システム・セイヴァー~炭坑に造られたダモクレス工場

作者:沙羅衝

「シンチョクはジュンチョウですね……」
 暗い炭坑が延びている横長の道に、機械の音声が響く。しかし、それは何処から聞こえてくるのか直ぐには分からない。
 そこでは、ベルトコンベアに運ばれ、機械の部品が静かに生産されていた。
 幾つもの工程を経てたどり着いた先には、人型ロボットの上半身が無駄な動きも無く組み立てられていく。
「イズレはコノコたちも……フフフ」
 その声の主は、出来上がった上半身をエメラルドグリーンの光を使って眺める。
 光の元は扉であった。
 大きな歯車が扉の中央部でガコリと動く。
「システム・ノア。ハヤクコノコタチに、チカラを……」
 歯車の中心で、女性を模った顔が声を発していたのだ。
「モウスコシ、セイサンセイをコウジョウサセテイキマショウ……」
 その顔がそう言った時、エメラルドグリーンの光は、より一層強く光りだした。

「皆、ちょっと聞いて欲しい」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が神妙な面持ちで、依頼の説明を開始していた。
「指揮官型のダモクレスが現れ始めたっちゅう話は、聞いたことある人もおるやろ。そんで、その一体『ジュモー・エレクトリシアン』が地球上に研究施設を幾つも作り始めてるっちゅうんや。
 んでな、今回みんなに行って欲しいんは、福岡県北部の閉山された炭坑や。この研究施設でダモクレス、白河・龍造による、量産型ダモクレスの試作型の開発が進んでいるっちゅう話を掴んだ。
 こいつはな、画期的な量産型ダモクレスを開発する事で、その圧倒的な数と量産スピードにより地上侵攻を成し遂げようとしてるらしいわ」
 まあ、そんなことさせへんねんけどなと、絹は手に持ったタブレット端末から目をケルベロスに向けて、呟く。
「この白河・龍造は、3体の有力なダモクレスを従えてる。
 研究開発の要となるダモクレス、システム・ノア。こいつが試作機の設計・開発。
 ダモクレス製造の為の工場を展開する事が可能な、生産活動に特化したダモクレス、システム・マリア。
 トラック型のダモクレス、ポボス・デカ。こいつは資源の採掘や搬送とかに特化しとる。
 白河・龍造を倒せば、この3体は撤退して、今回の計画は阻止できる。でも、この3体はそのまま野放しには出来へんくらいの高い能力を持ってる。
 ほっといたら、また他のダモクレスと事件を起こすやろ。せやから、みんなには、全員を同時に撃破して欲しい。
 今回の依頼は、そういうことや」
 絹が話の説明を終えると、勘の良いケルベロスが、他のチームとの連携の有無を尋ねた。
「そういうこっちゃ。今回の作戦は4チーム同時攻撃がキモや。
 このダモクレスたちは、坑道の別々の場所にいるから、坑道に入った後は4チームで別々に移動して、タイミングを合わせて攻撃を仕掛けなあかん。
 坑道内は、携帯電話とか無線は使われへん。うまくタイミングを合わせる工夫がいると思うわ。
 もし、この中のどれか一体が攻撃を受けてダメージを被った場合とか、撃破された場合は、残りの3体はその事実を知る事ができるみたいやから、敵の動きを良く見とったら、なんか分かるかもしれへんな」
 4チームの連携が必要であり、連絡は取れない。あらかじめ前もって準備が必要であるだろう。
「うちらの相手は、システム・マリアや。さっきの説明通り、生産活動に特化したダモクレスや。ここにはベルトコンベアが幾つも連なっててな、その先で、既に出来上がった上半身のパーツが並べられてる。その先にいる扉が、システム・マリアや」
 扉? と疑問に思う一人のケルベロス。
「せや、扉や。その中央に、女性の顔が付いてるらしい。そんで、そんなに強ない。けど、その周りを出来上がった上半身パーツが護ってる。上半身パーツの数は大体30くらいやという情報や。そいつらが次々に襲い掛かってくるで。狭い炭坑やから、そいつらを振り切ってシステム・マリアに攻撃することは難しいやろ。ある程度減らさなあかん。そいつらもまだ完全にダモクレスとして出来上がってへんから、そんなに強くないんやけど、数っちゅうのは恐ろしいんやで。気ぃつけてな」
 絹はええかなと反応を見ながら言い、最後に口を開く。
「他のチームとの連携に加えて、自分達の戦術も決めなあかん。大変やろけど、ここでダモクレスたちの拠点を作らせる訳にはいかへん。頼んだで!」


参加者
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)
シィ・ブラントネール(水圏戯・e03575)
黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
祠堂・小夜子(追憶の鬼百合姫・e29399)

■リプレイ

●暗闇に潜む番犬
 他の班と同時に炭坑に突入したケルベロス達は、炭坑の再奥にあるシステム・マリアの工場を突き止め、少し手前の物陰に待機していた。
(「何だろう……少し……寒気? がする」)
 フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)は、そう思いながら前方にある淡い緑の灯りに照らされたベルトコンベアを見る。
「眸……。大丈夫、よね」
 フローライトから少し距離を空けた影に潜むエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)が、自らの足元から伸びるアリアドネの糸を見つめ、そしてまたベルトコンベアへと目を向ける。
「心配? ……よね。でも、その為にエヴァンジェリンがいるのよ。あなたがいる限り、大丈夫。自信もって!」
 その表情を読み取ったのか、シィ・ブラントネール(水圏戯・e03575)が声をかけ、ウィンクをする。彼女の傍らには、シャーマンズゴーストの『レトラ』が控える。彼女は少し前の依頼で暴走し、恋人や仲間に助けられた経験を持つ。根拠はないが、それだけにその言葉には説得力があった。

 他のケルベロス達は隠密気流を使い、現状を把握する為に偵察を行っていたのだ。そして、暫くすると、偵察に言っていたケルベロス達が帰ってきた。
「どう、だった?」
 エヴァンジェリンが横に来た君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)に話しかける。
「敵の位置は把握しタ。そして、やはり……マザーだった」
 眸は無表情に答える。眸は絹の話を聞き、真意を確かめたかった。彼が言った『マザー』とは、システム・マリアに他ならない。眸は過去、このシステム・マリアにより、生み出されたダモクレスであったのだ。
「……そう」
 エヴァンジェリンはそう言い、そっと眸の冷たい手に、自らの手を乗せる。
「大丈夫ダ。マザーに憎しみなどないし、迷いもなイ」
 少し優しく、眸が手を握り返す。そこへ、すっと小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)が音も無く現れる。
「状況なんだけど、そのベルトコンベアが30メートルくらい続いてて、その奥にマリアがいる。今のところ動きはないね」
 ケルベロス達は、他の班の突入を待っていた。それは、白河・龍造が率いる他のダモクレス、システム・ノアとポボス・デカへ向かったケルベロス達の事である。特にポボス・デカは移動をしているということから、その班が先に接敵しないと、何処かの版が取り逃がす恐れがあったためだ。
「少し時間が経って来たわ。突入できる位置に移動しましょう?」
 黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)がそう言ってベルトコンベアへと、かがみながら進む。
「さあて、こっちも準備するんだぜ」
 その後に、タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)が暗視スコープをもう一度装着しながら、物陰に潜みつつ、素早く移動する。
 ケルベロス達が移動していくと、ベルトコンベアに潜み、様子を伺っていた祠堂・小夜子(追憶の鬼百合姫・e29399)が、合流する。
「少し、動きが出始めたよ。皆、準備は良い?」
 小夜子はそう言って、鬼百合の紋章が刻印されたリボルバー銃を確かめ、瞳の色をピンクから青紫に変えていく。
「……ワカリマシた。チュウイイタシマす」
 すると、ベルトコンベアの先から声が出始め、エメラルドグリーンの光が大きくなっていく。そして奥で上半身だけのロボットが光り始めた。
「来たわね。さあ、行くわよ!」
 シィがそう言って、全員を見る。
「良シ。行こウ」
 眸が頷くと、エヴァンジェリンが里桜へと顔を向ける。
「合わせるわ、里桜。思い切り、行って」
「はーい! それじゃ、全力全開で……ブッ壊してやるよォ!!!」
 その言葉を合図に、ケルベロス達は装着した暗視スコープを勢い良く外し、手持ちのランプに灯を入れ、一斉に突入した。

●ベルトコンベアに乗って
 勢い良く突入したケルベロス達に立ちはだかったのは、上半身のみのロボットであった。ベルトコンベアが逆走し、それに乗って4列縦隊で襲いかかってくる。
「コチラ、システム・マリア。ケルベロスのシュウゲキをウケテイマス。ゲイゲキカイシイタシマス」
 奥からマリアの抑揚のない機械音が狭い坑道にこだまする。
 ベルトコンベアは坑道ギリギリで設置されており、このベルトコンベアの先に、一際エメラルドグリーンに輝く扉が見えた。
「っらあァ!」
 里桜が突入した勢いのまま、ゾディアックソードを振り回すと、最前列の4体に、次々と氷を発生させていく。
『フィールド生成……これより生命力ノ維持に努める』
 眸が自らのコアを光とし、周囲のエヴァンジェリン、舞彩、タクティ、それにレトラへと伸ばしていく。
「ガンガン進んで行くんだぜ!」
 タクティが左腕に纏わり付いているオウガメタル『ゼノ』に呼びかけ、黒い光を射出させる。
「なるほど、これくらいなら……」
 上半身パーツのダメージの入り方を確認した舞彩は、更に自分達の攻撃力を上げるべく、爆破スイッチ『マイントリガー』の引き金を引き、カラフルな爆発を発生させる。
 エヴァンジェリンのゲシュタルトグレイブ『glisch』が、グリーンの光を反射させながら敵をなぎ倒し、
『さようなら。何もない、誰もいない何処かへ招待するわ』
 シィが敵のいる空間ごと塗りつぶすように、無音のグラビティで消滅させていく。
 ケルベロス達の戦いは圧倒的であった。
 数にあかせた攻撃を加えようとする上半身パーツ達。しかし、自らが攻撃するより先に、ケルベロス達の火力がそれを許さない。
『葉っさん…みんなに…温かい陽の力を…『光合成形態』…』
 少しの攻撃を受けたとしても、フローライトが紫葉牡丹型攻性植物『葉っさん』の力で回復させ、より強固な太陽の力を纏わせる。
 そして、わずかに討ち漏らしてしまった敵も、小夜子の狙い済ませたリボルバー銃が、精密に打ち抜く。

「ナニヲやってイル!? ハヤクとらえヨ!」
 マリアが再奥から指示を出すが、ケルベロス達は止まらない。支援の力を増幅させ、敵の攻撃は既に脅威となっていなかった。
 ガシャン……。
 そして、小夜子の銃撃音が響き渡った時、ケルベロス達は28体の上半身パーツを蹂躙し、とうとうマリアの目の前に立ちふさがったのだった。

●帰還……そして
「No.0822。タダ今帰還セリ」
 眸が機械的に呟く。それは、普段の声ではない。隣には、ビハインドの『キリノ』がゆらりと並ぶ。
「……モシヤとオモッテイタが。ヨクモカエッてコレタモノネ」
 ガシャン!
 タクティのミミックが、ビームを放とうとした一体の上半身パーツに噛み付き、タクティがドラゴニックハンマー『リギュラ』で追撃をかけると、シィが2本のドラゴニックハンマーを重ね合わせて、爆発を引き起こし、その1体を崩れ落とす。
「マザー……」
「ウランデイルのか? ワタシを」
 歩み寄りながら日本刀を鞘に戻し、対峙する眸に対し、マリアが問う。
 バリバリバリ!
 残った1体の上半身パーツに、フローライトが雷撃を放つ。
「ラストォ!!」
 里桜がシャーマンズカード『鬼哭啾啾』から、光る猫の群れを呼び出し切り裂く。そして、舞彩と小夜子が攻撃を与え、最後の上半身パーツは消滅した。
 そして、もう一度眸が口を開く。
「マザー……。コレ以上、罪ヲカサネルナ」
「フフフ……ミギウデだけデナク、カイロソノモノにフリョウがアッタのね」
 ヒュウ……。
 マリアから金属性のアームが伸びていく。そして、勢い良く眸に振り下ろされる。
 ギン!
 激しく火花を散らし、坑道を金属音を響かせる。
「アタシが、守るわ。……守ってみせる」
 エヴァンジェリンが眸の間に入り、その攻撃を受け止め、更にそのまま『glisch』に稲妻を纏わせ、突く。
『ま・しぇりみたいに上手くないケド……下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるってね!』
 里桜が緋色の符を勢い良く宙にばら撒き、マスケット銃を創り出す。
 ドドドドドオ!
 炎による弾幕が、マリアを燃え上がらせる。
『分の悪い賭けは嫌いじゃないんだぜ?』
『その心臓に、螺旋の力を……打ち込む!』
 タクティと舞彩が渾身の一撃を放ち、そのアームを破壊する。
「作られたこと自体に、罪はなくとも。人の命を奪うというのならば番犬として立ち向かうべき敵だ。阻止させてもらうよ」
 小夜子が、髪から分散させて放電している熱と静電気を、コアに集約させていく。
『出力最大ヲ承認。放電ヲ開始』
 小夜子が溜めたエネルギーを放出させると、扉全体にヒビが入り始める。そして、シィがドラゴニックハンマー『Explosion Marteau』を打ち込み、レトラが切り裂くと、中央の歯車が崩れ落ちた。

●涙
「No.0822……」
「マザー……ヒトに仇なすのならば、ワタシは、貴女を破壊すル」
 眸の声は、先ほどの機械的な音ではなく、いつもの温もりのある声に戻っていた。腰を屈ませ、抜刀の構えを取る。
「……行って、眸。アナタの敵は、アナタが倒して」
 エヴァンジェリンが呟くと、眸の眼に光が入る。
 そして、目にも留まらない速さで、刀を抜き、鞘に戻すと、エメラルドグリーンの光が消える。
「……ワタシはヒトが好きだ。それだけ、伝えたかっタ」
 眸がそう言うと、中央の顔が二つに割れ、その扉共々崩れ落ちたのだった。

「んー。これとか、情報になるかしら?」
 舞彩が周りに散らばった、工場の部品を拾い上げる。
「PCとか、あったら良かったんだけど……」
「ちょっと俺達が知っている構造とは、違うのかもしれないんだぜ」
 タクティが舞彩に答え、自らは量産していた試作機がどこに出荷する予定だったかを調査するべく、更に瓦礫を漁り出す。
「今は分からなくとも、ヘリオライダーに幾つかめぼしいものを持って帰ってみよう」
「そうだね! 何か分かるかもしれないし!」
 小夜子の声にシィが反応し、自らは情報の妖精さんを呼び出し、自分では分からない情報を、何とか集約しようと試みる。
「画期的な量産型……という絹の情報だった。少しの大きさなら、運べる……」
 フローライトはそう言いながら、怪力無双を発動させようとする。しかし、ふと、その工場の装置をみて、動きが止まる。
(「今のは……?」)
 彼女の脳裏に、残像のようなものが浮かぶ。しかし、フローライトにはそれがなんだか分からない。彼女は軽く頭を振り、作業を再開させた。
「エヴァンジェリン、手伝うよ! 一緒に調査だー!」
「里桜……えぇ、一緒に、探しましょうか」
 エヴァンジェリンは里桜にそう言いながら、眸の様子を見る。眸は、マリアがあった場所を見つめていた。
「眸……大丈夫?」
 エヴァンジェリンが眸の袖をぎこちなくきゅっと触る。
「大丈夫……ダ。だが、どうしてだろうか。説明ができなイ何かが、ここを締め付けル」
 眸はそう言いながら、胸に左手を当て、ぽたり、ぽたりとあふれ出てしまう涙を右手にとって見つめる。彼の涙の横には、エメラルドグリーンにほのかに輝くマリアのコアの欠片があった。
「きっと、それが……心、よ」
 眸はそうか、と呟きながら、その欠片を握り締める。
「……心というものハ、不思議だな」
 ええ、私もそう思うとエヴァンジェリンはそっと答える。
「……でも、エヴァンジェリン、キミに会えた。このキモチは、とても素晴らしく、失いたくなイ。それだけは、事実ダ」
「え? あ……うん」
 はっきりと言う眸に対し、エヴァンジェリンはそう言って俯き、声に出さず、うれしい、と呟いた。
 繋がったアリアドネの糸が、一層赤くなったような気がした。

 こうして、システム・マリアを倒した一行は、アリアドネの糸をたどり帰路に着いた。
 途中、他の班と合流し、この計画の阻止が成功した事が確認できた。
 作戦成功の報に喜ぶケルベロス達であったが、まだジュモー・エレクトリシアンの計画の一部である事を思い出し、気を引き締めた。
 炭坑から外に出ると、冷たい風がケルベロス達を向かえた。
 それは、これからの試練を暗示しているかのようであった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 4/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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