●……ただ無機質に
その山奥の機械工場に工員以外が立ち入る事は殆ど無かった。
60人程の工員達も住んでいる市街地から、朝7時に車で30分以上かけて出勤し、午後5時にラインを全てストップさせて退勤する。
そんな工場に1人の少女がふらりと現れた。
少女が現れて3分程過ぎた頃、工場の異常を示すレッドアラームが鳴り響き、爆炎と爆音が起こった。
……各所であがる、男達の悲鳴。
大火災でも起こったかの様に、炎に包まれ崩れ落ちていく工場。
「……全グラビティ・チェイン消失確認。……任務完了。……任務継続。……グラビティ・チェイン確認。……次目標へ移動。……引き続きグラビティ・チェイン搾取を継続する。……コード『エクスガンナー・クリム』」
少女……いや、エクスガンナー・クリムは無機質に呟くと炎を背に歩き出した。
●10番目のエクスガンナー
「……マジかよ。……最悪かよ! 咲次郎! すぐにヘリポートにみんなを集めてくれ! 俺もデータを纏め次第、すぐに行く!」
「了解じゃ!」
ヘリオンと同調していた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、青い顔でヘリオンとの同調を切ると、傍らで見守っていた、野木原・咲次郎(金色のブレイズキャリバー・en0059)に大きな声で指示をする。
数分後……ヘリポートに現れた雄大は、自身が視た事実をケルベロス達に話し始めた。
「『6基』の指揮官型ダモクレス、つまり『ディザスター・キング』『コマンダー・レジーナ』『踏破王クビアラ』『ジュモー・エレクトリシアン』
『マザー・アイリス』『イマジネイター』の本格的な地球侵攻が開始された。そして、指揮官型の1体『ディザスター・キング』は、グラビティ・チェインの略奪を任務とする主力軍団を率いて、有力な配下を派遣し、襲撃事件を起こしている。みんなには『ディザスター・キング』配下のダモクレス1体の撃破を任務としてお願いしたい。このダモクレスは、既に郊外の工場を1つ壊滅させ、60人以上の人々に犠牲を出している。これ以上の犠牲を出さない為、移動中のダモクレスを迎撃撃破して欲しい」
既に60を超える人々に犠牲が出ているという事実は、ケルベロス達に衝撃を与えるが、これ以上の被害を出さない為に、このダモクレスを必ず撃破しなければならないと言う事が、雄大の言葉からひしひしと伝わって来る。
「みんなに撃破を頼みたい『ディザスター・キング』配下のダモクレスの説明に移る。俺から頼む撃破対象は……『エクスガンナー』だ」
『エクスガンナー』その名称にケルベロス達からどよめきの声があがる。
ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を中心に開発が進められていた、『エクスガンナーシリーズ』開発計画……9体の指揮官型『エクスガンナー』を全て撃破したことで、その計画自体が頓挫したかと思われていた……だが、確かに何体かの指揮官機は倒される間際に『……エクスガンナー計画は終わらない』と言葉を残していた。
しかし、こんなにも早く『エクスガンナー計画』がまた動きだすとは、誰も思っていなかった……。
「今回確認されたのは、10体目の指揮官クラスエクスガンナー『エクスガンナー・クリム』だ。クリムは、少女型エクスガンナーでエクスガンナー×鎧装騎兵をモデルにしたグラビティ構成をしており、戦用武装である『サテライトカノン』を装備している。その威力は、シータの『バルムンク』にも匹敵すると思われる。そして、これまで撃破した各エクスガンナーの長所を引き継いでいる非常に厄介な敵だ。……激戦は必至だと思う」
9体のエクスガンナーも十分強敵だったが、それぞれのデータを引き継いでいるとなれば、どれ程の強敵となっていることか……。
「幸いと言えることがあるとすれば、クリムは起動されてから、あまり時間が経っていない為、ケルベロスとの戦闘は勿論、実戦レベルの戦闘を殆どしたことが無いらしい。だから、クリムが戦闘慣れする前なら撃破は可能だと思う」
逆に言ってしまえば、戦闘を経験すれば経験する程、クリムは強くなると言う事であり、早期撃破しなければならない相手と言うことだ。
「クリムの攻撃手段は、破鎧衝、キャバリアランページ、ゼログラビトン、バレットタイム、そして『サテライトカノン』の最大火力『ケルベロスバスター』になる。クリムに戦闘のアドバンテージを取られる前に、撃破するのが最善だと思うから、作戦は綿密に練って欲しい」
使用グラビティの数が多く、決め技もある……間違い無く強敵だろう。
「クリムの目的は、あくまでグラビティ・チェインの略奪だ。ケルベロスとの戦闘を目的とはしていない。だから、迎撃時にはクリムを逃がさない為の工夫が必要になる。ケルベロスからの逃走が難しいと判断すれば、ケルベロス撃破に目的を切り変え、殲滅するまで逃走を考えない筈だ。だから、自分達をクリムが倒さなければいけない対象として認識させることが非常に重要になると思ってくれ」
クリムは過去に倒されたエクスガンナー機に対し、旧式もしくはテストタイプとしか認識していない為、彼等を貶めることや復讐を煽る様な挑発では、足止め出来ないだろうことも雄大は付け加える。
「エクスガンナー計画が事実終わっていなかったことも衝撃だけど、クリムをこのままにしておけば、更に多くの犠牲者が出ることになる。だから、必ず……『エクスガンナー・クリム』の撃破を成功させて欲しい。エクスガンナー計画の全容解明はそれからでもいい……頼んだぜ! みんな!」
一際大きな声を出すと、雄大は拳を突き上げた。
参加者 | |
---|---|
キサナ・ドゥ(アガーテの花冠・e01283) |
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805) |
円谷・円(デッドリバイバル・e07301) |
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881) |
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476) |
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129) |
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710) |
●接触……そして、挑発
車も通らぬ山道を1人の少女……エクスガンナー・クリムは静かに歩いていた。次の殲滅目標地点へと向かう為に。
不意にクリムが口を開いた。
「……グラビティ・チェイン反応複数確認。……識別。……ケルベロス」
「よう、待ってたよ。こんな所まで、のこのことご苦労様」
黒き翼を広げた、クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)が軽い笑みを浮かべクリムに言うと同時に、クリムの背面を取る為に気配を最小限に抑える気流に身を包んでいた女性陣が、クリムの退路を塞ぐ。
「……末端の補給係に成り下がるとはとは……エクスガンナーも落ちぶれたものだね……」
ニューとの戦闘経験がある、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)が憐れむ様な口調でクリムに言葉をかける。
「……役割に優劣など無い。……クリムは、与えられた任務を忠実に遂行するのみ」
「それが、多くの人を殺すことだって言うの!」
普段のおっとりとした口調とは正反対の強い口調で、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が叫ぶ。
「凄い人数が、あなたの所為で犠牲になってるんだよ! これ以上犠牲者を出すなんて許さない……。工場はヒールで治っても、死んだ人は生き返らない。だから、そんな事……これ以上させないんだよ!」
「……させない? ……どうやって? ……クリムにお前達との戦闘指示は出ていない。……お前達にクリムは止められない」
呟くと、クリムは一瞬屈み大きく跳躍すると崖を降りようとする……しかしその時、黒き生命体がクリムに向かって降り注いだ。
「with……“喰らえ”」
「…………識別。……ブラックスライム」
クリムの外装は殆ど傷付いていないが、崖下には降りれず宙で一回転すると道路へ着地する。
「行け、キサナ」
相棒であるブラックスライム『闇蜥蜴 - with -』を奇襲に使った、ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)の合図を受けると、ディークスの逞しい腕を足場にキサナ・ドゥ(アガーテの花冠・e01283)が崖から一気に飛び、 クリムに接敵すると、大地すらも割る強烈な一撃を喰らわせる。
「エクスガンナーは逃がすワケにはいかねーな。てめぇはここで破壊するぜ、クリム。……逃げてバトルプルーフが取れるのか? エクスガンナーさんよ?」
挑発の笑みを浮かべながらキサナが言うも、クリムの表情は変わらない。
「……バトルプルーフ……クリムの兵器性能実験は指示されていない。……よって、現在必要無いと判断する」
「あなたに指示が来ていなくても、わたし達のミッション……エクスガンナー、新型機の撃破。クリム……必ずここで決着をつけさせてもらうわ。敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
静かな口調の中にも強い意志を込め言うと、リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)は、戦力分析特化型ドローンを宙に飛ばす。
「9体の指揮官機の長所を集めたそうだけど、全員撃破されているんだから、また同じ様に負けるだけだよな? 失敗作さん」
クリムの正面から揶揄する様にロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)が言葉を紡ぐ。
「そして、さっきの暴れぶりをモニターした事でお前のデータは『完全に』揃った。ここで完全に叩かせてもらうぜ!」
「……工場破壊任務の際、クリムは能力の10%も使用していない。……この男の言葉は虚偽と判断。……情報整合。……ケルベロスはクリムを破壊する事を最優先にしている模様。……包囲陣形を突破するのは困難と想定……」
「ヘイ、クリム。仮にもエクスガンナー計画とやらの新型なんでしょ? 此処で性能を示さずして、上手くいくの? それとも逃げ足の速さが計画の肝かな?」
リボルバー銃の銃口をクリムに向け、テンガロンハットのつばを『クイッ』と引き、星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)がクリムに問いかける。
「……ケルベロスの挑発言動。……ケルベロスのグラビティ・チェイン計測。……戦闘行動後離脱……問題無し。『エクスガンナー・クリム』自立戦闘モードに移行」
淡々と言葉を発していたクリムの機械の瞳の色彩が増す。
「……安い挑発の数々だったけれど、挑発に乗ってあげる。……私が負けることは無いもの」
一瞬唇の端を上げたクリムは、ほんの数秒前までと雰囲気をがらりと変えていた。殺戮兵器から、自身の考えで動く殺戮者へと変わったのだ。
「尻尾を巻いて逃げるかと思ったが……目の前の潤沢なグラビティ・チェインを選んだか。一応、敵機として褒めてやろう」
ディークスの言葉にもクリムは笑みを見せる。
「……そんな言葉は、私を倒してから言う事ね。……無理だけど。あなた達は絶望を味わうんだから」
「言うじゃないか。……だったら、始めようか。お高い特殊弾だ……こいつは効くよ!」
『ズガァァン!』光のリボルバー銃から撃たれた、爆裂弾の激しい発射音が戦いの狼煙となった。
●激闘……そして、呟き
「グッ! 止めきれないかっ!」
超加速したクリムの突撃が、クーゼ、千里、円の相棒『蓬莱』、クーゼの相棒『シュバルツ』前を固める者達を纏めて吹き飛ばす。
唯一キサナだけは、蓬莱に庇われる形で傷を受けずに、すぐさまクリムへの攻撃と移っていた。
「全身全霊、全意全随、以って神弾魔迅の極意を表す! 響くぜ砲哮――顕現せよ! 青雷の徴!」
キサナの詠唱が戦場に響くと、キサナの四肢に青き雷が走りキサナの能力限界が格段に上がる。
「俺の早撃ち見切れるもんなら見切ってみな!」
瞬きの間にホルスターに収まった『アビシニアの乙女はダルシマーをかき鳴らして』と言う名の銃を抜くと、キサナは正確にクリムを撃ち抜く。
「蓬莱、みんな、大丈夫だよ。雷の障壁よ、みんなを護る力となって」
円がライトニングロッドを頭上へと翳せば、電流はヒールの力を宿した護りのグラビティとなる。
「……後衛攻撃陣の命中精度を向上させるわ」
呟き、リティは数度目になるドローン射出を行う。
(「……クリムにこれ以上、犠牲者を増やさせない。……ここで決着を付けないと。……簡単に命を奪えるクリム……許せない。……でも、怒りで目が曇ったら……敵の思う壺。『心』だけは、レプリカントとしての心だけはクールでいなければ」)
自分は後ろから、クリムの一挙手一投足に集中しなければならない、自身の役割を自覚しているからこそ、リティはクリムへの怒りに唇を噛む。
「……唄え。その想い示す儘に」
ディークスが紡ぐ唄は、青い稲光を生み出し、精神を砕く因子となってクリムを襲う。
「ターゲットロック! 奔れ、青い流星!」
クリムの動きを制限しようとリボルバー銃『ファイヤーボルト』メインで攻撃を加えていたロディは『ファイヤー炎神』の名のアームドフォートを構えると、青き冷気の光線を撃ち放つ。
「もう少し、私に怒りを向けて……。舞えよ踊れよ……悪戯者の鱗舞曲……一目見たなら……もう逸らせない……」
二度目になる敵の感覚、感情を過剰覚醒させるしなやかな舞を踊りながら、千里はオウガ粒子を空気中に飛ばす。
「全く……私とエクスガンナーの縁は、どうしてここまで深く結びついたのかな……」
グランネロス、そして3体のエクスガンナーとの交戦経験のある光は、愚痴る様に呟きながらも、視線だけはクリムから離さず、精神エネルギーを極限まで高め、クリムにぶつける。
「一度、クリムの護りを崩す」
言うと、クーゼは己が手を竜人のそれとして、クリムを引き裂く。
ケルベロス達の、怒涛の攻撃を受けがらもクリムは表情を変えず、バックステップすると己の感覚を研ぎ澄ます様に目を閉じる。
「貴女の逃げ場は、もうありません」
それを好機に、レインはグラビティの弾丸を放つと同時に手にしたナイフで、クリムの装甲に傷を作る。
「あたしもいっくよー! ふふーん♪ たまにはニンジャらしい活躍したいからね☆」
言うと藍奈は、戦場を身軽に跳びはねながら、螺旋手裏剣を大量に分裂させ刃の雨を降らせる。
「咲次郎さん、本隊に手厚い回復を。これが俺の護る意思だ!」
「了解じゃ。魔術手術開始じゃ!」
言葉と同時に達也の地獄から放たれた癒しの炎に合わせる様に、野木原・咲次郎(金色のブレイズキャリバー・en0059)は、千里へと癒しの魔力を送る。
「攻撃の手を止めるなよ、サポートは任せとけ。……じゃれつきたいんだってさ、応えてやってくれよ!」
オーラで創り出した氷獣にクリムを襲わせながら、楽雲が鼓舞する様に言う。
(「……以前戦った、ベータもかなりの強敵だった。……クリムは全てのエクスガンナーの長所を集めた最新鋭機。一瞬たりとも油断しない。……こいつは既に何十人もの犠牲者を出している。だから、ここで止める。何としても!」)
心に熱く火を灯し、ロディはアームドフォートの主砲を一斉発射する。
ロディの攻撃は次々に爆音をあげてクリムへと着弾する。
その轟音がクリムの呟きをかき消していた。
「……敵対象能力把握……サテライトカノン……セット」
●閃光……そして、反撃
戦場の色が音が数秒の間、静止した。
クリムの構えた『サテライトカノン』から放たれた、膨大なエネルギーを凝縮した巨大な閃光は、千里を飲み込み光を消すと、膝を折った千里だけを残した。
「…………これが、ケルベロスバスター」
あまりの威力に円が思わず呟く。
他のケルベロス達も、動きを止めてしまっている。
「……駄目。動かないと。大丈夫、今、治すから……!」
ロッドを振り、円は千里へと電気ショックを与えることでグラビティの回復を図る。
「千里の回復は、わたし達に任せて。クリムをこれ以上、好きに動かさせては駄目」
リティがヒールグラビティを広げながら言えば、他のケルベロス達も一斉に動き出す。
「オレが動きを止めちゃあいけねーよな。オレは攻撃の要だぜ!」
叫びクリムに強烈な一撃を与えると、キサナは射線を開く為にクリムの肩を踏み台に跳躍する。
「あんなもの連発されたら、たまったものじゃないからな。お前の命斬り裂かせてもらう」
キサナの後ろから駆けていた、ディークスが空をも断ずる斬撃でクリムを横に薙ぐ。
その時、千里の裂帛の叫びが辺りに響いた。
「……皆……私は大丈夫……まだ立っていられる。……リティも円もすまない。……誰が狙われても、もう一度私が受けて見せる」
「俺も居るよ。1人も倒れることなく、クリムを倒そう。クリム! お前の力は、こんなものか? これなら、グランネロスで戦った量産型エクスガンナーの方が大勢居た分……まだ、マシだな。こんな雑魚が次世代機とは、嘆かわしいねぇ」
「……私のサテライトカノンの威力を見てなお、その言葉を吐けるのは感心してあげる」
刀を構えグラビティを高めながらのクーゼの挑発にもクリムは冷静に返す。
(「……挑発にも簡単には乗らないかぁ。確かにケルベロスバスターの威力は予想以上だったけど……敵は1体。倒せない訳じゃない」)
鋭き眼光の奥で心を冷やしながら、クーゼは次の一手を模索する。
「今一度、戦場を奔れ! 青い流星!」
クリムとの距離を計算しながらロディは、冷気の光線を放つ。
(「……もっと。もっと。スナイピングの精度を上げるんだ私。クリムの急所を狙える位置取り、正確な照準。……負けられないからね」)
父が愛用し、銃把に北斗七星が刻まれたリボルバーを手に、光はクリムを止める最善手を選び取っていく。
「アガサ様、陣内様、少しでもクリムの足を止めませんと」
黒色の魔力弾を撃ち出しながら淡雪が言えば、アガサと陣内も頷き、それぞれ攻撃的グラビティを高めていく。
「氷漬けになるんだね、クリム」
「その砲塔は少しばっかり厄介だな」
アガサの冷気の光線と陣内のヌンチャク型如意棒がクリムの動きを捉えれば、他のケルベロス達の攻撃も、より激しさを増していく。
「……懲りない人間って嫌ね。もう一度サテライトカノンの威力を見せてあげる」
呟くとクリムは再び、サテライトカノンを構えた。
●信念……そして、決着
「……こんなもんじゃあ、倒れられないねぇ」
4度目になるケルベロスバスターを受けたのは、クーゼだった。
ダメージこそ大きいが、円とリティの強力な回復で膝を付かずに済んでいる。
だが、既にケルベロスバスターの標的にされた咲次郎は地に倒れ、動けずにいた。
2度目と3度目、咲次郎がケルベロスバスターの標的となった。
2度目の砲撃は、千里が射線上に入り庇う事で何とか防いだが、3度目はディフェンダーの間を縫う様な正確な砲撃を許してしまった。
(「やはり、カッパと同じく、撃破優先順位を計算していると考えるべきね。まず最初に、一番落としやすい対象を狙ったのなら……おそらく次は、ディフェンダーとメディックを撃破対象として考えている……」)
戦闘演算に長けた、カッパとの戦闘経験があるリティは、クリムの思考の先を考える。
「クリムにもかなりのダメージが蓄積されている筈。攻撃の手を止めず、1秒でも早くクリムの撃破を優先よ。回復はわたしと円が支えて見せるわ」
リティの言葉に円も大きく頷くと、握るライトニングロッドに更に力を込める。
「キサナ、強力な一撃をお願い、なんだよ」
円の放った電気ショックは、キサナに巡るグラビティ・チェインの流れを急速に整え、キサナの力を増していく。
「オレの動き捉えられるか?」
素早い身のこなしでキサナは、クリムの視線を煽る様に動く。
「……この、ちょこまかと」
「オレばっかり見てたら危ないぜ」
キサナの言葉がクリムの聴覚に入った時には、既にディークスの黒き相棒が大きく顎を開いていた。
「with……思う存分喰らえ。そしてクリムの動きを止めろ」
「そろそろ、エクスガンナーとの因縁も終わらせたいんだよね。……まあ、また出て来たら、遊び相手くらいにはなってあげるよ」
そう言うと光は。着弾と同時に起爆する銃弾を込めたリボルバー銃の引鉄を引く。
「オレ達は負ける訳にはいかないんだ! 生きる者のエネルギー……その身に刻め!」
ロディの精神……いや、魂の力がエネルギーとなってクリムの右腕を……サテライトカノンを手にした右腕を爆破する。
「……負けない。……私は負けない。ディザスター・キングの指示を全うしなければ。……私は、エクスガンナー!」
「……なんだ……ちゃんと感情あるんだね」
光の剣をクリムの右胸に刺しながら、千里がポツリと呟く。
(「……ニューは感情豊かな子だった。……クリムにも感情がある。システムだけじゃない。……エクスガンナー。感情を持ちながら『心』は持たない、ダモクレスってこと……?」)
「そろそろ終わりだぜ、クリム!」
何時抜いたかもわからない神速の速さでリボルバー銃を手にしたキサナは、クリムの眉間を正確に狙い撃つ。
「……私は……私は……」
零れる言葉と今にも崩れ落ちそうな両脚をクリムは使命感のみで支えていた。
「……さよならだ。地獄で待ってるお前さんの先輩方によろしくな。瞬き、穿てッ! 七の型、瞬華瞬刀ッ!」
クーゼはクリムにそう言葉をかけると、二振りの斬霊刀を神速で奔らせ、クリムの身体に華の様な斬閃を残した。
「……まだ……よ……」
その言葉がクリムの意志で発せられた言葉かは分からない……次の瞬間にはクリムは内側から爆発を起こし四散した。
クリムの力の象徴たる『サテライトカノン』をも巻き込んで……。
「……エクスガンナー、か。まだまだ、戦いは続きそうだねぇ」
双剣を斬り払いながら、クーゼは小さく呟いた。
●終極……そして、明日
「……任務……“無駄足”ご苦労」
(「……優秀だったのかもしれんが……一人で居たのが運の付きだったな」)
ディークスは、数えきれない程の小さな金属片となったクリムを見ながら、そう評価する。
「……足止めの為とは言え、侮辱してゴメンな。……強かったぜ、あんた」
ディークスの隣に立ち、ロディは純粋に強者だったクリムへと言葉を送る。
「回収できるデータは残らなかったか……。まあ撃破完了って事で良しとしよう」
そう言うと光はリボルバー銃を指先で数回転させ、ホルスターに収める。
「……駄目、咲次郎、目、覚まさない、よ」
倒れた咲次郎にヒールをかけ続けていた円が仲間達に言う。
「ヘリオンまで運ぶしかねえな。男連中、手を貸せ」
キサナの言葉で、ロディとディークスが咲次郎の両手を肩にかける。
「この場のヒールは終わったけど、犠牲者の命は戻らないのよね……」
(「……わたし達に出来ることは冥福を祈る事だけ。……そして、新たな犠牲者を生まない様に力を尽くす事だけ」)
死した命は戻らない……その事実に、リティは瞳が熱くなる。
本格化するダモクレスの地球侵略……。
未だ全容の見えて来ない『エクスガンナー計画』……。
ケルベロス達は、先の見えない明日を憂いながらも、1つの脅威を打ち消し、更なる戦いへの覚悟を決め、帰路へと足を進めた……。
作者:陸野蛍 |
重傷:野木原・咲次郎(金色のブレイズキャリバー・en0059) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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