ヒーリングバレンタイン2017~時には昔のお菓子を

作者:土師三良

●音々子かく語りき
「皆さんが奮闘してくださったおかげで、いくつかのミッション地域を奪還することができました。本当にありがとうございます」
 ヘリポートに並ぶケルベロスたちにヘリオライダーの根占・音々子が頭を深々と下げた。
「さて、奪還の次は――」
 頭を上げて、にこりと笑う。
「――復興のお手伝いを願いしまーす。デウスエクスに荒らされちゃった地をヒールしてください」
 音々子はタブレットに地図を表示し、それを皆に見せた。
「皆さんにヒールしてほしい地域は、オークどもが占領していた京都市右京区の一画です。撮影所の近くの商店街や住宅街があった場所を重点的にお願いしますね。神社仏閣じゃないですから、ヒール後のファンタジー化のことはあまり懸念せずに済むかと」
 その地は現在は無人だが、当日は見学者が訪れる予定になっている。かつての住人や周辺地域の住人、この機に引っ越してこようと考えている者、そして、国内外の観光客。ただヒールを施すのではなく、彼らを楽しませることができれば、地域のイメージアップや活性化に繋がるだろう。
「そういうわけなので、見学に来られた一般の方々に手作りチョコレートを配布するイベントもおこないたいと思います。ついでにバレンタイン用のチョコを作るのもいいかもしれませんね。とはいえ、普通にヒールしたりチョコを配ったりするだけでは芸がありません。どうせなら、見学者に受けそうなことをやらないと。で、私は考えたんですけど――」
 音々子はタブレットを何度もタップした。時代劇の衣装や小道具らしき物の写真が次々と画面に流れていく。
「――サムライ、ニンジャ、オカッピキ、ヒメギミ、コムソー、ゲイシャール! 日本のハリウッドとも呼ばれた場所での復興イベントなんですから、時代劇っぽい仮装をしましょう!」
 衣装や小道具はいくつかの撮影所や衣装会社が無料で貸与してくれるという。もちろん、自前で用意することもできるが。
「皆様のヒールとチョコと仮装を楽しみにしているでござるぅ~」
 時代劇っぽい語尾を強引につけて話を締める音々子であった。


■リプレイ

●ひぃりんぐ日録
 京都市右京区の一角。
 ゴーストタウンも同然だった商店街に今日は多くの人々が集まっていた。
 ケルベロスのヒール作業を見学するために。
「とざい、とぉーざい!」
 誰かの発した東西声が拍子木の音とともに響き渡る。
 そして、ケルベロスの一団が現れた。
 その中の一人である烏羽・光咲は緋色の着物に紺の帯を締めて、花魁風に着飾っていた。しかし、重い衣装と高い下駄に悪戦苦闘しており、歩き方がぎこちない。
「あ、歩きにくい。おぉっと!?」
「大丈夫で……あたっ!?」
 バランスを崩しかけた光咲に手を差し伸べようとして、裃姿のロジオン・ジュラフスキーが盛大に転んだ。袴の裾を踏んでしまったのだ。
「足元に気を付けろよ……と言っても遅いか」
 苦笑を浮かべてロジオンを助け起こしたのはリィン・シェンファ。長い髪を結い上げ、女武芸者のような出で立ちをしている。
 一行の中には、紺色の羽織を着た源・瑠璃の姿もあった。仮装のテーマは『お忍びで街に出てきた若殿様』といったところ。
 若殿様と来れば、護衛のくノ一が必須だが、その点も抜かりはない。くノ一に扮した源・那岐が屋根の上に現れ、瑠璃たちの前に華麗に飛び降りた。
「皆様、楽しんでらっしゃいますね」
「うむ。おかげさまで楽しくやっておる」
 と、くノ一と若殿になりきって言葉を交わす二人。
 その傍に別の者がまた着地した。光の翼で空を舞っていたヴァルキュリアの薦生・恭臣だ。
「お待たせしましたー! フィニクスからヒールのお届けでーす!」
 飛脚の扮装をした恭臣が皆にそう告げると――、
「よし」
 ――『カフェ:フィニクス』のオーナーであるマクスウェル・ナカイが頷き、声を張り上げた。
「我ら、ケルベロス! 不届きなるデウスエクスの残滓を祓いに参った! いざ!」
 那岐、リィン、ロジオン、光咲、瑠璃、恭臣が各々のグラビティで周囲の街並みにヒールを施していく。
 見物客たちから歓声と拍手があがった。
 日本通と思わしき外国人の観光客の一人はマクスウェルに向かって『ONIHEI! ONIHEI!』と叫んでいる。
 マクスウェルが陣笠を被り、十手を持ち、火付盗賊改方スタイルで決めていたからだ。

「荒れ地を綺麗に直しましょう!」
 花咲か爺さんの衣装を着たシルク・アディエストが大通りを行く。愛犬の灰ならぬステルスリーフを撒きながら。
「さあ、皆さんもご一緒に! 荒れ地を綺麗に――」
「――なおしましょー!」
 と、周囲にいる見物客が唱和した。その大半は子供だ。時代劇に馴染みがなくとも昔話はよく知っているのだろう。
 忍者の仮装をしたエンミィ・ハルケーの周りにも子供たちが集まっていた。
(「忍者は寡黙……多くは語らない、でス」)
 妙なこだわりを持って無言を貫くエンミィではあったが、サービス精神がないわけではない。玩具の手裏剣によるジャグリングなどを披露して、子供たち楽しませている。
 新選組の羽織を着たヴァオ・ヴァーミスラックス(五十歳)も子供たちと一緒に目を輝かせてジャグリングに見入っていた。微笑ましいと言えないこともない。
「よお、ヴァオさん!」
 と、声をかけたのは陸野・梅太郎。その横には深山・遼がいる。二人とも新選組の仮装をしているが、いかにも付け焼刃といった印象のヴァオと違い、様になっていた。
「どうかしら。刀を使って、ポーズを決めつつ――」
 愛刀『巌穣左文字【黝仁】』を抜いて、遼が提案した。
「――ヒールしてみない?」
「よし。一つ手ほどきを頼むぜ」
 梅太郎も日本刀の『村雨丸』を抜いた。
 華麗な殺陣が往来で始まり、それをより近くで見るべく、見物客が集まってくる。
 そして、盛り上がりが最高潮に達したところで梅太郎と遼はヒールのグラビティを発動させた。

 別の場所にも人だかりが出来ていた。
 その中心にいるのは鉢巻に襷がけの巽・清士朗。立て板に水といった調子でガマの油の口上を述べながら、刀で懐紙を切っている。
「このように一枚の紙が二枚になる。二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十と六枚、十と六枚が三十と二枚。三十と二枚が六十と四枚……そうら、春は三月落花の形、九龍暮雪は雪降りの形!」
 叫ぶと同時に用いたグラビティは紙兵散布。しかし、紙兵の数は一人分ではない。清士朗にタイミングを合わせて、傍に控えていた黒子も紙兵散布を使ったからだ。
 続いて、巫女装束の小車・ひさぎが――、
「『白菊』、守り給い、祓い給え」
 ――御業を呼び出し、護殻装殻術を披露した。扇型に変形させたオウガメタルを手にして舞いながら。
 その舞踏を盛り上げるかのように、雛人形たちの幻影が現れて囃子を奏じ始めた。見物客に紛れていたフィー・フリューアによるグラビティ『幻想のオーケストラ』だ。『混じっていた』と言っても、見物客は彼女がケルベロスであることに気付いていたが。時代劇らしい衣装を着ていたし、しかもそれが赤い御高祖頭巾という怪しげなものだったのだから。
 四人のパフォーマンスに対して見物客が拍手を送った。
「すごい、すごい、すごーい!」
 と、一際大きな歓声をあげているのは見物客ではなく、火消し人足の恰好をした鉄・千である。
「あ、いけない! 千もやんないと!」
 千が『熊猫応援団の術』なるグラテビティを慌てて発動させると、パンダとレッサーパンダの応援団がどこからともなく現れてヒールを始めた。更に学ラン姿の彼らの背後でブレイブマインの爆発が起きる。爆破スイッチを押したのは先程の黒子――月鎮・縒だ。
「私たち、東京は九龍町から参りました。よろしくお願いしますね」
 オラトリオヴェールで周囲をヒールしつつ、町娘姿の君影・リリィが見物客に九龍町の観光パンフレットを配っていく。
 かくして、見物客の記憶には九龍町の名前がしっかりと植え付けられたのであった。

「そういえば、京都には時代祭りというのがありましたねえ」
 そう呟きながら、陰陽師に扮した御子神・宵一が『三狐神召喚』を発動させた。三体の白狐が現れ、癒しの力を周囲に振り撒いていく。ヒールの効果は普段よりも上がっていた。罪咎・憂女の『緋龍の咆哮』によって強化されているのだ。
 その憂女は花魁風の派手な着物を纏い、宵一の横をしずしずと歩いている。
 彼女の姿(と狐たちの愛らしさ)に魅せられた見物客たちが撮影の許可を求めてきた。
「こな姿勢でようありんすぇ?」
 郭言葉を発して、悠然とポーズを取る憂女。その所作を真似る狐たち。しかし――、
「……ちょ、ちょっと恥ずかしいです」
 ――一緒にヒールをしていた浅川・恭介だけは憂女の背に隠れた。ちなみに恭介の衣装は火消し人足のそれ。横ではテレビウムが同じ衣装を着て、小さな纏を振っている。
 一行には僧形の十二所・劉生も含まれていたのだが、彼を撮影する者はいなかった。だが、無視されているわけではない。それどころか、人々は畏怖と敬意を以って眺めている。
(「も、もしかして――」)
 泰然自若の態を装いつつ、劉生は心中で脂汗を流していた。
(「――皆、ぼくのことを本物のお坊さんだと思ってる?」)
 クオリティが高すぎたようだ。

●ちょこれぇと日録
 商店街の傍にある撮影所。
 その正面ゲートから入ってすぐの駐車場で、チョコレートを配布するイベントが始まろうとしていた。
「どうかな? どうかな?」
 壺装束の咲宮・春乃がくるくると回せってみせた後で、虫の垂衣から恥ずかしげな目を覗かせた。
 その視線を受けて、茶屋の娘のような恰好をしたルチル・アルコルが頷く。
「似合っているぞ。シミュレートの結果通りだ」
「ありがと。ルチルさんも可愛いよ。それにヨハンさんはかっこいい」
 話を向けられたヨハンことヨハネス・オドラータは陰陽師に扮していた。携えた箱に詰まっているのは、おみくじ付きのチョコだ。
「君たちもおみくじを引いてみる?」
「やってみよう。運試しは大好きだ」
 ヨハネスが差し出した箱にルチルが手を入れ、春乃もそれに倣う。その後で今度は春乃がルチルとヨハネスにトリュフチョコを渡し、更にルチルが春乃とヨハネスに金粉チョコを渡した。
「互いのプレセントが行き渡ったことだし、皆に幸せの御裾分けをしてこようか」
 イベントの来場者たちにチョコを配布するべく、ヨハネスは歩き出した。

「ようこそ、おいでやす」
 京言葉で笑顔を振りまいているのは、京都の町娘に扮した六道・蘭華。いや、『扮した』とは言えないかもしれない。彼女の実家は京都の和菓子屋なのだから。
 蘭華の幼馴染の榊・凛那は頬に十字型の傷を描き――、
「拙者、長州の志士でござる」
 ――と、ござる口調でキャラをアピールしていた。
 凛那の横には、新選組の羽織を着た赤堀・いちごがいる。新選組隊士が志士と肩を並べているのは不思議な光景だが、それを更に不思議なものにしているのは、三線を持った風来坊。その正体は、いちごに仕えるネスアメル・クレマグトリスである。
 そして、忍び装束のくノ一と十二単を着た姫剣士も加わった。先程までヒールの作業をしていたキーラ・ヘザーリンクと緋薙・敬香だ。
「あっしの三線で楽しんでいただけたら、幸いだぁ」
 ネスアメルが三線を奏でて『ブラッドスター』を歌い、他の面々は来場者にチョコ(蘭華の実家の冬季限定商品『はんなりちょこだいふく』)を手渡していく。
 もっとも、チョコを貰った後も来場者の多くはそこから離れなかった。それぞれの艶姿とネスアメルの音楽に魅せられているのだ。
 やがて三線の演奏が一段落つくと、人々は次々に撮影の許可を求めた。
「はい。どうぞです」
 いちごがにこりと笑って承諾すると、シャッター音の大合奏が始まった。

「困り事はミルポワルに任せな!」
 派手な着物に身を包んだ傾奇者が見得を切りながら、来場者たちにチョコを配っていた。
 マフィア『ミルポワル・ファミリア』に属する善知鳥・リュカだ。
 同じくミルポワルの一員であるスピノザ・リンハートは女形のような恰好をして――、
「……」
 ――微笑を浮かべて科をつくり、道行く人にチョコを差し出している。喋るとメッキが剥がれそうなので、言葉は発していない。
 ミルポワルの面々は他にもいた。股旅姿をしたミカル・アバーテと剣持・袈裟丸である。
「日本の文化っていうのは良いねえ。この青いマントと藁の帽子もかっこいい!」
「そいつぁ、道中合羽と三度笠ざんす」
 はしゃぎまわるミカルに衣装の名を教える袈裟丸。普段から渡世人のような口調ということもあり、股旅姿が似合っている。
 和装の外国人に興味を惹かれたのか、袈裟丸の仮装の嵌まり具合が受けたのか、ミルポワルの周囲には人だかりができ始めた。
 そこに黒い影が忍び寄る。忍び装束にサングラスという組み合わせのレスター・ストレインだ。
「そりゃ!」
 と、レスターは人々めがけて手裏剣を投擲……するような動作を見せて、手裏剣型のチョコを配って回った。
 だが、ミルポワルのサービスはそれで終わりではない。
 傾奇者のリュカが忍者のレスターに斬りかかり(もちろん、演技である)、更に股旅の二人と女形のスピノザも加わって、ちょっとした剣劇が始まった。

 別の一角でも剣劇が繰り広げられていた。
 ミミック(ちょん髷付き)とボクスドラゴンが睨み合う横で、それぞれの主人であるタクティ・ハーロットとティ・ヌが対峙している。サーヴァントたちの喧嘩に端を発する侍同士の果たし合い――そんなシチュエーションだ。
「あんたに恨みはないが……」
 着流し姿のタクティが刀を抜いた。
「そなたに恨みはないが……」
 羽織袴のティも刀を抜いた。
「斬る!」
 二人は異口同音に叫び、互いに相手に斬りかかった。
 その迫力ある戦いに惹かれ、来場者たちが集まってくる。
 すると、頃合いを見計らって、屋敷の屋根に義賊の鼠小僧が颯爽と現れた。もちろん、駐車場に屋敷があるわけがない。屋敷の書割りを設置して、その裏の脚立に乗っているのだ。
「同志諸君! 艱難辛苦を耐えてきた君たちにようやく報いることができる!」
 と、鼠小僧こと二藤・樹はアジテーターじみた語調で人々に語りかけたかと思うと――、
「というわけで、チョコが欲しいかたは集まってくださーい」
 ――すぐに営業用の言葉使いに改めて、脇に抱えた千両箱からチョコをばらまき始めた。金色の包装紙に包まれた小判型のチョコである。
 空から降り注ぐ黄金の雨。皆に行き渡り難い配布方法だが、これは景気付けのようなもの。普通にチョコを手渡す係は別にいた。岡っ引きの仮装をしたヒメ・シェナンドアーだ。
「はい、どうぞ。小判っぽい包装だけど、中身は普通のチョコだからね……え? 写真? うん、いいよ」
 カメラを向けられ、照れながらもポーズを取るヒメ。
 彼女と同じ旅団に属する霧城・ちさも被写体になりつつ、チョコを配っていた。衣装は新選組の隊服。チョコは例の小判型ではなく、家族と一緒に作ったものだ。
 小さくても愛情の込められたそれらをちさは主に子供たちに渡していた。そして、ただ渡すだけではなく、子供たちの他愛のない話に耳を傾け、笑顔で『うんうん』と頷いていた。
 そんな子供たちに紛れて、ちゃっかりとチョコを受け取ったのはユアン・アーディヴォルフ。牛若丸に扮した彼女は会場を練り歩き、他のケルベロスたちからチョコを貰っていた。とはいえ、今回の企画に貢献していないわけではない。
「私が提供したチョコの評判はどうですか?」
「上々だ。もうなくなった」
 ユアンの問いに答えたのは、ヒメやちさとともにチョコを配布していたコロッサス・ロードス。浪人風の姿をした彼の足元には空のダンボール箱があった。そこには先程までユアンの生チョコ大福が詰まっていたのだ(作ったのはユアンではなく、テレビウムだが)。
「あの、コロッサスさん」
 少しばかり地味な着物を身に着けた少女がコロッサスに声をかけた。チョコの配布を手伝っていた鈴原・瑞樹だ。
「ちょっと……いいですか?」
 瑞樹はコロッサスを連れて、誰にも見られない場所に移動した。
 手作りのチョコを渡すために。

 デートを兼ねてチョコレートを配って歩いている峰岸・雅也と碓氷・影乃。
 雅也の仮装のテーマは火消し人足。め組の法被の下は流石に素肌ではないが、薄い肉襦袢(刺青付き)と晒しと下着のみ。
「さ、寒い……なあ、影乃。寒いから、ちょっとくっついていたいなー……なんて思ったりするんだけど、駄目か?」
「んん……」
 侍の姿をした影乃は否定とも肯定ともつかぬ返事をした後、おずおずと手を差し出した。
「手を……繋ぐくらいなら……大丈夫」
 コロッサスと瑞樹と同様、甘い世界に浸る二人であった。

 会場の片隅でまた剣劇が始まった。
 今度のそれは水戸黄門の一行が町のゴロツキを懲らしめるという内容。
 水戸黄門を演じるのは琴宮・淡雪。両横にはお供のウイングキャットとオルトロスがいる。
 そのウイングキャットの主人である玉榮・陣内は風車で知られる助っ人に扮して、ゴロツキ役の比嘉・アガサと戦っていた。
「ゴロツキ役が嵌まってるけど、本当は町娘役とがやりたかったんじゃないのか?」
「……うるさいよ」
 剣呑な目をして、半ば本気でグラビティを打ち込むアガサ。
 陣内はなんとか躱したが、流れ弾ならぬ流れグラビティは哀れなヴァオに命中した。うっかりなコメディリリーフとして強引に参加させられているのだ。
「痛ぇよ! てゆーか、なんで新選組が水戸黄門と共演してんだよぉー!?」
 と、泣き叫ぶヴァオを無視して、淡雪がお供のオルトロス(ヴァオのサーヴァントだ)に指示を送った。
「頃合いですわ。さあ、ここで印籠を……って、あら?」
 ウイングキャットとオルトロスは芝居などやめて、チョコを貪っていた(本物の犬猫ではないので、チョコを食べても問題はない)。
『グダグダ』という言葉が相応しいこの状況を軌道修正するためか、あるいはよりグダグダにするためか――、
「あいはぶ・あ・ちょこ~♪ あいはぶ・あ・なっと~♪」
 ――妙な歌を口ずさみながら、くノ一姿の忍足・鈴女がヴァオに差し出した。
 板チョコに水戸の納豆を挟んだ代物を。
「なんだよ、この気持ち悪いチョコは!? こんなのもうチョコとは言えないから! いーえーなーいーかーらー!」
 全力で納豆チョコを拒否するヴァオであったが、そんな偏食家(?)の彼を懲らしめるべく、第二の水戸黄門たちが現れた。
 水戸黄門役はドラーオ・ワシカナ。お供は神崎・晟とガロンド・エクシャメルだ。
「鎮まれ! 鎮まれぇー! この紋所が目に入らぬか!」
 と、ガロンドが掲げてみせたのは、言うまでもなく葵の御紋の印籠である。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る! 畏れ多くも前のドラ将軍――」
「――ドラーオ公にあらせられるぞ! 頭がたかぁーいっ!」
 後を引き取り、ヴァオに背負い投げを見舞う晟。
 そして、チョコ納豆を投げまくる鈴女。チョコ納豆の解説を始めるガロンド。なぜか着物を脱ごうとする淡雪。それを生温い目で見る陣内とアガサ。チョコを食べ続けるサーヴァントたち。
 そんな混沌とした状況の中、『前のドラ将軍』が笑い声を響かせた。
「かっかっかっ! これにて一件落着!」
「なにも落着してねえよぉー!」
 ヴァオの怒声は来場者たちの拍手にかき消された。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:52人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 4
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