はらはらと夢の視界を染める雪

作者:奏音秋里

 雪の降る街。
 夜の灯りに照らされて、はらはらと舞い落ちる。
「きれい……」
 しかし少女の視界は突如、ものすごい吹雪に塗り潰された。
 ともに現れたのは、白装束に長い黒髪の女性。
 そしてそれは、少女がなにかを言い出す前に襲いかかってくる。
「きゃっ!!」
 驚いて飛び起き、きょろきょろと見まわした。
 其処は自分の部屋で、窓の外は雪景色。
「夢かぁ……」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 安心したのも束の間。
 魔女は、少女の感情を見逃さなかった。
 鍵に貫かれ、言葉もなくベッドへと倒れ込む少女。
 雪女の姿をしたドリームイーターが、颯爽と立ち上がった。
「おはようございますー! 起きたら雪が積もっていて、吃驚しましたねー!」
 今朝も、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はとっても元気。
 ケルベロス達も、おはようとか寒いねとか、返事をする。
「こんな雪のなかですけど、ドリームイーターを退治してきてほしいのです!」
 またもや、少女の『驚き』をもとにドリームイーターが現実化した。
 これを倒して新たな被害を防ぐとともに、少女の意識をとり戻してほしいと話す。
 ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)も、ねむの横で頷いた。
「ドリームイーターは、すらっとした美人さんです! でも雪女です!」
 外見はおそらくや、皆の想い浮かべる雪女と大差ない。
 異なるのは、それがモザイクを放出してくるということ。
 此方の知識を奪ったり、冷静さを失わせたりしてくる。
「近くで戦えるのは、マンションの屋上か、この公園か。小学校はちょっと遠いですね」
 地図を指で辿りながら、ねむは候補地を挙げた。
 イチバン手っ取り早いのは、少女が住んでいるマンションの屋上だろう。
 だが夜に人払いとなると、皆を雪空の下へ出さなければならなくなる。
 若しくは、外へ出ないよう全軒にお願いしてまわるか。
 いずれにせよ、住人への配慮は必要だ。
 公園は歩いて5分もかからないが、照明に不安がある。
 たいして照明はあるが、小学校までは徒歩で30分くらいかかるのだ。
 場所自体は、皆の好きな場所を選んでもらって問題ないと、ねむは説明する。
「今回のドリームイーターも、誰かを驚かせたくて仕方ないみたいです!」
 故に、マンション付近を歩いていれば現れるだろう。
 この場合も、住人や周囲の一般人を巻き込まないようには、気を付ける必要がある。
 ちなみに、ドリームイーターは驚かなかった相手を優先的に狙ってくるのだとか。
「ねむから伝えられることは以上です! みんな、よろしくお願いしますのです!」
 ぶわっと音が出るくらい勢いよく、頭を下げるねむ。
 張り切って、ケルベロス達を送り出すのだった。


参加者
ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)
文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
ラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)

■リプレイ

●壱
 雪の降る星空に、三日月が輝いている。
 駆け付けたケルベロス達は、マンション付近で3チームに別れた。
「俺とバジルが、上から行く」
「それじゃ、私は下からだね」
 事前説明のために、文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)はエレベーターに乗る。
 肩の辺りでは、弟分のボクスドラゴンが短く鳴きながら飛んでいた。
 ラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745)も、ともに行動。
 念のため、戦闘終了まで外へ出ないよう住民に伝えていく。
「此処は危ないから、大丈夫になるまで入らないでね」
 懐中電灯を照らして公園へ先回りしたのは、浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)だ。
 ケルベロスであることを明かして、夜景を観ていたヒト達を外へ誘導する。
「前に雪女を模したダモクレスと戦ったけど、今度は夢食いか……」
 クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)も、皆より早く公園へ。
 置き型の照明を、戦闘の邪魔にならないよう配置して点灯させた。
「雪が降り積もる冬の夜……こんな寒いなか、さらに寒くなりそうな敵がおでまし。うーん! 嫌な予想ほどよく当たるわ! ともあれ敵なら倒すべし! 見ているだけですっごい寒いものっ! へっくち!」
 残りの4名は、マンションから公園までの道を歩いている。
 季節完全無視の薄着で、ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)は震えた。
 右腕を覆うガントレットも、そわそわと落ち着きがない。
「お早くお帰りください。お気を付けて」
 風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)が、道行くヒト達へ帰宅を促す。
 腰に括り付ける灯りで、足許を照らしつつ。
「ねぇうしろ! それっぽくないっ?」
 と。
 ハンディランタンを掲げ、愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が皆に問う。
 ウイングキャットも、その指の先へと視線を向けた。
「わぁ……」
 身体に装着している照明のスイッチを入れて、静かに息を吐く。
 ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)が驚くことは稀で、故に反応も薄い。
「なるほど、日本の雪女ってのは美しいものだな」
 それでも攻撃を避けるために、可能な限りの感情表現をしたルース。
「いやぁーんっ! ホントにいたのねぇーっ!!」
「おぉっと、こりゃ驚いたぜ!」
「行こう、プロデューサーさん」
 ラトウィッジも恵も盛大に大声をあげるなか、瑠璃は落ち着いて先を急ぐ。
 驚くフリをするのは、公園へ到着してからだ。
「よかった、追い付いたよう」
「住民の理解は得られた」
 ラティエルと宗樹が、雪女を飛び越えて4名のもとへと降り立つ。
「アレが今回の相手の雪女ね……もしかしたら少女が成長した姿かしら……」
「噂どおりの美人さんだね」
 眼前には、軽く手を振る響花とクレーエの姿。
 人払いを済ませてからは、雪女のことを話しながら待ち伏せていたのだ。
 公園の敷地内へと誘い込めば、作戦の第1段階は完了。
 各自、気を引き締め直した。

●弐
 ドリームイーターを公園の奥へ追いやり、入口側へ駆け抜ける。
 ケルベロス達は全員で、敵の退路を塞いだ。
「クレーエ、いまのうちに」
 砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーから、竜砲弾を発射。
 ルースの先制攻撃に足止めを喰らえば、逃走の僅かな可能性すら消える。
「あたしも手伝うわ」
「助かるよ」
 呼ばれたクレーエは確と頷き、腰の照明を点けて入口へと走った。
 一般人を巻き添えにしないよう、まずはなにより立入禁止のテープを貼っていく。
 手伝いを申し出た瑠璃と協力して、通れないように通路を遮断した。
 そのかんウイングキャットは、驚くことなく前衛にて攻撃を引き受けんと控えていた。
「はいはぁい! お姉さん達と全力で遊びましょっ?」
 わくわくな瞳に負けないくらい、きらきら輝く聖なる光を贈るラトウィッジ。
 バッドステータスへの耐性を受けとった前衛陣から、お礼が飛び交う。
「……寒い、早く終わらせたい」
 宗樹にとっては事前に分かっていたことだから、さして驚かずマイペースに。
 幻影のドラゴンが炎を吐いているうちに、ボクスドラゴンは中衛へと属性インストール。
「そうね。雪は綺麗だけど冷たいし、夜は冷えるから早めに終わらせるわ。それにしても凄い雪。この雪でも電車動いているかしら?」
 響花は防寒着の襟を引き寄せて、滑りにくい靴で素速く死角へと移動する。
 驚いたフリ、ドリームイーターへというよりも吹雪に、をしつつ電光石火に蹴りこんだ。
「ボクの剣術で、みんなを守ります」
 誓いも新たに瞼を開き、愛用する日本刀へと力を集中させて達人の一撃を放つ。
 遭遇時とは打って変わって、冷静沈着で丁寧な口調の恵に戻っている。
「雪女さんかぁ。雪は怖いし苦手だけど……番犬なんだもん。ちゃんと、助けるために戦わないとね。約束、だから」
 過去の経験から、降りくる雪は心臓に悪くて、恐怖の対象となっているラティエル。
 だが此処が踏ん張りドコロと、気持ちを切り替えて御業で以て頭部を鷲掴む。
 視界を潰されたままで投げるモザイクは、しかしケルベロス達には命中しなかった。

●参
 数ターン抵抗されたものの、攻防を繰り返していけば勢いも衰える。
 隊列よく各々が役割を果たし、ドリームイーターを追い込んでいった。
「あれは敵……違う。あれは獲物よ」
 強烈な自己暗示をかけて、自らの傷を癒す響花。
 狩猟本能の覚醒だと脳を勘違いさせれば、命中率も上がった気になる。
 次の攻撃に備えて、得物を構え直した。
「豪雪地帯だと自然の猛威だけど……基本的に雪ってのは、神秘的で幻想的なものなの。だから、女の子にとっては憧れだったりするのよ。その無垢な想いをあんたたちの勝手で利用するなんて許さないわ!!」
 白のツインテールを揺らして、瑠璃は強い気持ちを表明する。
 眼前の白銀は楽しめないと、光の盾を具現化させた。
 ウイングキャットの羽搏きとともに、ディフェンダーへエンチャントを重ねる。
「動きを止め、息を止め、生を止め……休んだらいいよ。オヤスミナサイ」
 体内に宿る悪夢の残滓が、悪魔の化身としてクレーエの背後に立った。
 その漆黒の翼はドリームイーターを包み込み、気力を奪い去る。
 虚無感に呑まれれば、其処には立ち尽くすよりほかの選択肢など有り得ない。
「命の行動原理はふたつ。愛と恐怖だ」
 まじないに反応して、ルースの左手がオーラのようなモノに覆われていく。
 紫がかった漆黒の与える痛みに、苦しそうな音を零すドリームイーター。
 無駄のない滑らかな動きに、体幹が砕かれ、思考までも折られてしまう。
「この輝きは、希望の光」
 宵闇で煌めく蒼眸に喚ばれて、青白くも暖かい光が手のなかに灯る。
 この灯火で、宗樹は仲間のダメージを回復させた。
 同時に短く鳴いて、ボクスドラゴンが陽光属性のブレスを吐く。
「火足り即ち左、水極即ち右、あわせて火水(カミ)の一手となりて降りませよ、降臨諸神諸真人!」
 左右の手に召喚した火と水をもって、ラティエルの降臨させる神。
 ドリームイーターの腹部へと、容赦ない一閃が加えられる。
 奪取する生命力は、召喚者の傷を癒すために。
「断ち―――――――斬る!!」
 あらゆるモノを斬り裂く意志と、内に秘める霊力を籠めて。
 一気に距離を詰め、恵は渾身の力で日本刀を振り下ろした。
 即座に刀を抜いて退けば、ふらりふらりとドリームイーターが身体を揺らす。
「アタシが風邪を引かないうちに、さっさと倒れてちょうだいなっ! 享受せよ!」
 やっぱり寒くてがたがた震えながらも吐いた真白い息は、雪虫の群れへと変化。
 綿のような虫が大量に飛来すれば、ドリームイーターの意識を過去へと引き摺り込む。
 視せられたトラウマとダメージの蓄積量が限界に達して、その場へ倒れ伏したのだった。

●肆
 暫しのあいだ、静かに降り落ちる雪を眺めながら。
 ドリームイーターの骸の溶けて消えるさまを、見届けた。
「終わりましたね、お疲れさまでした」
 刀身を綺麗にしてから、静かに鞘へと納める。
 黒の瞳を閉じて、恵は仲間達を労った。
「アンタとは比べ物にならぬ美人を知っているもので……悪いな」
 ルースがぽつりと零した言葉は、あまり驚かなかったことにたいして。
 遊具をヒールしつつ、夜空に遠く想いを馳せる。
「あっ、猫さん! 巻き込まれなかったんだね、よかったー」
 被害を確認していたクレーエが、茂みのなかで猫を発見。
 抱き締めれば、大人びていた表情が素の子どもに一変した。
 公園をメルヘンに直したあとで、マンションへと向かう一行。
「協力、感謝する」
 宗樹はボクスドラゴンと一緒に、住民へ感謝を伝えてまわった。
 すると、子どもや女性のあいだで、可愛いやら格好いいやら評判になったのだとか。
 ほかのメンバーは、少女の住む部屋へ直行。
 親に案内された寝室で、温かいココアをいただいた。
「悪い雪女は私達がやっつけたから、もう大丈夫だよ」
 未だ不安がる少女の頭を、ラティエルはにっこりと笑んで撫でる。
 10分ほどの雑談で気が紛れたらしく、桜色の髪が綺麗だと呟いた。
 其処へ宗樹も揃い、ココアも飲み終わったところで。
「じゃあね。風邪ひかないように、暖かくしてね」
 自分の防寒着を着せてやり、響花は少女へ手を振る。
 求められるままにハイタッチをして、部屋を、そしてマンションをあとにした。
「……っくしゅ。寒いから早く帰ろ! ねっ! それでルースちゃん、さっきの美人って誰のことなのっ!? お姉さんに紹介してよーっ!」
 夜道を歩きながら、腕も脚も胴体も総てをさするラトウィッジ。
 だが興味の対象ができて、少しは寒さもマシになった……かも。
「雪って降るところはすごい降るけど、降らないところは本当に、滅多に降らないのよね。あたしの住んでいたところも、殆ど降らなかったわ」
 降り止まぬ雪景色に、瑠璃は幼き日の大はしゃぎした記憶を呼び起こす。
 少女のなかでもずっと、素敵な想い出であってほしいと願った。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。