システム・セイヴァー~白河龍造の野望

作者:一本三三七

「システム・ノアの開発状況は良好。システム・マリアの試作機量産も開始された。順調では無いか」
 暗闇の中で、老人の上半身が、そう呟いた。
 彼がいるのは、閉山された炭坑の中央部。老人が一人で居るような場所では無いが、彼の上半身から連なる姿を見れば、その疑問も氷解するだろう。
 彼の上半身は半ばから城門型のダモクレスと一体化していたのだ。
 いや、城門型ダモクレスの体の一部がたまたま老人の上半身のような姿であるのだろうか。

「あのゴッドサンタが破れるとは露にも思わなかったが、グラディウスがケルベロスに奪われたのは我が研究にとっては朗報である。グラディウスを使用せずに拠点を築く、我が、システム・セイヴァーの有用性を示す機会となったのだからな」
 老人は、そういうと、クククと邪悪に嗤うと、
「いずれ、この地こそが、ダモクレスの最大拠点として名を轟かせるのだ!」
 と、得意げに語り出すのだった。
「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしまったようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、そう言って、今回の事件について説明を始めた。
「今回の事件は、指揮官型ダモクレスの中で動きが掴めていなかった『ジュモー・エレクトリシアン』が引き起こしたものです。
 ジュモー・エレクトリシアンは、地球侵攻に役立つ新たなダモクレスを生み出す為、地球上に研究施設の設置を行っているようなのです。
 今回発見された研究施設は、福岡県北部の閉山された炭坑にあります。
 この炭坑では、ダモクレス、白河・龍造による、量産型ダモクレスの試作型の開発が進んでいるのです。
 龍造は、画期的な量産型ダモクレスを開発する事で、その圧倒的な数と量産スピードにより地上侵攻を成し遂げようとしています。
 この目論見が成功するかは不明ですが、もし成功すれば、大変な事になるかもしれません。
 それを防ぐ為にも、開発が始まったばかりの今、成果が現れる前に、白河・龍造の撃破を行う必要があるでしょう」
 セリカは、そう説明すると、白河・龍造の研究施設についての詳細をケルベロス達に説明を始めた。
「研究施設には、白河・龍造の他に、3体の有力なダモクレスがいます。
 3体のダモクレスの1体、システム・ノアは、研究開発の要となるダモクレスで、試作機の設計・開発に関して高い性能を保持しています。
 2体目の、システム・マリアは、ダモクレス製造の為の工場を展開する事が可能な、生産活動に特化したダモクレスです。
 最後の1体、ポボス・デカは、トラック型のダモクレスで、資源の採掘や搬送などに特化しています。
 白河・龍造さえ撃破できれば、他の3体は撤退していくので、今回の敵の計画を阻止する事は可能となります。
 しかし、この配下3体は、非常に優れた能力を持っている為、撤退されてしまうと、他のダモクレスと共に再び事件を引き起こしてしまうかもしれません。
 ですので、皆さんには、他のチームと協力の上、白河・龍造の撃破と同時に、他の3体のダモクレス達の撃破をお願いしたいのです」
 セリカは、そこで言葉を区切ると、チームの役割についても説明する。
「この作戦は4チームで同時に攻撃を仕掛ける事になります。
 4体のダモクレスは、それぞれ坑道の別々の場所にいる為、坑道に入った後は4チームで別々に移動し、タイミングを合わせて攻撃を仕掛けることになります。
 坑道内では、携帯電話および無線での連絡などは不可能となっているので、うまくタイミングを合わせる工夫が必要になるかもしれません。
 だれか一体が攻撃を受けてダメージを被った場合や、撃破された場合は、残りの3体はその事実を知る事ができるようなので、敵の動きを予測した作戦なども考えられるかもしれません。
 皆さんに担当いただくのは、白河・龍造の撃破となります。
 白河・龍造は、この量産機計画を立案したダモクレスですが、実際の開発・生産、および採掘などは、配下に任せきりにして、今後の計画について立案を行っているようです。
 開発終了後にその量産機を利用して、どのような作戦を行うのかや、坑道を難攻不落の拠点にするためにはどうすればよいかといった未来の展望を考える仕事……仕事といって良いかは不明ですが、とにかく、そんな感じであるようです。
 白河・龍造がいるのは、坑道の中央の広場のような場所で、周囲に配下などはいません。
 おそらく『他人が周囲にいると集中できない』とか、そんな理由でしょう。
 白河・龍造は研究を主とするダモクレスですが、自らの体もまた戦闘力強化の実験に使用したのか、高い戦闘力を保持しています。
 巨大な腕を振り回しての打撃戦や、両肩のカノン砲による攻撃力は、侮れないでしょう」
 全ての説明を終えたセリカは、「今はまだ指揮官型ダモクレスを直接攻撃する事は出来ませんが、ひとつひとつの作戦を阻止していく事で、指揮官型ダモクレスを打倒するチャンスも巡ってくるはずです。
 そのためにも、このシステム・セイヴァー計画の阻止をよろしくお願いします」
 と言って、ケルベロス達に頭を下げたのだった。


参加者
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277)
北郷・千鶴(刀花・e00564)
月織・宿利(ツクヨミ・e01366)
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
スライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)

■リプレイ

●システム・セイヴァー壊滅作戦
 地球侵略の新たな指揮官となった、6体の指揮官型ダモクレス。
 その中でも、謎に包まれていたジュモー・エレクトリシアンの作戦の一つ、システム・セイヴァー計画を阻止する為、4チームのケルベロス達が、大分県の炭坑跡地に集結していた。
 炭坑の内部に入れば、アイズフォンも含めたあらゆる連絡手段が通じなくなる危険性が高い。
 それも踏まえて、ケルベロス達は念入りに時計あわせを行うと、次々に坑道の中へと突入していく。

 システム・セイヴァーを統括する、白河・龍造の撃破を担当するユージン・イークル(煌めく流星・e00277)達は、廃坑の中央に向けて慎重に歩を進めた。
 白河の周囲には他のダモクレスは居ないという事だが、用心するに如くはない。
「目印はこんな感じでしょうか……」
 月織・宿利(ツクヨミ・e01366)は、その探索中も、定められた符牒に従って、他のチームの為に目印を刻み付ける。
 直接の連絡が不可能であるのならば、原始的ではあるが、この連絡手段が一番である。

 先頭を進むのは、隠密気流を持つユージン、北郷・千鶴(刀花・e00564)、上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)の三人だ。暗視スコープをつけ、目立たぬよう暗い色や迷彩色の布を纏い、息を殺して慎重に進んでいく。もちろん、後方のメンバーも同じように暗視スコープをつけて、先行していくメンバーよりも距離を置いてついていく。
「恐らく白河の居場所は、この場所かと思われます」
 坑道に入る前に、紗神・炯介(白き獣・e09948)、コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)、スライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)が用意した地図によって、内部の坑道が何処に繋がるのかの詳細を知ることが出来た。その地図を合成し、ひとつの地図に集約したのが、柚野・霞(瑠璃燕・e21406)の持つ地図となる。その中でも坑道の中央の広場のような場所を霞は指し示す。その地に向かって、彼らは突き進んでいるのだ。
 分かれ道になる度、三人は立ち止まり、スーパーGPSを持つ霞に方向を確認する。
「発見後は気づかれないよう、先行している三人の合図を待って、他チームの動きを確認するわけだな」
 スライが小さな声で後方のメンバーに確かめる。
「そういうことになるね」
「ポボスチームが、うまく探索に成功すれば一気に作戦の成功に近づくっスよー。それに、炭坑の戦闘なんてアドベンチャー映画っぽくて興奮するっス」
 炯介とコンスタンツァがスライの言葉に頷くと。
「しーっ」
 後方で地図を確認していた霞に注意されてしまった。
 こうしてケルベロス達は、暗い廃坑の中を一歩一歩確実に進んでいく。

 どのくらい時間が経過したであろうか。
 先頭を進んでいたユージンが、事前に打ち合わせていたハンドサインを送り、後続の仲間に白河の発見を伝える。
 そして、白河に発見されないように、物陰から双眼鏡を使い、その様子を伺った。
 遠めに見る白河は、情報の通りの姿で、神殿の柱のような巨大な腕と凱旋門のような体躯、そして、その中央に生えた老人の上半身という異形の姿で、沈思黙考しているようだ。

「……動きが無いという事は、まだ戦闘は始まっていないという事だね」
「襲撃が察知されれば、なんらかの動きがございましょう。それがないということは……」
「これ以上は近づかないほうが良さそうだね☆」
 零と千鶴、ユージンが囁くような小さな声で頷き、時計を確認すると、静かに龍造の様子を見続ける。
 今回の作戦の肝は、唯一自由に移動できるポボス・デカを補足できるかどうかだ。
 ポボスチームが敵を捕捉して戦闘を開始するまで、他のチームが発見されてしまえば、ポボスチームの負担が大きくなってしまうだろう。
 息を詰めるように、白河の動向を見守るケルベロス達。

 と、その時、クワッと、白河が目を見開いた。
「っ!!!」
 気づかれてしまったのか? 千鶴は、刀を握り直して体を硬くし息を呑む。
 白河の巨体が伸びをするように動くと、両腕を水平にして振り回しはじめる。
 静寂だった廃坑の空気が緊張をはらみ激しく動く。
「……出るよ」
「白河を先に倒せば、他の配下は撤退するかもしれない。できるだけ時間を稼ぐよっ」
 小声で頷きあった三人は、白河の元に向かおうと身を乗り出し……その寸前で踏み止まった。
 白河が再び動きをやめ、目を閉じたのだ。
「まさか……」
 千鶴が声を震わせる。
「……あぁ、そのようだね」
 零が呆れたように同意した。
「考え事をしてたら、肩が凝ったので伸びをしただけ……とか?」
 ふぅぅと、安堵の息をつくユージン。ふたたび、三人は白河の監視に戻った。

●開かれた戦端
 再び状況が動いたのは、ユージン達が監視に戻った数分後であった。
 沈思黙考していた、白河が、廃坑を震わせるように声を上げたのだ。
「侵入者だと!? 何故、この場所が露見したのだっ!! えぇい、ポボス・デポは戦闘を続行。システム・マリアは防衛態勢を構築、システム・ノアはデータを保全して撤退の準備に入れ!」
 何も無い空間に叫ぶ白河であったが、その言葉が、配下のダモクレス達への命令なのは間違い無い。
 つまり、他チームが戦闘開始したのだ。
 ユージン達は、いつでも飛び出せるよう、後方のチームにも傍に来てもらい、更に様子を伺った。

「システム・マリア、システム・ノアも襲撃を受けているというのか。やむをえん、ポボス・デポは敵を排除してシステム・ノアとの合流を目指すのだ。我もシステム・ノア救援に向かおう。システム・マリアはその場で侵入者を撃退せよ。システム・セイヴァー計画の邪魔はさせぬ」
 この2分後、そう喚いて白河が動き出したのを確認したユージン達は、動き出した白河の前に躍り出て、その進路を塞ぐように布陣した。
「ここから先は……行かせないぜ」
 最初に攻撃を仕掛けたのは、スライ。雷の霊力を帯びたフランベルジュで、神速の突きを繰り出し白河の行く手を阻む。
「『小さき鍵』の名の下に、増幅の円陣よ――開け!」
 霞は炯介を援護するため、六芒魔法陣を発動させた。
「こんなところでコソコソと。全く、面倒事を増やさないでくれるかな?」
 そういって、前衛に位置する仲間達へと炯介は、地面にケルベロスチェインを展開し、味方を守護する魔法陣を描く。
「では、私も……その計画、お邪魔をさせてもらいますね?」
 自身とその周囲に向けて宿利も、全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、味方の超感覚を覚醒させていく。
「此処をこのまま、彼らに渡す訳には参りません」
 凛とした静かな構えから一転、どんな敵すら怯むほどの早く鋭い一太刀が白河を襲う。
「ぐおっ!!」
 斬り込んだ瞬間、舞うのは手向けの如く舞う桜の花びら。それが、千鶴の花嵐であった。
「……さて、僕も始めるとしよう」
 零も前に立ち盾になるような場所から、手元のスイッチを押して、白河を遠隔で爆破させる。
「皆! 坑道は左と、右後方だからね☆ それと……」
 ユージンはそういって、仲間に坑道の位置を知らせてから、白河に向かって炎を纏った激しい蹴りを放った。
「全力で潰させてもらうよ、キミ達の輝かしい計画をねっ☆」
 華麗な着地を見せて、にっと笑みを浮かべる。
「むずかしーことはわかんねっスけど、アンタ達ダモクレスが地球を侵略して、地球人を餌にするならアタシのリボルバーが火を噴くっスよ!」
 コンスタンツァは、敵の砲台に向けて、目にも止まらぬ速さで弾丸を放った。
「まさか、ここまでケルベロスが侵入しているとは……だが、我に見つかった不運を呪うが良い!!」
 白河の両肩のカノン砲がケルベロス達を蹂躙していく。
「これはさすがに、堪えるぜ」
「……だが、耐えられないほどではないね」
「この位なら……まだ!」
 地面に突き刺した刀に縋るように、けれど、霞は意志を持って立ち上がる。
 戦いはまだ、始まったばかりなのだから。

「これで終わりだなんて、思うなよ?」
 再びスライが空の霊力を帯びたフランベルジュで、傷跡を切り広げるかのような一撃を浴びせる。
「宿利さん、行きます!」
 霞は今度は宿利へと六芒魔法陣を展開させた。
「逃さないよ」
 炯介の周りに真紅の薔薇の花びらが舞い散る。白河の周囲に纏わりつくように花びらが覆うと、瞬間、その花びらが数多の鋭い槍へと変貌し、相手の四方八方から貫き通す。それが、炯介の持つ深紅の薔薇乙女の力だ。
「お、おのれ……」
 動きの鈍る白河に追い打ちをかけるべく、宿利も狙いを定める。
「侵略は断念して頂きますよ」
 精神を極限まで集中させ、白河を爆破に巻き込ませた。
「やはりこの場を統べる者ですね。このくらいの攻撃では、まだまだといったところでしょうか」
 そう白河の状態を観察しながらも、千鶴はブラックスライムを捕食モードに変形し、近距離の敵1体を丸呑みにしていく。
「……それなら、攻撃を重ねていくだけだね」
 零は体内の豊富なグラビティ・チェインを破壊力に変え、ブラックスライムに乗せて叩きつけた。
「柚野さん、いくよ☆」
 ダメージを受けた霞へとユージンは満月に似たエネルギー光球を与え、傷を癒した。
「アンタ達ダモクレスの好き勝手させねっス! アタシは正義のガンスリンガーガールっスよー!」
 負けじとコンスタンツァも、ドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾で敵を撃破していく。
「こんな攻撃で、我を倒すだと? 笑わせるなっ!!」
 その白河の言葉に、千鶴がいち早く声を掛ける。
「皆さん、防御態勢を」
 白河の巨大な腕の一撃が、ケルベロス達を襲う。だが、千鶴の声掛けのお蔭か、そのダメージは最小限に抑えられたようだ。
「さて、もう1ラウンド始めようか?」
 スライは再びフランベルジュを肩に掛けると、にやりと笑みを浮かべたのだった。

●決着
 白河との戦いは、長期戦へともつれ込んでいた。
「黄泉より還りし月の一振り、我が刃が断つは其方の刻を……!」
 素早い踏み込みで遠距離から一気に間合いを詰め、白河を狙うのは、宿利。光の花弁を伴って三日月状に斬り上げる様は月の欠片が散る様のように……宿利の月黄泉ノ欠片が白河へと斬り込む。
「おのれ、忌々しいケルベロスめ!!」
 白河の激しいカノン砲の砲撃にユージンと零が前に出て盾となる。
「……威力が増しているのか?」
 思わず零が呟く。
「双子星のように寄り添うよ、キミの傍でっ☆」
 すかさずユージンは、札から呼び出した子猫たちの力を使って、前衛に癒しを施すマイソウルフレンド・キティを発動させた。後ろにいた千鶴もシャウトを使い、自らの傷を癒していく。
 もう、どのくらい戦っているのか、ケルベロス達も正確には把握できていない。
 けれど、白河をこれ以上、他の敵のいる場所へ行かせるわけにはいかない。
 と、そのときだった。
 白河が何かを察知し。
「くぅ、ポボスが敗れたか! 性質はどうであれ、あの輸送力はシステム・セイヴァーの為に必要であったというのにっ」
 怒りに任せて、両腕を振り回してくる白河。
「どうやら、ポボス班が目的を果たしてくれたようですね」
「ええ、もう少し持ちこたえていきましょう」
 千鶴の言葉に宿利が笑みを浮かべる。
 白河の攻撃は激しさを増していくが、ケルベロス達は怯むことなく、冷静にそれに対応していた。
「柚野さん、大丈夫?」
「大丈夫です、ユージンさん、回復しますね」
 ディフェンダーは、メディックや後方の仲間の盾となり、そのダメージを請け負う。もちろん、肩代わりする彼らの癒しはメディックや自分で用意した癒しの力で、すぐさま補っていく。
 声を掛け合い、息の合ったコンビネーションを見せつけていた。
 それだけではない。次のターンで白河はまた、何かを察知した。
「まさか、システム・マリアが敗北したというのか!? 不完全とはいえ、あそこにはシステム・セイヴァー計画の量産機があったのだぞ!! どういうことだ!?」
「やったっス! システム・マリアも撃破できたみたいっスよっ!」
 白河の動揺にコンスタンツァは嬉しそうに、卓越した銃捌きで、敵の頭部を素早く正確に撃ち抜く。
「だが、システム・ノアのデータさえ無事であれば、まだ取り返しがつく! お前達を蹴散らして救援に向かう事ができればっ……!!」
 再び白河は負けじとカノン砲を放つが、防御と回復を重視したケルベロス達にこれといった一撃を与えるに至らない様子。
 気が付けば、満身創痍の白河と、余力が残しながらなおも打撃を繰り出してくるケルベロス達という構図が浮かび上がっていた。そう、見た目で分かるほどのケルベロス達の優位が感じられる。
 この状況において、ようやく白河もケルベロス達の意図に気付き始めたようだ。
「お前達、何が目的だ! 我を追い詰めて、システム・セイヴァーの秘密を知ろうというのか? それとも、ジュモー殿の情報を得るつもりか? 愚かな……この我が命惜しさに、お前達に情報を売るとでも思ったか!!」
「そんなこと、分かってるさ……だが、私達も勝ちを譲る訳にはいかなくてな」
「ようやく気付いたのかい? 今更遅いんじゃないかな」
 スライと炯介が堂々と言い放つ。
 だが、まだ最後のシステム・ノアが破壊されるまでは、白河を抑え続けなければならない。
 その時が来るまで、ケルベロス達は辛抱強く、攻撃を重ねながら、白河の激しい攻防に耐えていく。
 と、その時だった。
「間に合わなかったのか、データが……貴重なデータが失われたというのか!?」
 突然、白河が嘆きながら、またもや激しいカノン砲の砲撃をケルベロス達へと放ったのだ。
 それは、最後の砦であるシステム・ノアが破壊されたことに他ならない。
「大丈夫です、この位なら癒せます。後ろは支えますから、撃破を!」
 味方の士気を高めながら、霞が前衛の仲間達へと癒しを与える。
「システム・セイヴァーの最後っスね! なら遠慮なく……ゴー・トゥー・ヘヴン!」
 最初に打ち込んだのは、コンスタンツァ。凄まじい威力と速度を持って激しく暴れまわる竜巻を撃ち出す弾丸、テキサス・トルネードを発したのだ。
「ぬおおおっ!! まだこんな力を残していたのかっ!?」
「壁も野望も、打ち砕いてみせましょう。――御覚悟なさい、ご老体」
 桜花が舞い踊る花嵐を千鶴は再び、白河に放つ。
 今まで守りに徹していた零も攻撃へと転じる。
「――この身を焦すは豪の焔――彼の身を貫くは紅蓮の刃――地球の核から溢れて轟け――逃げ場なき焔の地獄――燃やし尽くせ――ッ!」
 自らの魔力を極限まで高めて生み出した、溶岩のような紅蓮の竜巻。それはどこまでも敵を追い、破壊しながら追尾する狼の如く。
「……君にやるのは、この蕩けるほどに熱い竜巻だけで十分さ」
 豪焔紅蓮熔岩嵐、それが零の取って置きの技であった。
「ぐぐぐぐ……まだ、だ……まだ、やられはせんっ!!」
 よろけながらもなおも立ち上がる白河にスライが立つ。
「良く立っていられるな。流石は強敵ってやつか……だが、そろそろ終わりだ」
 スライの瞳に黒い点と、地面に映し出される緑の軌跡が映し出される。
「……絶望などどうでも良い、私の前に存在するな」
 その通りに地面を駆けて、渾身の力を込めた拳をその急所に鋭く叩き込む。拳の当たった個所がクレーターのようにひび割れ窪み、そして。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!!」
 白河が、いや白河だったモノが次々と壊れ、崩れ落ちる。
 ここに、システム・セイヴァー計画はケルベロスの手によって完全に阻止されたのだ。

「特に目ぼしいものは、あまりないようだね」
「あるとすれば、システム・ノアかシステム・マリア側かな……」
「白河の部品お一部は一応回収しておくね?」
「あぁ、あとでヘリオライダーに提出しておいてくれ。では、帰還するぞ」
 そして、戦場跡の遺留品を調べ終えたケルベロス達は、心地よい疲労感と共に、坑道の外へと帰還するのであった。

作者:一本三三七 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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