●ヒーリングバレンタイン2017
デウスエクスに支配された地域の幾つかが、ケルベロス達の活躍により奪還されて数日。人々が戻るにはまだ難しい状況であり、そこに住人はいないが、引っ越しを考えている人や、周辺住民が様子を見に来る事があるらしい。
それで浮上したのが、『取り戻した地域の復興も兼ねたバレンタインイベント』なのだと花房・光(戦花・en0150)は言った。
「それに、一般の人達も一緒に楽しめるものが出来れば、解放された地域のイメージが明るくなると思うわ」
楽しい事や嬉しい事。美味しいお菓子。そこにこめた心。
そういったものの力は、デウスエクスの支配やその爪跡、記憶を乗り越える一端を担ってくれる筈だ。
●花咲くショコラ
イベント場所の1つとして選ばれたのは埼玉県春日部市――駅からほど近い場所にある、4階建てのテナントビルだ。
以前の駅周辺は様々な店やショッピングモールで賑わっていたが、デウスエクスによる支配を受けた後はあちこちにその爪跡を残している。
「まずは駅周辺のヒールね。その後ビルに材料や道具を運び込めば、バレンタインイベントの……花ショコラ作りの始まりよ」
スイーツならどの季節の花も甘く、時にほろ苦く咲かせられる。その時が楽しみなのか光は笑顔を綻ばせ、ふかふか尻尾の先端もくるりと揺れていた。
「基本は、湯煎してとかしたチョコレートを、花を象った型に流し込んで冷蔵庫で固めるだけね。これならお菓子作り初心者の人でも安心じゃないかしら?」
「確かに。得意な人なら色々アレンジして楽しめそうだ」
そう言ったラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)が、自分は圧倒的に前者だと笑う。
愛を伝えるなら王道の薔薇やチューリップ、赤いアネモネ、ピンクや白のカーネーション。感謝を伝えたい相手には、白のダリアやピンクの薔薇、もしくはガーベラだろうか。
愛や感謝以外に、友情、幸せを願う花言葉もある。花言葉に合わせてチョコレートに色付けすれば、様々な色の花ショコラが咲くだろう。花言葉関係なく、贈りたい相手の好きな花を選ぶのもいい。
「うーん……砂糖菓子のビーズや銀のアラザンを付けて彩っても面白そうだ」
「そうね。折角のバレンタインイベントだもの。咲かせたい花を好きに咲かせるのが1番だわ。そこに縛りがあったら、楽しみが半減してしまうもの」
天色の目を楽しげに輝かせて、光は微笑んだ。
心を、言葉をこめて――さあ、どんな花ショコラを咲かせよう。
●芽吹きの為
オークキッズイタズラ団による、物を壊すだけではない破壊活動の跡。その幼稚さと荒れ具合は酷いものだが、これから行われるイベントを訪れる人々の為、ウィゼは駅周辺をヒールして回る。
「不快な気にさせないためにも、しっかりヒールしてきれいな街にせんとのう」
駅周辺が美しく再生した後に始まるのは、材料や器具の搬入作業。
甘い匂いに酔いながらも、テキパキ仕事を終えたサイガの目に花の型がとまる。甘く咲かせた花も本物と同じ刹那の美を持つのなら、自分ならずっと咲いてる方が――と過ぎったのは、はしゃぐ表情。
(「ああ、……そういやこの手のすきそうなヤツ、居たわ」)
花の事は光に習うとして、抱く言葉を『ヤツ』は分からないだろう。ただ、咲く時は刹那の内でも想いはずっと。かもしれない。
●花園
並ぶ型の多さに悩んだ末、シズネは自分でも知ってるからと1つ取る。贈り物だから自力でと思うも、ラウルに手伝ってもらいつつ。
「ハナコトバってやつはわかんねぇけど想いはトクベツだ。感謝とかシアワセとかそういうの!」
言葉にするのが難しい想い――彼の笑顔が見られたらという願いは、湯煎したチョコに込め、ぐるぐるどばどば。
楽しげな様は願い通りラウルの顔を綻ばせ、ラウルの願いと想いを育てていた。いつも彩とりどりの歓び、愉しさ、温もりをくれ、優しくて陽だまりのような彼に、花ショコラが甘やかな『幸せを運ぶ』よう。
(「『俺は幸せ』だね」)
シズネが薔薇だと思った花がベゴニアでも、花言葉が『幸福な日々』なら、きっと笑顔は絶えない。
湯煎は煮立ったお湯inチョコ――ではなく!
溶かしたチョコを型に流――す前に均す!
型に流し込むだけなら簡単。そう思っていた時期がパトリシアの行動で綺麗に吹っ飛んだシェーラは彼女につきっきりだ。
熱で溶かす事。型とチョコの間に空気が入り、形が悪くならないよう綺麗に均す事。成る程わかりません状態を乗り越え、冷蔵庫で冷やしていたチョコを取り出して、やっと――。
「これどうやって型から外すのー?! シェーラぁ!」
「……えっと、これ私の分作ってる時間ある……?」
精巧な薔薇の型にビターチョコが注がれるのは、もう少し後になりそうだ。
縁起が良さそうな紅白は苺とホワイトチョコ。自分の名と同じ花咲かせた芙蓉は、ココがこさえる沢山の丸に首を傾げ――驚かされる。
「くっつけて……みてみて! 梅のお花にみえるかな……?」
「これならみんなで食べられるし、何より最高にキュー……ット!」
「芙蓉ちゃんのお花もとってもかわいいね!」
それに紅白で綺麗、とはしゃぐココと、彼女の発想力に震える芙蓉。そこに完成を告げる静九の声が――ぴたり。
「……ココ様、姉上、既に作ってらしたのですか……。これは、なんという計算違い」
間違いなく成功する筈のサプライズ計画はおじゃん。と思いきや、自分とお揃いの花にココは喜び、芙蓉は静九にも名前に肖ったものをと考え出す。
「そうだ、シズクだからスノー『ドロップ』なんかどう?」
「芙蓉ちゃん! ココもお手伝いするー!!」
『浮かれる』という感情に覚えた好ましさ。そこに戸惑う時間は2人の温かさで吹き飛び、今度は熱い水滴となって戸惑わせる。咲かせた花を贈り合った後も、こんな時間はこれからもずっと――。
たどたどしくも、一生懸命ウォーレンと一緒に作っていたリリウムは、白と淡いピンクが見せるグラデーションに爛々と目を輝かせた。ウォーレンが少女にぴったりと選んだのは、とある八重咲きチューリップ。
「花言葉はね、天真爛漫だよ」
「てんしんらんまん! あんまんみたいで甘そうですねー」
にぱーと笑う少女に四字熟語は少し早かった様子。けれど。
「出来たら一緒にウォーレンおにーさんも一緒に食べましょうね!」
「うん」
出来上がりを一緒に待つ時間は、一足早い春のよう。
エルスが咲かせた小さな桃薔薇は『幸福』と『感謝』を、春乃が咲かせたマリーゴールドは『友情』を唄う花。
2人が咲かせた量は控えめに言っても『沢山』で、少女達は互いの花ショコラに笑顔で太鼓判を押し合った。込めた心は、明日絶対に届いて大勢が笑顔を咲かす筈。
「あれ? エルスちゃん、もう2つ目、作ってるんだね。その鬱金香は誰にあげるのかな?」
「えっこれは、いやあの別に……」
白と桃の花束を手にじたぱた。明日は乙女の一大決戦日、春乃は笑って肩を押す。すると目の前に桃薔薇の花束が差し出され。
「これからもずっと仲良くしてね」
「わっ、ありがとう! あたしからも!」
花を贈り合った後も、これからもずっとずっと。
『感謝』は一言で伝わるものだから、作る花も一輪。繊細で華やかな苺チョコのガーベラを、ホワイトチョコを混ぜマーブルに。中心に黄色の砂糖菓子を乗せるカルラだが、憧れる女性がどの花をどう作るのか気になって、リリスの手元をつい眺めてしまう。
そこに咲いていたのはダイヤモンドリリーを模したレリーフ型。花にラメパウダーが降り、本物のようにキラキラし始める。
「『また会う日を楽しみに』って花言葉が好きなのよね。あ、カルラちゃんのお花、とっても素敵ね!」
不器用だと聞いて抱いた心配は全くの不要だったらしい。
「その素敵なチョコを貰う人は誰なのかしら?」
「あげる人? 内緒」
茲野とリディアーヌは、お揃いエプロンをひらひらと。型にチョコを流し込むのは、丁寧にと心掛けても少し難しかった――が。
「これで完成なの、よー!」
茲野の花ショコラは苺チョコ生まれのローダンセ。中央で煌めく砂糖菓子の黄色を瞳に映したリディアーヌが綺麗、と零せば茲野は友人作の美しいマーガレットに称賛を贈った。
茲野に咲く花で、大好きだから。咲かせた白のマーガレットを褒められて、リディアーヌの目が小さく震える。
「一緒に、食べてもらえますか?」
「そうね、いっしょにたべあいっこしましょ! ――しってる?」
ローダンセの花言葉は『終わりのない友情』。だから。
「ずーっといっしょ、よ!」
「……はい。ずっと」
弾ける笑顔と、ゆるり灯る笑顔。作った花に込めたらぶと、咲かせた想いはキラキラと。
男2人という絵面回避の為、光に同席を頼んだ最中の横。良ければアドバイスでも、と笑った馨の腕前を知るからこそ、無表情である青年の眼差しに微妙の2文字が滲む。
「安心するといい、湯銭で爆発などするわけがないからな!」
「……嫌なフラグ建てるのはやめてください」
そういえば、レシピ通りの筈が――と光が呟き、内心ハラハラの最中は見守りながら紫の雪割草を作り出す。今までと未来への『信頼』込めた事はとぼけ、伏せたまま、2人へお裾分け。
「まあ綺麗。ありがとう連城さん」
「こっちのは上手く固まったらいいのだが、味は保証できないな。花言葉は『真の友情』だ」
「真の……って、そこは保証してください」
うっすらピンクに色付いた愛らしいゼラニウムのお味は、如何に。
「師匠、スミレにするんです、ね」
「自分に咲く花だしね」
ほら始めよ、とエプロンを着けたメルティアリアの隣、アリアンナは薔薇の型を手にじっとしたままだ。
「どうかした?」
師匠に問われて弟子は首をふるふる。色に迷いはしたが、この花を贈るのは春色の髪を揺らす師匠その人だから。
(「ピンク色、きっと似合うと思い、ます」)
ラベンダー色をした砂糖蝶々を手に、どこか楽しげな弟子の姿。メルティアリアは首を傾げつつ、沢山のスミレを咲かせていく。
(「小さな幸せを、思い出を。この子や皆と、これからも沢山重ねていけたら……なんて」)
その心は、きゅっと閉じた唇に仕舞い込む。
小さな幸せを唄うスミレと、ありがとうを響かせるピンクの薔薇は、姉妹にも見える師弟の前で可憐に咲いていた。
好きな菓子作りという事もあり、ララの手際は良い。四苦八苦していたルテリスを、てきぱき手伝っていく。
「助かるよ、ララ。それに僕の花のマーガレットを作ってくれるなんて」
「とても可愛らしい花だし、何よりあなたの花だもの」
ホワイトチョコに黄色の砂糖菓子が目を惹くマーガレット。その隣にルテリスが並べたかったのはララの花だが、それはレベルが高いからと、赤い苺チョコに愛を込め――薔薇を1つ。
「ねえ、知ってる? 私の故郷ではバレンタインには恋人に花を贈るのよ」
赤薔薇はその定番。嬉しそうに微笑む彼女から、明日の本番はもっと凄い物をと予告され、ルテリスもふんわり微笑んだ。
桜の花ショコラを作る鈴花は料理上手の彼氏が羨ましい。だが、恋人の作る沢山の桜ショコラが自分達と似た色で咲いているから、驚いてしまう。
ルーファスはカップケーキの台に桜達を乗せ、見目良く整えながら笑いかけた。
「飾ってもよし、食べてもよし。この花弁みたいに……いつまでも寄り添って一緒にいられるように、な? 鈴」
「はい! ……ありがとう」
2人一緒に甘く咲かせた特製桜ショコラ。胸いっぱいに味わうひとときが、待ち遠しい。
白薔薇とブルースターを12本。ホワイトチョコから作り出す様に、器用で羨ましいと瞳李が言うと、アッシュは自分は器用貧乏という奴だからと返した。
「それに俺としちゃ、器用な奴がさっと作ったもんより、そうやって頑張って作ってくれたもんのが嬉しいがねぇ」
「う。私は……まあその、好きな……から貰えるなら何でも嬉しいが。チョコの事だぞ!」
バレバレだがハイと頷き、何を作っているのか訊ねれば、口籠もりながら梔子だと言う。アッシュが口を開く前に、瞳李は今、花言葉をべるなと声を上げた。
「絶対ダメだからな!」
「はいはい、調べはしねぇよ」
花言葉が『とても幸せです』『喜びを運ぶ』だなんて、調べなくても知っている。にやにやは止まらない。
水色エプロンを外し、捲っていたフリルブラウスの袖を戻す。ふふんと笑った舞刃は、敢えてシンプルに作った白百合を真琴に贈った。
「いつも家事やってくれてるお礼よ。喜んでくれると嬉しいわ」
「まぁ、居候している以上は何かしないとな」
受け取った真琴はというと、嬉しさに照れが勝ってしまい、薄桃の三角頭巾をしたまま顔をそらす。だが、大事な家族に礼を伝えたいのは真琴も同じ。
青色にした福毛と、舞刃や知人の誕生花である桔梗も添えたショコラの花束。砂糖菓子で彩った見事なそれは、いつも作ってくれる食事の礼。
「ありがとう。これからもよろしく」
「凝った感じで綺麗にできてるわね、嬉しいわ」
偶には一緒に何かを作るのもいい。
花弁の型にホワイトチョコを流し込むあかりの表情は真剣だ。今年こそは届くよう、伝わるよう、分かってもらえるよう。欲張りな我が侭を込めながら。
自身がない自分では信じて貰えない。それを、生誕日控えた優しいあの人はきっと笑うだろう。
小さな花束に雫を落とし、あかりは次に向かう。だって、泣いて縋ってはくれないから。
オレンジピールの欠片を纏ったビターチョコの薔薇。甘党でなくても安心とサイファは胸を張るが、隣を見てビックリ仰天だ。
「食べ物というか芸術品だろ、ヒノ……」
「サイファくんの完成度もえぇやないの。器用やね。味もなかなかお洒落そう」
灯乃が咲かせたガーベラは白とピンクの2種類と、悪戯心が覗くマーブル。ピンクのアラザンが輝石のように光っている。
「味見する?」
「んー、今はえぇかな。最高傑作ならもろてもえぇよ」
「理想が高いな。任せろ玄人の本気見せちゃうぞ!」
そこを通り掛かったラシードと光に、2人仲良く声を掛ける。花も想いも、まだまだ咲きそうだ。
自分だって女子だと気合いを入れた雅の作業を、ケーキ屋務めのメリルディが笑顔でお手伝い。そうして彼岸花が無事咲いた隣、メリルディも、砕いた銀の星屑散りばめられたスノードロップを前に一息つく。
「花言葉は希望、それも逆境の中の希望っていうのがあるんだって。雅はふたつ、頑張って作ったね」
「花言葉は『また会う日を楽しみに』だってさ。意外と良い花言葉だろ。こっちは、」
彼女に一杯幸せが来るといい。だから少し不格好なカランコエでも心を込めて差し出し、辛い時は私が守ると囁くも、それはあまりにも照れ臭い。
聞かなかった事になんて、驚きを浮かべていたひだまり色の娘はしなかった。
「……ありがと、雅」
その言葉だけでも頑張れる。笑顔の返事に、頑張り過ぎんなよとまた笑顔。
黒やオレンジの薔薇にするというラシードと、感謝の花にすると言った光に挟まれたロゼットは暫く思案顔でいたが、暫くすると霞草の型を手に取った。
「花言葉は『感謝』『幸福』……お世話になっている方に伝えたくて」
ホワイトチョコで咲かせたら銀のアラザンで彩って、葉の代わりにミントを添えた小さなブーケに。細かく大変そうな行程に不安を零すと、視線交えた2人が笑みを浮かべた。
「リーオルさん、きっと大丈夫よ」
「失敗したらまた作ればいいさ」
材料も時間も、まだまだある。
イオネは白のダリア。オズはピンクの薔薇。沢山の花型から、これ、と2人選んだ花が唄う言葉は、お揃いの『感謝』。チョコを溶かし、ビーズや星屑のように、甘い欠片を散らして作った花に託す想いがお揃いで、2人は笑顔が絶えない。
「みんなに、いつもありがとうって気持ちをいーっぱい込めて……おいしくなあれ♪」
イオネのかけた魔法の言葉はオズには高難度。だが、苺味の薔薇には皆への気持ちを込めた――つもり。
「イオネの花は、口にしたら暖かい気持ちが沢山広がりそうだね」
「ふふ、オズの気持ちがいっぱいこもったチョコも、きっと幸せの味がするねっ」
花と共に、笑顔もずっと咲いたまま。
白、ピンク、黄色、茶。グラデーション描くガーベラを咲かせるのは、なかなかの難易度。しかし千笑は挫けない。甘い果実の欠片と銀のアラザンを降らせれば――。
「わ、意外と上手くできた!」
咲かせた成果を彩るラッピングは、と楽しく練る。現状、誰かへ贈る予定はないが――これなら、いつか訪れる未来はきっと安泰。
型を選び、材料を取り出して。そして。
「……な、何だか緊張しちゃう、ね」
「ええ。いざ、ってなると」
少し固い表情をしていたアウレリアと光だが、視線が交わると、微笑み合った。
「ドレヴァンツさんは桜?」
「うん。喜んで、くれると、いいな」
はにかむ微笑みが想うのは、大好きな彼の事。苺と木苺、甘さ控えめシロップも使って2つの型へ。冷蔵庫に入れてる間のどきどきは、しっかり固まった桜達を見て解れていく。
「光はどう? カーネーション、出来た?」
「ふふ、バッチリよ」
後は箱に入れてラッピングすれば、少女達の完全勝利。
きりり眼差しの翼猫と頷き合ったリラが咲かせるのは、感謝のダリアに友愛のマリーゴールド――チョコレート色の花達。込めた想いは、きっと届く。そう信じるけれど。
「喜んで、くれる、でしょう、か」
笑って、くれる、かな。思うように、上手には作れなかった、けれど。
花束を丁寧に箱へと仕舞いながら届けたい相手の事を想う。星空に似た双眸は、静かな微笑みを咲かせていた。
●お披露目
ハインツがじゃーん、と出した赤い箱。銀リボンの風を解いて開ければ、綺麗なラナンキュラスが顔を出した。
「花言葉は『晴れやかな魅力』らしいぜ。オレにとっての悠にぴったりなんだぜ!」
少し照れくさいと耳をパタパタさせた悠は、寄り添う3つの朱薔薇を提示した。ドヤ顔の後、同じ物を2つ。綺麗な花を前に笑顔になったハインツだが、ドヤ顔で質問を受け付けると言われ首を傾げた。
赤薔薇3本で愛しています。9本でずっと一緒に居よう。数で意味が変わる洒落た花。
「尚、990本足してもいいけど、飽きそうだからやめた」
「えー! 教えて欲しいんだぜ!」
答え合わせは、笑顔の先――かも。
食べるのが好きな子の為に咲かせた一輪のアネモネ。小さな幸せ抱く菫の砂糖漬けが一片乗った白花。絆を込めて咲く橙、白、黄の昼顔。雪景色で煌めく、林檎酒がアクセントの琥珀薔薇。
土竜家の面々は、各々の花を見せ合い話の花も咲かせる。皆とこうしている時が一番幸せ。そう言うタルパの素直さがジュリアンには眩しく、マールは彼の咲かせた夕顔達に、路傍の花さえ輝かせる温もりを感じた。
「ねぇ、皆のお花も一緒に……写真に撮っていい?」
「あ、写真! とる! とってメロゥ! みんなで!」
今日という花が芽吹いたその瞬間だけを写真に残して――けれど、その先も、ずっと。
硝子のようなケースの中、鳥の巣に降ったレモンの花は紅茶・ホワイト・苺味。フェルトの青い鳥に守られた花を、白と水色のリボンをしゅるり。四つ葉のクローバーシールで封をすれば、
「うんっ、可愛い感じ」
我ながら上出来と笑んだ少女の隣、ハクアもラッピングを完成させる。
雪結晶踊るグラスは、よく似た花ショコラを包みながらも隠さない。ミルク、ホワイト、苺にミント。きゅっと結ばれた白リボンの蝶の傍らには、淡桃色のガーベラと霞草も。
「メイアちゃんはどんなラッピング?」
「あ、だめだめ。まだ見ちゃダメ。交換する時までのお楽しみなのよ」
「えー」
当日までのお楽しみ。それは何て甘い、そしてわくわくする響きだろう。
作者:東間 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:易しい
参加:48人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 0
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