
「どんどんいくよー! 地摺り焔鮫!」
 涼子は素早い蹴撃を繰り出した。放たれた炎は地を這い進み、鮫の如くノクスを喰らう。
 猛攻から逃れんと身を退かせるノクスの顎を、待ち受けていたかのようにセレスティンの手が捉える。
「あなたの輝く命、私に分けて頂戴な」
 触れ、囁き、見つめ。鹵獲されたその命は、術者の糧となる。
「『英霊の鮮血に染まりしその翼翻し、革命に仇なす者を打ち砕け』……何度来ようとあの世に叩き返してやる。お前は私の渇きを癒すための生け贄であればいい!」
 死地を潜り抜けた回数は決して貴様らには負けない、と終焉を打ち込むフラジール。
 クライスは静かに日本刀を構える。
「貴様らには慈悲すら与える気もないが、最後くらい人らしく屠ってやろう……」
 納刀状態からの、瞬時の抜刀。鋭い斬撃にのけぞるノクス。
 もはや悲鳴も上がらぬ人魚を、簒奪者の鎌を構えるダリルが捉えていた。怒りに満ちた瞳の奥底にあるのは、祈りと、願い。
 ……ただ、同胞達が真の意味で戦いから解放され、安らかに眠れるように、と。
 激しく回転する鎌が、ノクスを斬り刻み、命を刈り取る。
 黒衣の人魚の姿は引き裂かれるように四散し、茫漠たるスモークに呑まれるように消え果てた。
「はぁ……勝てたぁ……」
 安堵に肩を落とし、しかし涼子はすぐさま皆を振り返る。
「早くここから離脱しよう!」
 幸い、スモークはいまだ十分に周囲に満ちている。他の死神が追ってくる気配もない。
 ケルベロス達ははぐれぬよう、慎重に中枢部を離脱していく。
 強襲型魔空回廊はスモークの向こう側に消え、もはやその姿は確かめようがなかった。
 いつか、完全な破壊が叶う事を願いながら、ケルベロス達は生きる為の帰路をひた走った。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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