魔壁

作者:天枷由良

●生と死を区切るもの
 街の喧騒から遠く離れた、ひと気のない山道。
 細く緩やかなカーブを抜けた先、見通しのよい直線。
 そこに一台の大型バスが横たわり、炎を上げていた。
「……う……あ……」
 散乱する数十の肉塊の中で幸運にも――いや、むしろ運悪くまだ生き残っていた男が、血の混じる息を漏らして首をもたげる。
 青い空を覆わんばかりにそびえていたのは、禍々しい壁だ。
 西洋の遺跡にでもありそうな紋様、上下に備える二つの顔。
 あらゆる箇所が異様な存在だが、しかし一際異彩を放つのは、上部より生える二本の腕と握られたペン。
 無機質という言葉で形作られる壁の中にあって、その筆先からだけは凝縮された邪気が滲み出ているのが分かる。
 それは罰点を記す赤インクのように男を塗りつぶしても、とどまるところを知らない。
「……次ノ『執筆』ニ入リマス」
 生命刈り取る術を文字連ねる芸になぞらえて言った壁は、新たな獲物を求めて進む。
 行く先にある生を、尽く死へ追いやるために。

●ヘリポートにて
 指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしまった。
「少なくとも六体は送り込まれているという指揮官型。そのうち、ディザスター・キングが率いる主力軍団は、グラビティ・チェインの略奪を任務として各地に派遣され、襲撃事件を起こしているわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)が予知した『デスライフディバイダー』――通称デスマスターも、ディザスター・キング麾下の一体。
「10メートル強の、壁としか言いようがないダモクレスよ。その巨体であらゆるものを蹂躙するように進みながら、両手に備える二本のペン型兵器で人々を殺害していくの」
 ディザスター・キングの指示を受けて動くダモクレスの蹴撃を阻止する事は困難で、残念ながら既に大型バス一台、およそ五十名の人々が、デスライフディバイダーの魔筆に生命を奪われている。
 今のうちに止めなければ、当然のことながら被害は拡大していく一方だろう。
「次の襲撃地点へと移動する今なら、迎撃も出来るわ。これ以上の犠牲を生まないためにも、デスライフディバイダーを破壊しましょう」
 敵は一体のみで、配下や増援などの気配はない。
「見た目に違わぬ屈強な身体は耐久力に優れ、二本のペンを巧みに操ってどんなところにでも攻撃を仕掛けてくるわ」
 修復機能も備えているうえ、ケルベロスたちの戦い方をよく観察して弱点になりそうなところは積極的に突いてくるようだ。
「大型バスを襲撃した後は山道を下ってくるから、その途中で迎撃することになるでしょう。元よりひと気のない場所だけれど、万が一にも一般市民が通り掛からないよう、各所への連絡は此方でしておくわね」
 ケルベロスたちは戦闘に集中できる環境というわけだが、一つだけ気に留めておくべきことがある。
「敵の目的はグラビティ・チェインの収奪。ケルベロスの皆と戦う必要がないと判断したなら、逃走を図るはずよ」
 しかし戦場は一本道であるし、何より敵は巨大。
 布陣して迎え撃つこと自体は難しくないだろう。
「あとは皆の存在を無視できないものと認識させてしまえば、逃走を諦めて全力で戦いを挑んでくるわ。まずは気合を入れて一撃、喰らわせてやるのよ!」
 犠牲になった人々の無念を託すように言って、ミィルはヘリオンへの搭乗を促した。


参加者
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
櫃裡・雪(パノラマ少年・e00483)
コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)
貴石・連(砂礫降る・e01343)
維天・乃恵美(奉雅駆の戦巫女・e02168)
鷹野・慶(業障・e08354)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)

■リプレイ


 賑やかさとは無縁の山道に響く、重い足音。
 巨大な壁が道なりに進んでくる姿は、探すまでもなく見つけることが出来た。
「ヘリオンからでもやな感じに見えたけど、間近に迫ると、いっそう危ない感じね」
 貴石・連(砂礫降る・e01343)は倒すべき敵を睨めつけ、その風貌を城壁となぞらえる。
 まさしく堅牢堅固。何かを守るためなら、これほど頼りになりそうなものもないだろう。
 しかし残念ながら、あれは生命を区切り、死の側へと押しやる機械。
 既に五十余りの人を刈り取って尚、止まらない魔の壁だ。
「なんて威圧感なの……」
 尋常ならざる雰囲気に、コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)も息を呑む。
 ……だが。
「妙な感じ、ですね……」
 呻く維天・乃恵美(奉雅駆の戦巫女・e02168)に、無愛想な鷹野・慶(業障・e08354)が頷き返した。
 ただの畏怖ではない。
 ケルベロスたちは皆、何か得も言われぬものに心を揺り動かされていると、そう感じていた。
(「……どうしてだろう」)
 答えを見出せないまま、影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)は斬霊刀を抜き放つ。
 人の血肉とは違う巨体に、圧倒されているのか。
 それとも、禍々しく迸る紫色の邪気にあてられたか。
 はたまた予知で伝え聞いた風評に、思わず慄いてしまったのだろうか。
 なにせ相手は、通称デスマスターである。
(「……正式名称のデスライフディバイダーから、一体どう捻ってそこへ至ったのかしらね」)
 四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)にも理解の及ばぬところだが、とかく定命の者に対して、死を匂わせる存在であることは間違いない。
「あいつの中には、僕の大切な妹の魂が囚われているんだ……!」
 覆面の下に苦悶の色を浮かべているらしき、櫃裡・雪(パノラマ少年・e00483)が絞り出す言葉の神妙さを真と受け取り、ケルベロスたちは身を強張らせる。
 そのように複雑な事情があるのなら、なおさら取り逃すわけにはいかない。
「……あなたのために命を落とした人たちの思いを乗せて、叩き潰す……!」
 拳を握りしめ、吼える連。
 駆け出した彼女に、仲間たちも続いていく。


 その中で一人、慶は足を止めたままだった。
 先行く者たちの背を眺めつつ、杖を掲げて数度地面を叩けば、飛び出した塊が二つ。
 俄に気品を感じさせるウイングキャットのユキと、かつてビルシャナだったものの残滓である黒液。
 あくせく動き回って戦うのが得意でない主に代わって、一方は前衛を務めるケルベロスたちを護るように羽ばたき、一方は一息で最前線に躍り出て、魔壁に喰らいつく。
 規則正しかった山道の揺れが止まり、敵の上部に据え付けられた顔が一際妖しい光を放った。
「とりあえず囲んで叩きましょう!」
 まずはケルベロスたちが脅威であることを示し、敵から逃走する意欲を失わせなければならない。
 今一度、声を張って呼びかける七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)は、わざわざ装備として持ってきた大きな冷凍庫からへんちくりんな棒状のアイスを取り出して、それを握りしめながら敵の懐に飛び込んだ。
「食べますか? 食べますね? 口が見当たらないので、直で胃にいきましょう!」
 ダモクレス相手に不毛な言葉を投げ、七海はアイスと一緒に信じる心を叩きつける。
 ちょうど二つに分けられるタイプだったから、両手で。ひたすらに打つべし、打つべし、打つべし。
 何だか将来性を感じる拳だ。打つたび飛び散るシャーベット状のものを意識しなければ、だが。
 そもそも何を思って、七海はアイスなど持ち出したのだろうか。彼女は魔壁に何を視たのだろうか。
 歴戦のケルベロスになら理解できるのかもしれないが、大事なのは七海の真意を解することでなく、デスライフディバイダーを撃破すること。
 今度はコーデリアが、敵を睨めつけて星辰の剣を構えた。
 まだ遠い間合いだ。しかしコーデリアには関係ない。
 これ以上グラビティ・チェインを奪わせやしないと、強く念じるだけで魔壁から爆炎が噴き上がる。
 ただの人が見れば、まさしく魔法のような一撃。それこそサイコフォース。地球人のケルベロスである証。
「さぁ、貴方の相手はこっちよ!」
 巨体を、そして己へ迫る恐怖を跳ね返さんばかりに、コーデリアは哮る。
 気持ちで負ければ、勝てる戦も取りこぼす。漲る戦意に焚き付けられ、相棒のミミックも嬉々として突撃をかけた。
 まだ敵に喰いついている慶のブラックスライムと競って、こっちにも寄越せとばかりに齧りつく。
 さらに攻撃の手は緩まず。敵の上部にぶつかったカプセルが、デウスエクスの回復を阻害するウイルスを振りまく。
 投げつけたのは玲斗だ。今日受け持った役目は仲間の治療であるが、戦いの火蓋は切られたばかり。傷を負った者はいない。
 ならば攻めに加わり、此方を脅威と思わせることに尽くして間違いはないはず。魔法の木の葉で力を高めているリナの一手を補えるほどではないだろうが、敵の治癒力を多少なりとも削いでおけば、後々に影響が出るかもしれない。
 もっとも、それが目に見えて分かる頃には、どちらが滅ぶか決まっているような気もする。
 幾度か攻撃を喰らわせた魔壁は動じることなく、眼を輝かせたまま立ち尽くしていた。
「殲の一文字心に抱きて、いざ参る!」
 一意専心。連が刀剣のように鋭い蹴りを浴びせても、様子は変わらない。
 雪のドラゴニックハンマーが唸りを上げ、超重の一撃を叩きつけても、僅かに破片が散るばかり。
「さすが。僕の親友だけあるね、デスライフディバイダー」
「名前が長いです! 『魔壁』で十分です!」
 何やら気になる雪の一言は聞き流して、乃恵美は叫ぶ。
 気合十分だ。小さな身体で猪の如く猛進する乃恵美は、魔壁の真下で斧を振りかぶった。
「壁ですし、倒せば動けない筈! さぁ、いきま――」
 直撃。
 誰もがそう思った瞬間、聞こえてきたのは壁を叩く音でなく、突飛な悲鳴。
「にょわぁ!?」
 足でも滑らせたか、護符を撒き散らしながら敵の真横に倒れた乃恵美は、強かに顔を打ち付ける。
 すっぽ抜けた斧は天高く舞って――魔壁の頂へ、深々と突き刺さった。
 まさか狙ったわけでもあるまい。
 予想だにしない一撃に、デスライフディバイダーが揺れる。
 それは乃恵美の持つ、生来の強力なドジっ娘オーラが呼んだ結果であった。


 しかし一連の攻撃で与えた傷だけを見れば、デスライフディバイダーは脅威など感じなかっただろう。
 頑強な身体はあらゆる攻撃を半減し、迸る邪気が僅かな爪痕すら残さず埋めていく。
 また10メートルを超える巨躯に八人ばかりでの包囲など、あってないようなものだ。
 慶のブラックスライムやコーデリアのミミックとて、いつまでも齧りついてはいられない。ケルベロスたちが捕縛などと呼ぶ効果は、幾らか敵の動きを阻害しても、それ自体で逃げを防ぐ手立てにはならない。
 それでもデスライフディバイダーは、ペン先で斧を弾き飛ばして抗戦の構えを見せた。
 爆発か、蹴りや巨槌の一撃か。はたまたアイスか、それともドジか。
 要因は敵が語らなければわからない。だが、ひとまず引き止めることには成功したらしい。
「サイテンシュウリョウ。コレヨリ『執筆』ニ入リマス」
 抑揚のない声が響く。ケルベロスたちの未来に死を刻むため、インク代わりの殺気がペン先に満ち満ちていく。
「……これ以上、悲劇を書かせたりなんかさせないよ」
 自己強化を終えたリナが、何処か遠くを思うように呟いたその時。
 デスライフディバイダーの腕は軋む音を立てながら、雪へと伸びた。
 直撃を受ければ、もっとも耐久力に欠ける雪はひとたまりもないはず。
 せめて相手の攻撃に応じた防具であれば、一か八か、避けられたかもしれない。そして眼力で見る数値にその可能性を感じなかったからこそ、敵は雪を狙ったのだ。
 そうして一人ずつ確実に減らし、個の力で劣るケルベロスたちが数の優勢すら失った時、待ち受ける運命は一つ。
 故に、慶は杖をつきながらでも戦場を駆け、身を挺して雪を庇った。
 魔壁のように屈強な肉体は持たずとも、守勢に立つことを重視して臨めば衝撃は半減できる。
 それでも苦しみを与えようと湧き出たトラウマは、玲斗に幻影を纏わせてもらうと掻き消えた。
「少しくらい弱点があっても、こうして補い合えるわ」
 目論見の外れた敵を嘲笑うように言って、コーデリアが重力を込めた脚を叩き込む。
 その一撃を皮切りに、ケルベロスたちは再び攻勢へ転じた。慶の指示に従って槍状のブラックスライムが空を裂き、ミミックからは玩具のコインが散りばめられ、ユキも尻尾の輪を飛ばす。
「ベルリン然り、壁は倒壊させるためにあるんだよ?」
 自身が狙われたことなどまるで意に介さず、飄々と語る雪はドラゴニックハンマーを構えたまま敵の元に特攻していった。
 力を一点に集中させ、よくよく狙い定めて打ち込み爆裂させれば、からからと乾いた音がして魔壁の欠片が零れ散る。
 やはり生半可な堅さではない。しかし。
「どんな壁だって撃ち貫いてみせるよ!」
 それが己に、ケルベロスたちに課せられた使命だ。
 リナは一時的に高めた力を存分に引き出し、閃く稲妻の幻影として刀に宿らせ、突き出した。
 切っ先は魔壁を弾き、乗り移った雷が巨躯を這い回って動きを阻害する。七海がジグザグに変形した強化ガラスの刃で斬りつければ鳴動は激しさを増し、連が空の霊力を封じた拳で殴りつけると、広がった傷跡から新たな閃光が湧き出す。
 終いには乃恵美が、拾い上げた斧に雷の霊力を込めて一振り。
 今度は狙い通り、しっかりと命中した。魔壁の一角には、明らかな崩壊が見て取れる。
「へへ、壁なんか猪みたいにブチ破るだけですよ。『魔壁』への義憤が、あたしを後押ししてくれますからっ!」
 得意げに言ってのけ、乃恵美はさらに大地をも割らんばかりの一撃を繰り出す。
 やや命中率に不安はあったものの、斧はドジっ娘オーラに翻弄されることなく魔壁を打った。


 そうして応酬を続けること数分。
 ケルベロスたちは全員健在で、しかし魔壁も砕き尽くされることなく、まだ悠然と山道にそびえ立っていた。
「やっぱり、長期戦になりそうね」
 今しがたケルベロスの間を駆け抜けた二本のペンによる傷を癒やすため、光の術式を広げる玲斗が呟く。
 もはや敵の堅牢さは語るまでもなく、体力も底知れない。取り立てて言うほど、苦手とする攻撃もなさそうだ。
「……まぁ、多少長引いても何とかなるだろ」
 幾度か仲間を庇った感触から、相当の間は持ちこたえていられるだろうと踏んだ慶が答える。
 さりとて回復不能のダメージは積み重なっているはずで、延々と付き合っているわけにもいかないだろう。
 ケルベロスたちは攻勢を強めていく。そこで戦況を左右し始めたのは手数の差。
「僕に倒される理由は前に食堂のコロッケパンを君に買われたからと、ゲームのセーブ勝手に消した恨み、どっちがいい?」
 戯言と共に突撃した雪のハンマーが、魔壁を叩く。
 その一撃だけなら、特筆するほどのダメージは与えていない。しかし、自身や七海が与えて仲間たちが広げた異常――ケルベロスたちが呼ぶところの氷が、魔壁の身体を蝕み、じわりじわりと生命を削る。
 無視できない状況に、巨躯のダモクレスは邪気を漲らせようとペンを振りかざした。
 そして何とも、中途半端な姿勢で止まる。途端に溢れ出たのは紫色の気でなく、稲光。
「――全てを貫け!」
 敵に大きな隙を作ったリナの刀が、手を緩めず雷を注ぎ足していく。
 幻影も数多折り重なれば、現の鎖と化す。動くことさえ出来ないなら、殺戮機械もウドの大木、木偶の坊。
「否定する力なんかには負けない! それがたとえ、概念ごと打ち消すものだろうと!」
 連が叫び、結晶化した拳で殴りつけた。魔壁の素材とは違う石が侵蝕を始め、玲斗の散りばめたウイルスと結合して治癒力を奪う。
 迸る邪気はコーデリアの剣が振り払い、呪的防御による異常の自然治癒を防ぐ。
 そうしてあらゆる異常を加えられた壁は、次第に畏怖の対象とは言えなくなっていった。
 満足に動けないのをいいことに、ケルベロスたちはひたすら殴る蹴る、刀で斬って斧で叩き、炎で燃やす。
 もちろん、決して少なくない人を殺戮したデウスエクスが相手なのだから、手心など不要。
 しかし合間合間に、やれ北の大地で大人しく棒回ししていろだの、シナリオをエンドブレイクしてやるだの、意味不明な言葉を吐いて攻撃する一部ケルベロスたちの姿は、もう亀を取り囲んで突き回す子供と大差ない。
 デスライフディバイダーの上部で輝く、垂れ下がった眼が泣いているようにも見えてきた。
 彼らを突き動かすものは、何なのか。
 その正体が明らかとなる前に、魔壁は風雨に打たれた石像の如くボロボロになって、ついに自身が散々追いやってきた死の瀬戸際まで辿り着く。
「デスマスターの執筆にはもっと愛がなきゃ駄目だ。――俺が罰点くれてやる。有難く受け取れよ魔壁ェ!」
 魔のペン先に切られ続けてキレてしまったのか、慶が召喚した大筆を振るって、デスライフディバイダーの執筆を模倣する。
 流れるような筆さばきが敵に下の下と評価を下した瞬間、雪崩込んだ他のケルベロスたちのグラビティが、魔壁を瓦礫に変えていった。


「……終わりね」
 目の前に散らばった大小様々な欠片を見つめ、連が拳を下ろす。
 窮地という窮地もなく、戦いに勝利したケルベロスたちであったが、要した時間は膨大であった。
 肉体的なものより、精神的な疲労が色濃い。
 それでも奇妙な達成感が、ケルベロスたちには漂っていた。
「やりましたね、皆さんっ!」
「ついに俺たちはマ・カベを倒したんだな……」
 喜ぶ乃恵美。感慨に浸る慶。
 彼らをよそに瓦礫を拾い上げようとした雪の前で、魔壁の名残は跡形もなく消えていく。
 検めるまでもなく、確かに撃破した。マ・カベではなく、デスライフディバイダーを。
 リナは彼方を見つめて犠牲者たちの冥福を祈り、玲斗が戦闘で傷んだ道にヒールをかける。
 そうして綺麗になった道に、乃恵美は竹皮の包みを広げ始めた。
「どうです? おむすびと玄米茶でも♪」
 自家製の沢庵までついた、醤油の匂い香ばしいおかかとじゃこのおにぎり、プラス水筒のお茶、らしい。
 冷凍庫ごとアイスを抱えてきた七海に比べれば、まぁ、可愛らしいものだろうか。
 それを食う食わぬはさておき、欠片拾いを諦めた雪は仲間の元へ舞い戻って、最後に一つ、あっけらかんと言った。
「いやー、初めて見るダモクレスだったけど中々手強かったね!」
 覆面の下がどんな顔をしているか、剥ごうとするものがいないのが口惜しい。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 9/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。