「わーい、でっかいプリンだっ!」
ビッグサイズのプリンに、男の子が喜びの声を上げた。バケツプリンという奴である。
だが、食べようとした途端。
プリンがどんどん大きくなったかと思うと、『口』を、がばっ、と開き、男の子へと喰らいつこうとしたではないか!
「食べないでー!」
男の子が目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
「……なんだ、夢かあ」
安堵した男の子が、再びまぶたを閉じようとした時、ベッドの横に人影を見つけた。
「おかあさん?」
「残念、違うわ」
人影が首を振った次の瞬間、男の子の胸に何かが突き立った。窓から差し込む月明かりに照らし出されたその正体は、鍵。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
くたりと倒れこむ男の子と入れ替わるように現れた影は、巨大なプリンの形をしていた。
●食べるはずが食べられて
「ねむも、たまにびっくりするような夢を見ちゃう時があるんですよ!」
正夢になった事はないんですけど、と笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、笑った。
「第三の魔女・ケリュネイアが、子供の『驚き』を奪っちゃう事件がまた起きてるんです。『驚き』を元に具現化したドリームイーターが事件を起こす前に、止めて欲しいんです!」
被害者の男の子は意識を失った状態にあるが、このドリームイーターを倒せば目を覚ましてくれるだろう。
「今回現れるドリームイーターは、プリンの形です」
プリン? と首を傾げるケルベロス達に、ねむは、プリンです、と強調した。
最初は皿に乗ったプリンとして道端に現れるが、誰かに見つけられた瞬間、巨大化し、襲い掛かってくるという。
「巨大プリンは、男の子の家の近くのコンビニ周辺に現れます。誰かを驚かせたくてしょうがないみたいなので、近くを歩いていれば、向こうから寄ってきますよ」
自分に驚かなかった相手を優先的に狙ってくるらしい。プライドを傷つけられたと感じるのだろうか?
「出現地点のコンビニの近くには、公園があります。夜中なのであまり人気はないですし、戦う場所として誘き出すにはちょうどいい場所だと思いますよ?」
巨大プリンの全高は、3メートル強。中ほどに刻まれたギザギザのスリットが、口にあたるようだ。
その巨大な口で噛みついてきたり、カラメルソースや本体の一部を飛ばして攻撃してきたりする。
「このままだと、男の子は眠り続けちゃいます。みんなの頑張りで、この子を助けてあげてください!」
美味しそうな見た目にだまされちゃダメですよ、と、ねむは付け加えた。
参加者 | |
---|---|
天空・勇人(勇気のヒーロー・e00573) |
リーア・マルデル(純白のダリア・e03247) |
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909) |
滝・仁志(みそら・e11759) |
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691) |
風戸・文香(エレクトリカ・e22917) |
イクシード・ドッグマン(迷いの獅子狗・e29451) |
長篠・ゴロベエ(デッドエンドブレイカー・e34485) |
●プリンさんこちら、リアクションの薄い方へ!
3人のケルベロス達が、夜道を行く。
「頑張ってプリンさんを誘い出しましょうねぇ」
コンビニ周辺に人気がないのを確かめながら、リーア・マルデル(純白のダリア・e03247)が、ふんわりボイスを仲間にかけた。
「そうだね、男の子のためにも。にしても、プリンの夢かぁ、なんか可愛いよな」
「うーん、俺にもそんな時期有ったかな……?」
滝・仁志(みそら・e11759)の言葉を聞いて、長篠・ゴロベエ(デッドエンドブレイカー・e34485)が軽く首をひねった。
「俺もようじょと一緒にプリンを食べる夢とか見たい……ってうわ!」
テレビウム・カポのおしおきから、頭をかばう仁志。
「ちょっと想像しただけじゃないかー。わかってるよ、ちゃんと仕事するから!」
ならよし、という風に、カポが凶器を収めた。
さて、ドリームイーターはこの近くに現れるという。さすがに、コンビニ内のスイーツコーナーに紛れているわけではないようだ。もしそうなら、コンビニは常に大混乱だろう……。
「……ん?」
不意に、ゴロベエが2人を制した。
歩道のど真ん中、ヘッドライトに照らし出されたのは、小さな黄色いもの。
「プリンか」
「プリンだ」
「プリンね~」
道端にプリン。怪しい。
ぷるん、とゼラチン質のボディが揺れたかと思うと、巨大化を始めた。3人の視線が、斜め下から斜め上へとスライドしていく。下方から照らし出されたその巨体は、ちょっぴり怪獣めいていた。
「うわっ、なんだこいつ! でかい!」
カポと共に後ずさる仁志に向け、巨大プリンが口を開いた。迫力もさることながら、そのサイズは、子供程度なら一飲みにしてしまうだろう。こわい!
「きゃ~っ」
「…………」
巨大プリンの口が、への字になる。リーアの悲鳴の緊張感の薄さに。
肝が据わりすぎて、全く動じていないレベル。むしろ、ウイングキャットのダールの方が、いいリアクションをしているくらいだ。尻尾がボンボンのようになり、背毛も逆立っている。
なお、ゴロベエに至っては、持参したバケツプリンをもりもり食べている。もりもり。
「……きしゃーっ!」
巨大プリンが突然ジャンプした。もっと驚けよ! と言わんばかりに。 だが、踏み潰されてはたまらない。皆は一目散に逃げ出した。
どすん、と着地するや否や、3人と2体を追いかけ回す、巨大プリン。これが、ケルベロス達の思うつぼだとも知らずに。
●巨大プリンは夜走る
一方、残りの仲間達は、公園で人払いや灯りの準備をしていた。
「巨大プリン、悪くない夢だ。少年と引き換えの悪夢でなければ、だが。まあ、せっかく現れたのだ。……ふ、俺たちでこっそり喰ってしまおう」
「ああ。純粋な子供の夢を、悪事に利用させるわけにはいかない。跡形も無く駆逐してやろう」
イクシード・ドッグマン(迷いの獅子狗・e29451)が振り返りざま声をかけたのは、ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)。公園にいたカップルを追い出……もとい、園外へとエスコートして戻ってきたところだった。
プリントークを聞いていたアストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)の脳裏には、去年のハロウィンに出現したプリンの攻性植物の事件が蘇る。
「バケツ大のプリンは、あこがれましたね~子供の頃。あと、プール一杯のゼリー、というのにも~」
準備を終え、物陰に潜伏する風戸・文香(エレクトリカ・e22917)。夜目を発動しているから、公園内の様子は昼間同様把握している。
その視覚でとらえる仲間の姿。その1つは、イクシードだ。しかし、ワクワクしている内心までは見透かせない。
今か今かと待ちかねながら、息を潜め、耳を澄まして獲物を待つイクシード。
「む、この音は……」
「来たぞ! ドリームイーターだっ!」
イクシードの報を受け、天空・勇人(勇気のヒーロー・e00573)が仲間達に声を飛ばした。
果たして、公園内に現れたのは、
「うふふ、こっちよ~」
「きしゃーっ」
追いかけっこに興じる一団だった。
何やら楽し気な雰囲気に見えるのは、リーアのふんわり雰囲気のためか、それともゴロベエの抱えたバケツプリンのためか。
ともあれ、しんがりの仁志とカポを追って巨大プリンが公園内に入ったところで、文香やアストラ達が動き出した。皆で手分けして、公園の四方にキープアウトテープを張り巡らせる。
「待てっ!」
囮組を執拗に追いかけるプリンの前に、颯爽とヒーローが現れる。青き仮面の戦士、勇人だ。
「仮面ブレイバー推参! 少年の夢と未来を返してもらうぜ!!」
「きしゃーっ!」
新たな標的に、体を縦に伸ばして、自分をさらに大きく見せようとするプリン。その鳴き声が夜気を振動させるが、ラギアは涼しい顔。
「そんなのでは驚かんよ。たとえ、敵がビッグおっぱいプリンな姿であろうともな! 穢れたオトナの代表。いざ、参る!」
純粋な夢の産物との戦いが、今、始まった。
●メルヘンチック・バトル
巨大プリンと相対するように反転した仁志のレプリカントハンドが、唸りを上げる。ようじょとか言ってカポに怒られていた人物の面影は、今はない。だが、
「効いてない? 弾力凄い!」
もっとビビって! といわんばかりにふるふる揺れるプリン。
続けて飛んできたカラメルに、全身をコーティングされるラギア。同時に、公園に広がる甘い香り。
口の中に滑りこむ褐色の半液体は、美味しすぎて、このまま包まれていたい……。
「しっかりしろっ! これはただのプリンじゃない!」
勇人が、カラメルを振り払う。
「さあ、焼きプリンにしてやるぜ!」
焔拳を繰り出す勇人。香ばしい匂いと共に、プリンの表面がじゅわりと音を立てる。
「甘いのは大好きですけど、ちょっとこれは度を超してます~!」
次第に、充満する甘い香り。少しクラクラしながらも、文香がゾディアックソードを差し込む。当たりが出れば、てっぺんから何か飛び出したりしそうな形である。
「……嗅ぐんじゃない。煩悩を絞り出すんだ!」
そしてラギアは自らに言い聞かせる。これは巨大プリンじゃない。巨大『おっぱい』プリンだと。
「かかってこい、巨乳プリン」
一文字違いがえらい違い。
その時、巨乳……もとい、巨大プリンがぷるん、と体躯を震わせ、斜め後方へと飛びのいた。
「何っ、その巨体でこの敏捷性だとっ!?」
驚く勇人。読み通り、巨大プリンはその反応に満足したのか、次なる標的へと向かう。そこが好機だ。ゴロベエの降魔真拳が、プリンを喰らう。
「プリン食べ放題だッ!」
体をえぐり取られる巨大プリンの急所を、イクシードの蹴りが突いた。……どこが急所かと問われても困るが。
シーズー犬オルトロスのシシも、くわえた剣で、黄色い体を裁断していく。
応戦する仲間達の後方で、アストラがスマホを操る。その鮮やかにして高速の操作から繰り出されるは、バラージストリーム……応援につぐ応援、応援の弾幕。光源はランプで確保しているし、何より、
「プリンの相手には慣れているからね! ボクの旅団じゃこれぐらい日常茶飯事だもの」
何それ凄い。
ミミックにしまっちゃわれないようにと、懸命に働くアストラ。行く手を阻まれた巨大プリンは回れ右すると、動じる素振りのないミミック・ボックスナイトに狙いを定めた。
分裂させた一部を射出、小さな体を甘い塊で押し潰す。
「カポ、回復!」
仁志の呼びかけに応えたテレビウムが、ボックスナイトを引っ張り出す。
少しずつ傷つく仲間達を鼓舞するは、炎の歌。リーアの奏でるそれが、皆に再び挑む力をくれる。
ダールも、切れ長の目で戦場を見回すと、翼を広げ的確に傷を癒す。
しかし、リーアに迫るプリンの影!
「きゃ~っ」
「俺を無視するな!」
とっさにかばったゴロベエを、巨大プリンが一飲みにした。
「あ」
アストラの指が一瞬止まる。
唐突とも言える出来事に、あ然とする仲間達。
しかし、ぶるぶると、プリンが不規則に震え出す。次の瞬間、内側から食い破るようにして、ゴロベエが出現した。魔人化していた。
●夢は夢に
跳び回り、あるいは地面を滑るように移動し、素早さを見せつける巨大プリン。
だが、アストラのスマホから放出された電波を浴びるなり、動きが鈍る。元々の冷静さに加え、見慣れてきたからなおさらだ。
その隙にボックスナイトが、巨大プリンにとりつくと、その体にかぶりつく。
「きしゃっ!?」
仁志の色とりどりの重力波がプリンボディを波打たせ、リーアの魔力光を浴びた箇所が弾力を失い、硬化していく。
ここぞとばかり、ラギアが竜翼を羽ばたかせると、プリンがしぼんでいく。
「あんなにたゆんたゆんして目を楽しませてくれたのに、貧乳プリンになってしまうな」
貧乳プリンとは一体……ともあれ、剣をグレイブに持ち替え、こそっ、とプリンの背後に回る文香。わかりづらいけど、口がない方が多分背中。
「サン・ニー・イチ、開放!」
途端に、へにゃっ、とプリンが前傾姿勢。文香曰く、やる気スイッチを切断したのだ。
その時にはもう、イクシードがエクスカリバールを振り下ろしていた。表面をびっしり覆う釘の列によって砕かれたプリンの一部が辺りに飛び散り、遊具を彩る。
「今度は、俺がお前を喰う番だ!」
ゴロベエが合掌すると、右手に籠手の様でそうではないかもしれないナニカが出現した。
「頂きます」
始まるは、目にも止まらぬ撲殺行為。気づけば終了、再度合掌。
「ご馳走様でした」
「き、きしゃ~っ……」
もはやプリンとしての体裁を失い、ほぼ黄色い塊と化したドリームイーターへと、勇人が急降下。
「今だ! 食らえ必殺! ブレイバァァァキィィィック!!」
プリンの頂に炸裂した勇人のキック。その衝撃を受け止めようと大きくたわんで、跳ね返す……事は出来なかった。
全身に伝播したキックの破壊力に耐え切れず、プリンは四散したのだった。
その肉体は、破片も含め、音もなく消滅していく。だが、それがもたらした破壊被害まで消えるわけではなかった。修復するのは、イクシード達の役目だ。アストラも、しっかりヒール。
「お騒がせしたわね~」
「うん、もう大丈夫だよ!」
リーアやアストラが、避難していてもらったカップル達に、事態の終了を伝える。
「さて、片付いたか。それで、コンビニはどっちだっただろうか?」
「あ、私も行きます~、濃いお茶が欲しいです」
耳をぴくぴくさせるイクシードに、文香が手を挙げた。
「そうだな、俺は牛乳プリンが好い」
「俺も行こう。プリンよ待っていろ、1つ残らず駆逐してくれよう」
今までとはまた別種のやる気を出すラギア達を、文香はたくましいなあ、と思いつつ。
「うう、プリンを食べて供養はまた今度にします~……」
「あ、俺もプリン食べようかなぁ」
ようじょと一緒に、という一言を飲み込む仁志。
「みんな、元気だな。少年には今回の事なんて忘れて、いつもの日常に戻ってほしいな」
願う勇人の傍らで、ゴロベエが月にプリンを掲げて呟いた。
「なんなら今から届けに行くか。少年、プリン食べるか? って」
「今からプリン!?」
夜プリン。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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