星の彼方へ

作者:麻香水娜

 市街地から少し離れ、山を切り開いて作られた県道沿いにUFOのような形の店があった。
 店内に入ると、ぐるりと壁に接した机の上は制御卓に見せかけたノートパソコンが数台置かれている。
「いいと思ったんだけどなぁ……UFOで宇宙人気分! 記念撮影もできる! 色んな宇宙人のコスチュームも揃えたのに……」
 中心には、SF映画に出てきそうな黒いマスクで顔をすっぽり覆って黒いマントをつけた男が項垂れていた。
「!?」
 その男は、いきなり背中から何かで心臓を貫かれて床に倒れてしまう。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 大きな鍵を背中から引き抜いた女性――第十の魔女・ゲリュオンが微笑んだ。
 その横に、倒れている黒マントの男と同じ格好をしたドリームイーターを従えて――。
 
「『後悔』というものは可能ならば避けたい感情でありますね」
「好き好んで後悔をしたがる人なんて早々いないと思いますわ」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)の言葉に、何を当然な事を言ってますの、とエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)が口を開く。
 自分の店を持つという夢を叶えたはいいが、立地条件が良くなかったのか、宣伝方法が良くなかったのか、経営難に陥って店を潰してしまった男の『後悔』が狙われた。
 『後悔』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようだが、奪われた『後悔』を元にして現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしている。
 このドリームイーターを撃破する事ができれば、『後悔』を奪われた男も目を覚ます筈だ。
 戦闘場所となるのは、ドリームイーターが営業を再開させたUFOのような形をした店の店内。
 このドリームイーターは、攻撃力が高く、SF映画の悪役のように大きな鍵を剣のように使ったり、ビームのようにモザイクを飛ばしてくるという。
「他に人はおりませんし、そのまま突入して頂いても結構なのですが――」
 共に宇宙人気分を楽しんだ者を『同志』と認めて、攻撃する事に戸惑いを覚えるらしい。
「一緒に宇宙人ごっこをすれば倒しやすくなるという事ですの?」
 小首をかしげるエルモアに、それも作戦ですよね、と蒼梧が頷く。
「それと、皆さんが楽しむ事でドリームイーターを満足させて撃破する事ができれば、目覚めた被害者男性の後悔も薄れて、前向きになるような効果も出るようなのです」
 そう付け加えて微笑んだ。
「『後悔』を奪い、事件を起こして違う『後悔』を呼ぶ……そんな連鎖を断ち切る為にも、ドリームイーターの撃破をお願い致します」


参加者
ゼロアリエ・ハート(壊れかけのポンコツ・e00186)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
如月・シノブ(蒼の稲妻・e02809)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
妹島・宴(彼岸の契り・e16219)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
マリー・ブランシェット(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e35128)

■リプレイ

●いざ入店!
「すいませーん、ここで宇宙人のコスプレできるって聞いたんですけどー」
 自動ドアを潜ったセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)が中に居たSF映画に出てくる黒いマスクに黒マントを羽織った悪役――ドリームイーターに声をかける。
『よく来たな』
 8人という大人数で入ってきた客に、変声機で作られたような機械的な声が発せられた。
(「黒マント喋った! いや、喋らなきゃ接客できないんだろうけど……変声機まで使ってイイ感じじゃん!」)
 本来、このドリームイーターが装っている悪役は呼吸音が特徴的だが喋らない。その事に内心でツッコミを入れるゼロアリエ・ハート(壊れかけのポンコツ・e00186)。実は予知を聞いた時から少しわくわくしていた部分があり、瞳を輝かせる。
『……』
 ドリームイーターは無言で左手にある扉を指した。
「衣装はあそこって事ですの?」
 エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)が、その意図を汲み取る。ドリームイーターは無言のまま頷いた。なりきる為に言葉は必要最低限にしているらしい。
「更衣室はありますか?」
 マリー・ブランシェット(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e35128)が尋ねると、無言のまま、衣装部屋の隣の部屋を指す。

「ユーモラスなのも多いですけど、うわ、これは中々……一般受け的にはどうなんですかねー」
「ほぅ、これも宇宙人か……わっ、なんだなんだ?」
 衣裳部屋に入って、ずらりと並ぶ衣装をじっくりと見定めるマリーが声を漏らすと、マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)は、物珍しそうに瞳を輝かせた。
「折角なので部下役でも……あ、これですね」
「ならば俺は騎士にするか」
 ドリームイーターの装う役の部下をやろうと、妹島・宴(彼岸の契り・e16219)が白いスーツとマスクはないかと探し、如月・シノブ(蒼の稲妻・e02809)は、同じ映画に出てくる自由と正義の守護者の衣装を探す。
「あ、これ可愛い! ね、ロア、これどうだろう?」
「んー? 似合いそうだね」
 衣装を選んでいるシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)がゼロアリエに尋ねると、手に持ったクラゲのような帽子を見たゼロアリエが楽しそうに笑う。
「俺も部下やろうっと」
 敵役って浪漫じゃん、と宴に笑いかけた。

●宇宙人ごっこを楽しめ!
「ほぅ、皆の着ぐるみ姿、似合っている」
「格好いいですね」
 男女それぞれの更衣室から出ると、楽しげに仲間達のコスプレを褒めあう。

 ――ブン!
 ドリームイーターが玩具の光る剣を振りかざした。
 それが合図となり、白いマスクと白いスーツの宴とゼロアリエ、マリーがドリームイーターの前にさっと移動して、ボスを守る部下のように玩具のライフルを構える。
「そこを通してもらうぞ」
 白い道着のような衣装に赤茶色の上着を羽織ったシノブが玩具の光る剣を構えた。
「助太刀しますわ! わたくし達はみな太陽の子、兄弟なのですから!」
「かかってこい!」
 クラゲのような着ぐるみをきたエルモアが、シノブの左隣で右腕を通してある触手で光る剣を構え、反対側ではゲームに出てくる赤いスカーフを巻いた狐の獣人になりきったセルリアンが拳を構えた。
「大佐、援護する」
 エルモアと同じようなクラゲの着ぐるみを着て玩具のライフルを構えたマティアスは、その部下という設定のようである。
(「店長さん悪役ハマりすぎ! 部下役の3人もちゃんと部下! でも……」)
「正義は勝つからね!」
 ポップキュートなサイバー系衣装にクラゲを頭に被ったシエラシセロが水鉄砲のような玩具の銃を突きつけてビシっと言い放った。
 ドリームイーターとシノブが光る剣を交わらせると、白マスクの部下3人はライフルからコルクの弾を飛ばす。シノブを狙ったゼロアリエにエルモアが光る剣を振り下ろした。ライフルで光る剣を受け止めたゼロアリエにシエラシセロからコルク弾が放たれる。マティアスが宴を狙うと、マリーがマティアスにコルク弾を撃った。
 ドリームイーターと8人のケルベロス達は、思い切り大乱戦を楽しむ。
「トドメだ!」
 シノブがドリームイーターを袈裟切りにすると、ボスであるドリームイーターが倒れた。

「これ遊んだらはまるっ! すっごく楽しい!」
「楽しかったー! 俺こういうのスキだよ!」
 シエラシセロが笑顔を広げると、ゼロアリエもマスクの中から楽しげな声を響かせる。
『…………』
 むくりと起き上がったドリームイーターは、デジカメを取り出した。
「記念撮影か」
「記念撮影、良いな。撮ろう」
 セルリアンが意図に気付き、淡々と無機質な印象を持たせるマティアスの言葉は、かなり楽しそうな雰囲気を纏っている。
 敵味方に分かれていた8人は集合し、武器を構えたりポーズを取り――、

 ピピ。

 デジカメの中におさまった。

●実は――
 ひとしきり楽しみ、笑顔の記念撮影。
 ドリームイーターも満足げな雰囲気を纏っている。
「実は自分たちケルベロスでな」
 ぼそりとセルリアンが口を開いた。その瞬間、他の7人も武器を構える。
『!!』
 瞬時に後ろに飛び退いてブン! と光の剣で空中を薙ぎ払うと、セルリアンとその近くにいたエルモアと宴にモザイクが向かった。
「おっと!」
「させない」
 ゼロアリエが宴の、マティアスがエルモアを庇う。セルリアンの前に飛び出したゼロアリエのサーヴァント、トレーネは真っ直ぐジャンプしてその身にモザイクを浴びた。
「助かりましたわ中尉」
 アトラクションの最中は大佐という設定であったエルモアの部下であったマティアスだが、エルモアはアトラクションの役柄をそのまま続けているらしい。
 マティアスは、あぁ、と口元を微かに緩める。
「部下攻撃しちゃダメでしょ!」
 アトラクション中は共にドリームイーターの部下役であった宴を庇ったゼロアリエが、若干動きの悪くなった腕に眉を顰めながら紙兵をばら撒いて前衛を守護させて傷を癒した。主人の目の前に移動したトレーネが応援動画を流して腕の痺れを取りながら完全に傷を回復させる。
「助かった」
 セルリアンは、庇ってくれたトレーネにぼそりと感謝を述べると、黒影弾を放った。
「火星の技術を見せて差し上げますわ!」
「いっくよー!」
 着ぐるみのままのエルモアは、着ぐるみの上から装着したアームドフォートからフォートレスキャノンを浴びせ、同時に一直線にドリームイーターに向かったシエラシセロが旋刃脚で右脚の急所を貫く。
「修復支援プログラム、構成……完了。支援領域、展開」
 温度を感じさせないマティアスの声が響くと、前衛の足元に支援領域を展開。傷を修復し、敵からの行動妨害に対して耐性をつけさせた。同時に周りにいた紙兵からキュアが発動し、体の痺れを取り去る。紙兵散布を使ってくれたゼロアリエを見ると目が合い、感謝をこめて口元を緩めた。
「騙されたましたね」
 笑みを含ませた呟きを漏らした宴は、白いマスクを外して、バッと白スーツを脱ぎ捨てる。すると中からはシノブと同じような自由と正義の守護者の姿が出てきた。
『!?』
 立て続けの攻撃の上に、更に部下の中から敵という演出にドリームイーターは驚いたように一瞬ビクリとする。
(「前衛はとりあえず大丈夫っすね、次は後衛……」)
 さっとライトニングロットを頭上に翳した宴は、後衛の前に雷の壁を構築した。
「俺達はケルベロス…………ケルベロス・ワン……?」
 最後は疑問系になってしまったが、名乗りを上げたシノブは、フォースを感じろといわんばかりにサイコフォースの爆発を起こす。
『!!』
 ドリームイーターは、爆発を察知して即座に避けようとしたが、脚の痛みで反応が遅れてしまい、腹部を思い切り爆破された。
「覚醒して下さい!」
 マリーはメタリックバーストで、前衛に光輝くオウガ粒子を纏わせる。
『…………』
 苦しげな呻きを漏らすドリームイーターは光の剣を突きの形に構えた。そのまま自身がするコスプレの敵になる守護者の格好をしたシノブに向かおうとする。しかし、足が動かない。
「今だな!」
「逃さないよ」
 ゼロアリエが目でシエラシセロに合図を送って縛霊撃で殴りつけると、合図を受けたシエラシセロが神速を誇る光鳥を召喚。大きく羽ばたいた翼から羽が足に舞い落ち、最速の靴となった。獲物を見つけた猛禽類のように真っ直ぐドリームイーターに向かって強烈な蹴りを叩き込む。
「蒼穹と雷光の眷属よ、我が盟約に従いて我が身に宿れ。 我と汝の力にて、眼前の敵を打ち砕くことをここに誓う」
 きらりと小さくセルリアンの瞳が光った。大鷲のような形状の雷光が現れ、ドリームイーターの腹を鋭い嘴で貫く。
「修復支援プログラム、構成――」
 マティアスが、今度は後衛の足元に支援領域を展開させた。
「火星の科学力は銀河一! すなわち宇宙一でございますッ!」
 エルモアは鏡のような特殊兵装『カレイド』を6機浮遊させ、そこへ向けてレーザーを放つ。鏡に反射しながら跳弾狙撃のように変則的な動きををするレーザーは、クリティカルとなってドリームイーターを撃ち抜いた。
『!!!!!!!!!』
 ドサリと背中から倒れたドリームイーターは、あちこちにある傷がモザイクになり、だんだん体にモザイクが広がっていく。
 全身が黒いモザイクとなった塊は、パァっと店内中に飛び散って消えていった――。

●再出発だよ!
 壊れた箇所をヒールで直したり、軽く掃除をして、被害者が目を覚ますだろうと8人はバックルームに向かう。
 丁度目を覚ましたようで、辺りをきょろきょろ見回しながらも、その顔は何処かすっきりしていた。
「凄く楽しくてとてもはしゃいでしまいましたわ」
「あぁ、珍しい体験ができた」
 エルモアが微笑み、その後ろからマティアスが無機質に頷く。
「君達は……」
「私達はケルベロスです」
 被害者が怪訝な顔を見せると、マリーが名乗って状況説明をした。
「コンセプトは悪くないと思うから方向性を少し変えてみたらどうかな?」
 セルリアンがぶっきらぼうに、だが、どこか温かさの感じられる眼差しで口を開く。
「あのさ、主人公は宇宙人じゃないコトもあるでしょ? だから、宇宙人以外の服も着られると良いかも! 選べるようにすればいいんじゃないかな!」
 友達の付き合いでーっていう人もいるかもじゃん、とゼロアリエが笑いかけた。
「すっごく楽しかったから、また来たいなって思うんだよ! 再挑戦するなら宣伝の仕方とか一緒に考えよ!」
「宇宙人の出てくるアニメや漫画とコラボ企画を打ち立ててみる、という宣伝もいいと思いますよ」
 シエラシセロが瞳を輝かせて笑顔を広げると、宴が穏やかに具体案を出す。
「まずさ、一緒にこの後映画館でも行くのはどうだ? ヒントがあるかもしれないぜ?」
「……そうだね。まずは勉強しなおしからだ!」
 シノブの誘いに、笑顔で頷いた被害者は立ち上がり、ケルベロス達と共に映画館に向かった。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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