「幻のキリスト教国はきっと日本にあるに違いない」
学者とも物書きとも思えそうな男が、レコーダーを置いて説明を始めた。
「ヨーロッパの東には無く、アフリカなどと考えられていたが……。日本にはキリストの墓まであると言う! ゴホン、それが本当かは別にして、東方にやって来た一族の一つであってもおかしくはあるまい。ゆえに、わしは日本がそうではないかと睨んだ」
男は色々と白熱した論をレコーダーに述べながら、途中で何度か冷静になり、論を整えようとしていく。
「ともあれ、ここは東方王かその騎士……」
男は興奮気味にレコーダーに、最後の言葉を吹きこもうとした。
いざ、興味のある対象を調査しようとした時……。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
後ろから彼の心臓に、鍵を刺したモノが居る。
男は振り向くよりも先に崩れ落ち始め、最後に見えたモノは、不景気な女の顔と、ヤギの兜に白い装束と十字を付けた騎士風の姿である。
●
「不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしているお人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようですえ」
ユエ・シャンティエが巻き物を手に説明を始めた。
それにはドリームイーターと綴られており、項目は感情の魔女と記載されている。
「被害者から『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているよおですが、奪われた『興味』を元にして発生した怪物型ドリームイーターにより、事件を起こそうとしているようですわ」
ドリームイーターによる被害が出る前に撃破して下さい。倒せば被害者も目を覚まします……。
ユエはそう言うと、九州地方の地図を広げた。
●
「ドリームイーターは一体のみで配下は居ません。白マントに十字の剣と十字を描いた盾を持った騎士風の姿で現れます」
ユエは半紙に筆で簡単な絵を描き始めた。
兜は日本の侍兜と額の前立てかと思ったが、ヤギの骨にも見える。やはり怪物型のドリームイーターなのだろう、手や足も獣のようで、細部を見るとどこか歪であり、冷静に眺めると、騎士と言うよりは秘密結社の一員と言った風情だ。
最後に、十字の周囲に、柊か何かの葉っぱで円を描いた家紋を脇の方に描いた。
「このドリームイーターは基本的に目の前の相手に襲いかかりますが、どちらかというと西洋風の服を着た人・女性を後回しにしようとする傾向があります。とはいえ、後回しにするだけで、最後は襲うのでしょうけど」
ユエはそう言いながら、自分を信じて居る様な相手や、噂をしている人がいれば、引き寄せられるけいこがあると補足した。
「何に興味を持つかは人それぞれ。知的好奇心を持つのは良いのですが、その興味を使って、化け物を生み出し、人を殺そうゆうのは問題ですやろ。被害が出る前に、よろしうお願いしますえ」
ユエはそう言うと、ペコリと頭を下げて地図と資料を渡し、相談し易いように少し離れるのであった。
参加者 | |
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花道・リリ(合成の誤謬・e00200) |
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393) |
国津・寂燕(好酔酒徒・e01589) |
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112) |
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025) |
ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400) |
ヒビスクム・ロザシネンシス(メイドザレッド・e27366) |
ソウ・ミライ(お天気娘・e27992) |
●
「信仰の芽を耕す者……個人名じゃなくて?」
「危機的状況下の期待論に過ぎないと、確かに学説では否定されてるね」
何気なく交わされる言葉。
囮用ではあるが、学術的ですらあるソレを、鼻を鳴らして否定した。
「ようするに通称銘か、さもなきゃ和製英語みたいな略語ね? それだけ判ればいいわ」
宗教に興味は無いしと花道・リリ(合成の誤謬・e00200)は苦笑した。
ヨハネとかジョンとかジョアンとかには、古い言葉で農耕という意味があるとか、寓話とか言われても困る。
まして、本当に居たかとか居ないかとか言われても、なんだ。
「伝説のキリスト教国かぁ~。否定され、それでも探しちゃうってのは浪漫って奴なのかな~、そういうの好きだけどね」
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)は肩をすくめながら、カンコロと下駄で音を立てた。
敵はどうも和装を狙うらしい、ならば囮として役目を果たさねば。
僕だって、男の子だからね。
「幻の国って言うけど、どの辺りがルーツなのかしらね……剣が盛んなところだと良いのだけれど。ロシアの剣術は、あまり歴史がなかったような……」
ともあれ浪漫と言えば別に男の子だけの特権じゃない。
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)は指を唇にあてて優雅に考え込んだ。
様々な歴史に思いを馳せて、伝説に失われし楼蘭や、歴史に埋もれた西遼あるいはロシア教会を思い出す。
「違うって! プレスター・ジョンは日本にいたんだよ! もしくは、その一族が日本に来ててもおかしくない!」
蒼月は参道に注意書き張りながら、ユリアの話に付き合った。
「でも日本にキリスト教が来たのって、いいとこ1500年代でしょ?」
「それは違うよ! 部下にキリスト教徒が居たチンギスハンが、日本人だった説がある位だ。逆に日本に来ててもおかしくないと僕は睨んでいるんだよ!」
ユリアは騎馬民族みたいな侍剣法なのかしら……と初期の陰流やタイ捨のような、移動系剣術を思い出す。
一方で、蒼月はノリノリの歴史談義を始めた。
聞けば、平泉藤原氏は上海あたりと取引があって、黄金を輸出していたとか黄金伝説を語り始める。
「そういえば、景教とかあるって資料で見たの。あとは……オロチはオロシヤ、オソロシア? アンチョコに読めない字が……」
「ああ、これは青い目の鬼伝説ですね。酒呑童子はシュテン・ド・なんとか……的な」
ソウ・ミライ(お天気娘・e27992)が思ったことをストレートに口にした為、ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)は図書館で読んだ話でフォローした。
「そう、それなの! だからお洋服は御友達なのね」
「私はそのへん興味ないけど、ドリームイータってのは物好きよね……」
世間知らずは壊れたブレーキで走り出す。
ソウの未来に、リリのみならず誰もが頭を抱えたと言う。
とはいえ、信憑性はともかく囮に成るための物語は十分だろう。
異形の騎士が現われたのだから……。
●
「いやはや、見てみたいとは思ったが、よく見ると本当に鹿の骨を被った化け物だ」
敵影を認め、国津・寂燕(好酔酒徒・e01589)は前に出た。
草履で半歩ずつ摺り足。抜刀しつつ、盾としても使う小刀を一足早く前に構える。
「ほらかかっておいでよ、お前さんの剣筋みせとくれ」
『ラッシュラッシュ!』
寂燕がもう片方の手を立て、刃を天にかざす。
そこへ白い盾を掲げて飛びこんで来る。
和装の男を優先すると言うのは確かなのだろう。直撃する瞬間にニヤリと笑みがこぼれる。
『舞刃、開放。舞飛べ白雪。』
僅かなタイミングの差で、前衛陣の周囲に白い物が降り始めた。
白より白き純白の剣気が、まるで雪の様に降りしきる。
「噂話までならミステリーと言うべきでしょうか。実物が出ては逆に興ざめしますね」
「生き残りの王女様とか、復興用の埋蔵金の線はどうだ? このレベルの奴が口封じに来る必要があるなら立派にミステリーだ」
ラーナの感想に対して、寂燕はいまだに震える手を握りしめた。
耐えはしたが、盾で殴られ、防いだ筈の手に力が入り難い。
もし無防備に受けて居たら、小刀を取り落としていたかもしれない。
「なるほど。御目付役の爺やとかありえそうですね。それはそれとして……嵐を呼ぶが如く、迸りなさい」
ラーナはミステリーにも色々あるのを思い出しながら、ひとまず目の前の敵を片付けることにした。
後で伝承やら民話を調べて見るのも良いかもしれないが、ドリームイーターは現在進行形の問題なのだ。
いずれにせよ、敵は境内のど真ん中でこちらの男性陣に向き合っている。
偶に殺意が向く事もあるが、ずっと少ない。乱戦になる終盤はともかく、序盤は問題無いだろう。
「予定通りですか。なら遠慮は要りませんね」
ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400)は敵味方の様子を眺めながら頷いた。
「さて――それでは一曲、お付き合い願いますよ?」
ザフィリアはコツコツとブーツの足先で石畳を叩くようにして、リズムを取る。
そして右に左にステップを踏みながら、徐々にその振れ幅を大きくして行った。
斧と槍、二つの武装を連結し、一振りの大きな斧槍に変更する。
「このまま包囲して、確実にいきましょう」
「あいよ! まあ気合入れてやっつけんぞ、オラ! ガブリン! 仕事の時間だぜ!」
ザフィリアが青き流れを横方向に創り出すと、ヒビスクム・ロザシネンシス(メイドザレッド・e27366)は戦場に赤き線を描いた。
御供に箱竜のガブリンを連れ、一足飛びにジャンプ!
「飛び蹴りはメイドの嗜みってな! おっと、あたいの仲間をやらせは……!?」
ダイナミックな飛び蹴りが、ドリームイーターの山羊頭に炸裂したのである!
●
「おっとやらせないって! ……ふんん、ぬ!」
蒼月は魔力の網を絞りながら、敵が放った十字架を途中で踏み潰した。
黒い逆十字は彼の体を浸食し始めるが、雁字搦めに成る前に抜け出す事に成功した。
「つえー。でも、それだけにやりがいがあるってもんだよね」
強いと知っているが、これほどとは。
蒼月達は多少の驚きを秘めつつも、恐怖心では無く対抗心を抱く。
「なかなかね。見た感じ騎士というより魔法剣士と言う感じだけど」
「どっちでも倒してしまえば同じじゃない? それにしても、ウェアライダーとは違って、少々気味が悪いわね。さすが、化け物様」
愉しそうなユリアと違い、リリは面倒そうに肩をすくめる。
敵なんだし、倒してしまえば同じことだ。
「じゃあ、ちょっと斬ってきましょうか」
『無駄』
ユリアは先ほど上段蹴りを浴びせたから……と言う訳でもないが、無造作に下段の一撃を繰り出した。
敵は弾くが、そこからがユリアの真骨頂だ。
咄嗟の判断で、容易く運命を逆転させた。
『ごめんなさい。私、剣術というのは、習ったことがなくて』
あろうことかユリアは剣を蹴り飛ばした。
ただし、ワルツのステップが如き優雅さで、大胆不敵にガードをこじ開ける!
そこへリリの構えた鉄槌が襲いかかった。
「アンタのその白いマント、ボロ雑巾にしてあげる」
リリは先ほど放った魔力の縄を手繰り寄せる様にして接近すると、振り被ったハンマーを叩きつけた。
「大丈夫なの?」
「ああ、まだまだ問題ないさ。凄腕ではあるけど、負荷さえ喰らわなきゃ問題無い。この通りさ」
ソウが可愛く小首を傾げたので、寂燕はニッコリと笑い、殴られた手だけでクルリと小刀を逆手に持ち替えて見せた。
男には我慢しないといけない時があるのだ。
まあ、応急承知さえあるなら言うほどの傷でもないが。
「なら『迷っている暇はないの、全力で突撃なのー!』寒くなって来たのねー! お芋の季節なの」
ソウは突撃ラッパでも吹きそうな調子で、元気よくエールを送る。
放っておけば、その辺にある物を拾ってドラムにしそうな勢いである。
幸いなことに今回は誰もテレビウムもミミックも連れて来て居ない。
「可愛い子の応援とあれば、おじさんとしても頑張るしかないね、こりゃ」
寂燕は大刀で斬りかかった後、逆手に構えた小刀を一閃する。
剣は別の仲間の攻撃を弾き、盾で大刀を迎撃された。
成れば小刀が防がれる道理は無い、ザクリと膝へ突き立てて抉ることに成功する。
傷こそ浅いが、今はこれで十分。仲間の攻撃で鈍った動きをさらに鈍らせる為だからだ。
●
「ではそろそろ本格的に行きましょうか」
刺突を避けられたザフィリアは、慌てずそのまま斧槍を回転させた。
仲間達の攻撃に紛れ、今度は斧部分で襲いかかる!
「だいたい薩摩十字は十字架の伝来よりも早ええんだよ! ぶっ飛べ!」
「そういえば、源平合戦の頃から島津家はあるのでしたっけ」
ヒビスクムはラーナに先行し、思いっきり大地を踏みしめながらブン殴った。
それは大地を割るほどの勢いであったと言い、その隙を逃さずラーナは杖を叩きつける。
「ちゃんと持って居ますね? ではいきますよ……燃やし尽くせ跡形もなく」
叩きつけられた武骨な杖は、少々の事では壊れない。
荒々しき地獄の炎を呼び出して、相手を固定化したまま燃やし始める。
「駄目駄目、もっとジっとしていないと。合わせられる? トドメに向けてなんとかしたいんだけど」
「勿論。問題無いわ。結果的に動きを止めればいいのよね?」
ここで蒼月は再び敵の周囲に縄を掛ける。
ユリアがそこへ敵の剣目掛けて斬りつけると、カーンと澄んだ音がハーモニーを奏でる。
共振したグラビティは、縄を網へ、火を炎へ替えて行く。
ここまで来ると、敵の方も遠慮をしなくなって来る。
流石に後衛は狙いはしないが、壁役ならば男女構わず狙う。
気が付けば、仲間の一人が胸元を盛大に魔剣でグリグリされていた。
『心は砕けよ、鏡の如く』
「っ! 大丈夫なの?」
心配になってソウが様子を見ると……。
「前略、メイド長様。後は囲んでボコせばなんとかなんだろ。そう思った時期が、それがしにもあったでござる」
いや、ありましたでござる!
「数で囲んで棒で叩くって奴だな。楽勝楽勝……なんて言った奴の口を、縫ってやりたいでござる!!」
涙目になりながら、ヒビスクムは必死で誤っていた。
山羊仮面の下で、麗しのメイド長さまが冷たい笑顔を御披露しているかのように見える。
「大丈夫なのー!? まるで化け物でもみたような顔をしてるの! これはおうちに相談しないといけないのよ!?」
「うわー、大丈夫でござる。大丈夫だから止めてプーリズ」
ソウには見えないが、どうやら敵の力で、トラウマを見せられて居たらしい。
財布が致命的な状況に陥りそうなので、ヒビスクムは必死でしがみついて職場への電話は止めさせた。
仕方無いので箱竜のダンタツはお洋服をキツそうにしながら、ソラと一緒に治療をしたという。
「よくもハラキリの恐怖に陥れてくれたでござるなあ……」
ヒビスクムは緊張しながらも、これ幸いにメイド長の顔に見えるドリームイーターへ殴りかかることにした。
今なら殴り放題、その綺麗な顔を吹っ飛ばしてやるぜ!
●
「寺ってお香臭くて苦手なのよね。さっさと殺って帰るわよ」
「そうするとしようか」
リリは拳を握り込むと原子を震動させ、灼熱の拳を解き放つ。
圧縮された分子たちが踊るように飛び出し、寂燕はフォローする為に敵の頭を狙って連射した。
「まだ動くんですか? 少しは止まってくださいな」
「僕らで動きを止めよっか」
ラーナと蒼月は敵の足を止めるため、それぞれに左右から襲いかかる。
同時に相手の剣と盾を蹴り飛ばし、ダブルサイクロンの重力渦に押し込めた。
「若いっていいわね。私達も踊りましょうか?」
ユリアは右手に持った剣を、まるでお手玉のように、優雅な仕草で左手に投げた。
最初は柄元だが、握り直した時には柄尻。
僅かそれだけの誤差で、防ぎ得るはずの防御を突破する。
「それではもう一差し、一曲、お相手を」
ザフィリアは斧槍を振り回しながら、ダイナミックに踊りかかった。
体を軸に回転させて、嵐の様な攻勢を掛ける。
「これはチャンスなの!」
程良く重傷者も居ない、ソウはそう判断すると鬱憤を晴らす為に飛び出した。
ダンタツが留める暇も有らばこそ。
「成敗の時間なの、天誅なのっ」
「おっしゃ! 合体技だぜ、だだんだん!」
ソウとヒビスクムはいっそ鮮やかなドロップキックを繰り出すのであった。
ただしスカート翻しながら……。
「眼福眼福……じゃなくて、おじさんも仕事しようかね」
寂燕は小刀で斬りつけると、今度は大刀をその上から叩きつける。
受け止めた敵の剣ごと、刃で押し切ったのだ。
「後回しにしたこと、後悔しないでちょうだいね」
そこへリリがハンマー握って、良い笑顔で下半身を叩き潰した。
何かの存続を根絶させる様な容赦ない一撃が見舞われ、男性陣はゾクト身を震わせたと言う。
「じゃあバチを当てられたくないし、修復して行きましょうか」
「そうですね。ヒール持って来てない人は、片付けで」
リリの言葉に頷いて、ザフィリアが右に左に走りまわった。
「終わったら資料でも探してみよっかな~。本当にキリスト教国が日本に存在したって資料があったりして」
「流石に居ないとは思うけど……このレベル的が居るなら面白そうね」
「そうですねえ。薔薇十字とか秘密結社のアジトはあるかもです。観光でもしていきますか?」
「秘密結社!? そいつは見過ごせねえなァ」
「良く判んないけど、観光には大賛成なの!」
蒼月の提案にユリアやラーナが応じる。
三人寄ればというが、ヒビスクムやソウが混ざるとかしましい。
「まあ、これにて一見落着と言う所だね」
寂燕はそう言いながら、被害者を助け起こしながら、女の子たち(と黒一点)の会話を愉しそうに眺めた。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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