ヒーリングバレンタイン2017~水引く雅な贈り物

作者:柊透胡

「歴史的快挙って言えばいいかしら♪ 皆の活躍で、年明け早々に複数のミッション地域の奪還に成功したのよね」
 結城・美緒(ドワーフの降魔拳士・en0015)は、明るい笑みを浮かべていた。
「それでね、取り戻した地域の復興も兼ねて、バレンタインのプレゼントを皆で作ってみない?」
 解放したミッション地域は、基本的に住人はいない。だが、引越しを考えている人がその下見に訪れたり、周辺住民が見学に来たりする事もあるようだ。
「だから、ヒール作業の後に一般の人でも参加出来る楽しいイベントをすれば、解放したミッション地域のイメージアップにもなるじゃないかなぁって」
 美緒が広げた地図は、京都市右京区――数多くの名所旧跡が集まる観光スポットに出現した『京都触手寺』も、過日のミッション破壊で奪還されたエリアの1つだ。
「古式ゆかしい京都からオークの巣窟を排除出来て、本当に良かったわ!」
 京都市西北部に位置する右京区は、南部はかつて都の皇族や公家の別荘が点在していたが、現在は主に住宅地。西部や北部は山間地だ。日本の原風景を今に留める山々は、四季折々の美しい自然に恵まれている。
「住宅地に旧跡が点在している地域だから、やたらとヒールで幻想化してしまうのはちょっと勿体無いかもしれないわね」
 歴史的価値に配慮して、必要な箇所に的確なヒールを。或いは、ヒールを用いない作業が必要な場合もあるだろう。
「尤も、私達の担当箇所はさして広くはありませんので、復興作業自体は午前中で完了すると思われます」
 タブレット画面を確認しながら、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに補足する。
「その後は……『水引アート』に挑戦してみない?」
 水引とは、祝儀や不祝儀の際に用いられる飾り紐の事で、その形や色により様々に使い分けられる。
「封印や魔除け、人と人を結び付けるという意味があるそうですね」
 美緒のお誘いに続いて、創はタブレット画面に映る様々な作品画像を見せる。
「特に京水引は、手こぎ水引に更に絹糸を巻いた最高級品です」
 舟の櫓を漕ぐように引っ張りながら作られるので、紙でありながらハリとコシがあり、結び目はしなやかな京水引。地の色と巻く糸色の組み合せで彩りも豊富だ。
「この京水引を使って、色んな結び方でアクセサリーや小物を作るのよ」
 会場は、担当エリアにある公民館を押さえている。アクセサリーや箸置き、携帯ストラップやキーホルダー等々、小物ならば比較的手軽に作れるだろう。初心者向けのキットもある。
「やる事は色々あるわよ。午前中は『ヒール』をやって、その間に『道具や材料の搬入』。イベントは午後からで、一般の人達も参加するから『イベントの進行や参加者のお世話』する人も欲しいわね」
 当日はケルベロス達も忙しくなるだろうが、『水引アートに挑戦する』時間は十分にある筈。きっと参加した人の数だけ、様々な小物がイベントを彩るに違いない。
「じゃあ、よろしくね♪」
 ヒーリングバレンタイン2017――京都のヒールと水引アートの一時は如何?


■リプレイ

●古都の癒し
 京都市右京区――古都に刻まれた忌まわしきオークの爪痕を浄めんと、ケルベロス達は早朝からヒールに掛かる。
 広域には範囲ヒールで景気よく、歴史的価値にも配慮して。ヒールが進む間に、イベント準備も着々と。
「こういう時こそバイト経験がものをいうってやつです」
「力仕事は得意だからね」
 色とりどりの京水引に工作の道具、軽い物が多いが量も多い。結城・美緒と都築・創も資材搬入担当と何度も台車を往復させる。
 そうして、首尾よく復興作業も完了すれば、公民館に続々と人が集まる。
「受付はこっちだよー」
「会場に案内するのじゃ」
 今年はイベントを手伝ってくれるケルベロスも多くて助かった、は創の言。
 和室を幾つか繋げた広間では、ケルベロスも一般人も賑やかに――仕事の後はお楽しみ。「京水引のバレンタインアート」の始まり始まり。

 京水引は、手こぎ水引に極細の絹糸を巻く。少し引っ張っただけで解けてしまう為、両端にボンド水を着けて下準備。
「触り心地が良いな。流石は最高級品」
「ととさまは違いがわかるのじゃな。すごい!」
 保村・綾の尊敬の眼差しに、アラドファル・セタラは得意げに笑む。
 挑戦するのはお揃いの箸置き。アラドファルは紺と黄色、綾は青と水色の魚だ。
「あれ? こっちで合ってるっけ?」
「あっ、変なあとついた!」
 キットの説明書と首っ引きで、揃って悪戦苦闘。上手く結べて感動するのも一緒だ。
「髪飾りにもなるかも?」
「えへへ、似合う?」
 一頻りはしゃぎ、完成した箸置きは大事に仕舞う。
「また一緒にご飯食べような。次は俺が手作りする」
「わ、ととさまの作るごはん?  たべる!」
 この幸せな縁が、ずっと結ばれ続くように――。
(「何と云う贅沢だろう」)
 指に伝わる伝統の風格。スプーキー・ドリズルは手慣らしに作った黒い怪獣の栞を置く。次に群青と白銀の水引で編み始めたのは、隣の仲良しへ贈る花輪。彼女の手首のサイズを横目に計りながら。
「あら、上手。スプーキーちゃん、器用だから。ご指導頂こうかしら?」
 ルトゥナ・プリマヴェーラの楽しげな言葉に、碧眼を細めるスプーキー。
「それは紫陽花だね」
「細くても編めば色んな形になるものね」
 青紫と水色の小花を幾つも纏め、ルトゥナは緑の葉の上に重ねる。
「実に麗しい……耳元でも映えそうだ。パーツを付けてみるかい?」
「初めてだけど、楽しいわ。次は難しそうな鶴や亀に挑戦したいわね」
「その時は是非僕も御一緒させてくれ」
 次、という言葉が素直に嬉しくて。スプーキーは照れ隠しにお茶を取りに席を立つ。
 ――すごく鮮やかなブルーを見付けた。
「あれ? 絡まっちゃった……?」
 だが、雨雫作りは予想以上に繊細で、ウォーレン・ホリィウッドは筐・恭志郎に助けを求める。
「玉結びの応用で出来そうですね。ここは上を通すんですよ」
 小物作りは初めてだが、水引に馴染みがある恭志郎。
「通す度、形を整えると綺麗になりますよ」
 お陰で綺麗な雨雫が完成。ワクワクと考えるのも束の間、恭志郎のトレードマークで閃くウォーレン。
「ヘアピンにするよ」
 ならばと、恭志郎は作った水引の葉も一緒に飾る。
「此処で水引結んでるのもご縁、ですからね」
 変幻自在に繋がる水引は本当にご縁みたいだとウォーレンも頷く。
「ヘアピン着けたウォーレンさん、新鮮だなぁ」
「お揃いっぽいけど……恭志郎さんの方がしっくり来る?」
 ヘアピン着けた青年同士、揃って笑み零れる。
「水引で小物が作れるなんて思いもしなかったよ」
 興味津々に見本を眺め、国津・寂燕は唸る。
「結び方も結構あるか。事前に調べてみて良かったかもね」
 振り返れば、安曇野・真白は仕度に余念が無い。
「真白は何作るんだい? おじさんにもアイデア分けとくれよ、ははは」
「国津さまがお好きな物をお作りになれば、素敵なものができますよ」
 励ますように、両手で寂燕の手首を握る真白。その実、サイズを測っているのは小さな秘密。
「好きな色かい? 夕焼けの茜色なんて大好きだねぇ」
 だから、いつも見守ってくれる寂燕に感謝を込めて、茜と白で腕飾りを作る事にした。軽ければ、刀の扱いの邪魔とならないだろう。ボクスドラゴンを撫で、少女は袖まくり。
「銀華も欲しい? それじゃ頑張ってもう1つ作りませんとね」
 美緒を誘い、鮫洲・蓮華は並んで髪飾り作り。
「蓮華はやっぱり、ハートのマークで作っちゃおうかな~?」
 ピンクと赤と白の水引を束ね、グラデーションも愛らしく形作る蓮華。
「美緒ちゃんはどんなの作るの?」
 興味津々に覗けば、美緒は色とりどりの玉結びを幾つも作っている。水引玉を連ねた和風リボンのようだ。
「蓮華も出来たー! うんうん、こんな感じでどうかな?」
 早速、出来立てのハートを着ける蓮華。
「可愛いね。よく似合ってるわ」
「ホント? 今日はちょっとおめかししてきたんだよ」
 美緒の褒め言葉に、蓮華は満面の笑みを浮かべた。

●目覚めの挨拶を結ぶ縁
「よし、水引ってヤツを作るぜ! えいえいおー!」
 バレンタイン・バレットの掛け声と共にスタート! 殊更賑やかなのは1番の大所帯、旅団「o ha yo -*」の面々だ。
「おれは花をつくってみようかな!」
 仔ウサギが選んだ色は――窓から零れる、しろい光。からりと晴れたあおい空。おいしい琥珀色のリンゴジャム!
(「水引とは何だろう……」)
 キース・クレイノアは赤と橙、白――茜の空、黄昏の空、それから雲の色を取る。
「そうやって結ぶのか」
 京水引が紙と絹糸で出来ていると初めて知った。見よう見真似で結っていく。
「おれは……根付にしようか」
 枯れぬ木々の緑。ミルクのような、雲のような、柔らかな白。目覚めへ導く眩い金――オズ・ナハトは好ましい色を慎重に、結う度に形を整えて。
「オズさん、丁寧だなあ」
 感心する大成・朝希の色は翠に空色、それから白――大好きな朝を告げる梅の色。解けぬよう、弛まぬよう一目一目、ピンズの飾りを作る。
「僕も特別上手じゃないけど。気持ちを篭める事なら、教わらずに出来ますもん」
「そうだね、愛が、気持ちが籠もる事が1番だ」
 歳離れた2人はしみじみと頷き合う。
「ああ、綺麗に咲きそうですねえ」
 朝の縁に結ばれ、笑い合える皆との日々の想いを重ねて。或いは、結い上げた想いが一筋も千切れぬように願いながら。
「ふふ、不器用返上……せめて改善したい」
 早くも弱気のゼレフ・スティガルが挑戦するのは小さなボウル。朝顔の種を入れたい。
 白から白藍、天色に一筋の淡黄は陽の色。芽吹き待つ種が焦がれる彩を重ねる度、深まるゼレフの眉間の皺。
「転がらないボールはゼレフから逃げない」
「う、うん……」
 ダンサー・ニコラウスに慰められたけど、不出来にガックリ肩も落ちる。
「助けは要りそうか?」
「不器用さん方、いざとなったらミルラ先生に頼りましょう」
「せ、先生……?」
 朝希の丸投げに、思わず目をパチパチ瞬くミルラ・コンミフォラ。
「魔女の手で良ければ」
 ウサギの手も借りたい不器用組に、基本のあわじ結びを見せる。
「ダンは不器用さんじゃない」
 ぷいとそっぽ向くダンサーだが、ミルラの見本は気になる様子。芳ばしい煎茶色に淡く焦げた牡丹を絡めて織り成すのは……出来上がるまで、秘密。
 革紐細工で一日の長があるミルラの作品は既に耳元に。朝露の緑孕む青に陽射しを模す白金。来る季節を桜色と芽吹きの緑に重ねた――緩く編み重ねたあわじ結びはケルト模様にも似て。
 ミルラが根気よく教える内に、徐々に周囲の水引も形を成す。
「丁度いい塩梅って……難しいなぁ、これ」
 それでも、ミルラや朝希の言葉に、ウーリ・ヴァーツェルの肩の力が抜けた。明けの澄んだ空色と昇るお日様の金色とフワリ揺蕩う雲の白色を、朝に出来た縁に擬えて。
「……ねえ、皆。これ花に見える?」
「大丈夫やで、バレンタイン。花と言い張れば、それはお花!」
 にこやかに返すウーリの作品は、ちょっと不恰好な3色のあわじ玉。おはようと扉開く鍵は、朝の合言葉の縁の側に。
「そうですよ、心の目で見ればわかります……わたくしも完成です!」
 歪んだ結び目もご愛嬌。笑み満面のアイヴォリー・ロムの掌に花型のコースター。
 千紫万紅の水引は全て美しくて迷った。でも、仲間の笑顔に閃いた天啓は――窓透かす朝陽の白、梢揺らす微風の若草色。晴れやかなグラデーションは、笑って挨拶交わすいつもの朝にきっと似合う。
「皆の言葉があったかいよ」
 こころが手先においつかないのが悔しい。でも、バレンタインは自分の花の咲き様は結構好きだ。
「ああ。俺も花と言い張ろう」
 夕映え色の花に名前は無いから『俺の花』。掌に歪む花を乗せ、キースも得意げだ。
「愛は、愛は籠めてますものね!」
「そう、ね。イヴリー。愛があればいい……ダンも、完成」
 アイヴォリーに頷きながらも、ダンサーはむっとした表情。出来に不満はあるものの、小さな松ぼっくりの髪飾りを着ける。
「……変?」
 ゆるりと小首を傾げる少女に、揃って優しく頭を振る。
「ありがと……ね、みんなとの縁も結ばれた?」
 目覚めの挨拶で始まった縁。繋いだ環が不恰好でも、どうか解けず続いていくように。

●奇跡の縁
 水引の由来を語るヴィンセント・ヴォルフに、微笑む祝部・桜。
「沢山お調べになったのですね。何だか嬉しい」
 そうして、青色の水引を自らと桜の手首に結ぶヴィンセント。
「こうすれば、桜と縁が結ばれたままだろうか」
「お兄さま……」
「桜との縁は、不思議で、貴重で、奇跡……きっと2度とはない」
 告白に驚きながら、桜もそれぞれの手首に桜色の水引を結び返す。
「桜にとっても、奇跡です。お兄さまとの出会いで、桜がどれだけ救われたか……」
 見交わし、自然と身を寄せ合う2人。
「でもね、お兄さま。わざわざ結ばずとも、桜はこの手を離す気などないのですよ」
 お慕いしています。これからもお傍に――桜の言葉に頷き、その手を握ってヴィンセントは願う。
 この縁が、どうかこのまま続きますように――。
「これはね……」
 試作で自信を得たか、一般参加者に独自スキル「世話焼き」を発動する杉崎・真奈美。そんな彼女を愛おしく見守りながら、星野・優輝も先生役に勤しむ。
(「水引きって結婚式のイメージだったけど、これでアートなんて流石、伝統ある京都だな」)
「あ、えっと……ごめん、ゆーき教えて!」
 尤も、真奈美自身も今回が初体験であれば、結局のヘルプに優輝はくすりとして差し招く。一応、一通りは勉強済み。
「……ああ、ここは間違い易い」
 身を寄せてレクチャーを受ける真奈美。彼の手が、腰に回ってきたのは果たして偶然か。
「えへへ♪」
 思わず反応してしまい、頬が染まる。眩しい笑顔から目を逸らしたのは、優輝の照れ隠し。更に密着するように腕を回し、水引細工の講義はまだ続く。
 細かい手作業が好きな源・那岐。今日も義弟の源・瑠璃と婚約者の天導・十六夜と一緒。
(「髪飾りは十六夜さんから素敵な物を頂いてますし……」)
 菫のイヤリングを作る事にした。紫の水引を花形に整え、金具を付けて出来上がり。
「瑠璃も器用ですけど、お料理上手の十六夜さんは細工物も得意そうですよね」
「僕の器用さは姉さん譲りだよ?」
 藍と白のあわじ結びで、瑠璃はバングルを作っている。
(「十六夜さんは何作るのかな?」)
 姉弟の期待の眼差しに、十六夜も負けてられない。黒を主に紫と銀の水引に気を込めながら丁寧に、髪留めの組紐を作る。
「十六夜さん」
 那岐が席を外した隙に、そっと十六夜の両手を握る瑠璃。
「ずっと僕達と一緒にいてくれてありがとう」
 義姉の婚約者は素敵な大人だ。瑠璃は彼のような男になりたいと思っている。
「これからも、宜しくね」
「瑠璃なら大丈夫さ。焦らずゆっくり進めばいい」
「騒がしい私達に付き合って下さってありがとうございます。これからも、傍にいて下さいね」
 背後から不意の声。ヒョイと顔を出す那岐に驚き、思わず頬を膨らませる瑠璃。悪戯にしては質が悪い。
「俺も楽しませて貰ってるから安心しろ。こちらこそ宜しくな」
 茶目っ気ある那岐の表情に、十六夜も微笑む。
「あなた、こういう場だと見目からして心強いわね」
「見掛け倒しと笑われぬよう精一杯努めようか」
 オルテンシア・マルブランシュの言葉に、常より和装の疎影・ヒコは頬を掻く。確かに水引に馴染はあるが、教えるとなるとまた別の話。
「白梅を作りたいの」
「確かに季は見合うが……どうして?」
「ほら。年初に貰った文に添えられていた水引の華。あれが忘れられなくて」
 己が切欠と知れば吝かでもなく。ヒコは照れ隠しに咳払いする。
 日輪映ゆ白、縁に添う仄紅、結い留める花芯の金――だが、気が付けば彼の花は置き去りに。
「おかしいわね。ここを……こう?」
「間違っちゃねぇ。けど、捻じれてる」
 口添えに指添えを重ね、2人で作り上げる1輪の花。僅かな歪も愛おしい。
「其れ、着けた姿が見てぇな」
 助力の対価に紅が瞬く。
(「白梅の艶姿、僅かの独占ぐらい許されるだろ?」)
 オラトリオの青年に咲くのも白き梅。二の句は告げず、水引の白梅はオルテンシアを飾る。
 ――あなたと、おそろい。

●親愛を結んで
「お花の形は華やかだと思うんだ! 簪とか素敵だよねー」
「ユラは桜が本当に好きなんですね」
 紫の瞳を輝かせる天神・優桜を見るアシュレイ・クラウディの眼差しは優しい。
「アシュは器用で羨ましいなぁ」
「ユラは少し不器用ですからね……ほら、手伝ってあげますから」
 義理の兄妹は今日も仲睦まじい。
(「あ、この色はあの子に似合いそうですね」)
 一方、アシュレイの水引が描くのは小鳥と薔薇。赤やピンクが愛らしい。
「アシュー……それは、私の未来のお姉さまになる人に贈るのかなー?」
「なっ…何を言ってるんですか!」
 目聡い優桜のからかいに、思わず慌てるのも束の間。
「まぁ……そうなればいいなって、思っていますけどね」
(「くぅ、やっぱり羨ましい」)
 珍しい義兄の照れ顔に、優桜の気分もほっこりとして。
「ま、幸せそうで私も嬉しいよっ!」
「ユラには敵いませんね……この事は内緒ですよ?」
 小物作りに心が弾む。でも、不器用の自覚があるので、初心者キットを手に取るナディア・ノヴァ。
「芹音はどんなのを作るんだ?」
「アタシは帯留めを作るわ♪」
 氷流・芹音が言うには、赤を基調に白のラインの亀甲結びにするとか。
「紅白に亀でめでたいでしょ? 梅の時期だしね」
 説明書に従い水引を手繰るナディアだが、中々綺麗に結べない。
「あらら、苦戦中?」
 一方、友人は順調に作業を進めている。
「芹音は器用なんだなぁ……」
「家族に色々作らされるからね。細かい作業は得意よ」
 励ますように、青年は快活に笑う。
「大丈夫、楽しむのが1番!」
 途中、手伝って貰いながら、帯留めに続いてヘアピンも完成。
「はい、あげるっ。和服も着るでしょ?」
「いいのか? ならばこれも……私にしては上出来だ」
 紅白の帯留めと赤花のヘアピンを交換して、2人は楽しげに微笑む。
「うわ、これ難しいね……」
 手が小さい所為か、水引を上手く扱えずしょぼんり肩を落とすエルス・キャナリー。
「初心者キットか……説明書もあるのか。ほれ、見てみろ」
 巽・清士朗の手解きで、漸くコツが掴めたようだ。
「わぁい、できたの!」
 尤も、清士朗がもっと上手く作るのを見て、すぐ習作は引っ込めたけど。
 合間にお茶や茶菓子を摘みつつ、じっくり時間を掛けて――完成の頃には既に夜。
「水引には人と人を結びつけるという縁起もあるのだよな。エルスは知っていたか?」
「人と人を……? 初耳です」
 清士朗の白くて丸っこい黒目の小鳥と、自身の青緑と金色の飾り紐をを見比べるエルス。
「何となくエルスに似た子になったな。よかったら交換するか?」
「えっ、いいの? 清士朗様みたいに上手く出来なかったけど……」
 小さく頷く少女の様子に、青年は眼光鋭い眦を和ませた。
「信倖さんはどの様な物を?」
「贈り物の髪飾りをな。鳥か花か……迷うならいっそ両方をと」
 藤守・景臣に答えた伽羅楽・信倖が選んだ水引の色は、薄桃と群青。桜花を連ね、青い鳥を添えた。
「凄いですね。その鳥、どの様に作ったんでしょう?」
 周囲の見よう見真似という返答に、景臣は感心の風情。
「とても可愛らしいですね。幸せを運ぶ青い鳥。きっと貰う人も幸せに違いありませんわ」
 微笑む藤守・千鶴夜が咲かせたのは赤と白、黒と白の梅の花。手先は器用な方。初めての水引細工も、慣れれば上達は早かった。
「我が家の箸置きにしようかと」
「梅の花が愛らしい。日用の品とは千鶴夜殿は家庭的だ」
「黒い方が僕のだね」
 愛娘の力作を嬉しげに眺めていた景臣は、徐に差し招く。
「千鶴夜、ちょっとこっち」
「どうか致しました?」
 小首を傾げて寄る千鶴夜の黒髪に、金青の蝶が留まる。
「いつものお礼って事で」
「まあ……父さんにしては上出来ですわね」
「いやいや、綺麗に出来ているではないか。千鶴夜殿、似合っているぞ」
 素直でない感想に、信倖は思わずにやり。手放しの称賛にうっすら頬を染め、千鶴夜は父をちらと見上げる。
「……その、有難うございます」
「はは、どう致しまして」
 親子の微笑ましいやり取りを、信倖は目を細めて見守っていた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:36人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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