ヒーリングバレンタイン2017~愛しき甘味

作者:こーや

 冷たい風が抜けていく。
 思わず身を竦めてしまいそうな寒さだが、河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)は穏やかな笑みを浮かべていた。
「皆さんの活躍で、ミッション地域になってた複数の場所の奪還が出来ました。デウスエクスの拠点にもなってた場所ですから、今はまだ荒れてしもうてるんで、復興せなあかんのですけど……」
 くるり、山河は唐傘を右に半回転させる。それにつられ、黒髪がふわりと巻き上がった。
「折角ですから、バレンタインのチョコレートも作ってみたらええんとちゃうかなって」
 解放したミッション地域には、基本的に住民はいない。
 しかし、引っ越しを検討している人が下見に来ることや、周辺住民が様子を見に来ることもある。
 それならばヒールだけでなく、一般の人も参加できるようなイベントを行い、解放したミッション地域のイメージアップを行おうという訳だ。
「うちからお願いするのは螺旋番外地のある、大阪市の天王寺区です。商業地域として栄えてた場所ですね」
 かつてはショッピングモールやオフィスビルがいくつも立ち並んでいた場所である。
「ショッピングモールやったら人もようさん入りますから、ヒールして会場にしてしまいましょう」
 場所が場所だ。ヒールさえしてしまえば、モール内の喫茶店やレストランなどの調理スペースが使える。
 そういった場所でチョコレートを作ることができる。
 ただし、材料や道具はないのでその搬入が必要だ。
「ああ、せやった。大きなチョコレートファウンテンがあるんですよ。チョコレートフォンデュも出来るみたいですよ」
 元々の施設に、イベント用の巨大チョコレートファウンテンが設置されていたらしい。
 持ち運べるようなものではなく、建物に直接くっつけていたものだというので、ヒールすれば使えるだろう。
「チョコレート作るのもええですし、フォンデュして美味しく頂くのもええですねぇ」
 味を想像したのか、山河はふふっ笑った。
「折角やから、楽しんでってくださいね」


■リプレイ

●想いを込めて
 ヒールも搬入作業も滞りなく。
 一般人の姿も増え始め、あちこちから楽しげな声が上がる。
 そんな中、【金鯱師団】の面々はそれぞれの菓子作りを始めた。
 柊城・結衣はメモに書かれたレシピを見ながら、ボールに入った生地を練っている。
「ブラウニー?」
「はい。昔、育ての親に教えてもらったレシピなんですよね。よく一緒に作ったりしてました」
「いいね、そういうの」
 そう言うミルディア・ディスティンは慣れた手つきでチョコの湯煎をこなしている。これは本人のものではない。
 ケーキのスポンジから粗熱が取れたかを確認したヒョウカ・シルフィードが小首を傾げた。
「助かりますが、使わせてもらってもいいんですか?」
 常ならばスケッチブックを使った筆談での会話だが、今日はなんといっても菓子を作りながらである。
 仲間を手伝うミルディアはにぱっと笑った。
「あたしはあげる人もいないから。料理の腕は鍛えられてるし、手伝いますよ」
 それならと好意に甘えることにし、ヒョウカは程よく溶かされたチョコレートを使ってデコレーションを始める。
 村雨・柚月もバターと一緒に溶かしたチョコレートを受け取り、準備をしておいた材料と合わせていく。
「旅団のメンバーとワイワイ作るのもいいね」
「大勢で作るのも楽しいですね」
「あ、ヒョウカさん。顔にチョコついてる」
「あら……いつの間に」
 作業スペースは広大だが、オーブンの数は人数分とはいかない。順番に、交代で使っていく。
 結衣は一足先に焼き上がったブラウニーを切り分け、丁寧にラッピングしていく。そのうちの一つは自分用に置いといて――。
「よろしければ皆さんもおひとつどうですか?」
「わ、いただきますにゃ♪」
「ん、もらってもいいのか? ありがとう」
 焼きあがったらガトーショコラも皆で分けようと柚月が言えば、ケーキの飾り付けを終えたヒョウカが『では私のものも』とスケッチブックにペンを走らせる。
 チョコレートは本命の人にだけ、なんて考えていたミルディアが茶の準備を始めると同時に、オーブンがケーキの焼き上がりを告げたのであった。
 霧崎・天音と天変・地異は並んでチョコ作りに勤しむ。
 どんどん増えていく一般人の姿を見て、少しだけ手を止めた霧崎・天音は無表情のまま言う。
「……この場所にも…人が戻り始めたみたいだね……」
 二人はこの場所を解放したケルベロスだ。
「大事な場所を取り戻せた……一緒に…」
「天音、あの時は有難う。それに心配かけたな」
 そんなやり取りに対し、作業は難航している。地異の顔はチョコで汚れ、雨音はチョコを焦がしてしまったり、分量を間違えてしまったり。
 それでも二人一緒の作業だ。楽しくないわけがない。
「地異さん……なんだか……一緒に開放できたのが…嬉しいかも…」
 やはり表情に変化はないが、天音はどこか嬉しそうだ。地異も笑って言う。
「オレたちは恋人で天天コンビなんだ。今度もまた一緒に戦おうぜ」
「……うん」
 二人は悪戦苦闘の末にどうにか出来上がった甘いチョコレートを堪能しながら、取り戻した街を感慨深げに眺めるのであった。
 折角解放された街だ。復興の為と気合が入っているのは『プチ紅光』の面々。勿論、自分達も楽しむ所存である。
 しかし、気合と菓子作りの腕が一致しているとは限らないもので――。
「あれ、またまだらに……なんでー!?」
「あ、あれ。そこはこうすればいいんだっけ……ダメ、僕も分かんない! カトレア助けてー!」
「お二人とも落ち着いてくださいませ、ここはこうですわ」
 テンパリングである。本来の意味のテンパリングも上手くいってないので大変なことになっている。
 そんな燈家・陽葉と春花・春撫を宥め、カトレア・ベルローズは落ち着いてレシピを確認して手順を教えてやる。
「あっ、チョコの種類で溶かす温度や時間が違うのですね。ありがとうございます」
 問題点が分かったことで、無事にチョコを作れそうだとほっとしたのも束の間。
 くすくす、一般人の笑い声に春撫は気付いた。揶揄するようなものではなく、親しみが感じられる声音だ。
 気を取り直して作業を再開した春撫は、教えてもらった通りに手を動かす。目指すは苺とビスケットとナッツのチョコバーである。
 一方、実はカトレアもトリュフチョコの作り方があまり分かっていなかったりするが、こちらは慌てず騒がず。二人に聞きながら、レシピを見ながら、堅実に仕上げている。
 陽葉は陽葉で、危なげなく抹茶チョコを手順通りに。優しい甘さのホワイトチョコがベースだ。
 そうして出来上がった菓子は味見と称して三人で分け合いっこ。美味しくいただきながら、お互いの菓子を褒め合うのであった。
 大鍋をぐるり、ぐるりと混ぜていく西城・静馬。見学に来た一般人に振る舞うためのホットチョコレートである。
 ユウ・アーベロートも一般人に向けた菓子作りを進めている。大量に作ったチョコレートは可愛らしくラッピングしてある。
 ユウが小さな子供にチョコを手渡し、静馬がホットチョコレートを勧める。
 好奇心に満ちた笑顔が返ってくる。
 静馬は微笑みを零しながら、余ったチョコと牛乳でラテアートを施した。この場所が、故郷を失った人々の希望の出発点になればいいと祈りを込めて。
「西城さん」
 呼ばれて振り返れば、どこか気恥ずかしそうな表情のユウがいた。別に用意していたらしいチョコが渡される。
 お返しにと、鍋から移したホットチョコレートに描く。
「お口に合うと良いのですが……ラテアートは貴女のイメージに合わせて『夕暮れ』です。ご賞味あれ」
 受け取ったマグカップを五感で味わい、ユウは目を細めて笑った。
「素敵な一日になってよかったです」
 本心ではあるけれど、そんな言葉で気持ちを隠す。ユウが誰かになにかをあげるというのはこれが初めてだったから。

●チョコレートに寄せて
 ヒールや道具の搬入などを終えた【唄う大窯】の面々は、早速巨大チョコレートファウンテンの前に陣取った。
「これはまた、大きいですね……! チョコレートがまるで噴水みたい……!」
 レイラ・クリスティの言葉通り、天辺から噴き出したチョコが音を立てて落ちてくる。
「流れるチョコレートが滑らかそのもので綺麗だし、甘い香りがたまらないよね」
「テンション上がるわね!」
 感心して言う秋津・千早に、待ちきれないと言わんばかりの七星・さくら。夢のような光景にクローネ・ラヴクラフトの心もうきうきわくわく。
「皆は、何をフォンデュする?」
「私は苺から!」
「クッキーとかワッフルとか?」
「私は……キウイにしましょう」
 なんて、思い思いにフォンデュ開始。
 甘い香りに夢心地だったイリア・シャンティーナも、そんな仲間の見よう見真似でフォンデュに挑戦する。
「……ここに、つければいいです? なんでも? ……なんでもいいです?」
「うんっ、大丈夫。イリアちゃんも食べる? はい、あーん♪」
 さくらがものは試しにと、苺チョコを食べさせると……リミッター解除。イリアは食べ合わせも気にせず、食材を片っ端から試し始めた。
 そんなイリアを見て、クローネ閃いた。
「……む、ぼく、良い事を閃いたぞ」
 マシュマロにたっぷりチョコを絡め、クラッカーで挟んでみる。チョコマシュマロサンドの完成である。
 衝撃の瞬間を目の当たりにしたレイラも、早速真似をする。甘くてふわふわさくさく、幸せ食感だ。
「……クローネさん、天才ですね……! 皆さん、これ美味しいですよっ」
 言われてさくらもいそいそ。
 千早はその様子を横目に、お茶の準備を始める。チョコばかりだと喉が渇くので飲み物は必須だ。持参した水筒から人数分のレモンティーを用意する。
「はい、どうぞ」
 礼を言って受け取り、小休止。イリアは止まらないけれど。
「甘い物を頂くのも良いけど、甘いお話も気になるわよねぇ」
 そう言うと、さくらはニマッと笑った。その顔は、いわゆる恋バナをするときの女の子特有のもの。
「レイラちゃんとかその辺どうなの? どうなの?」
 聞かれた本人、ちょっと硬直。
「……っへ? い、いやその……ひ、秘密ですよ?」
 皆に言うのは恥ずかしいのか、こしょこしょとさくらに耳打ちするレイラ。
 ここで話に加わろうとするのは野暮である。クローネは近くを通りがかった朝倉・皐月と山河を招き入れる。
 喉を潤して味覚のリフレッシュをした千早は二人の飲み物も用意してやると、もう一度甘い時間へ。作ったサンドをぱくりとかじり、目を細めた。
「うん、至福」
 ノーザンライト・ゴーストセインとフィーユ・アルプトラオムは腕を組んでチョコレートファウンテンへと向かう。食べる為に腕が離れても、距離は変わらない。
「フィー……あーん♪」
「あらあら、今日は積極的ですわね♪」
 ノーザンライトの知り合いが見れば驚くこと間違いなしのデレデレっぷりである。
 フォンデュした苺を恋人の口に運んでから、ようやく人目に気付いて赤面する。対してフィーユが周囲を気にする様子は無い。
「フィーもこれなら、大丈夫?」
「あら、私の料理が食べたいのですの?」
「ノーNOのうっ。やっぱいい」
 話題を強引に打ち切ると、ノーザンライトは食用薔薇を取り出した。見るからに高級そうな薔薇は、貯金を崩して買ったのだという。
 美しい形が崩れないよう慎重にチョコに潜らせ、フィーユはそろりと花を食む。
「フォンデュには、向かなかった、かな」
 不安げに見つめてくる恋人へ、フィーユはにっこりと笑ってみせた。
「変わりダネですが、見た目も美しくおいしいですわよ」
 その言葉と笑顔で、持ってきて良かったとノーザンライトは思えたのであった。
 初めて見るものにシェルナ・オーヴェスは目を丸くしている。
 無口で表情の変化に乏しいラームス・アトリウムはどこか高揚しているようだ。手本を見せるようにマシュマロにチョコを絡める。
 初めてのチョコレートフォンデュ。シェルナは覚悟を決めて苺をフォンデュ。当然、チョコに塗れる訳だが――。
 シェルナはしょんぼりと肩を落とした。苺が一瞬で腐ってしまったのだと勘違いしたのだ。
「そういうものだ。いいから食べて見ろ」
「……え、食べるの? これを?」
 不安げなシェルナに対し、なんてことはないとラームスはマシュマロを口へ運ぶ。
 シェルナは恐る恐る、茶色い苺を食べてみる。すぐに表情が変わった。美味しいと羽をはためかせて言う。
「たっくさん食べて帰ろうね、お兄さま!」
「ああ、全種類あと20ずつは食べたいな。……いや、折角の機会だ。もう少し食べてもいいかもしれないな……?」
「それは食べすぎじゃないかと思うんだよ」
 そうか? と兄が問うと、そうだよ、と妹は力強く頷いたのであった。
 香坂・雪斗とヴィ・セルリアンブルーも、チョコフォンデュを楽しんでいる。
 目移りするほどに種類はあるが、まずは苺、次いでバナナ、マシュマロと。どれも違う美味しさがあっていい。
「あ、ロシアンチョコフォンデュせぇへん?」
「んんー? ろしあん? それはちょっとすりりんぐ?」
「何を使ったかはお互い内緒にしてね、相手に目瞑って食べてもらうの。……どう?」
「いいよ、じゃ、おいしいの選んでね!」
 恋人が目を瞑ると、雪斗は並ぶ具材を一瞥。少し悩んで選んだものをフォンデュし、ヴィの口元へ運ぶ。
「はい、あーん」
「……ほくほくしょっぱい? ……じゃがいも?」
「そう、じゃがいも」
 チョコをかけたポテトチップスが美味しいのだから、じゃがいもが合わない訳がない。
 次はヴィの番だ。目に付いた丸い菓子を串に刺す。余すところなくチョコを絡めて。
「はい、雪斗もあーんして? ど、どうかな……?」
「お、甘くておいしい。……鈴カステラ?」
 雪斗も見事正解。
 変わったものを食べるのも楽しいねと、二人は笑う。
 でも、とヴィは付け加える。雪斗と一緒だったら、なんだっておいしい、かな? と。

●甘さに抱かれて
 チョコレートファウンテンを見上げ、歓声を上げる【名無しのサーカス】の面々。
「わぁ、こんな大きなチョコファウンテン見たことない!!」
「全部チョコレートなの? 素敵。圧巻ね」
 王道はマシュマロ。
 ヒルダガルデ・ヴィッダーが思い浮かべたのもまさにそれらだが、他の洋菓子や果物も合うのだとシア・メリーゴーラウンドが言っていたし――ここは試してみなければ。
 まずは苺を一つ。ヒルダガルデは軽く目を見張った。
「苺の酸味とチョコの甘さが絶妙だな、これは止まらなくなる。ほら、皆も」
「色のコントラストも綺麗でそそられるよなぁ」
 感心したように八剱・爽が言えば、隣で苺の甘酸っぱさに頬を緩めていた光宗・睦がこくこくと首を振る。
「お、鈴カステラもいいな。さしやすいし、見た目もかわいいし、味も文句なしで最高!」
「キウイもおすすめだよ。キウイとチョコって結構合うんだよ☆」
 二つの具材を堪能したシアは皿にチョコを絡ませたバナナを乗せると、その上からカラースプレーなどで彩る。
「定番ですけど、皆さんもどうぞ」
「キラキラのバナナもステキ!」
 気心が知れた仲間だ。別の食材を試しては勧め合い、時には軽いノリで食べさせ合ったりもして。
 そんな中、四人は緊張した様子の家族に気付いた。小さな子供が二人いる。先日まで螺旋忍軍がいた場所だ。落ち着かないのだろう。
 ヒルダガルデの目配せにこくり、頷きを返したら即突撃!
「美味しいぞ、お裾分けなー」
 爽が人懐っこい笑顔を浮かべると、その言葉を保証するようにシアが眦を下げて笑う。
 膝を折り曲げたヒルダガルデが子供達へ、チョコで顔を描いたマシュマロを差し出した。
「さぁ、楽しまねば損だぞ?」
 人見知り半分、好奇心半分。そんな様子で受け取った子供達がマシュマロをぱくりと食べた途端。ぱぁっと表情を輝かせた。
 その様子に、睦は我が事のように笑った。少しでも不安が和らいだのなら、ケルベロス冥利に尽きるというものだ。
 かくして、四人は人々に笑顔をもたらしながら、甘味を堪能したのであった。
 チョコレートファウンテンを見上げている【ACG】の三人。
 クーリン・レンフォードは、出来れば湧き出てくるところのチョコで食べたいらしい。
「ので! でっかいアキラに持ち上げてもらおうと思う。飛んでくれてもいいよ!」
「ん……あそこまでいくのか……?」
 言われた神崎・晟は顎に手を当て、少し考えた。まぁ、翼で飛べば何とかなるだろう。
 その間にクーリンは食べたいものを一通り串に刺して、準備万端。
「目指せ、一番上のチョコ!」
 二人が飛び上がるのを眺めながら、ガロンド・エクシャメルはぼんやりと静かにフォンデュ。
 日常的な騒がしさが、帰って来たんだなぁという実感に繋がる。余韻に浸るあまり、マシュマロがフォンデュしっぱなしになっている。
 両手が塞がっている晟には、クーリンがマシュマロを放り込んでやる。
「あ、アキラ、ちょっと下! ガロンドのとこ!」
「それはいいが、あまりはしゃぐとバランスがだな……」
 うっかりファウンテンに突っ込んでは目も当てられない。周囲に迷惑がかかってしまうので、晟は慎重に高度を調整した。
 未だフォンデュしっぱなしのガロンドの口に、クーリンが苺をぶっこんだ。
「おおっと……ふご。ふごふご」
「ぼんやりしすぎ! 楽しむのが一番!」
「……確かにちょっと辛気臭かったか。悪い悪い」
 美味しいチョコで気分も上向き。楽しく、賑やかに三人はフォンデュを楽しむのであった。
 恋人とのひと時を楽しもうとやってきたのはシィ・ブラントネールとヴディアウルガゥア・ゲヴゥルタリバェル。
 二人共甘い物は大好きで、しかも恋人と一緒なのだ。楽しみになるのは当然のこと。
 苺やバナナ、マシュマロなどを試した後、シィがアイスクリームを持ってきた。
 垂らすようにチョコを軽くかけてやれば、冷えて固まってアイスをコーティングした形になる。
 完成品を感心したように見入っているヴディアウルガゥアに、シィはスプーンですくったアイスを差し出した。
「はい、お口開けて、あーん♪」
 少しばかり恥ずかしがり屋のヴディアウルガゥアは、人前での行為に少々顔を赤くしてしまう。しかし、嫌なわけではない。
 微笑んでぱくり。
「うむ、凄く美味しい、シィもあ~んしてくれ」
 恋人からのお返しに嬉しそうに笑うと、シィは可愛らしく口を開くのであった。
 チョコレートファウンテンを前に、見事なまでに対照的な反応を示すサイファ・クロードとウルトレス・クレイドルキーパー。
 片や楽しみだとばかりに顔をキラキラさせ、片や想像だにしなかった代物を前にフリーズ状態でガン見。
 危うくチョコの海に顔が付くところだったが、そこはサイファが救出。
 促されるままに、チョコレートを『便利な非常食』としか見ていなかったウルトレスもチョコと格闘を始める。
 一通り食べた後、少し不安そうにサイファが尋ねた。
「……で、『便利な非常食』を非効率極まりない方法で、美味しく食べられた感想は?」
 正直、意味不明だとウルトレスは答えた。しかし、皆の笑顔を見れば大切な時間なのだということは分かる、とも。
 だから――。
「命を懸けてでも、守るべきものだ」
「……そっか」
 手を止めた二人は静かに会場を眺める。そこには、無数の笑顔が溢れていた。

作者:こーや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:33人
結果:成功!
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