●糸魚川市演奏会
一面の雪景色の中に、林立する無数の工場群。
そこは新潟県、糸魚川工業団地。
ケルベロスとダモクレスとが幾度となく激突を繰り返す、人呼んで『ミッション地域』の一つ。
その日もまた、はらはらと舞う雪の中で激しい戦闘があったばかり。
「ディザスター・ポーンの殲滅を確認……残敵なし。ミッション終了」
ため息をついた一人が、そう言って装備をしまう。周囲に散っていた仲間たちが、各々支え合いながら集まってくる。
「聞いた? 最近、ミッション後に突然現れる奇襲部隊がいるって話」
「ああ、何でもダモクレスの量産機だとか……」
と、そんな会話が終わる間もなく、爆炎が番犬たちを一気に包み込む。
「……っ!」
「なんだ! まさか、噂の……!」
周囲を見渡せば、白布を纏った天使の如きダモクレスの群れが、彼らを囲んでいた。
『ケルベロス部隊確認、トランぺッター・メイデン02。戦闘データ転送開始。交戦を開始します』
冷徹な電子音声がそう告げると同時に、無数の機械天使は手にしたトランペットから爆炎の音色を放つ。
「くそっ! なんて数だ!」
「対応しきれないわ! 退くのよ!」
追いすがる灼熱。水蒸気爆発と白煙の蒸気。
その中を、番犬たちは辛うじて脱していく。
『敵部隊の撤退を確認……任務を続行いたします』
死の天使の群れは、再び身を潜める。
やがて、この空を彼女たちの同型機が埋め尽くす、その日の為に……。
●怒涛のダモクレス軍団
「指揮官型ダモクレスたちの侵略作戦が活発化しております」
望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)の表情は冷徹だ。
敵は六体の指揮官が率いる六軍団。現在、横の連携はなく異なる戦術で侵略を仕掛けて来ている。
積極的に手柄を競い合う六軍団を同時に相手取るのは、下手な大軍勢よりよほど厄介かもしれない。
「今回、皆さんには指揮官『マザー・アイリス』の軍団への対応をお願いいたします。彼女の軍団はやがて来るケルベロスとの闘いに、生産性に優れた量産型ダモクレスを投入するべく動いており、実戦段階までこぎつけた試作機を様々な戦場に投入しているようです」
すなわち、ダモクレス勢力の制圧下にあるミッション地域に量産型試作機を放ち、実際にケルベロスを襲わせてその性能をテストしているという。
「ミッションからの帰還時に正体不明部隊から襲撃を受けたとの報告が相次いでいます。すでに損耗している部隊や、少人数の巡回中、戦闘能力の低い者を狙うようで、無視出来ぬ被害が出ております」
放置すればこちらの戦力は擦り減るばかりで、敵には有用な勝利データが積み重なっていくことになる。
「量産型試作機はミッション地域の外縁部に潜み、襲撃活動を行っています。そこで皆さんはミッション部隊とは別に、試作機に対する索敵攻撃隊として出撃。外縁部に潜む、量産型試作機を見つけ出し、殲滅していただくのが今回の任務です」
●トランぺッター・メイデン
「今回、敵の出現を予知したのは新潟県糸魚川市の工業団地地帯です」
資料写真には開けた工業団地。平たく言えば、その地域に計画的に集合建設された工場や倉庫の群れだが、新潟県なだけあって一面雪景色だ。
「敵は外縁部に潜み、奇襲を狙っています。索敵が上手く行けば裏をかける可能性もあるでしょう。もちろん出会い頭に正面衝突する可能性も高いですが」
敵のデータは、との質問に、小夜は頷く。
「機種名TM02。識別コード、トランぺッター・メイデン。総数16機。以前にも一度出現しておりますが、装備が異なっているようですね」
写真には白布を纏った少女天使の如きダモクレス。
「以前の機体の氷結能力を反転……炎熱と数を恃みに、周辺施設を巻き込んだ焦土爆撃を行います。前の部隊といい、多数による面制圧能力がケルベロスに有効かを試しているようですね」
全ての情報を話し終えて、小夜は頷く。
「敵はコストパフォーマンス重視の量産型。個のスペックは今の皆さんにとって大した脅威ではありません。雑魚の頭数をいくら揃えたところで、ケルベロスの前には無力だと思い知らせてやりましょう」
それでは出撃準備をお願い申し上げます。
小夜はそう言って頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
生明・穣(月草之青・e00256) |
望月・巌(茜色の空に浮かぶ満月・e00281) |
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772) |
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028) |
ヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577) |
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154) |
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574) |
燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257) |
●工業団地索敵行
糸魚川市。
そこは、広大な工業団地を抱えて現代日本の産業を支える地。その日もまた、工場群を彩るように雪が舞う。
新雪を踏みしめ、降り立ったのは八人の番犬。
「地形図は送信した。プリントしたのもあるぞ。多少は荒れてるだろうが、建物の配置なんかは変わらないはずだ」
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は生明・穣(月草之青・e00256)を見やる。ウィングキャットの藍華に白い外套を着せながら、穣は頷いた。
「うん。侵入ルートはいくつか候補を挙げたよ。記録用のカメラもよし、と。本当はもっと高度な装備も揃えたかったけれど……まあ、十分かな」
さすがに軍事用迷彩服などは道中での調達は難しいが、敵は量産型。特別な感覚器の装備はあるまい。
遠く、白く染まった山並みを眺めながら、ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)が仲間たちに白い外套を配っていく。
「厳しい風ですな……大地の過酷さの前には敵も味方もありませぬ。上手く、自然を掴んだ者が優位を取る。此度の雪は、吉兆となりましょうか」
外套と交換するかのように、懐炉を配るのはヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)。
「寒いと意外と動けなくなっちゃうもんね。はい、暖かいよ」
互いに持ちよった装備で身を固めつつ、番犬たちは準備を整えていく。
その間、奥に身を潜めているであろう機天使の群れを思い描いて、アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)がぽつりと漏らす。
「待ち伏せかあ……待ち伏せするのは好きだけど、されるのは好きじゃないなあ。奇襲されないよう用心しないとね?」
「待ち伏せして奇襲をかけてくるなんてなんて悪い人たちにはお仕置きが必要なの。もあと一緒に、必ず先に見付けてやるんだから」
ウィングキャットのもあを引き連れ、燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257)が望遠鏡の調子を確認する。
一方で、草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)の心の内には疑念の灯が揺れていた。
(「あいつらと戦うのも二度目か。未だに既視感は拭えねえ……俺は、前にあいつらを見たことあるのか……?」)
望月・巌(茜色の空に浮かぶ満月・e00281)が、その肩に温かな手を乗せて。
「あぽろ。今回は俺が横に並ぶぜ。それに陽治と穣も俺たちの背中を支えてくれている。大丈夫だ」
それは、お前の意志を支えるという宣言。不安を見透かされたようで、あぽろも微笑んでそれに応える。
「ありがと、巌さん」
そして数分。
準備を整えた八人は、工業団地の入り口へ居並んでいた。
潜入行の始まりだ。
物陰を先行していくのは、陽治、あぽろ、桃愛の隠密気流組。
彼らの切り開いた道を、ギヨチネを筆頭に穣とヒルデガルトが双眼鏡などを用いて周囲を警戒しながら慎重に進んでいく。
互いに連携可能な位置関係を維持しながら、八人はゆっくりと敵地深くへと浸透する。
万全の進軍は奇襲を許す隙を生まない。
(「……!」)
やがて先頭を行く面々が、倉庫の間で周囲を警戒しているトランぺッターの哨兵を発見した。
手招きで、後方にいた巌とアルベルトを呼びだして。
(「いたか。ウォンテッドを使用して、行動を把握しよう」)
身を伏せた二人が、時間差で手配書を作りあげる。これで哨兵の方位を見失うことはない。
そして数分の後……。
(「あんまり動かないね。同じ場所を行ったり来たりだ」)
アルベルトが囁く。
(「部隊単位で待ち伏せてるんだから、本隊から離れないってことかな」)
(「本隊の位置はどこだろうな。特定したいが、ここから確認できるか?」)
(「んー……見えないけど多分、あの哨戒員さんの後ろのコンテナに隠れてるんだと思うの」)
先行組の三人が、視線を交わし。
(「まだこちらの視界に入っていない哨兵もいましょう。全員で動けば見付かる可能性が高そうですな」)
(「うーん……でも誘導したら本隊に警告しちゃいそうだね……手分けして偵察を進めるか、あの哨兵を攻めるか、かな」)
(「あいつをやっつけちゃえばいいんじゃない? 八人で攻撃すれば、向こうの準備が整う前に一体減らせると思うし」)
警戒組も意見を述べる。
沈黙の後、口を開いたのは、巌。
(「……攻めるか。元々、集中攻撃しての各個撃破狙いだしな」)
(「うん。待つのも疲れるし、俺は賛成だよー。みんなは?」)
そう言って、アルベルトも振り返る。
しばし考え、そして八人は結論を出す……。
●開戦のファンファーレ
跳躍が新雪を散らした。迷いを振り切り、少女の形をした機械天使の前に八人が飛び出す。
『……!』
その手がトランペットを持ち上げる、その瞬間。
「させないよー!」
アルベルトのクイックドロウが肩を弾く。
すぐさま飛び込むのは、ギヨチネ。外套を脱ぎ捨て、隆々とした肉体も露わに、ハンマーを薙ぎ払う。小柄な機械天使は吹き飛ばされて、倉庫の壁に激突した。
「今です……! とどめを」
天使が跳ね飛んだ先には、あぽろ。一閃した刀が、その胸元を貫き通す。
(「前にも気になったのは顔だ、髪に隠れて良く見えねえが……」)
その顔を覗き込もうとした時。トランぺッターは串刺しにされたまま跳ね起きる。
「……っ!」
瞬間、一発の銃声が、天使の頭を吹き飛ばした。
「大丈夫か? 止まってたぞ」
あぽろの背を叩くのは、巌。
「ああ……うん。ごめん! ありがと!」
「奇襲もここまでだ。さあ、俺たちで道を切り開くぞ!」
その時、後方にあったコンテナを突き破って残りの天使たちが上空へと舞い上がった。
『リュンヌ2、ダウン。ケルベロス部隊の接近を確認。戦闘を開始します』
敵が空中で編隊を組む間に、皆を手招きするのは、桃愛。
「はい。じゃあみんな、寄って寄って。おまじない、するからね。……あなたと私の秘蜜の魔法。誰にも言えない内緒の魔法。……ねぇ、お願い、目を閉じて。あなたの力を目覚めさせるの……ちゅ」
もあと藍華と共に踊るように、桃愛が手から投げた口付けが仲間たちの力を引きだしていく。
前衛が三重の加護に包まれる中、穣とヒルデガルトが前へ出る。
(「確かに敵は……あぽろさんに少し似ている気がする。色々と事情もありそうだな」)
「穣さん。一体は落としたけど、敵はまだ数が倍近いわ。戦力二乗の法則ってのがあるから、弱兵も数が有れば脅威になりうる。気をつけて」
「ああ。わかってるよ」
頷きあって、二人は上空からまっしぐらに飛び込んでくる天使の群れを見上げた。
「さあ! 油断しないわ! 徹底的に! 行動! 阻害させて頂きますっ!」
ヒルデガルトのマルチプルミサイルが猛禽のように直下してくる天使たちの群れの中で爆裂する。
「よし。陽治、巌、言われた通り、油断せず行こう。きっちり仕事をして次につなげていかないとね」
縛霊手を振り上げて、穣が紫電を解き放つ。天使の群れが、その勢いを一瞬削がれて。
「ああ! これは格好悪いところは見せられねぇな! あぽろ! 切り札、楽しみにしてるぜ!」
巌の雄叫びと共に、吹き上がったマグマが天使の一体を打ち据える。更にその天使を、縄の御業が縛りあげて。
「ああ! きっちり後で見せるよ! 今は、これで行くぜ!」
あぽろが、禁縄禁縛呪を振り下ろせば、大地に叩きつけられた天使が粉々に砕け散る。
『リュンヌ7、ダウン。攻撃開始』
機械天使たちは怯むことなく、手にしたトランペットを吹き鳴らす。だが前衛に迫る炎熱には、雄叫びをあげる二つの巨影が立ちはだかって。
「氷のお次は炎と来たか。いくら数で推そうが、俺達の連携の前には無力だって事を想い知らせてやるぜ!」
「旅団の仲間同士の固き絆、感服するばかりです。しかしてこちらも、忘れられるわけには参りませぬ。微力ながら、お力添えをいたします……!」
「頼むぜ! さあ、弾けろッ!」
仲間の壁となりながら灼熱を突き破るのは、陽治とギヨチネ。竜爪撃が天使の肢体に突き刺さり、振動波がその一体を弾き飛ばす。
「ハハッ! やっぱり闘いはすっごい楽しいな! みんな、まだ回復大丈夫だよね!」
飛び込んで来たアルベルトがその天使を蹴りつけると、笑いながら拳銃を抜き放った。
「僕はメディックだから、こうしてぶつかり合えるのは最初だけなんだよー! さあ! 命のやり取りをしよう!」
アクロバティックに敵の間を縫いながら、無数の銃弾が機械天使を貫いて。幾度も跳ね上がった機械天使は、やがてスパークを起こして内部から崩壊する。
『リュンヌ8、ダウン』
また一体の撃墜を許した敵群。しかし、天使たちもまだまだ健在。機翼が輝けば、熱風が戦場に吹き荒れる。それは致命的な熱ではないが、やがては火傷の呪いとなって、仲間たちを蝕むだろう。
それを解く者がいなければ。
「はわわ……すごい闘いなの。でも、私は役目を忘れちゃ駄目駄目。もあ、藍華さん、一緒に頑張るの」
桃愛が指先から黄金の果実を輝かせる。その指揮の下、二匹の猫が癒しの風で前衛の背を支え、加護が灼けつく呪いを解いていく。
『リミッター解除。攻撃を続行します』
「ラッパを吹き鳴らすなんて、もしかして聖書の読みすぎ? 悪いけど、ちっともそれっぽくは見えないかなー!」
減った頭数を補わんと熱制限を解除し始めた一群に、ヒルデガルトが旋風を巻き起こしながら突っ込んで、素早く目を左右に走らせる。
(「ボスはいるの……? いるとしたら、どいつ?」)
舞い散る粉雪の中、戦場の熱は加速していく……。
●戦場の合奏
戦闘開始より十分近く。
次々と仲間を落とされていくも、無機質な天使たちは構わず灼熱のトランペットを吹き鳴らす。
爆発する蒸気が藍華を打ち据えて、遂にその姿が光と消えた。
更に、横合いから巌を狙った爆炎を受け止め、陽治が突撃する。
「まだまだ……倒れやしないぜ……! おっさんの底力を、よく見ておきな!」
そう言いながらもその体には無数の火傷が穿たれ、無残に露出した皮膚は熱に擦り切れている。それでもなお、その槌の一撃が天使の首をもぎ取って、陽治は滑り込むように片膝をついた。
「くっ……!」
それを包囲しようと、一斉に残りの天使たちが殺到する。
今や、残る天使は六体まで減っていた。
「陽治をお頼みします! 私が残りを引き受けまする!」
その中を、裂帛の叫びと共に跳躍するのは、ギヨチネ。渾身の力で戦槌を大地へ叩きつけ、呪詛の文様を描きだす。輝きが敵の群れを打ち据えて、心乱された天使の半分がギヨチネへと向き直った。
「オオォオオオッ!」
「おっしゃあ! 負けねえよ!」
吹き荒れる火炎の中で、二人は仁王の如く立ち上がる。
「ちょっとちょっと! コルベーユ君だってもう満身創痍だよー! 燈灯君、そっちお願い!」
「任せて! みんな、二人はもう限界なの! 急いであげて! 陽治さん、お願い! 笑顔の花をたくさん咲かせて!」
アルベルトの分身がギヨチネに迫る火炎を逸らし、桃愛が内側から陽治の気力を燃え立たせて、辛うじて爆炎から身を捻らせる。
そこに飛び出すのは巌。
「任せろ! 護られてばかりじゃあ格好がつかないってもんだ! 決着を急ぐぞ!」
「もちろん……! 脇は守るよ、構わず飛び込んでくれ……!」
巌がかざしたスマートフォンから閃光が迸り、胸倉を撃たれた一体が四散する。その側面に回り込む敵を穿つのは、穣の青い衝撃波。また一体が火炎を噴き上げて砕け散り、即座に穣の肩を足場にヒルデガルトが跳躍する。
『リュンヌ15……ダウン』
細首をその手で捕らえながら、生き残りの天使たちが同時に同じ言葉を喋るのを聞き。
「貴方たち全員、同じプログラムで繋がり合って群体みたいに動いてるのね……ボスはいない。なら、数を減らすだけよ。そら、喰らえ!」
首筋を掴んだ手から、無数の光針が弾け飛んだ。スパークした天使は首と体に分かれて落ちる。
(「駄目だ……迷うな! 傷ついた仲間を見ろ! それに、こうやってる間もこいつらは情報を上に送ってるんだ!」)
躊躇しかける気持ちを振り払い、あぽろの右手に光が収束していく。その髪が、雷電を迸らせるように光り輝いて。
「……こっちも『砲撃』で伝えてやる、雑魚じゃ話にならねえってな! 喰らって消し飛べ! 『超太陽砲』!」
轟音と共に天に伸びるは光の柱。その中に呑み込まれるようにして、一体の天使が蒸発する。
最後に残るは二体。
が、その頭上にはすでに、仲間を護らんとする癒し手二人の影があった。
「傷だらけの人を攻撃しようだなんて悪い子は……どうしよっか?」
「当然! お仕置きなの!」
アルベルトの早射ちが一体の頭蓋を弾き、舞うように跳躍した桃愛が一体を怒りの炎と共に蹴り落とす。
激しい金属音と共に、最後の機械天使が砕け散った……。
●静謐の勝利
工場群は静けさを取り戻した。
今は風が、低く冷たく唸るだけ。
「終わりましたな。流石に、あの数には少々手こずりました。ご心配をおかけして、恥ずかしい限りです」
ギヨチネは紅く焼けた肌を風に晒しながら、深く溜息を落とす。
「何言ってんのー。もう少しで戦闘不能だったよ。気持ちはわかるけど、無茶はいけないんだよ、無茶はー」
「はは、おっさんもつられて熱くなりすぎちまったかな。しっかし、よりによって炎で勝負するたあ。奴らも身の程知らずだねえ」
アルベルトの叱咤に、陽治は笑って応える。その視線は、ちらりと横にあぽろを見た。
彼女は無言のまま、砕け散った破片を眺めている。
(「量産機……ってことは、こいつらの元になった奴がいるのか?」)
その時、袖口を引っ張ったのは、桃愛。
「考え事してるのはわかるけど、ちゃんとヒールしないと駄目なの。傷、深いよ?」
「あ……うん。ごめん」
二人のやり取りを後ろに見つつ、巌は敵の砕けたパーツを拾い上げる。月のティアラは焼け融けて、すでに原形は残っていない。
「全部焼けちまったか。しかし妙だな。こっちが焼いた奴じゃないのまで融けてるぜ」
振り返れば、ヒルデガルトも同じように破片をいくつか持ってきて。
「こっちも同じよ。なんか、自分で発した熱攻撃に、自分のパーツが耐えられてないみたいな感じ」
そう問われるのは、穣。
「……もしかすると、この量産型を設計した誰かが意図していなかった武装を使わせたのかもね」
彼自身、少し首を捻りながらも、そう推論する。
トランぺッター・メイデンの開発プロジェクトは初期設計者がいたのかも知れないが、今はその手を離れマザー・アイリスの軍団の中に吸収された。
結果、初期設計を外れた改造も行われている。
今わかるのは、その程度。
他の全ては、強まっていく雪の向こうのように見通せない。
吐く息は白い。
見上げれば、吹きつける風の向こうには、荒れる日本海。
番犬たちには、次なる嵐が、待っている……。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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