
寒い!
その女学院がある地方はさほど積雪のあるところではないが、それでも今朝は、昨夜の雪が道路の端にまだ残っていた。
校門近辺が静かだったのは冬休みの間だけで、今朝も賑やかに、女子生徒たちが寒さに震えながら登校している。そりゃ、北国の厳しさに比べれば穏やかな方かもしれないが、寒いもんは寒い。
「おはよー!」
「うぅ……寒い。こんな日に学校があるなんて」
「たぶん、明日からも寒いよ。『この冬最強の寒波』だってさ」
「何度目だよ! パワーインフレしすぎだよ!
あぁ、暖かくなるまで家に閉じこもっていたい。3月5日ごろまで」
「虫かよ」
そんな彼女らは一様に、黒いタイツ姿である。
この女学院、それなりの伝統があり、かつては良家のお嬢さんが多く通っていた名残で校則はそれなりに厳しい。
だから、足元は黒のタイツと定められているのだ。たとえ運動部の朝練だろうと、ジャージ姿などもってのほか!
一応、黒のハイソックスでもよい。しかしそれは夏場の話であって、こんな冬の朝に太股を寒風に晒すような装いをする生徒は皆無。つまりこれは、見慣れた光景なのであるが。
「オゥ! そんなバカげた話、許せませ~ん! JKは生足と相場が決まっていマス!」
突如として現れ、悲鳴にも似た叫びを上げたのは、なんとビルシャナ!
「寒さにマケズ、生足を披露するのがJKの粋ではなかったのデスか!」
「そうだそうだ!」
「生足最高~ッ!」
ビルシャナは金切り声で叫び、信者どもを引き連れて女生徒たちに襲いかかった。
「そんなタイツなんて、引き裂いてやりマス!」
「困るな……男の、妙な理想を押しつけられても」
と、九十九折・かだん(供花・e18614)が渋面を作る。
「そうねー。寒いもんね。こんな寒い日は……これに限るね!」
傍らに、なにやら蒸し器があるなーとは思っていたが。
崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)は立ち上る湯気の中からとりだしたのは、大きな肉まん。
はいはいはい、と皆に手際よく配っていく。
「もぐもぐ……
なんだかね、ビルシャナになっちゃった人は、『女子高生は生足じゃないと許せない』って人みたいなの」
「迷惑な話だ」
「もぐもぐ……。
そうねー。話し合いの余地はないし、やっつけちゃうしかないね」
大きな固まりを飲み込んだ凛は、早くも2個目に手を伸ばす。
しかしながら、ビルシャナが引き連れている信者は、元に戻す余地がある。
生足最高、と盛り上がる信者どもだが、なにか衝撃的な説得を行えば正気に戻せるだろう。
理屈では駄目だ。ビルシャナに魅入られた信者どもに、理屈は通じない。
「もぐもぐ……。
ビルシャナを倒せば、ちゃんと元には戻るんだけど。
戦いのあいだ邪魔してくるだろうし、できるなら説得した方がいいかなぁ」
と、凛は、右手に持った肉まんにかぶりついた。左手にはすでに、次の肉まんがスタンバイ。
ビルシャナは10人ほどの信者を引き連れ、校門周辺の女生徒を襲う。
校門前は東西に伸びた一本道で、北側に校門がある。信者どもは東西から女生徒たちに襲いかかるようだ。東西300メートルほどの区間に、30人ほどは女子生徒がいるだろう。
自然、女生徒たちは校門の方へ追われてくるだろうが、そこに南の住宅地の方から襲いかかって一網打尽に……というのがビルシャナの目論見のようだ。
それを逆手にとって、敵が集まってきたところに攻撃をかけ、すかさず女子生徒たちを校内に逃がす手もある。もっとも効率よく敵を撃破出来るだろう。ただし、信者どもはビルシャナを庇うように立つだろうし、タイツを脱がされる女子生徒も出るかもしれない。
あるいは、こちらも分散して敵を迎え撃つか。この方法では、信者どもをそれぞれが食い止めなければならないだろうし、なによりビルシャナと対する者が味方の集結まで耐えられるか、という問題も出てくる。
あるいは他の手があるか。細かな戦術はケルベロスたちにゆだねられる。
凛は今度は餡まんを手にとって、
「もぐもぐ……。
ちょっと前までは女子高生だった身としてはねー。あまり女子高生に夢を見られてもねぇ。
え? もちろん私も、女子高生らしいことはしてたよ。
学校帰りにファストフード寄ったり、クレープ食べに行ったり、カラオケでハニートースト食べたり、牛丼屋行ったり……」
「あぁ……いかにも女子高生だな」
いつもハラペコで思考が霞むかだんが相手では、ツッコミは不在。
「まぁ、いい。勝手な理屈を言う奴は、さっさと片付けてやろう」
それにしても……腹が、減っ、た。
かだんはぼんやりと、どことも知れぬ方向に視線を送った。
参加者 | |
---|---|
![]() 稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734) |
![]() 秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357) |
![]() チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385) |
![]() アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311) |
![]() 錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265) |
![]() 五月雨・沙弥華(普通のヴァルキュリア・e24287) |
![]() リリー・デザイア(耽美なりし幻像・e27385) |
![]() 野々口・晩(雪原の黒獅子・e29721) |
●やってくる、奴らがタイツを引き裂きに
「寒さに負けず、生足を披露するのがJKの粋ではなかったのですか!」
ビルシャナの、魂からの主張に心を動かされた信者どもが、東西から姿を現す。
「きゃー!」
襲いかかった信者どもが登校途中の女子生徒たちに次々と襲いかかって、手当たり次第にタイツに手をかけ、力任せに引っ張っていく。
「いたいいたい!」
「それはいかん! 履いているからこんなことになる!」
「早く脱いで、生足になるんだー!」
「勝手なこと言って!」
ふたりの登校途中の女子生徒たち……というのは見せかけ。
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)は憤り、五月雨・沙弥華(普通のヴァルキュリア・e24287)はそれを後目に、
「囮になりましょう」
と、穏やかに呟いて、形だけは逃げる様子を見せつつ『獲物』として身を晒す。
スマホを手にして、塀にもたれて友達を待っていた様子の女子生徒にも、信者は襲いかかった。
「あれぇ」
わざとらしいにもほどがある悲鳴を上げ、アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311)は、信者どもがわずかに手が届かないところを逃げる。
「みんな、逃げて」
中には冷静に、校友たちに声をかける女子生徒がいる……かと思えば、こちらはリリー・デザイア(耽美なりし幻像・e27385)。
彼女らが矢面に立ったおかげで、襲われた女子生徒は数人で済み、しかしながら追いかける信者どもはあっというまに校門に迫ってきた。
「待ちかねましたデスよ、黒タイツを履いた残念なJKさんたち!」
向かいの住宅の屋根の上から、哄笑とともにビルシャナが跳躍する。
ビルシャナは沙弥華らに襲いかかり、力任せに黒タイツを引き裂こうとした。
「そうはさせませんよッ!」
校門のそばに寝そべっていたでかい黒猫……いや、よく見れば太い足からして黒獅子。
その実、野々口・晩(雪原の黒獅子・e29721)が体を起こし、たちまちのうちに正体を現し、伸ばしてきたビルシャナの手を蹴り飛ばす。
驚いたビルシャナは一歩跳び下がり、目を見開いた。牽制にすぎないとはいえ、そんな鋭い蹴りを放てるのは。
「ケルベロスデスカッ!」
「おうよ、ここから先は進ませねぇぜ不審者ども!」
警備員の制服を着たチーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)が警棒で反対の掌を叩きながら、噛んでもいないガムをクチャクチャさせる素振りを見せながら首を鳴らす。
「わぁ、絵に描いたような不良警官……のマネ」
苦笑した秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)は青ざめる生活指導の教諭を叱咤し、
「先生、早く生徒さんを校内へ!」
と、ひとりひとりの背を押すようにして校舎へと誘っていく。
「こ、校舎で大丈夫ですか?」
「かまわない。そもそも校内に入られるようでは、私たちの敗北だ。
そうなったら、多少離れていたところで全滅だね」
腕組みをした錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)が校門の前に仁王立ちし、敵群を睥睨する。
「先生、大丈夫だから! 絶対にそうはさせないってことだから!」
躯繰をひと睨みしつつ、慌てて結乃は教諭の背も押す。
事情はすでに伝えている。敵襲来の知らせとともに、学校は動き出しているだろう。校門付近から引き離しさえすれば、生徒らに危険はない。
「で、なんだっててめぇまで女子の制服着込んでやがるんだ?」
「似合うのだから、仕方ないね。その警備員の服よりは、よほど」
「わー、躯繰、美人だー!」
「ほらね」
いけしゃあしゃあと言い放ち、無邪気に歓声を上げるアウィスを指し示す。
「けッ、言ってやがれ」
チーディは呆れて、地面に唾を吐いた。
●生足こそ至高なるか
「蹴散らしてくだサーイ!」
ビルシャナの号令に従い、東西から信者どもが襲いかかってくる。
「そんな、分厚い代物を履いたんじゃ、きれいな足が透けさえしないじゃないか!」
「110デニールよ」
身を翻した沙弥華は日本刀を抜き放ち、円月の軌跡を描いてビルシャナに斬りかかった。
「アウチ!」
腿を裂かれたビルシャナがよろめく。
晴香はすかさず追撃を試みようとしたが、信者どもが邪魔だ。
「そっちから蹴散らしてやる!」
塀の上に飛び上がった晴香は陽光を背に、バッと制服を脱ぎ捨てる。下に着込んでいたのは、赤いリングコスチューム!
「だいたいね、自分の欲望を満たすために生足晒せとか、ひどくない?
もし私が『あなたたちのユルい身体をじっくり堪能したいわ』とか言ったら、Tシャツ短パンでいてくれるわけ?」
「欲望ではありまセーン!」
「そうだー! 生足を晒さないなんて、JKの風上にもおけない行為だ!」
「わけがわからない嗜好全開のビルシャナの信者じゃ、説得も骨です」
沙弥華が嘆息した。
「話にならない!」
滞空時間の長いフライングボディアタックで、信者に襲いかかる。信者は押し倒されたが、細身な身体の割に豊満な胸に押しつぶされたら、それなりに幸せであろう……。
「太股じゃ! ハイレグコスチュームの太股じゃー!」
「そっちかーッ!」
「乳袋なんぞ、あろうがなかろうがどちらでもかまいませーん!」
ビルシャナは叫ぶとともに氷の輪を生み出し、ケルベロスたちに襲いかかる。
「言うに事欠いて乳袋とか……。
みんな、大丈夫?」
アウィスが仲間たちに声をかけつつ、ゾディアックソードを抜く。舞うようにそれを振るうと、地面に描かれた乙女座が光り輝いた。
リリーらにまとわりついていた氷が、砕けて散る。
「そもそもが、人の衣装にケチを付けないでって話よね」
リリーは、襲い来る信者どもに攻性植物をのばし、はり倒す。信者は鼻血を出しながら吹っ飛ばされるが、なに、手加減はしている。
「まったくだ、主観を押しつけるなよ」
躯繰はその隙に、ビルシャナに飛びかかった。
惨殺ナイフが煌めくと、血飛沫があたりに舞う。
「タイツに包まれた脚線美もまた、良いというのに」
「え、そういう話なの?」
「どういう話だ?」
「敵が、来るよ!」
誘導から戻った結乃が声を張り上げる。
「喰らいやがれ!」
「いざ、勝負!」
応じたチーディと晩とが、それぞれに技を繰り出す。
チーディの得物から、魂を喰らう一撃が発せられた。ビルシャナがよろめいたところに、雄々しい黒獅子のオーラを立ち上らせた晩が飛びかかる。
しかし、だ。
「世界を生足で満たすマデ、倒されはしまセーン! 正義とは、かくも強いものなのデス!」
ビルシャナは紙一重でそれを避け、反撃に転じようとした。
「させない! ……捉えるッ!」
結乃の瞳孔が窄まり、バスターライフルが唸りを上げる。
研ぎ澄まされた感覚がビルシャナの挙動を先読みし、正確にその先へと銃身を向けさせた。
放たれた銃弾を膝に受け、ビルシャナはよろめきながら後ろに下がる。
「おのれ!」
孔雀を模した炎は結乃に狙いを変えて襲いかかってきたが、晩のボクスドラゴン『ブライクニル』が治療にあたる。
ケルベロスたちはなおも攻撃を仕掛けようとしたが、信者どもが邪魔をするように立ちはだかる。
「そろいもそろってタイツなどを! 殺す前に引き裂いてあげマース!」
それをいいことに、ビルシャナはまばゆい閃光を放った。敵に対峙する晴香たちが、抗しがたい圧力を受けて呻く。
「あなたにされずとも」
鼻を鳴らした沙弥華が、伝線したタイツをビリッと引き裂いた。そこから覗いたのは、幾重にも残った傷跡。
「……これは私が、自分の命さえ軽視していた報い。愚かだった私を、嫌でも思い出す消えない傷」
自嘲めいた笑みを浮かべた沙弥華は、信者どもに視線を巡らせる。
「……タイツを履く理由が、防寒だけだと思っていますか?」
「女の子には、秘密にしたいことだってある。それを暴くなんて、さいてー!」
アウィスは『オラトリオヴェール』で仲間たちを包みつつ、冷たい視線を信者どもに向けて、詰る。
「お、おおう……」
どうやら信者どもはたじろいだようだ、が。
「いかなるタイツよりも生足が至高! 忘れてはいけまセーン!」
ビルシャナが信者どもを叱咤する。
「えぇい、傷跡がなんだ! それだって、君の人生の証じゃないか! 君は、君の生足はそれでも美しい!」
「……別の状況なら、それなりに感じるところもあったかもしれませんが」
沙弥華はわずかに口の端を曲げて苦笑いし、抱きしめようと飛びかかってくる信者の横っ面をはたいた。
「いきなり抱きつかれてもね。
抱きつくだの、タイツを引き裂くだの、それただの事案オヤジだから!」
結乃は顔をしかめ、振り回したバスターライフルで信者を殴る。
「そうだぜ! お前等は、JKのことをわかってねぇ!」
「でしょ? チーディさんもそう思うよね?
スカートに生足とか簡単に言われると、イラッとくるくらいには寒いんだからね!」
「女の子に冷えは、大敵」
「寒い中、我慢しろっていうの? 望む衣装があるなら、恋人にやってもらえば?」
などと、アウィスやリリーも口々に同意する。
「だいたい、そっちの首領の姿見てみなさいよ。全身羽毛よ、羽毛」
「羽毛でなにが悪いのデスカ!
醜い世界など、望ましくありまセン! 生足こそが美しい世界!」
「それが嗜好だろう」
躯繰が顔をしかめる。
「寒いのなんて、かわいそうじゃないですかぁ!」
大声で叫んだ晩が、ビルシャナと信者どもの前に立ちはだかったのだが。
「やめだやめだ、生足はやめ! いいか、JKにもっともふさわしいのは、網タイツだ!」
拳を握りしめ、これまでの話をすべてひっくり返すようにチーディが叫ぶ。
「うぇ」
「私たちの話、聞いてた?」
「フェチだー」
「ヒドい趣味ね」
「おい、白い目で見るな女性陣。3歩下がるな!
聞けよ! JKのかてぇ制服と、セクシーさに振り切れたギャップが、その脚を艶めかしいものにランクアップさせるんだよ!
見てみろ、この写真集がその証拠だ! こいつを聖典とすべし!」
4歩目を下がる女性陣。
「そういう話じゃないでしょ!」
と、晩が叫ぶ。
「想像してくださいよ、辺り一面を真っ白に染める吹雪……何分も遅れるバス。凍えた身体でそれを待つ生足の女子高生……ひぃ!」
考えるだけで痛々しい。
「道産子からしたら、生足JKなんて可哀想な対象でしかありません。網タイツとか、生足とぜんぜん変わらないじゃないですか!
試される大地を、舐めないでください!」
「はぁ? ガキンチョには、このセクシーさがわかんねぇか?
よし、お兄さんが、お前に聖典をプレゼントしてやろう! 汚すんじゃねぇぞ?」
「最低だ、このひと!」
見かねた晴香が、チーディの後頭部をはり倒した。
●寒さにまけず
女性陣はさらに退いていたが、チーディと晩の罵り合い(?)を見ていた信者どもも、
「なにやってるんだろう、俺」
「まぁ、うん。可哀想だよな」
と、妙に冷静になり退いていた。
「インパクトは大事、インパクト」
アウィスが、うむうむとうなづく。
「ケルベロスの主張に耳を傾けるとは!
この人たちを皆殺しにして、改めて生足の素晴らしさを教え込んであげまショウ!」
「できるものならな。さぁ、おもしろいものを見せてくれ!」
躯繰の纏ったブラックスライムが、急激に膨張する。それに飲み込まれたビルシャナだったが、
「こんなモノ!」
すぐに振り払い、大きくかぶりを振った。その眼前には、リリーと沙弥華とが立ちはだかっている。リリーの攻性植物、沙弥華の蹴りとがビルシャナに襲いかかる。雷の霊力が込められた攻性植物に打たれ急所を蹴られたビルシャナは、全身の羽毛をパッと飛び散らせ、うめき声を上げて身を震わせた。
「チャンス! いくぞー!」
校門の上に立った晴香が、大きく手を回して雄叫びを上げた。校舎から固唾をのんで戦いを見守っていた生徒たちが、歓声を上げる。
しかし、敵はまだ怯んではいなかった。炎が襲いかかり、その炎熱に全身を焼かれた晴香は悲鳴を上げて転落する。
それでも晴香は、
「プロレスラーは、相手の攻撃を受け止めてなんぼよ!」
歯を食いしばって立ち上がり、グラビティを込めた渾身のラリアットで、ビルシャナを昏倒させる。ふたたび、校舎から歓声が上がった。
そうはいっても、火傷は相当に深い。そのうえ、炎がコスチュームを焦がし続ける。
「Trans carmina mei, cor mei……Curat.」
アウィスの高く澄んだ歌声が、たちまちのうちにその傷を癒していった。
チーディと晩とは、戦いとなればさすがに歴戦のケルベロス。互いに巧みに位置をとりつつ、晩は獣化した拳で、チーディは目にも留まらぬ速さで、敵に襲いかかる。
「見えねぇだろ? てめぇは、俺の歩みにすら追いつけねぇってこった!」
「ぐぬぅ!」
呻くビルシャナの土手っ腹に、結乃が放った光弾が弾けた。
「それでも、それでも生足は譲れませーん!」
ケルベロスの猛攻を、受け続けるビルシャナ。しかし敵は力の限り足を踏ん張って立ち上がり、氷の輪を次々と生み出していく。
「ケェェェェェッ!」
凍てつく氷を、晩やチーディは受け止めた。
やられるだけでは終わらない。ふたりは刀を構え直し、左右から斬りかかった。
ケルベロスたちの全身からも血は溢れ出て、アスファルトを汚していく。
躯繰とリリーとが、仕掛ける。
「さぁ、ついて来れるかい?」
躯繰の心拍数が爆発的に増加し、流れる時を加速する。
「我が一矢は必中……堕ちなさい」
リリーの指先から肩までが、光を放って輝く。
そして、超高速の一撃と、指先から放たれた閃光とが、ビルシャナを貫いた。
「グゲェェェ!」
絶叫するビルシャナの脇腹を、沙弥華が。
「悪いけど、邪魔するよ」
魔力を帯びた血液がしみ出す、奇怪な剣。それに切り裂かれた敵からは、おびただしい量の血が噴き出した。
ビルシャナはもはや狙いも満足につけられずに、閃光を放つ。
それを避けつつ、結乃と、さらにアウィスも攻撃に加わった。氷と、石化の光線が襲いかかる。
「おのれぇ……!」
ビルシャナは、最後の力を振り絞って、特大の炎を生み出した。
しかし晴香は、身を低くしてそれをかいくぐり、間合いを詰める。
「狙いが滅茶苦茶よ! それで私の投げから逃げられると思ったら大間違いよ!」
背後を取り、腰に手を回す。
「ふんッ!」
気合いとともに敵を持ち上げ、大きく反り返る。『必殺! 正調式バックドロップ』が、きまる!
カウントを取る必要さえなく、脳天を砕かれたビルシャナは二度と動かなかった。
寒い、寒い。
こんな日はとうぶん続きそうだが、女子生徒たちは寒さに負けず、登校するのだ。
黒のタイツを身に纏って。
「いやぁ、いい足だぜ」
「よかったらこの後、デートしないかい?」
「そこのふたり、学校に迷惑だから、もう帰って」
結乃はため息をついて、男どもの襟首を掴んだ。
作者:一条もえる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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